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Effect47 奇妙な共闘 -strange battle-

 ――奇妙な共闘。

 そのチーム割り振りは以下のようになった。


グレンチーム

 グレン・コウラギ

 遠藤秋雄

 マーク・レナード


カリンチーム

 カリン・リー

 ソーニャ・トルスタヤ

 ダリル・ソーサ


 アマルガムは通常4機編成なため、それぞれのチームにあと1人ずつ入れるという意見も上がったが、結局3対3のまま行うこととなった。

 ちょうどいい人間が思いつかなかったからだ。

 それぞれの本音はさておいて、今回の決闘の主目的は、ソーニャと秋雄の腕比べにある。それなら、2人以外の腕前は均等にした方がいい。

 カリンとグレン、およびマークとダリル。

 このような形で競ったことは少ないため、厳密には言えないが、この2つの組み合わせは拮抗していると思えた。

 これにあと2人加えるとなると、基地に来たばかりのカリンやグレン達は思いつかない。ソーニャもこのような変則的なルールとなると、誰と誰が互角かなどはわからない。

 こうして結局3対3ですることとなった。3対3ならば最低限集団戦という態を成すことができ、それぞれの力量もわかる。

 人数を増やせば、不確定要素が増えてそれがソーニャや秋雄を差し置いて、勝敗を決定づける要因になるという懸念もあった。

 ルールは闘機祭のものをそのまま適用。

 取り立てて説明することはなく、広大な宇宙空間を舞台での戦闘である。相手を全機倒した方の勝利。

 ただし『サブ・パッケージ』の使用は禁止である。

 『学年末トーナメント』と呼ばれていたころは、明文化したルールでは使用禁止にはなっていなかったが、それは暗黙の了解で禁止されていたからだ。

 《フラクタル・イド》の危険と、使用後の反動。そしてそもそも、安全装置の作動無しに『サブ・パッケージ』を使用できる人間は限られていた。

 『イモータル・クラフト』であるが故に、適合値は低いが汚染には強いシュウは、まわりに遅れがちな成績を補填する意味と、本人の素養を勝ってタクマが特例的に認めた者だった。他のものが『サブ・パッケージ』を使えば大目玉である。


