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Effect51 交錯 -swap-

ダレン、カリン、グレンの3人の名前が似すぎているとの指摘を受けたので


ダレン→ダリル


に変更しました。

(……ふんッ、乗ってきたわね)


 前線へと加わった秋雄を見て、ソーニャは敵愾心(てきがいしん)を燃やしていた。


(普段の間抜けさは演技か素か知らないけど、もう油断しないわ)


 秋雄の隙を探ると同時に、前線の戦況を俯瞰する。

 4人の攻防は拮抗している。

 アマルガムは内部に発電炉を有しており、かなりの長期機動が可能である。

 しかし一度の蓄電量には限界がある。

 当然のことながら、消費量が発電量を上回れば機体は動きを止めざるを得ない。

 パイロット達は蓄電量を把握し、時に機体を休ませる動きも必要となり、緩急織り交ぜた動きをするのが普通なのだが、この4人。

 ――特にカリンとグレンの2人が巧緻(こうち)だ。

 電力を補充するという動きが他の動きと自然に連携しており、まるで休ませているという動作を感じさせない。刃を合わせる攻撃、慣性のまま銃弾をかわす回避行動。それらの行動が、電力の補充という時間と噛み合わっていた。


(グレン・コウラギ……カリン中尉に対抗している……? ……いや、それどころか)


 追いすがるカリンに、グレンは刃で凌ぎながら距離をとっては銃撃を放つ。

 カリンはそれをかわすかブレードに生み出した刃で撃墜し、応射も放つものの、それらは威嚇射撃程度の効果しかない。


(銃の腕はグレンの方が上……このマッチアップ、実はそんなに相性よくないんじゃ?)


 ダリルとマークの方を見ると、こちらは種類が違う物の互角の攻防だ。

 お互い近接戦闘を真っ向から挑む形で激しくぶつかっている。


(このマッチアップをスイッチしたら………。)


 おそらく、状況はより混迷してくるだろう。

 お互いに格差マッチとなり、どちらを援護するか、判断力が問われる。


(その状況では……適合値が上な私の方が、秋雄を上回っているはず!)


「カリン中尉! ターゲットをダリル少尉とスイッチしてはいかがですか!?」


 カリン達は作戦指揮をソーニャに任せているようなので、思い切ってソーニャは声を張り上げた。

 カリンは異論を挟むことなく、静かな声で了承した。


『了解した。ダリル!』

『了解』


 2人は短く言葉をかわし、後方を警戒しながら軌跡を交差する。


 それを見て、


「へっ」


 と新たな獲物にグレンは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ、


「………マジかよ」


 対照的にマークはひきつった声を漏らした。

 そのマークに、カリンが通信を飛ばした。


『遠慮なく行くぞ、マーク』

「ええ、はい。知っていますとも!」


 応じながらも、マークの内情には焦りが浮かんでいた。

 マーク自身が達人の技量を持ち、だからこそ言えるが、カリンの力量はダリルやマークよりも頭一つ飛びぬけている。お互いに近接戦闘を得意としながらも、その得意分野で上をいかれているのは認めざるを得ない。


(俺じゃ時間稼ぎしか無理だぞ不良野郎(バッドボーイ)……。テメェが先にダリルを沈めろよ!)






(グレン・コウラギ)


 正面に、黒紫の機体『ランディーニ』を控え、そのパイロットの名前をダリルは脳裏に描いた。

 カリンとマッチングをスイッチする前――マークと切り結んでいた最中も、グレンの動きは観察していた。

 グレンからの銃撃を警戒していたのだが、横目で見た限りでも、グレンの才覚は、なるほど――一年前の事件で英雄と讃えられるのもうなずけるものだ。

 ダリルは初めから侮ってなどいないが、しかし彼の技量を再確認した。


(なるほど、強者(つわもの)相手となれば面白い)


 ダリルはブレードに刃を展開した。

 ダリルもカリンやマーク同様、近接戦闘に特化したブレイバーだ。

 グレンのように万能なパイロットではない。


(たやすく討てる相手ではないが、どちらにしろ退()くは愚策)


 静かに息を飲み、機体を加速する。


()して参る!)


 剣を掲げ、光の残滓を残しながら斬り込んだ。






『マッチングをスイッチしたな』

「ええ、そうね」

「え?」


 コトミがきょとんとした顔で振り返る。


「どういうことです?」

「そうね……今はカリンとグレン、マークとダリルがぶつかり合うようにしていたんだけど、そのマッチングを変えたわ。今はカリンとマーク、グレンとダリルがマッチングしているわ」

「私から見たらすごい乱戦にしか見えないんですけど……」

「私も、今は《フラクタル・ドライブ》で加速していないから十分に『見れて』いるわけじゃないけどね。ああいう至近距離になってしまうと、銃弾を回避するのは難しいのよ。加速世界で思考の加速はしても機体は加速しない。音速の銃弾は見えていても避けきれないことがあるわ。だから相手に圧力をかけてうまく銃撃させないように持ち込むんだけど、そのマッチアップが今変わったのね」

