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Effect45 布告 -proclamation-

ようやく話が進みそう…

 テオが格納庫で自機の状態について整備士と話していると、新たに格納庫に帰還してくる機体があった。


「おお?」


 その四機を眺めてテオが驚いた声を上げる。

 整備士との話をきりのいいところで切り上げると、テオはその内の1機に近づいた。

 ちょうど、コクピットからパイロットが這い出てきたところだった。

 テオは手をメガホンのようにして、声を張り上げる。


「今日は手ひどくやられたようだな、カリン」


 カリンはその声を聞くなり、苦み走った表情を浮かべ、自機を振り返った。

 蒼穹に彩られたはずのカリン機は、今はいくつもの焦痕が穿たれ、くすんだ色合いとなっている。

 ウェイブ砲を被弾したのだろうが、ここまでカリンが機体を損傷させるのは珍しい。


「不意の転移があった。おかげで前線から一気に反転させられるはめになったよ」

「ほう」

「大丈夫、あたしら含めて怪我を負った奴はいないよ。やっぱり前線だね。手ごわいよ」


 カリン以外にマークやダリル機も似たような状態だ。後方狙撃役の秋雄は3人ほどとはいかないが、それでも無傷とは言い難い。

 各機、外装の大半を取り換えることになるだろう。


「ふー、やっぱりしんどいっすね」


 秋雄が汗で張り付いた髪を抑えながら漏らした。


「カルロス班にいたころが懐かしいっすよ。これでこの基地に着て三回目ですよね」


 出撃の回数である。アルジェ基地に着てまだ二週間も経っていないのだが。

 EOMの支配地域である沿岸付近では、それだけ駆除しなければならないEOMの数も多いのだ。便利屋として使われてきたカリン班では日常的な光景だったが。


(ま、新兵のわりにはよくやっているよ、本当)


 秋雄の凡庸な顔を見て、テオは胸中でつぶやいた。

 と、カリンがリフトを使って地面まで降りてきた。

 駆け寄ってきた整備士に機体を託しながら、テオに尋ねかけてきた。


「あたしらがいない間に何かニュースある?」


 その言葉に、テオは肩をすくめて応じた。


「特にないよ。ソーニャがぐずっていたぐらい」

「ぐずっていた? なんで?」

「カリン班ばかり実戦に出てずるいってさ。ちょうど秋雄と逆のことを言っているね」

「はぁ~…ビリアスクーナ人は噂には聞いていましたが、意識が高いんですね。……本当のところで言えば、やっぱりカリン班にはソーニャの方が適任じゃないんですか?」


 自分の去就がかかった話なのだが、それに気づいていないのか、秋雄はのっけらかんと言い放った。


「ソーニャって娘、デパーチ・チルドレンに選ばれるぐらいだから実力はあるんでしょう? 本人もカリン中尉と組みたいというのなら、入れ替えるよう、上に一言言ってみてはどうです?」

「あたしはごめんだね」


 しかし当のカリンがばっさりと切って捨てた。


「自分から戦場に出たい。死に急ぎたいなんて言う奴のケツを持つのはごめんだ」


 そう漏らすカリンに秋雄は目をしばたかせ、テオは腰に腕をまわして嘆息する。


(……こういうところも、カリンが変わったところだね)


 一年前、榎原で臨時教官であったころは、ある意味でもっとドライだった。

 当時は人を率いる側になるなどと思っておらず、人に使われる側だったというのも大きいだろう。それもあって、兵士は消耗品という見方が当時のカリンには根ざしていたように思える。

 スラムで生き抜いてきた彼女にとっては、人権の尊重といった美辞麗句な言葉は空虚に見えていた。そして、より現実を直視したリアリズムを持っていたからだ。

 であるならば、ソーニャの志を見て。

 一年前のカリンなら、ソーニャのそれが、戦場を知らぬゆえの幼稚な蛮勇であろうと、気高い鉄の意思によるものだろうと、どちらに関わらずともそれを育み――一人の兵士として、鍛え上げようとしたはずだ。

 だが今のカリンはソーニャを邪険にし、ソーニャが誇りに思っているビリアスクーナ精神そのものを、忌避している気配がある。

 一年前のカリンであれば、もっと年相応に、ソーニャに気安く接したはずだ。


(なんでそうも心変わりしたのかわからないけど)

