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Effect49 戦闘開始 -into action-

 試合開始。

 まともな打ち合わせはなかったはずだが、開戦するなり、6機は即座に加速した。

 どちらもフォワードが牽引し、そのすぐ後ろを狙撃手がついていく感じだ。

 しかし、考えていることは真逆だ。


(作戦無しとは言え、2人に守ってもらわないと俺、満足に動ける自信ないしなぁ)

(作戦通りなら2人が前衛を引き付けてくれるはず。2人が激突した瞬間に前に出て、秋雄を孤立させてやる!)


 秋雄は守ってもらうために前衛に張り付き、ソーニャは攻めるための前のめりの布陣だ。


 今回は、3対3であることを除けば闘機祭のルールがそのまま適用されている。

 広大な宇宙空間を舞台にし、障害物は存在しない。

 本当の実力を測るのであれば障害物があった方が、それぞれの操縦技術や駆け引きが光るのだが、闘機祭はあくまで育成途中の士官候補生を対象とした大会だ。

 そのような機動を行うことができる者は限られ、多くの場合障害物を盾にした銃撃戦になりやすい。

 そのような試合展開だと、加速世界を持つアマルガムはまず銃弾に当たらない。というより、技術が未熟な者ほど、そういった安全策にすがらざるを得ない。

 結果として勝負が泥試合の様相を呈して長期戦になりやすく、試合時間を考慮して広々とした宇宙空間というシンプルな場所が戦場になった。

 だが単純だからこそ、純粋な力量が図れる。

 一般的な士官候補生レベルだと、宇宙という三次元空間で全方位を警戒しながらの機動に無理がたたり、銃弾を避けきれず駒落ちする者が出て、徐々に切り崩される。

 ただしそれは、通常の士官候補生のレベルの話。

 今回はそのいずれもが実力者。

 一般的なロングレンジの銃撃戦ではまず勝負が決まらない。

 近接戦闘の混戦から局面が動くことは、参加者全員の通念だった。



(さて、大将はどうするか)


 マークは、敵以上に、同じフォワードを務めるグレンの動きを注視していた。


(中尉と秋雄から、相当なクセモノだと聞いている。いつもはダリルに合わせてもらう側だが、今回はこの大将に合わせないとな)


 いつもの相棒とは違い、グレンがどこまで信用できるかわからない。

 マークはグレンのサポートにまわることを決めていた。

 そろそろ有効射程距離に入るが、グレンに主だった動きはない。

 これが戦いが始まる前の最後の余裕だと感じ、マークは思い浮かべた。


(今回はそれぞれの兵装構成もほぼ同じ。純粋に実力が問われる。ソーニャって娘の腕は未知数だが、まあ常道なら秋雄から切り崩していくと思うが。……さて、味方も敵も油断ならないってのは、熱くなるね)


 かつて、マークは消耗品として使い減らされる兵士の立場が嫌になってアマルガムパイロットを目指した。

 便利屋として激戦区に飛ばされる今のマークの立場は、そのころとなんら変わっていないどころか悪化しているようにも見える。


(――違うね)


 マークは笑んだ。


(加速世界で戦場を支配し。時を超えて、背中合わせの仲間と戦う達成感。この優越は、味合わないとわからない)


 自らの身の危険。

 マークは歴戦の中で、そういう段階は、とうに突破していた。

 一種のバトル・ジャンキーだ。

 そもそもそういう人種でなければ、カリン班の激務は務まらない。


(さて――俺の相手はどいつだ)





「正面からぶつかりますね!」


 コトミが目をまんまるに見開きながら叫んだ。


「ああ、私も加速世界が欲しい! そしてじっくりとあの世界を堪能したい! あ~あ、民間用の加速装置が出来上がらないかしら。そうすればじっくりねっとり、趣味の時間に没頭できるのに」

「本音がただ漏れね」


 リサが苦笑まじりに言った。

 それからシュウに話を振る。


「さて、どうなるかしら」

『最善手であれば、カリンチームは《フラクタル・ドライブ》に劣る秋雄を足掛かりに攻めようとするはずだ。秋雄自身を狙うのはもちろん、逆に秋雄を攻めると見せかけて、フォローにまわった方を狙ったりと、展開に応じて手を広げられる。イニシアチブはカリンチームが握っていると言える』