「マークする相手が変わったということですか……」

「球技みたいに1つのボールを追いかける訳じゃない、どちらもが攻撃側であり守り手側で、かなり複雑よ」

「見ているのでわかります……」


 呆気にとられたコトミにリサが微笑んでいると、シュウが声をかけた。


『機体の動きを見てほしいけど、不自然な剣舞をしていないか?』

「不自然な剣舞……ええ、そうですね。フェイントの一種かと思っていましたが」


 各機体は、激しく剣をぶつかり合わせる傍ら、お互いの機体が剣の届く範囲にいなくとも、時々剣を振ったり払ったり、構えたりしていた。それははた目から見れば、直接的意味のない剣舞に見える。


『あれはエルサさんが言う通り、フェイントの意味もある。だけど一番の理由はキーピングと言って、音速の銃弾の射線ラインを防いでいるんだ』

「全員、シールドの類は装備していないからね、避けられない至近距離の銃弾は、剣か機体にあるフィールドバリアに頼るしかないのよ」


 機体のフィールドバリアとは、本来はEOMのウェイフ砲の発動兆候である光の収縮を確認してから展開するもので、完全に防ぐことはできないものの、ダメージを軽減することができる。

 ただそれほど強力なバリアではなく、エリュダイト粒子の銃弾の威力はウェイブ砲と比べても高いこともあり、実際の防御力は気休め程度と言ったところだろう。

 秋雄やソーニャの大口径狙撃銃であれば、バリアを貫通して一撃で機体を打ち落とすこともありえる。胴体などの重要部位にまともに当たったらの話だが。


『この試合……もう長くないかもしれないな』


 シュウが漏らした言葉に、不意を突かれたように全員が振り向いた。

 代表してコトミが尋ねかけた。


「どういうことですか? シュウさん」

『いや……、すでに長丁場なんだけど、そろそろ決着がつくころだろう。なぜかというと……みんな、リアクター・レンズを酷使している』

「リアクター・レンズ?」


 アマルガムには直接携わっていないため、知らなかったエルサが首をひねった。

 コトミが身振り手振りで説明をしてあげた。


「その名前の通りレンズのような形をした部品で、エリュダイト粒子の生成と発射の両方の機能を兼ね備えた部品なんです。仕組み上、アマルガムの中でも特に壊れやすい部品なんですよ」

『あれほどの近接戦闘の応酬だし、銃弾を剣で切り払うという芸当も既に何度かやった。前衛陣の剣のレンズにはかなりの負荷がかかって、そろそろ限界が来る者もいるだろう』


 通常のアマルガムの近接武器は、それほどの耐久性が確保されていない設計だ。

 本来のEOM戦であれば、使用頻度があまりないし、EOMであればなますのように斬れてしまうため、対EOMに限ればほとんど必要とされない項目なのだ。

 今回のようなアマルガム対アマルガムという想定外の戦いの歪みが出てきたというべきだろうか。

 もしこのまま誰もミスらしいミスをしないとすれば、そこが想定された決着とも言えた。








『ダリル。 剣は持ちそうか?』


 不意にカリンが発した声に、ソーニャはハッとなった。


(剣?)


『俺はまだいけますが、しかしいつまでもつかは怪しいところです』

『あたしはつらい。秋雄が積極的に狙ってくるから酷使しすぎた』

(そうか……リアクター・レンズか)


 2人のやりとりでソーニャも合点した。

 剣が耐久限界を迎えるなど通常ではそうそう起こりえないことであり、ソーニャは完全に失念していた。


『さて指揮官さん』


 カリンは試すかのような物言いでつぶやいた。

 その声色は、ソーニャに向けられているようだった。


「私の事ですか?」


 確認に問うと、カリンはうなずいた。


『もちろん。……さて、私は作戦通り、アグレッシブに攻めようと思うが、許可を頂けるか?』

「………。」


 刹那の逡巡の後に、ソーニャは言葉を返した。


「ええ。存分に!」


 そして自身のギアもトップに入れる。


(速攻! 速攻! 速攻! 速攻よ!)







(まずいっ……!?)


 悲鳴を上げたのはマークだ。

 急加速したカリンが目前へと迫り、白刃を閃かせてきたのだ。

 初撃こそ弾くことはたやすかったが、次の一撃が流れるように迫ってくる。

 相殺現象の反動を利用することにより、機体がくるくると半回転する駒のような剣舞だ。その方向は左右から上下方向へと周回軌道を変え、縦横無尽にマークに迫ってくる。


(くそっ……捌ききれねぇ!)


 そう思った瞬間にカリンは飛びのいた。

 秋雄からの銃弾が飛来したのだ。

 しかしそれは束の間のことであり、銃弾をかわすとすぐにまたマークに迫ってくる。


(~~~~~~~~~~~~~)


 たまらず後方に機体を下げさせるが、カリンはそれでも追いすがってきた。


(これは……非常にまずい!)







