ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい 4
「金出しやがれオラァァ!!!」
「さっさと財布出せば良いんだよぉ!!」
「ほれほれほれ、泣いてんじゃねぇよ!!」
今、久しぶりにこういった光景を見た。
中学校の部活帰り。かなり夜が暗くなってしまったため、私は早く帰れるように規定外のルートで家へ向かった。だが、その途中で又もや規定外のルートへ進んでしまった。
高校生くらいの男子5人組が、1人のかなりふくよかなオタクっぽい男の人を蹴っていた。これを見て私は、あの光景を思い出す。
私は借金があった。「3億円」という大金を闇金融ーーしかも日本最大ヤクザグループ「黒川組」から借りていたのだ。私を男手1人で育ててくれた父は、毎月やってくるヤクザに蹴られていた。お金が用意出来ていないからだった。好い加減しびれを切らしたヤクザ達は、ある条件を出して来た。
「赤城佐凜(←これ私の前の名前)を寄越せ」
と言うのだ。父は反対していたが、私は父の為ならと、進んで自分を売った。これで父さんが少しでも幸せに生きて行けるなら。楽に生きて行けるなら。
売られた私は、組長のものになった。若い故にか、あの爽やか組長はストレスが溜まるようだ。毎晩毎晩私を抱き枕にして寝る...!! 本当ならすぐにでも蹴るか殴るかする所だが、残念ながらそれは叶わない。まだ父さんを人質にとられているも同然だからだ。
色々あった。刑事に追っかけられたり剣道で無双したり犯罪に加担させられそうになったり剣道で無双したりーー。
「ず、ずみまぜぇぇん...」
「謝ってねぇでさっさと金出せやオラ!!」
「このブタ野郎!!」
こんな光景を見るのは、正直我慢ならない。このオタキーな男性が、何故かお父さんに見える。あ、いやーーオタクさんだったわけじゃないから。私のお父さんは。
此処は人目が着かない。だから、こういった金を盗るには絶好のポイントなんだろうけど、私的には怖いよ此処。だってナイフとか包丁とか麻薬とか持ってる人が彷徨いてるんだよ。黒川さんがあまり此処を通るなって言っている理由が分かる。
黒川さんというのは、黒川真人。例のあの人ーーもとい組長だ。ちなみに、私は妹という立場らしい。まぁ、それならベッドの中で抱きしめても何の犯罪にもなりませんがーー。だから、私の名字は「黒川」になっている。
私は竹刀を取り出した。私は「剣道部」エースだ。これくらいの男に負けるはずがない。それに、此処「黒川組」の所謂”陣地”にギリギリ入ってるからさ、もし無視してたら黒川さんに怒られる。うん、殺ろう。
「おい、何やってんだよ」
うん、口調変えよう。普通ので言っても馬鹿にされるのがオチだから。
セーラー服に竹刀って、昔の女子の不良みたいじゃん。私もヤクザ化しちゃうのかな...?