「ところであんた、相変わらずソーニャに慕われる心当たりはないのかい?」

「ん……正直に言って、覚えにないね。あの娘ぐらいの世代のデパーチ・チルドレンは何人かいたからその中にいたんだろうけど、私はもっと上の世代と混じっていたから面識はほとんどなかったと思うんだけど……」


 テオがそこまで告げたところで、カリンの携帯端末に着信が入った。

 応対に出たカリンは、相手と何言かやりとりしてから、秋雄に言った。


「秋雄、褒章が出たよ。今回の頑張りに免じて今日と明日は休暇だってさ」

「お、本当ですか。うーんでも何しようかな」

「ああ、あたしらも明日は休暇なんだよ。ソーニャも誘ってどこか行くか?」

「何か楽しいの、この辺りにあるの?」

「うーん?」


 テオには、あまり女性らしい華やいだ趣味はなかったりする。

 ソーニャやタチアナ、他の女性士官との付き合いで、全く心当たりがないわけではないが、カリンもまたテオとは方向性が異なるもののあまり女性らしい気質ではないので、いい場所が思いつかなかった。

 テオは最終的に自分の趣味を優先させた。

 

「地下のバーでプロレスやってるんだけど見に行く?」


 テオは格闘技、とりわけプロレスが大好きだった。






「マークさん、ダリルさん?」

「うん、どうした?」


 廊下を歩いていたマークとダリルは、不意に声をかけられて振り返った。

 特徴的な声なので誰なのかわかっていたが、ソーニャである。


「カリン中尉はどこですか!?」

「うん? さあ、もう解散したからわからないが。緊急の要件なら端末に連絡したらどうだ?」

「今日、結構な激戦だったそうですけど、怪我はないんですよね!?」

「ああ。大丈夫さ」


 マークは安心させるように笑いかけた。


「お前に見せたかったよ。うちの姫様の活躍を。後方にEOMの転移を確認するや、機首を翻しての奔走ぶり。両手に構えたブレードでEOMをばったばったと切り伏せる姿はまるで東洋のサムライだな」

「お、おお……」


 マークの口ぶりに、ソーニャは瞳を輝かせている。


「やっぱりカリン中尉ですね! 私の眼に狂いはありませんでした!」

「俺たちは今日と明日休暇を頂いたから、訓練には出ないぞ。話したいことがあるのなら自由時間を見つけていくんだな」


 別にソーニャの肩を持つわけではないが、マークは取り立てて2人の仲を引き裂くつもりはない。リップサービスのつもりで情報を添えた。


「あの、マークさん」

「お?」


 そのまま立ち去ろうとしたところで、真剣な表情で呼び止められてマークは声を上げた。


「なんだ?」

「カリン中尉はなんであんなに私を邪険にするんでしょう?」

「あー……そう邪険にはしてないと思うぞ?」

「しています! 私って……ウザいですか?」

(……そりゃあ客観的に見れば……)


 顔を会わせればべったりと張り付く姿は、傍目には迷惑行為のように思える。

 しかし、マークの中に眠るフェミニストの精神が、それを口にするのを(はばか)られた。


「いやー、うん。そうだ、たまには戦法を変えてみたらどうかな。押してだめなら引いてみろってな」

「押してだめなら引いてみる……」


 マークの言葉を律儀に吟味した様子で、ソーニャは可憐な表情で押し黙った。


(あー、あと4つ上だったら声をかけるんだけどな)


 マークがそんなことを考えているとは露知らず、ソーニャはお伺いを立てるように上目づかいに尋ねてきた。


「実は明日、テオ中尉やカリン中尉と一緒に、地下プロレスの観戦をしないかと誘われているんですけど……ここは断るべきでしょうか?」

「あ、いや、うん。それも戦法の一つだと思うけど……」


 返答に窮しながら、マークは横目で無骨者の相棒を見る。

 ダリルは(いわお)のような顔で、無言だった。


(だめだ、こいつは頼りにならねぇ)