 ルールの確認が終われば、次は戦う場所。

 仮想訓練筐体の使用許可である。

 その許可はグレン――正確に言えばそのグレンから命じられたエルサがとった。

 カリンが申請してもよかったのだが、グレンはためらうことなくプロヴィデント社のコネを使った。カリン達としてもその方が都合がいい。


「グレン。言われた通り、仮想訓練筐体の使用許可をとりました」


 命じられたエルサは、表情を一切動かすことなく告げた。

 よくできた秘書のようであるが、エルサと深い付き合いの人間なら、『それが一番怖い』時であることを身に染みていただろう。

 グレンは歯牙にもかけなかったが。


「ただし時間は通常の訓練外です。夕方ごろになります」

「そっちの方がありがたいよ。あたしらも訓練をサボるわけにはいかないからね」


 既にアフリカ大陸全土が、戦線押し上げのために動き出していた。

 『アース・シーカー計画』を遂行する上での段取りも話し合われていて、連携や布陣、作戦展開など、見直すべき点、確認するべき点は山とある。

 一時解散し、夕方、再集合することとなった。


 この決闘(?)の話は、1両日の間にアルジェ基地の兵士たちの間に拡散していた。

 その話の出どころは、タチアナから報告を受けたテオである。


「て、テオ隊長。なんか人がものすごく集まっているんですけど」


 観戦は、仮想訓練筐体がある部屋ではなく、別室で行われた。

 会議室としても使え、その際に仮想訓練の戦闘風景を流せるように大型モニターも設置されていた。

 人ゴミで視界がふさがれているため、何十人といるのか、それとも百に届いているかもわからない。

 それほどたくさんの人間が詰めかけていた。


 テオに知らせたのはタチアナだ。

 カリンとグレンが対戦方式やチーム分けを話し合っている間、目を盗んで携帯端末で連絡したのだ。とにかく、上官であるテオに報告すべきだと思った。

 しかしテオは止めるわけでもなく、むしろ知り合いたちに『面白いことがあるらしいぜ』と声をかけてまわった。

 アマルガムに詳しい者も、そうでない者も、娯楽に飢えた軍人たちが多数押し寄せることとなった。


「こんな大事になっちゃって大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないの? 発端はグレンだろ。プロヴィデント社から働きかけたんだから、責任はそっちに振るよ」

「いえ、そういうことを言うわけでもなく! ……これでソーニャちゃんが勝ったら、テオ隊長はどうするんですか!?」

「そうだねぇ。成績にもよるけど、まあはっきりとした実力の差が出るようなら上に進言してもいいよ」

「いいんですか……?」


 この時にタチアナの胸中を去来したのは、本人すら自覚できなかった侘しさだった。

 内気なタチアナにとって、ソーニャは数少ない友人だった。

 それに置いていかれるような気がした。


「……遠藤秋雄……」


 タチアナは、遠目に秋雄の方に視線を送った。

 秋雄はすでにパイロットスーツに着替えており、グレンとマークと輪を組んで、何事か話し合っている様子だ。


(あの人……本当にそんなに強いの……?)