「あ゛?! 何だよお前!」
「お前こそ誰だよ。此処は『黒川組』の陣地だぜ? そこでんな事やってたら、あいつらにやられるぞ?」
「何言ってやがる。此処は俺等の活動区域だ! そこにこのデブが入って来たのさ!」
「ひ、ヒィィィィ!!」
不良が男性を蹴ると、彼は声を上げた。
あー、私口悪いなー。ふくよかさんが驚いて口をあんぐり開けてるのが見える。あ、それ違うかな。
「だから?」
「何かお前ムカつくな。女だからって容赦しねぇぞ!」
「フン、やれるもんならやってみろ」
結果、私の圧勝だった。作者の戦闘描写の苦手度の所為で、戦っているとこはカットだけど、まぁ簡単だったから良いか。
そりゃあ闇雲に殴り掛かったりしたらやられるのは当たり前。
「男5人のクセに情けねぇな!」
私は不良の1人の頭を、足でグイグイ押し始めた。
「あ、ぁあ...あぁん」
「...」
嫌の予感がしたし、私のキャラも崩れて来てたので、グイグイは止めた。代わりに、かなり傷があるふくよかさんに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「...!」
壁に背中をついて、ヘタッと尻餅をついているふくよかさんは、私を見ると声にもならない驚きを見せた。
「怪我は...ありますね。ちょっと待っててください」
私は、学生鞄を漁ると、「救急セット」を取り出した。剣道をやっている故に、怪我をする事ーーさせる事がどうしても多くなる。それに、色々...うん。
「お名前は?」
「な、波角竜太でず。あ、あの...」
波角さんは、血の出ている頭の包帯を巻いている私を見た。
「ありがとうございまじた。おがげで、だずがりました」
「いえ、こちらこそ」
私は、足に出来た傷を消毒し始めた。
本当に酷い。この不良達、一回殺そうかな。いや、一回殺しちゃったらもう殺せないか。というか、1人の男性に大して5人の不良がここまでやるかな普通。
「貴女は?」
「私は黒川佐凜です」
「佐凜ざんですが。ほんどにありがどうございまじた」
「いえいえ...さて、終わりましたよ。立てますか?」
「はい」
波角さんがしゃくれた声で行った。手元には、大きな袋が置いてある。私が袋を見ていると、波角さんはこう言った。
「魔法少女ミリカぢゃんのフィギアなんでずよ?」
「へ〜、フィギアですか。そういえば、私の友達、フィギア作るの上手かったな...」
「え゛?! じょうがいじてもらえまぜんか?!」
あ、無理だわ。モゾンビークに引っ越したわ。ちなみに、モザンビークっていうのは、アフリカ大陸の南東辺りにあるとこ。彼のお父さん、お医者様だったんだよね。
モゾンビークにフィギアあるかな〜って話してたの覚えてる。
「ごめんなさい。引っ越してしまって」
「残念でず」
しばらく波角さんとお喋りして、私は波角さんを彼の家の近くまで送り届けた。
此処、かなりの高級住宅街だけど、波角さんてお金持ちなのかな?
「ありがとうございまじた!」
「いいえ。お大事にしてくださいね? しばらくあの場所は行かない方が良いですよ!」
私達はすっかり仲良くなった。メアドも交換したし、電話番号も聞いた。
波角さんすっごく優しいし、良い人だったんだ! どうでも良いけど、声が凄く綺麗。電話越しだったらセクシーなイケメンてとこだね。
「と、いう事で夜の2時に帰って来たわけです」
家に帰ると、もう丑三つ時でした。腕を組んでかんかんに怒った黒川さんに出迎えられ、私はベッドに押し倒されました。はい。それで、遅くなった理由を聞かれました。
というか、後藤さんはちゃんと居るのかね?! 近くについているのなら、知ってるはずじゃ?
「一応後藤にも聞きましたが、貴女から直接話を聞きたかったんですよ」
笑顔で言われた。目が笑っていない。怖い。あ、これ死んだかな。
「今日は寝かせませんよ...私の気のむくままに抱かせてもらいますからね...フフフ...」
注意:「抱く」というワードは決してやましい意味ではなく、「抱きしめる」という意味です。勘違いしないでください。もし勘違いしてたら高速道路に突っ込みます。
「うぅ...酷い目にあった...」
翌日の放課後、私はあの夜の出来事を思い出しながら校門を出ようとした。その時ーー
「居たぁ!」
「ん?」
昨日の不良5人組だった。彼らは私の前に立ちはだかった。正直、今相手をする気はないから明日にしてほしい。
「何?」
「もう一回!」
「え?」
「もう一回俺等にあの痛みをください!!」
どうやら私は、彼らに性癖を与えてしまったらしい。やーだやーだ。あ、あれかな? 最後に誰かの頭グイグイやったからかな? 何か「あ、ぁあ...あぁん」て聞こえたからな...。
「やだ!」
私はダッシュで逃げた。もう追いかけて来ないだろうと思ったその時、私の目の前に黒い大きな車が止まった。車種が思い出せない。途端、車の中から複数の黒いサングラスをかけたスーツスキンヘッド野郎が出て来て、私の口にハンカチを押し当てた。
わ、ちょーーこれって誘拐?! まさか...そんな事は...(私フリーズ
「知らない天井だ」
いや、ごめんなさい。一回言ってみたかったんです。だからブラウザバックしないでーー。
気がつくと私は、知らない場所に居た。変わった外傷は見当たらないが、正直此処何処?
