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Effect52 乾坤一擲 -stake all-

名前が似ていて紛らわしいと指摘を受けたので、ダレンの名前を変えました。


ダレン → ダリル


過去話も随時修正していきます。

(――さて)


 そう呟いたのは、誰だったか。

 激変する局面に、常に次の手を考え、読む。

 その思考を手放すことを止めた方が敗北する。


 一番に動いたのはダリルだった。


(ここで俺が身を張らねば、中尉が討ち取られる!)


 マークとグレンの両方に挑みかかるかのように接近し、至近距離で銃火を吹かせる。

 その銃弾は、マークの機体の右肩をかすめ、しかし応射したマークの銃弾が、ダリルの右足を貫き、吹き飛ばした。

 加速世界を持っても銃弾を凌げない領域へと一気に踏み込んだのだった。


『なんだよダリル! 地獄への駄賃に俺の首が欲しいのか!?』

『それではいかにも安すぎる! 首を3つは並べる必要があろう!』


 マークと言葉の応酬をしながら銃撃の乱舞をする。2発、3発、とお互いの機体を銃弾がかすめていき、そして――


『ちっ!』

『ここが限界か……』


 マークの銃弾が、ダリルの胴体部を直撃する。それは致死的な一撃だったが、同時、ソーニャの銃弾がマークの機体を貫いた。

 結果として、2人の機体はほぼ同時に爆発する。

 その爆炎。

 それを目くらましに、カリンが急加速をしてグレンに迫る。


『さて、3つ首が必要だってさ!』

『そうか、てめぇの首で足りるな!』


 カリンとグレンもまた、言葉の端々に狂暴な意思を覗かせて激突する。

 急展開で2対2となったが、ダリルとしてはあそこでマークを相打ちに持ち込むのが最善手だと睨んだのだろう。

 ソーニャは、


(損耗度はこちらの上! だけどもう弄せる手管はないわ! あとは地力で押し切るのみ!)


 と意気込んで機体を加速させた。

 最悪、グレンと相打ちでもいい。

 カリンが残れば間違いなく秋雄を仕留めてくれる。

 勝つための最善手を選んでの突貫だった。

 それに――


(秋雄も応じてきた!?)


 秋雄も距離をつめてきていた。ソーニャとしては意外だった。

 状況的には損耗度が上なのはソーニャ達であり、あとは時間稼ぎをしていればグレン達が勝つであろう局面だ。

 適合値に劣る秋雄が前にでてくれたのは、勝負を急ぐカリン達にとって願ってもいない。

 最善手。そこから外れた局面だった。


(アホなの!? バカなの!? ……それとも天才なの!?)


 半ば混乱しながらも、ライフルの照準を絶えず動かす。

 機体を光の尾を引く流星のように動かしながら、断続的な光芒の矢を放つ。

 ソーニャから見た勝ち筋は、カリンがグレンを振り切り秋雄を仕留める隙を作るか。

 あるいはグレンの意表をつく形でグレンを仕留めれば。

 それが勝ち筋だ。

 4機に数を減らした流星たちが乱舞し、光の矢と剣舞を撒き散らす。

 秋雄が前にでてきたことで、グレンも戦法を変えていた。それまでどちらかというと銃でカリンを牽制する動きをしていたが、今は積極的に打ち合っている。

 そうでなければ、カリンが秋雄へと標的を変えそうであったからだし、


(結局、いつかは剣でぶつかり合うしかねぇ!)


 と、戦いの前から覚悟していたからでもあった。

 距離さえとればお互いに銃弾には当たらない。カリンにだっていくらでも剣の損耗を抑えた戦い方はできる。

 存分に打ち合って、そのまま剣の耐久度で押し切ってしまう戦法は、決して悪くない戦法だった。

 そこには、剣の申し子と評していいカリンの剣撃を凌ぎ切れるかがあったが――。







「うあっ、ううぅぅぅぅ……!?」


 見入る側のコトミが零れるようなうめきを上げていた。

 彼女の目はモニターへと釘付けになっており、まるで魂まであの世界に飛ばされたかのようだった。

 こうなってはシュウやリサが解説する隙も無い。

 ただ固唾を呑んで事態を見守るだけだ。


(カリン、あいつを見返してやりなさい)