 マークは気持ちを切り替えて、ソーニャへ言った。


「いや、折角の誘いなら行ってみた方がいい。まあそこでの振る舞い方を考えるんだな」

「テオ中尉が言ったんです。……私には幼稚なところがあるって」

「幼稚?」

「そういうところが、カリン中尉が私と距離を置く理由なんだろうって」


 幼稚。子供っぽい。

 ソーニャは小柄で華奢。だがそういう外見のことを言っているわけではないだろう。

 カリンが距離を置く理由、というのならばマークやダリルには心当たりがある。

 ソーニャの、純なまでのひたむきさ――彼女の言うところのビリアスクーナ精神である。

 しかし、マークは思うのだった。


「あー……まあ、若いうちはそれでいいんじゃないか?」


 マーク自体はもっとスれた人間だ。

 学歴もなく、勉強も嫌い。

 そうやって若い時代に遊び呆けていたために兵士になるしか道がなかったものの、弾薬や燃料と同じように使い減らされる生活に嫌気が差し、一発逆転を狙ってアマルガムパイロットになったという成り行きだ。

 己の人生を振り返ってみれば、独善以外の何物でもない。

 正直な話、ソーニャのように育ちのいい人間の考え方はマークには眩しいほどに目も眩む話だ。

 それは壊れ物のガラス細工のようで、マークは扱いに窮した。


「今までのそういう向上心がお前さんをデパーチ・チルドレンにさせたんだろう? それを武器にしていくべきだと思うぜ」


 言ってから、ちらりとダリルの顔を盗み見る。

 視線で、


(俺は何も間違ったことは言っちゃいないよな?)