「そうね。……あら」

 

 画面の中で、両者が激突した。

 グレンとマークは急激に足を止めての銃撃戦。そこから左右に展開する。

 カリンとダリルは、銃を目暗射ちしながらの突進だ。


「カリン達が攻めて、グレン達が受ける。予想通りね」

『となるとあのソーニャって娘の布陣からして……』


 狙撃手であるソーニャは、前進を続けるカリン班のすぐ後ろについていっていた。

 すでに敵前衛のグレンとマークは有効射程距離に入っているが、それでも加速を緩めない。


『裏どり。………前線を飛び越えて、敵の裏側にまわりこむ』

「ええ!? あっ!」


 それからの動きに、コトミが驚愕の声を上げた。

 カリンとダリルはそのまま直進。それぞれグレンとマークに向かう。

 お互いのフォワードが激突する形だ。

 一方、ソーニャはその前線を、追い越した。

 画面は上からの俯瞰視点になっていたが、ソーニャが前線を飛び越えて裏側にまわりこむようになっていた。


『宇宙空間という三次元空間だから遊びに余裕はあるとはいえ、中々思い切りのいい布陣だ。ソーニャって娘、一人で秋雄を仕留めるつもりだぞ』

「え、え!? どういうことですか!?」

「これは秋雄側から見れば包囲されているけど、ソーニャから見れば1人で孤立しているのよ。フォワードが激突しているところが前線だけど、秋雄はその前線と同時に、背後のソーニャも気をつけないといけない。けどソーニャとしても孤立しているわけだから、もし前線の2人が反転してくると一人でさばかないといけない」

『むろん、カリンやダリルはそれをさせないように動く。……これは苦しいな』

「どちらがですか?」


 たずねたのはエルサだ。


『秋雄たちだよ。制空権は圧倒的にカリン達の方が上だ。さっきも言ったが最善手の押し付け合いをカリン達が挑んできた形だ。一人だけ《フラクタル・ドライブ》の適合値を劣っている秋雄が狙い目だと見て、高速戦闘を挑んでいるんだ』


 前線――カリンとグレン、マークとダリルの方では、早くも無数の銃火が飛び交い、剣撃の火花が散っている。

 ソーニャも秋雄も、お互いの大口径ライフルが光の矢を放っていた。


(ふむ……なるほど。ソーニャって娘、悪くない腕だ)


 後期育成カリキュラム。

 アマルガムの初期公募とは、つまるところ新兵器であるアマルガムのパイロットを急速に集めるための募集であり、その殆どは例え少年であろうと前線へと送られた。

 それがリサやテオ達の世代。カリンもこれに含まれるが、彼女はちょっと例外である。

 一方、ある程度のパイロットの確保の目途が立ち、候補生制度も始まったソーニャの世代は別のプランが用意された。

 それが後期育成カリキュラム。

 実戦ではなく、訓練や座学などを中心に兵士を育成することで、有望な兵士をロストする危険を冒すことなく、優秀な兵士まで育てようという、いわばハウス栽培のエリート達だ。

 しかしそれは言葉にするほど簡単ではない。

 実戦に通用するカリキュラムを組むのが容易ではないし、何よりもそれを受講する側の生徒たちの真剣味がいる。どのような質が高い授業であろうと、本人が学ぼうという意欲、そして授業の意味をしっかり理解して発展させようという気概がなければ、得られる効果は半減する。

 同じカリキュラムを受けてきたにも関わらず、受講生たちのレベルにはバラつきが出ることが少なくない。

 それは才能の面もあるが、本人の意識もまた大きな一因だった。


(なるほど、この戦いであれば、勝者は――)


 賭けはしないが、シュウは予想をするのは好きである。

 自分の見立てと事実があっているか。そういう研究意欲である。

 シュウは胸中でそっと勝者を予想し、その経過を見守った。

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