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Effect48 私はあなたにふさわしい -white rose-

サブタイトルは花言葉から

 時間は少し遡る。

 観戦室で、それぞれのチームに分かれての作戦時間。

 グレン達は結局ノープランで当たることになったが、カリン達はというと、


「ソーニャ。あんたからの作戦の提案はあるか?」

「私がですか?」

「あんたの試験だよ。あんたの意見を聞いてみたい」


 カリンが真摯な物言いで言ってくる。

 その言葉は重みのある言葉として響いて、ソーニャには大きなプレッシャーがのしかかる。

 しかしすぐに彼女は頭を回転させ、明瞭に言葉を返した。


「速攻をかけます!」

「ほう?」

「私は対アマルガム同士の訓練なんて積んでいません。戦闘が長引けば経験の差がでます」



 実を言えば、秋雄の場合にそういう面がでるかといえばそうではなかったが、ソーニャも秋雄がそこまで馬鹿だとはさすがに思わない。

 情報が少ない中で、客観的な判断に立てばソーニャの判断は妥当だと言えただろう。

 

「狙い目はやはり遠藤秋雄です。秋雄は《フラクタル・ドライブ》の適合値が並みです。目まぐるしい試合展開にはついていけないはずです!」

「じゃあ、どうする?」

「えと……そうですね」


 言ってから気づいたが。

 ソーニャの作戦は、実に基本に則ったもので、なんの奇もてらっていないことに気付いた。


(……相手も当然読んでくる)


 秋雄と組んでいるグレンとマークは、同じ班にいたこともあって当然のように秋雄の弱点を知っているだろう。

 この状況の中、秋雄を守るのは当然と言えた。


(だけど、だからこそ間違ってはいない)


 ソーニャは実感した。攻め立てるのはこちらだ。

 主導権(イニシアチブ)を握っているのはこちらであり、相手側はそれを凌ぎ切って返すか、それともこちらが押し切るかだ。


「おそらく、相手側も秋雄がウィークポイントであることは理解していると思います。連携で秋雄を守ろうとするでしょう」

「なるほどね」

「……」


 カリンは飄々とした顔で相槌を打ち、ダリルは巌のような表情で沈黙している。

 2人の反応は是とも非とも言い難いものであり、ソーニャは自分の見立てがあっているか、不安にかられる空気だったが、それでも臆することなく述べ立てた。


「ですから、私たちは逆にその連携を阻害し、秋雄を孤立させます」

「それに明確な手段はあるのかい?」

(……)


 訓練の中では、EOMの習性を利用して誘導する分断戦術なども学んだが、それはあくまで対EOM用の戦術であって人間相手には通じる訳もない。


「いえ……ただ……今回は近接戦闘主流の構成ですよね」


 ダリルもマークも、カリン同様近接戦闘を主体とする戦法を得意としている。

 その情報はソーニャも伝え聞いていた。


「カリン中尉とダリル少尉が、それぞれ近接戦闘を挑めば、相手もそれに応じざるを得ないと思うんです」

「だけど追いかけながら他人を援護するのは難しいよ。攻め立てないと、相手に他を援護する余裕を与えてしまう」


 カリンは意見を挟む。しかしソーニャを試すためか、それに対する解は口にしなかった。

 しかしその解はソーニャにすぐ予想できることだった。

 ただ、それは勇気のいる言葉であった。であるからこそ、ソーニャは力強く言い放った。


「はい。――遠藤秋雄は、私一人で討ち取ります」


 ソーニャの静かに勢い込んだセリフに、カリンはうなずいた。


「決まりだな」

「え?」

「悪くない手だ」


 異論を一切挟まないカリンの反応にソーニャが戸惑っていると、岩のようにそびえていたダリルがおもむろに口を開いた。


「最善手とも言える。奇をてらわず、有利な状況をただひたすら押し付ける。正攻法だけに受け手は一番返すのが苦しい戦術だ」

「ただね。それはつまり、地力で相手を上回っていないといけない」


 カリンはシニカルな笑みを浮かべて言った。


「私たちも最善を尽くすけど、おそらく今回の試合の鍵を握るのはたぶんあんただ。状況を動かせるのは自分だと思え」

「は、はい。……でもよろしいのですか?」

「なにがだい?」

「いえ……私の考えた戦術で………」


 カリンは苦笑した。


「いいんだよ。私は作戦なんて、何も考えてなかったからさ」






 そして現在。

 それぞれ仮想訓練筐体に乗り込み、システムを起動している。

 筐体が鳴動を告げ、ランプが点灯していく。

 その震えが、自然とソーニャの心にも呼応するかのようだった。


(たぶん、これが唯一のチャンス)