 という確認である。

 しかし、無骨な相棒は、何の反応も返してくれなかったりする。


「向上心を武器に……」


 ソーニャはマークの言葉を繰り返すと、何かに得心したようにうなずいた。


「わかりました! では――明日のお出かけには、カリン中尉を見習ってもっと大人っぽい服を選びます!」

「は?」


 善は急げと思ったのか。

 呆然とするマークを置き去りに、ソーニャは駆けて言った。


「幼稚って……服のことだったのか?」

「いや……あれは、言葉が正確に伝わっていなかったのだろう」


 ちなみに、翌日の地下プロレスでは。

 タチアナと相談して悩んだ挙句、ゴスロリ姿で参上し、テオを爆笑、カリンを大いに引かせ、プロレス以上に周囲の観衆の視線を集めることとなった。







 翌々日の昼食時には、珍しいことにマークとダリルも同席した。

 普段つるんでいる友人がシフトの関係で、昼食の時間がずらされたためだった。

 話は昨日のプロレス観戦とそこでのソーニャの不意打ちの衣装(ゴスロリ)の話になり、自然とマークがソーニャの相談にのったことも暴露された。

 それを聞くなり、カリンが恨みがましそうな目で見る。


「昨日のソーニャの衣装は、あんたらの指図だったのか」

「いやー、そういうつもりで言ったんじゃないんですけどね?」


 そういうカリンの子供っぽい嫌味はポーズであることがわかっているので、マークは軽薄に笑って流した。


「それを言ったのはマークであり、俺は関係ありません」


 同席していた相棒が、早々に自分を売った時には、さすがに口元を引きつらせたが。


「……で、その着地点があのゴスロリですか?」


 秋雄が不思議そうにコメントする。

 プロレス観戦に同席したのは秋雄、テオ、カリン、ソーニャの4人。

 タチアナやリコも誘われたのだが、タチアナはソーニャのために遠慮し、リコはそもそもそういう付き合いには中々応じない。


「なによ、何か文句あるわけ?」


 ライバル視している秋雄にはソーニャは口が辛い。

 元々押しの弱い秋雄は、そういう当たりの強さには弱く、首をすくめた。

 ソーニャはプレートの上のパスタをかき混ぜながら、不機嫌そうに言った。


「カリン中尉の男らしい服を、最初は真似しようと思ったんですよ。でもそれをどう真似しても、私には似合わないってタチアナが言いだして」

「む、無理して人を真似するよりも、自分にあった服を選んだ方がいいと思ったから……」


 タチアナが、顔を伏せながらか細い声を漏らす。

 ソーニャはそれを聞いていないように、言葉を続けた。


「色々なファッションサイトをまわって、それで見つけたのがあの服です」

「まあ、似合ってはいたけど……」


 秋雄は微妙な顔をする。

 酒と男臭い汗の匂いが充満する地下プロレスでは、さすがに場違い感は半端ではなかった。

 ただ、それが悪いことばかりではなく。

 彼氏に連れてこられたものの、プロレス自体に興味を示さなかった女性たちから「キュートだね!」と声をかけられ、思わぬところで交友の和が広まることとなった。

 それどころか、主催者側の目にも止まり、華があるということで一番目立つ優待者用の席までもらった。

 テオなどはこれに大いに感動し、最前列でリングの上の闘志たちに激を飛ばし、まるで彼女がセコンドであるかのような振る舞いを見せた。

 選手とも握手をする機会もあり、終わった後には感動のハグという盛大な窒息技を、再びソーニャに食らわせていた。


 割を食らったのはカリンである。

 ソーニャがそんな衣装で、そんな彼女が男物の服を着たカリンにべったりとしているものだから、久しく味わうことのなかった『男扱い』を受けたのである。


 胡散臭い笑みを張り付けた男――その男が主催者側の人間だった――から、「キミが彼女の彼氏かい?」と話しかけられた時のカリンの表情は、秋雄が見た中でもトップクラスに不機嫌なものだった。


 ソーニャが、アンニュイな顔をしてフォークをプレートに置きカチンと音を鳴らせて言った。


「渾身の服だったんだけどなぁ。大急ぎで駆け込んだらたまたまサイズのぴったりあうのがあって」

「………」


 カリンは無言であるが、彼女の心の内を明かすなら「私へのあてこすりかよ」である。

 カリンがあのような服を着ても、絶対に似合わないだろう。本人はそう思った。

 ……そんなカリンも、次第にプロレスの熱気に魅せられ、終盤にはテオの横で激を飛ばしていたのだが。


 と。その時、食堂の一角がざわめいた。

 それは一角にとどまらず、さざなみのように波及していき、ただならぬものであることが食堂の全体に伝わった。

 その騒動の根源は、食堂にあるモニターだった。

 いつもは無味乾燥な公共放送を垂れ流しており、食堂の人間たちに関心を払う者は少ない。

 しかし、今回は違った。


「ASUS総務長の緊急記者会見?」


 ASUSの事実上の代表と言ってもいい存在だ。

 彼の口から直接声を発するとなれば、それは滅多なことではないはずだ。

 長々とした口上が漏れた。

 その言葉の端々は力強く、本人も聞くものの人間を奮い立たせるかのように拳を握っている。

 その話は要約するとこうだ。


「前線を押し上げる……」


 食堂の喧騒が、一気に跳ね上がった。

 最近の兵員の移動の多さから、兵士たちの間でも噂になっていた出来事だ。

 意気を下げる者は、いない。

 あるいはいたかもしれないが、この公共の場で、その心中を吐露するのは、ある意味EOMの前に裸で立つよりも勇気のいることだっただろう。

 いくつもの口笛が鳴り響き、気の早いことに国歌や戦歌を歌いだすものもいる。

 前線を上げるということは人の手に領土を取り返すということであり、中には故郷の土を踏める人間もいる。

 そして、進出方面が中東方面であり、エルサレムなどの都市もまた奪還目標に入っていることが伝わると、十字を切ったり祈りを捧げる者たちが現れた。


「そうか……前線を上げるんですね……」


 普段はのほほんとした秋雄だが、そんな周囲の熱狂に引きずられるように感慨深く呟いた。

 と、そこで気付いた。

 テオが、ニヒルな笑みを張り付かせてそのモニターを眺めていたのだ。

 秋雄はそこに何も意味を見いだせなかったが、カリンやマーク、ダリルなどの勘の鋭い人間であれば、『知っていたな』と思ったであろう。

 事実、テオはそれらの事実を以前から知っていた。

 そして、これから話される内容も。


『――同時に』


 総務長は、いくつものフラッシュが瞬き、質問が飛び交う中、静粛するように手で制し場が落ち着くのを待つと、改めて言葉を切った。


『戦線を押し上げると同時に、我々統括軍はあるプロジェクトを進行するつもりです。我らが同胞たちを救うために』


 それから総務長は、一般にはあまり馴染みのない固有名を上げた。


『『ヴォルゴグラード』、『ブレイブリー・アサルト』、そして『クエンティン・エルバ』。現在統括軍に提供されている三隻の強襲機動空母を、アジアと南北アメリカに派遣し、地上に取り残された人民の救助に当たります』