 昼食をともにしてきたが、控えめなタチアナから見てもうだつの上がらない青年だった。

 ソーニャに威嚇される度に首をすくめ、カリンやテオに悪く言われても気弱に笑うばかり。

 ――タチアナも、そうだが。

 人生の負け犬のような姿だった。


「……って、テオ隊長、何をしているんですか?」


 携帯端末を操作して、ニヤニヤと一人悦に入っているテオの姿に気付いて、タチアナはたずねた。

 テオは得意満面の笑みを浮かべて携帯端末の画面を見せてきた。


「見なよ、このオッズを! どうやらカリンに賭ける奴が多いようだな。やっぱり経験が重視されているのかな?」

「………?」


 一瞬、何を言っているのかわからず、タチアナは動きを停止した。

 やがて、理解するにあたって。


「もしかして、今回のことを賭けにしてるんですか?!」


 ハッとなって言うと、テオは不思議そうに聞き返してきた。


「ああ、そうだけど? じゃなきゃ人集めた意味がないじゃないか」


 当然といった様子のテオに、開いた口がふさがらなくなる。

 しかし今更どうするわけでもないので、


「あとで怖いお姉さんに怒られても知りませんよ……」


 と、憲兵隊の面々を思い出してぼそりと言った。

 そんなタチアナの小言にもめげず、テオは陽気にはにかみながら言った。


「そんなこと言わず、タチアナも一口どう? 一稼ぎできるぜ?」

「やりませんよ……って」


 タチアナは、群衆の中に紛れて、小柄な人影が右往左往しているのに気づいた。

 テオもそれに気づいた。


「なんだありゃ? 少年兵か? 子どもの内から博打を知っているなんてスれてるなぁ」


 と、録音した上で大音量で聞かせてやりたいようなことを言っていたが、タチアナはそれどころではなかった。

 人ごみを縫ってその人影――

 猫仲間のリディア・イリニフにロシア語で話しかけた。


『リディアちゃん、なんでこんなところに?』

『えと……カザックさんが、面白いものがあるって連れてきて……』


 カザックは基地の警備を任されている髭面の駐屯兵だ。

 仕事上の付き合いかは知らないが、カザックはよくリディアを引き連れていた。

 そのカザックだが、リディアから少し離れたところで他の仲間たちと顔を突き合わせている。漏れ出る言葉から、どっちが勝つかを吟味しているらしい。


『ねぇねぇ、タチアナ。これから何がはじまるの? 『賭け』って何?』

『えと………これから、テオ班長の知り合いの人たちが試合することになっていて……それでどっちが勝つか賭けるんだよ』

『だから、『賭け』って何?』


 純粋に尋ね返されて、タチアナはまたも停止した。


『もしかしてリディアちゃん、『賭け』を知らない?』

『なんなの? これだけ人が集まるんだから、面白い物?』


 ――リディアは、当時の時勢からは大きく逸脱した、古い慣習を守る辺境部族で暮らしていた。

 そこでは『賭け』という文化が根付かないほどに、純朴な生活を送っていたのだろう。


『ええっと、賭けというのはね……』


 タチアナは、言葉に気を付けながら、リディアに説明をしてあげた。


『戦う人たちの内、どっちが勝つかを予想するの。そして勝つと思った方に、自分の持っているお金を賭けるの。そしてもし自分が賭けた方が勝ったら、負けた方に賭けていた人たちからお金がもらえるんだよ』

『うーん、それでなんでみんな騒いでいるの?』

『えと……試合を見に来ている人たちと、あと、賭けに勝てばお金が何倍にもなって帰ってくるから……』

『何倍にも!?』


 リディアが目を輝かせた。


『それすごい! それってつまり、お金を増やすショーバイってことだよね!?』

『い、いや。賭けは商売じゃなくて博打でね……。ええっと』

『私も賭ける! そしてお金増やす!』

『だ、だめだよリディアちゃん! そんな考え方だと身を滅ぼすよ!』


 リディアもまた、タチアナにとっては数少ない友人。

 そしてタチアナの友人というのは、大体がトラブルメーカーだった。






「作戦は無し。それでいいんだな?」

「ああ。そもそも、即興の面子でそんなもんやっても、誰かがトチるだけだ」


 マークの確認に、グレンは言葉を選ばず返し、首だけを振って乱暴にカリン達を指示した。


「それはあいつらも同じだ。結局、今回問われるのは個々の技量だ。状況判断能力も含めてな」

「わかった。……で、秋雄」

「なんです?」

「こいつと中尉、どっちの方が強かったんだ?」

「えと……」


 秋雄はカリンとグレンを見比べて、視線を彷徨わせた。


「結局、何勝何敗になったんだっけ?」

「だから、数えてねぇと言っただろうが」

「あたしも、自分が撃ち殺された数を数える趣味はないよ」


 言葉を挟んできたのは、こちらに近づいてきたカリンだった。


 何勝何敗。

 アマルガム戦以外にも、対EOMなど様々なルールで戦ってきた2人だが、そういった数をカリン達がカウントすることはなかった。

 通常であればわかりやすい指標であるし、自分のモチベーションにも繋がる。数字が上向けば、自分の成長が実感できるだろう。

 だが、カリンもグレンも、共にリアリズムの塊のような人間だ。

 勝負の勝敗自体にはこだわらず、2人は常に実戦を見据えていた。そこでは敵を何体倒そうが、1度死ねばすべてがそこで終わってしまう世界だ。

 2人は一戦一戦を、自分を高める訓練だと割り切っていた。

 だから例え勝ってもミスがあればそれは納得できないものだったし、負けたら負けたで改善点が浮き彫りとなる糧になる。

 勝ったとしても負けたとしても、2人は喜んだり相手を蔑んだりすることはなく、秋雄から見れば淡々と、クレバーに勝負をしていた。

 そう、榎原の時代から、カリンとグレンが勝負をするということは何度かあったのだ。

 時には授業中、時には放課後。

 何かと理由をつけてグレンがつっかかり、それにカリンが応じることが多かった。

 榎原の士官学校時代、グレンともっとも親しかったのはカリンだったという印象を秋雄は抱いたが、それはカリンの実力を、グレンが認めていたことが大きいだろう。

 グレンにとっては初めての好敵手で、カリンにとってもグレンの存在はまんざらでもなかった。


(実際、銃の下手な私よりもこいつの方が打てる手は多い。駆け引きに使える手札が多い分、相手にするには手ごわい人間だよ)