天蓋付きの大きなフカフカダブルベッドに、シャンデリア、窓はなくドアがある。何だか、ちょっと小さい王族の部屋のような感じだ。それより私は、さっきから気になっていた事がある。
「何この拘束器具?!」
ごめん、変わった外傷は見当たらないって嘘。手、足、首に拘束器具がついてます。酷いですね。何処のドSの仕業でしょうか。黒川さんですか? いや、あの人は抵抗されるのが好きっぽいからなー。
「あ、起きましたか」
ん? この声、何処かで聞いた覚えがあるぞ。誰だ誰だ...。
私がキョロキョロ周りを見回していると、何時の間にか横には美形男子が座っていた。だが、私はそれに気づかない振り(現実逃避)をして無視した。
誰ですかこの人。私知りませんよこんな美形。
「ちょ、ちょっと...無視ですか?」
「...誰?」
美形が顔をしかめた。
「誰って...覚えて無いんですか?」
「残念ながら、私は貴方に会った記憶がありません。ごめんなさい」
いや、私は誘拐犯に何を謝っているんだ。美形さんが複雑な顔してるなー。うわー、下手したら黒川さんよりもカッコいいぞこの人。
「あの...昨日会ったばかりですよ?」
「え? 昨日?」
昨日会ったのは、発情してしまった不良軍団とふくよかな波角さんだけだけど。え、いや、まさか...有り得ない。そんなはず...ない! でも...うん。試してみよう。
「もしかして...波角さん?」
「はい! 良かったぁ、忘れてしまったかと思いましたよ」
「いや、雰囲気変わり過ぎ、というか顔とか体型とか...」
「そうですよね。まぁ、その点に関しては話しますよ」
何か、波角さんは、太っていても差別しない女性を探していたそうだ。何時も自分に寄って来るのは金と顔にたかるハエしかいないからだ。ちなみに、「魔法少女」ミリカちゃんフィギアは弟が欲しがっていたらしい。誕生日プレゼントだって。それで、帰り道に不良に絡まれて私に助けられたというわけ。
というか、差別心のない人を探す為に特殊メイクやなんやらで...うん、暇なんだね。
「事情は分かりましたが、どうして拘束してんですか」
「だって、あれだけ強いんですよ? もし押さえてなかったら今頃逃げ出されてます」
うん、そうだね。あのくらいのドアなら蹴破れるし、棒さえあったら無敵だし。
「私をどうする気なんですか? 早く帰らないと、黒川さんがまたかんかんにーー」
「その黒川さんというのは、一体誰なんですか?」
波角さんが、私を真剣な目で見つめる。
「ええっと、兄です」
「兄にさん付けしますか? それに名字に」
「義理ですから」
「”また”という事は、もしかして昨日も...」
「はい。説教されてベッドの中で...いや、何でも無いです」
「べ、ベッドの中で?!」
あ、今波角さんがもの凄い勘違いをしたけど、良いや。面倒くさい。今更訂正してもきっとこの人聞かない。
ちなみに、彼は「波角財閥」のお坊ちゃんで、かなりの金持ちだ。だから高級住宅街に家があるのね。納得。
「ゆ、許せませんね...義理の兄という立場を利用して...」
歯ぎしりが聞こえるぞ若者よ。そこはグッと我慢をするのじゃ。
いや、お願いします。我慢してください。
「ちょっと、義兄さんを殴って来ますね」
「え゛...駄目です! 行っちゃ駄目!!」
「へ?」
「兄は『黒川組』の組長なんです! 行ったら殺される!!」
その言葉に、彼は驚いた顔を見せた。だが、すぐに微笑んで、
「大丈夫。きっと、君は売られて強制的に従わされているのですね」
あぁ駄目だこの男。