 グレンの横槍で、奇妙な成り行きで訪れた機会だった。

 ソーニャ自身も、自分の主張が子供じみた要求であることは自覚している。

 組織というものが。社会というものが存続する以上、どこかで個人の意思など呑まざるを得ないことを。


(だけど、本当に何も言わなければ、世界はそのまま進んでしまう)


 ――ビリアスクーナという彼女の祖国は。

 EOMパンデミックが起こるまで、世界の嘲弄の的だった。

 宇宙開拓と言えば聞こえはいいが、宇宙は広大なれど、そこは分子すら存在しない空間。

 得られる資源など無く、経済単位も地上の方が遥かに上だ。

 他国に言わせれば、宇宙に首都を設置し、経済をまわそうという考え方は、非効率的で、馬鹿げた考え方だった。

 それでもビリアスクーナという国は、その方針に賭けた。


 元々はロシアから独立した片田舎。

 技術力こそあったが、大した資源はなく、独立を維持するためには、何かの独自路線が必要だった。

 そこで独立後のビリアスクーナ政府が打ち出した苦肉の策が、当時建造ラッシュの続いていたスペースコロニー。

 ――そんな生まれる前の事情は、ソーニャは知らない。

 知っているのは、宇宙の民であることを誇りに思う国民性。

 EOMパンデミックによって他国が混乱する中、政府を維持して、避難してくる人々に手を差し伸べる心優しき人々。


 ――ビリアスクーナは宇宙の民。

 ――己が進んで、その責を負わんとする。


 EOMパンデミックが起こるまで、他国からはビリアスクーナ人は『宇宙(スペース)()ゴミ屑(デブリ)』だと言われていた。

 それはビリアスクーナが宇宙においては強く意見を主張していたからだ。

 例えば他の惑星のテラフォーミング計画であったり、月などの他の星へのプラント建造計画であったり。

 それらは、宇宙開拓に大規模な予算を投じるビリアスクーナにとっては死活問題だったからだ。

 しかしそれらは多くの利権や領土問題が絡む問題で、小国であるビリアスクーナが声を張り上げても取り合われず、わずわらしそうに追い払われるだけだった。

 だが、皮肉なことに、歴史の分帰路はビリアスクーナを勝者にした。


 ――しかし。


(どうだ、見たか)


 などとビリアスクーナ人が胸を誇ることはなかった。

 大きな損失を受けたのは、ビリアスクーナ人とて同じだったからだ。

 その時、ビリアスクーナ人が胸に抱いたのは、勝者の愉悦ではなく――

 勝者の責務。

 避難してきた地上の人々を温かく迎え、混乱により他の政府が支障をきたす中支援し、自らが宇宙で培ってきたノウハウを惜しげもなく伝授した。


 ――他国人から言わせれば、ビリアスクーナ人は、『馬鹿正直』らしい。

 人が好く、情に脆く、空気が読めない。

 でもそれこそが、ビリアスクーナ人の誇りであり、ソーニャが愛すべき祖国だった。

 

 ――幼稚。

 その言葉は、ソーニャにとって突き刺さるものだった。

 ――けど。


「……その理想が」


 ソーニャの口元に、自然と笑みが綻んだ。


「夢を見る可能性が。……ただ純粋な志が。……無邪気な幼稚さが。……きっと私に流れる血の原動力だから」


 ソーニャは祖国を愛している。

 他の人間からは物笑いの種にされ、純朴で陽気な、その人々を。


「――証明しろ。そういうのなら。私は――」


 仮想訓練筐体のローディングが完了した。

 視界が開ける。


「この戦場で、秋雄を打ち負かせて見せる。……私の国では、我儘を通すのが美徳なのよ!」


 それは無邪気に咲き誇る野薔薇(のばら)

 その無垢(むく)は、無限大の力を秘めている。

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