(カリンの方が『フラクタル・ドライブ』の適合値……反応速度が上なのはいなめねぇ。下手に近距離戦を挑むと足元をすくわれるが、かといって銃に当たるような間抜けなことはない。どのタイミングで仕掛けるか……)


 カリンもグレンも、己らの演算回路を働かせて、今の内からシミュレートして戦っていた。

 すでに両手に余る対戦をこなしてきた2人だ。

 お互いの手の内は知り切っているかと思えば、その裏をかいて、あるいは裏の裏をかいて、一戦ごとに異なる(かお)を見せることを知っている。その成長を予測するのは難しく、脳裏での対戦相手は千変万化し、時間はいくらあっても足りなかった。

 2人が動かないので、流れでこの場を取り仕切ることになったテオが声をかけてきた。


「そろそろいいかな? お2人さん」

「ああ」

「いいよ」

「それじゃあ、健闘を祈るよ」


 テオに見送られて、6人はそれぞれ部屋を後にする。

 背後の扉から、テオの口上とそれに沸き立つ人々の歓声が聞こえてきたが、全員それは聞こえなかったことにした。






 一方。

 流れるような動きでコンソールを叩いているコトミの姿を、リサは眺めていた。

 童顔には似合わぬ機敏な動きであり、まるで打楽器を打つかのようにリズムよくコンソールの上を指が跳ねている。

 やがてその顎が、満足げに弾んだ。


「よし、こんな感じですね」

「できた?」

「ええ、大丈夫です。これで見られるはずです」

「ご苦労様。……シェリルも悪いわね。部屋を貸してもらって」

「かまいません」


 ここはシェリルにあてがわれた研究室だ。

 リサとコトミ以外にも、エルサの姿がある。

 また、姿こそないものの、シュウもまた有線ケーブルで繋いでこの空間を共有していた。

 シェリルの研究室。

 リサも試験段階の『アトモスフィア』のテストパイロットをしていたころ、似た部屋を見たが、それよりももっと雑然としている。

 グラフや数字を垂れ流し続ける無数のモニター。

 配線が触手のように伸び、連結されたコンピュータ群。

 うず高く積み上げられたデータチップ。

 アルジェ基地に着てそう何日も経っていないはずなのだが、すでにシェリルのために魔改造されていた。

 シェリル・ガレノス。

 ガレノス博士の娘とは彼女の弁だが、感情を表に出さないのといい、何を考えているのかわかりづらい少女だ。

 ASUSからのお目付け役として送られてきたのが彼女とライラで、シェリルはシュウの調整も引き受けている。

 しかしライラと違って明確な敵意を向けてくることはなく、むしろ、少々のことなら便宜を図ってくれる。

 だが味方かというとそういうわけではなく、熱のこもらない彼女の視線は、まるで試験管のラベルを眺めるような空虚なものだった。

 ただ、ライラよりもシェリルの方が権限は上であるらしく、その点では何かと助かっていた。

 ライラは、シュウに対しても様々な締め付けをしたかったようなのだが、シェリルが『彼の状態は不安定ですので』と端的に告げて跳ね除けているのだ。

 今回、グレンが主導して行った模擬戦、それをシュウが『見たい』と言うと、シェリルからは許可が下りた。

 数少ないシュウのことを知る人物であるコトミの手も借りて、一時的にシュウの意識をこの研究室につなぎ、どうせだからシュウを解説役に添えて他の人間も観戦する流れになった。