(秋雄、グレン。闘機祭で見せたお前たちの本領を見せてくれ)


 それぞれの祈りが画面にむけられていた。

 それまで研究に没頭していたシェリルが、ちらりと一瞥を送ったが、それに気づく者はいなかった。





 秋雄も、ソーニャも、お互いを狙うのは無意味だと感じ、それぞれカリンやグレンに攻撃を加えていた。

 それらの迫りくる銃弾をケアしながら、2人は相手を仕留めんと銃を構え、剣を振るう。

 この距離であれば銃の上手い下手は関係ない。

 むしろ銃身の長いスマートライフルを使っているグレンより、ライフルとしては短銃身のカリンの方が持ちまわしがしやすく有利とさえ言えた。

 星々の煌く宇宙空間を背景に、まるで流星同士がぶつかり合うような光景。

 それらは円運動を描きながらぶつかり合い、また離れ、またぶつかる。

 そんな応酬が繰り返された。

 交わされた技巧を語ろうとするのなら紙面を埋め尽くすだろう。剣撃の方向を変えることにより、相殺現象の反動の方向を逸らすパリィ、直前で剣の機動を変えるフェイント、銃を構えると見せて距離を近づけたり、逆に剣を構えて切りかかると見せて後退したり。

 そうした応酬の果て。


(秋雄の機体がグレンと重なった……?)


 ソーニャは緊張を張りつめる中で、わずかな違和感を持った。

 こういう状況のセオリーでは、狙撃手は相手前衛の側面をつく。

 銃弾が横方向に横切る方が被弾面積が多いからで、また相手前衛と戦う上で横方向の回避を制限する効果も大きい。

 その分味方から孤立することで狙われやすい危険性もあったが、それも狙撃手側が位置に気をつけていれば問題ない。

 これがアマルガムでなければ、味方前衛を壁にしたブラインド・ショットというコンビネーションもありえるが、アマルガムのセンサーの前にそればほぼ無意味である。

 ソーニャが覚えた、わずかな違和感。

 その違和感を覚えながらも、明確な理由を見つけることができなかったことが明暗を分けた。


(グレン――こんなことしたら怒るかな?)


 激戦の最中。

 秋雄が胸中に浮かべたのは、少しの怯えと、遊び心。

 その銃弾は、カリンを狙っていなかった。

 秋雄の狙撃銃、ISR‐245425‐LUGH(ルー)が銃火を放つ。

 緑色に調整されたエリュダイト粒子の光芒。

 それが吸い込まれたのは――


 相殺現象で跳ね上がった、グレンの刃(・・・・・)


(……ハッ、いい手じゃねぇか)


 決して口にはしないものの、グレンは胸中でのみその一手を褒め称えた。


 秋雄の銃弾は、グレンがカリンと剣を打ち合うと同時に放たれた。

 音速を超える銃弾は猛烈な速度で迫り、同じく相殺現象の反動で大きく跳ね上がったグレンの剣と重なった。


 結果――どのようなことが起こるか。


 グレンのブレードは今カリンのブレードとぶつかったばかりで、相殺現象の反動で大きく弾かれたところだ。

 そこに秋雄の銃弾が剣に直撃して、逆方向の相殺現象を発生させる。

 結果――ブレードは猛烈な速度で押され、翻ったばかりで、理論上、単機ではありえない速度で二度目の刃がカリンに振るわれることとなった。


(――っ)


 それを一合弾いたのは、カリンの反射神経故だ。

 さらに2撃目は防げないと見て、機体をアクロバティックに動かしてグレンの機体を蹴り上げる。無茶な機動を互いにしたことで、グレン機もカリン機もきりもみするように回転して姿勢を崩す。

 そこに狙いを定めたのは、2人の狙撃手。


「「いっ」」

「「けっぇ――!」」


 それぞれが必殺を祈願した銃弾が放った。

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