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Effect53 決着 -settlement-

補足し忘れていましたが、グレンのブレードは『ジャイアントスローター』ではなく一般の物に変えています。

 宇宙空間にはいわゆる重力というものがない。

 制御を失ったままの機体は、慣性のままに突き動かされるのみだ。


『『―――!』』


 カリンとグレン。

 それぞれ体勢を崩した2人は、機体を駒のように回転させていた。

 そこに飛来した弾丸。

 かわせないと見て、2人とも銃を手放した。

 両手を使って強引に剣の機動を制御し、ブレードを一閃させて銃弾を薙ぎ払う。

 が、その相殺現象でまた機体が弾かれる。

 機体の制御はさらに崩され、懸命にスラスターを吹かすものの、すぐには叶わず――

 否。

 グレン側は、元々背後に位置していた秋雄が、グレン機を受け止めていた。


『ちょっと手荒くするぞ?』

『うるせぇ、早くやれ!』


 そのままジャイアントスイングのようにグレン機を放り投げる。

 投げられたグレン機が、剣を刺突の形に構えて、姿勢を崩したカリンに迫る。

 さらにそれを後ろから追いこすように、秋雄の狙撃銃が閃光を放った。


『はっ――』


 加速世界であるが故に、パイロットは自分の死地を誰よりも早く予感できる。


『――それはさすがにかわせないよ』


 カリンは最後のあがきでギリギリ戻した制御で蹴りを放つものの、それはグレンに見切られ右足を両断、それでもまだ、相打ち狙いの斬撃を放つが、グレンはもちろんそれを見切り、振りかぶられた腕の内側に右肩を入れ込んで防ぎ、


 カリンの胴体部を串刺しにした。

 発電炉を外した一撃は、爆発を誘発することなくカリン機を沈黙させ、その残骸を打ち捨てながら、グレンは残るソーニャへと無言で機体を走らせた。


「そんな……!」


 ソーニャは喘いだ。


 打てる手段は何だ?

 狙撃銃のみの自分が、グレンと秋雄に勝つ手段はなんだ?


 ――それは無い。

 すでに詰みだった。


 戦闘が終了したのは、それから短い時間の後だった。






「うっく………!」


 戦闘が終了しても、いつまでもソーニャは筐体を出ず、しゃくりあげていた。


(負けた……負けた……!)


 その事実が、どうしようもなく悔しい。

 死力を尽くした。ミスらしいミスもなかった。

 なのに上回られた。

 改善点はあるだろう。同じ班で培われたグレンと秋雄の呼吸が合ったことも、一因かもしれない。

 それでも――


(強い。)


 その事実に打ち負かされた。

 何が『サード・シード』だ。

 しょせん、『デパーチ・チルドレン』に選ばれなかった落ちこぼれではないか。

 そう見ていた自分の慢心が、真っ向から打ち破られるものだった。


(『証明』、された――!)


 試合の前のグレンの言葉を脳裏に思い出す。

 弱肉強食。わかりやすくて、とても残酷なシステム。

 組織のルールとか、大人の都合とか、そんな目に見えないルールよりもなによりも、自分には、秋雄の席を横取りする資格すらなかったのだ――。


 コンコンと、筐体がこずかれた。

 控えめなノックだ。それにソーニャが沈黙していると、再びコンコンと。

 少しだけ強くなっており、それがまたわずかな間の後、コンコンと叩かれ、

 また、わずかに強く、しかしどこか気が抜けた音で――

 その煮え切らなさが、無性にソーニャを苛立たせ――


「コンコンコンコンうるさいわね! そんなに気になるんなら開ければいいじゃないのよ!」


 ついには涙をぬぐって自分から筐体を開けて怒鳴り散らした。

 眼前には、驚いた顔の秋雄がいた。


「いや、俺はそっとしておいた方がいいと思ったんだけど、せっつかれて……」


 そういって、弁明するように一塊になったカリン達を指さす。

 マークがいつものスマイルを浮かべて片手を上げて応じた。


「いや万一、システムのトラブルに巻き込まれたら事だと思ってな」


 冗談ごとのように笑いながら、カリンの背中を押す。

 思いのほか強い力で押されたカリンは、わずかに不満そうにマークを見上げてから、必要以上に真面目な顔をしていった。


「あー……正直言うと、あんたはうまかったよ」

「そんな気休めいいです。私は……」

「いや。正直私はあんたでも後ろを任せられるよ」


 カリンは肩をすくめながら言った。


「あたしが言うのも変だけど、やっぱり身長がこんなもんだからさ」


 ソーニャの頭の上に手を水平に上げる。その高さはカリンとほぼ同じ。


「侮っている部分はあったよ。体格の良さはアマルガムにはあまり関係ないのにさ」


 その皮肉は、カリン自身が思っている部分だろう。


「だけどあんたはうまかった。今回の勝敗は……まあ経験の差が大きかったんだろうね」

「……慰めはいいです」


 ソーニャはギュッと自分のズボンを握りしめて、言葉を吐いた。


「私は秋雄に勝てませんでした。それが全てです」

「――全てじゃないよ」


 不意に。

 言葉を紡いできたのは秋雄だった。

 普段は気の抜けた秋雄の顔が、今は真剣味を帯びた真面目な眼差しになっている。


「勝ち負けとかはどうでもいいんだ。誰が優れているとか劣っているとかどうでもいいんだ。ただ……自分が何をやれるかだと思う」


 秋雄がそう言葉を紡いだのは、自然とシュウの横顔を思い描いたからだ。


(――シュウは、劣等生だった)