 ――そして、それを知ったエルサが同席させてくれないかと申し入れてきた。

 彼女も多少、この戦いに興味があるらしい。

 しかし、一般の観客用に用意された部屋は定員をはるかに超える人間が押し寄せ、蒸し暑い熱気に包まれている。

 そこで、シュウ達が何やら冷房の効いたVIPルームで観戦すると知り、ならば同席させてくれないかと頼んできたのだ。

 シュウもリサも、情報交換などで間接的にエルサには助けられている。

 断る理由などなく、シェリルの了承を得て、一緒に観戦する運びとなった。


「それで結局のところ、どっちが勝ちそうなんですか?」


 機器のセッティングを終え、ちょこんと腰を下したコトミが、うきうきとした様子で尋ねてきた。


「どっちもすごい腕なんでしょう? グレンさんは、魔王(エールケニッヒ)とも共闘したんでしたっけ?」

「あら。それなら、カリンはエンドリック大佐の愛弟子のようなものよ」


 コトミがグレンを持ち上げれば、リサがカリンの肩を持つ。


「『シューティング・スター』にいたころから、一緒に訓練しているところは何度も見たわ」

「シュウさんはどう思われますか?」


 お互いの評価を耳にして、エルサが視線を動かしてシュウに問いかけてきた。

 ちなみに、部屋の主のシェリルは、今回の対戦など興味なさそうに自分の研究に没頭している。


『2人を比べてどっちが上かを見極めるのは、はっきり言って難しい』


 2人が戦う場合、まず人数合わせに呼ばれるのがシュウだったから、2人の実力は身に染みていた。


『どちらも隙を見せない、もし見せようものなら一瞬の躊躇もなく獲ってくる。そういう手合いでお互いの実力も知っているから、まともにぶつかれば死闘になる。……だけど今回は集団戦だから、色々と不確定要素が多い』

「ええっと、テオさんが参加者全員のプロフィールをまとめてくれたんでしたっけ?」


 コトミが携帯端末を起動しながら言った。

 テオが賭けの参考になるように、それぞれの戦歴や受けたカリキュラムなど、公開できる範囲でまとめていたのだ。

 短い間によくやるものである。


「うわ……このマークさんって人とダリルさんって人……もの凄い戦歴ですね」

「はっきり言って異常よ。上官に恨まれているのかしら、この2人」


 リサがぼそりと告げた。


「特にカリンと組んでからのここ一年。こんな短期間で連続で戦闘するなんて正気の沙汰じゃないわ。殺そうとしているとしか思えない」

『だけど生きて帰ってきている。おそらく信頼されているんだろう。過酷な戦闘でも帰ってくるほどの腕前だと』

「そうだとすると……いえ、そうでなくともこれだけの戦闘から生きて帰ってきて、戦果も挙げているのだから間違いなく手練れだわ」


 容易には人を褒めようとしないリサも、認めざるを得ないほどの戦歴だった。


「この2人、カリンの部下なのよね。同じチームなんだから、この2人もお互いの手の内は知り尽くしていそうね」

『ああ、相当にレベルが高い試合になる』

「グレンから聞いているのですが」


 エルサが、指を顎に添えながら聞いてきた。


「グレンがカリンさん達3人と初めて会った時、同じような方式で戦ったのですよね?」


 エルサの質問にリサの柳眉が陰った。

 その戦闘で、リサは一対一という言い訳できない状況で、グレンに打ち負かされたからだ。

 複雑な心境のリサにコメントさせるのは酷なので、シュウが言葉を紡いだ。


『ああ。ただ、あれは遊びだったよ。例えばテオは、『インフェルノ』……対EOM用の支援火器をそのまま使っていた。勝敗にはこだわらず好き勝手にやっていたし、あれはあまり当てにならないと思う』

「EOMと対アマルガムでは、やはり別ものなのですか?」

「違うわ」

『違う』


 シュウとリサが異口同音に言葉を紡いだ。


「EOMの知能は低くて、複雑な読み合いなどはあまりないのよ。時々奇妙な行動をするから油断できないけど、基本的に行動は反射によるもので、行動は予測しやすいわ」

『それがアマルガム同士になるとお互いの読み合いが発生する。しかも加速世界があることで、事態はもっと複雑に、かつ単純になる』

「複雑で単純?」


 エルサが不思議そうに言った。


「矛盾しているような表現ですが、その意味は?」

『思考の加速により、時間制限がなくなり、お互い深い長考ができるようになる。だけど、加速世界によって反射神経も引き伸ばされる。例えばフェイントとかで敵の隙を誘おうとしても、それが看破しやすいんだ』