 この基地の多くの兵員は、この基地に駐留している『クエンティン・エルバ』の名前を知っている。

 そのために、この発言もまた、大きな波紋を読んだ。


『強襲機動空母を用いた局地的なレスキュ―計画。我々はこれを『アース・シーカー計画』と呼んでいます』

「午後12時15分。機密制限が解かれた」


 腕時計を眺めたテオが、おもむろにその場にいる人間に聞こえるように口を開いた。


「聞いての通りだ。人類は再びEOMに奪われた土地を奪還する。そして同時に、それに平行して進行する計画がある」


 その一言で、全員がテオが事前にこの話を知っていたことを察した。


「『アース・シーカー計画』。強襲機動空母を用い、少数精鋭でEOMの支配地域に降下し、今も残っているかもしれない人命を救助するプロジェクトだ」

「「「……」」」


 全員が、黙って彼女の言を聞いていた。


「察しているかもしれないが、カリン班は『クエンティン・エルバ』に乗ってこの計画に参加する」

「カリン班だけですか?! 私たちは!?」


 ソーニャが声を張り上げる。

 テオは、なだめるように微笑を浮かべて首を振った。


「私たちテオ班は、今のまま基地の警備だ。私たちは、いつか前線で体を張るために、今は力を蓄える時だ」


 ソーニャは何か言いつのろうとしたが、珍しく気を利かしたリコが羽交い絞めにして、口をふさいだ。


「テオ班長、続きを」

「ああ。これから各班長クラスを読んでのブリーフィングがあるはずだ。カリンにはそれにも参加してもらう」

「今きたよ」


 カリンが、携帯端末を取り出しながらいった。


「すぐに参謀本部にこいってさ」

「うん」


 テオは微笑む。

 身を翻すように立ち去るカリンの背中を見送った。


「……あの、テオさん」


 秋雄は、遠慮がちに声をかけた。


「まだ地上に、人類は残っているのですか?」


 秋雄の質問に、テオは表情を引き締めた。

 EOMの生態の一つとして、広大な索敵能力が挙げられている。

 それがいずれの感覚器によるものかはさだかではないが、密閉された地下であろうと、捕食対象となる獲物がいれはその居場所を感知し、岩盤を切り裂いて現れるのだ。

 一度発見されれば、例え車やバイクに載っていようと逃げ切るのは不可能だ。アマルガムにも匹敵する機動力を持つ彼らの追撃から逃れるのは至難である。

 地上にいる人間の生存は絶望視に近いものがあった。


「……世界各地には、地下シェルターがいくつか建造されていた。スペースコロニー同様、いざという時の避難場所として。その中には地下何千メートルもの場所につくられたものもある」


 テオはいつにも増した真剣な表情で呟いた。


「それらの中にはいまだに救助ビーコンを鳴らしているものがある」

「そうか、それじゃあ……まだ生きて……」

「………通信は?」


 問いかけたのは、ソーニャを押さえつけたままのリコだ。


「そういう施設であるのなら、地上に助けを求めるための充実した通信設備があるはずです。それから交信が返ってくるのではないですか?」

「……南米と北米の拠点には返ってきているものがある。ただ、録音の再生で、本当に生き残っているかはわからない。あんた達が行くアジアは……何の返答も返してこない」

「け、けど」


 秋雄は声を上ずらせた。


「まだ決まってはいないですよね。EOMに感知されるのを恐れて通信をしないだけかもしれませんし、何らかの理由で通信設備が使用不可になったのかもしれません」

「そう。その可能性を見捨てず、一人でも多くの人間を助けるのがお前たちの任務だ」


 テオは言い聞かせるように言った。


「気張れよ、秋雄。予定進路では、『クエンティン・エルバ』は単独でEOMの支配地域を横切ることになる。とてつもない激戦になるはずだ。正直、あんたのような新兵がいくような場所ではない」

「は、はい」


 秋雄は声をうわずらせながらうなずいた。

 うなずくしかできなかった。

 それを見て、ニィッとテオは笑みを浮かべて言った。


「大丈夫、あんたの実力はそこらの熟練の戦士とも遜色ないものがある。胸を張って故郷に錦を飾っていけ」

「え? 故郷?」

「あんたら『クエンティン・エルバ』が行くのはアジアだよ。その最終目的地は日本だ」

「あ……そういう意味ですか」


 秋雄は『サスガ』生まれの『サスガ』育ち。

 フラクチャーな日本人の例に盛れず、あまり祖国に対する帰属意識は強くなかったりする。


「じゃあ、大和魂(やまとだましい)を見せにいってきます」


 秋雄は普段の自分なら言わないような、大言壮語な冗談を吐いた。

 むろん、その意味はテオに通じず、きょとんとした顔をされた。

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