『ち、カリンの奴。土壇場ではいつも力押し(パワープレイ)しやがって』


 ダリルをあしらいながら、グレンは吐き捨てた。


(このまま相手のリアクター・レンズの損耗を狙うつもりだったが、さすがにそうはさせてはくれないか……)


 グレンは機体を加速させた。

 ダリルへと迫る形であり、スマートライフルの照準も合わせる。

 この時、ダリル視点に立てば、秋雄がダリル機をフォーカスしていた。加速世界でそれを感知していたダリルは2方向の射撃を警戒して後退。

 しかし、それを読んでいたグレンが、ほぼ同じタイミングでバックブーストを吹かせると、機体を反転。

 後方に機体を下げたダリルの裏をかく形で、一気に彼我(ひが)の距離を開けた。

 外から見た者に気付けた者が何人いただろうか。その類のフェイントだ。

 そしてグレンはカリンへとターゲットを変えた。


『部下をいびってんじゃねぇ! 俺が相手してやるよ!』

『教育的指導をパワハラなんて呼んでいい子ちゃん面すんのは、お前が一番嫌いなものだろう!?』

『俺が嫌いなものは、俺が嫌いと思ったものだけだ!』


 論理の不明な言い争いをしながら、グレンは突き進む。

 後方からダリルが射撃をしてくるが、文字通り背中に目があるかのようにそれらをかわす。

 グレンの援護を受けられると見て、後退しかけていたマークが圧力をかけようと前進してきた。

 カリンは挟み撃ちされる形であるが――

 それでもカリンは下がらない。


『上等だ!』

『マジかよ! あんたクレイジーすぎるぜ!』


 相反する言葉を部下と元教え子から受けながら、カリンは無言の内に剣を構えた。


(結局、生き残るためにはいずれかに死地をくぐらねばならない)


 これが仮想訓練だからとか。

 どうせ負けても死なないからとかいう理念の元に基づく博打ではなく、己の命すら打算の内に含んだ閑念。


(あたしはそれがここだと踏んだ。さぁ、行くよ!)

『中尉、援護します』


 言わずともダリルにはその想念が伝わったようで、寡黙に言葉を紡いだ。


 それらにハッとしたのはソーニャだ。


(さ、下がらないんだ!?)


 予想外の動きであり、対応がわずかに遅れた。それはわずかの差だったが――。

 カリンの教え子だった秋雄の方が、対応は早かった。


(カリンって、割り切りがはやいんだよ)


 そんなことを呑気に思いながら、銃撃を放つ。


(なんとなく、ここは下がらないんじゃないかと思った)


 一種の勘。経験か。

 論理ではなく内から湧き起こる衝動で、秋雄は銃のフォーカスをカリンに合わせていた。


 そこからの光景は、まさに悪鬼羅刹が如く。


 自分に迫る3条の攻防を、剣で切り伏せ、その反動で機体を回転させかわし、慣性をスラスターで強引に制御して機体を進ませる。

 そうしてカリンの蒼穹の機体が――秋雄に迫った。


(来たか!)


 カリンと秋雄の間には彼我の距離がそれなりにある。

 そうしてフォワードに追いかけられることこそが、秋雄が確実に致命となる道筋で、だから秋雄はマージンとしてある程度の距離を稼いでいた。

 秋雄は当然のように機体を後方に加速させ、カリンを正面に見据えて銃口をむけたまま後退する。

 銃はカリンをフォーカスしているが――


(ここで撃っても当たらない)


 秋雄にはそれがわかっていた。

 だから、撃てるはずなのに撃たないわずかな空隙があり、その間にもカリンは距離を詰めてくる。


(どこで打つか)


 それだけを考えながら、秋雄は意識しない内に、神経を研ぎ澄ませた。


 そして、


「ここ――!」


 銃弾を放つ。

 それはグレンの射撃とシンクロしており、かわすのが難しい交差するような射線を描いていた。

 が、カリンはそれを察知していたかのように機体をスライドさせてかわすと、秋雄を追いかけるのを止め、再びマーク達の方に戻っていった。


「ふぅ……」


 無意識の内に秋雄は息を吐いた。


「諦めてくれたか……ソーニャの援護射撃があれば危なかったな」








(……撃てなかった)


 その事実をひしひしと受け止めていたのは、ソーニャだった。


(あそこで私がもっとアグレッシブな位置取りをしていれば。カリン中尉の考えを読めていれば)


 単純な話ではない。

 加速世界を持つが故に、戦況をつぶさに観測できるが故に、してしまう躊躇。

 甘え。

 それがソーニャに、カリンがそういう手段に出るという考えを失念させ、連携を嚙合わせることができなかった。

 カリンが秋雄に迫ったのは一種の博打であり、それにソーニャがついてきてくれることを期待し、2人の連携が噛み合って初めてなるか、というものだった。

 しかしソーニャはそれに応えることができなかった。

 それを見てカリンはあっさりと機体を翻したのだった。

 無茶と言えば無茶だった。

 他にも選択肢はあったし、その内であの手を読めというのは、他の可能性を切り捨てる覚悟が必要だった。

 だが、ソーニャとしては悔やまれてならない。


(もっと)


 深く思った。


(もっと知りたい)


 純粋な欲求だ。


(あの人の動きを。あの人の考えを。あの人の呼吸を。そして――)


 それに合わせることができれば。

 どれほどの快感を、得られることができるだろうか。


「――次は、合わせて見せるっ!」

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