「結果として……適合値がある程度以上のパイロット同士が戦うと、最善手の押し付け合いになりがちよ」

『そう。機体は別に加速できないけど、加速世界を持つことで、戦場全体を見渡せるほどの思考の加速ができる。カリンほどの適合値であれば、今回みたいな3対3の小規模戦なら、まともには銃弾に当たってくれない。どの銃が自分を狙っているかまで見えてしまうから』

「古いロボットアニメに、パイロットがたくさんの銃弾をすべてよけてしまうシーンがあったんですけど。……カリンさんやグレンさんであれば、それができてしまうのですね」

『ああ。現実に』

「で、話は戻すけど」


 リサは携帯端末を見つめながら言った。


「その状況を打破するためには、連携が噛み合って避けられない攻撃を捻り出すか、それともこの戦闘についていけない人間がでてくるかよ。そうなると、争点となるのはやっぱり実戦経験の希薄なこの2人」

「遠藤秋雄さんと、ソーニャ・トルスタヤさんですね」

「新兵の秋雄さんは経歴はほとんど出ていませんけど、カリン班に入ってからも撃墜数を稼いでいますし、相応しい実力があるんじゃないですか?」

「それに加えて、『サスガ』にいたころからアマルガム同士の戦闘も経験しているから、やはり秋雄さんの方が一歩秀でているような気がします」


 コトミとエルサが首を突き合わせて話し合っている。


「このソーニャ・トルスタヤ……後期育成組として様々なカリキュラムを受けていますが、さすがにその中に対アマルガム戦闘はないようです」

『ただ、秋雄は《フラクタル・ドライブ》の適合値がソーニャに比べても低い』

「秋雄は確かに榎原でアマルガム戦の訓練も積んでいるけど、そういう読み合いをすごく苦手としていて、あまり経験を有効に使えないと思うわ」

『応用力。訓練で学んだことを実戦で昇華できる実力をソーニャが持っていれば、秋雄を上回る可能性は十分あると思う』

「お2人は賭けはしないんですか?」


 エルサの問いは、シュウとリサにむけられていた。


『俺はしないよ。予想をするのは楽しいけど、自由にできる金銭を持ってもあまり意味がないからね』

「私も同じような感じね。そういう火遊びは興が乗らないのよね」

「そうですか……お2人の予想を参考にしようと思ったのですが」

「あれ? 意外ですね、エルサさん賭けとかするんですか?」

「お2人の予想があれば、少ないリスクで儲けられると思ったのですが」

「あなた、お金に不自由してるの?」


 不思議そうにリサは言った。

 相場操作を避けるため、今回の賭けでは一人が賭けられる額の上限額が決まっている。

 エルサはプロヴィデント社という超がつく大企業の人間なので、今回程度の賭けだと彼女にとってはお駄賃程度にしかならないと思ったのだが。

 エルサは首を振った。


「いえ、お金に困っているわけではなく。ただ単に、儲けた金をグレンの前に積み上げて、『あなたのわがままのおかげで稼いだ額です』とでも言ってやれば、痛快だなと思いまして」

「あなた……いい性格してるわね」


 リサの口元は、少し皮肉気に歪んでいた。

 エルサはしれっとした顔で返す。


「両方に賭けてもいいのですけどね。嘘は言ってないですし、損して得をとれということで」

「いいじゃない。私もカリンに賭けて同じこと言ってやるわ」

(『………』)


 コトミとシュウが、少し引いた様子で2人を見つめていた。


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