 シュウは自分が『イモータル・クラフト』であることを知らなかったらしい。それでも腐ることなく、自分の鍛錬に打ち込んだ。

 世間では、そんなシュウは狂人だったという。

 だがそんなシュウこそ、秋雄が憧れたもので、誰よりも共感を覚えるものだった。


「あの……カリン。やっぱりソーニャと班を交代しないか?」

「え?」

「ほう?」


 それまでと違い、榎原の頃に戻ったようなタメ口だった。

 それにソーニャは戸惑い、カリンは面白そうに声を上げた。


「これほどの熱意があるのなら、やっぱり俺よりもソーニャの方が相応しいと思う」

「………」


 カリンは腕組して黙考する。

 言葉を荒らげたのはソーニャだ。


「そんなお情けなんてごめんよ! ……いちいち勘に障る男ね!」

「……ごめん。でも君の熱意は伝わってきたからさ」


 ほのかに微笑んで、秋雄は胸に拳を添えた。


「俺の代わりに『クエンティン・エルバ』に乗ってさ。そして故郷の……日本の仲間たちを助けてくれよ」

「………っ」


 卑怯だ、と思った。

 優しく思いやった言葉。

 自分ではなく、ソーニャを、故郷の人間を、他人を気遣う言葉。

 それはとても真っ直ぐで卑怯だった。


「さて……どうしたものかな」


 カリンは後頭部をかいた。


「マーク、ダリル、お前らの意見は?」

「中尉のご随意に」

「右に同じ」

「……ったく。………あー」


 カリンは間延びした声を上げて、宙の電灯を見上げた。

 かすかに滲む視界に、思いをはせた後。


「――やっぱりダメだ」

「……カリン」

「ソーニャはテオ班での運用が望ましい。このままテオ班で、次代を担うパイロットとしての訓練を摘むべきだ」


 秋雄の言葉を跳ね除けるように、カリンはあえて強い言葉で言った。


「あたしたちの任務はEOMの支配地域を横断するという激戦区だ。そこに実戦経験の伴わないソーニャを連れて行くのは自殺行為だ」

「でも経験なら俺だって……」

「秋雄、あんた馬鹿だから気づいていないけど、勘は鋭いよ。ソーニャよりかはなんぼかマシだ」

「う……言葉が色々余計な気が……」


 容赦のない言葉に肩を落とす秋雄を横に、


「私も、それで構いません」


 ソーニャの目元にはまだ涙が滲んでいたが、きちんと胸を張って言った。


「こうして自分の適性を明確に見せられなかった以上、もう駄々をこねるつもりはありません」

「ん」


 満足げにカリンは微笑んで、ソーニャの頭に手を伸ばした。

 そして、同じぐらいの高さの頭を撫でてやる。


「あんたは強い。いや、強くなる。……テオのことを頼んだよ」

「ふ、ふえぇ」


 心地よい感触にソーニャが頬を緩ませていると、入り口の扉が開いた。


「いよーっす! みんなお疲れさーん!」


 陽気な顔をして入ってきたのは、リディアとタチアナを伴ったテオだった。


「いやー! よかったよ6人ともー! もう盛り上がっちゃってさー! あーもう。ソーニャなんて顔をぐちゃぐちゃにしてさ。これじゃ舞台口上は無理だなー!」


 1人陽気なテオに、他の人間がジト目を送る。

 この中で誰一人として試合をショーにするつもりでいた人間などおらず、今回ばかりはテオの行為を咎める視線だ。


「……?」


 自分に向けられる視線の冷たさに、テオが後頭部をかきながら怪訝な顔をしている。

 と、そんな彼女を押しのけて飛び出してくる人影がいた。

 リディアだ。


すごかったです(マラヂェッツィ )!』


 その単語を皮切りに、彼女の口から様々な賛辞の言葉が飛ばされる。

 しかしロシア語なので、理解できるのは一部の人間に限られた。

 全てを翻訳するのは無理だと諦めたタチアナが、


「あ、あの、とにかく皆さん凄いと言ってます」


 と説明してからさっとテオの影に隠れてしまった。

 グレンの険しい目つきなどに怯えてしまっているのだった。






 その頃シェリルの研究室では。


「すごい激戦でしたね!」


 コトミが感激した様子ではしゃいでいた。


「録画しておいてよかったぁ。これ寝る前にもう一回みよっと」


 一方で、リサは伸びをし、凝り固まった肩を解しながら気の抜けた顔で言った。


「あ~あ、カリン負けちゃったか。賭け金がパーね」


 賭け金を失ったことではなく、エルサが提案した『稼いだ額をグレンの前に積み上げる作戦』が失敗したことを嘆いているのだろう。

 もっとも、半ばポーズであろうが。

 存分に背筋を伸ばしたリサは、興味本位でエルサに話をふった。


「それで結局、エルサはどっちに賭けたんだっけ?」

「いえ、どちらにも賭けませんでした」

「あら、そうなの?」

「はい。テラ銭だけで十分かと思いましたので」

「……テラ銭?」

「ええ、賭けの配当金から何割かいただきました」

「ちょっと待って。今回の賭けはテオが開いたんじゃないの?」

『いや、今回のはプロヴィデント社が主催しているみたいだよ』


 シュウが携帯端末に画像の切り抜きを送信しながら言った。


『ほら、プロヴィデント社のロゴ。……書類上はプロヴィデント社が兵士たちに行った慰安という態をとるらしい。テオはただのアシスタント。さすがに一兵士がこんな大っぴらに賭けを開いたら責任問題だよ』

「……………。いくら儲かったの?」


 スケールの大きさに目を点にしながら、リサはそれだけを聞いた。

 エルサはしれっとした顔で、


「残念ながら、グレンの年給分には届きませんでした」


 と言った。

 他人の365日分の稼ぎを1日で稼ごうとしていたらしい。

最後のエルサの台詞は彼女なりのジョークです。

さすがに一日で稼げるほどグレンは安月給ではありません。

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