Effect3 仮想訓練 -practice battle-
そのまま、3人とE班の4人、輪になって会話を交わす。
この大所帯なので、話はすぐに収拾つかなくなった。
結局のところ、グレンとカリンはファッションのことで意気投合。2人で輪を離れ、話に花を咲かせている。
秋雄は、リサの美しさに一目ぼれでもしたのか、質問責めだ。それにコジロウがついてサポートしてやっている。
初めは、どう見てもリサの美しさは秋雄にとって高嶺の花だと思ったのだが……。
「リサさんって言うんですよね。すごい綺麗ですよね。出身はどこですか? 地上? それともどこかのコロニー?」
「ええっと、『シューティング・スター』だけど……」
「おお、そうなんですか。俺も『シューティング・スター』の曲よく聴きますよ。あ、でももしかしたらクラシックとかのが好きなのかな?」
「そ、そうね。でも『キングス』とかもたまに……」
「マジですか!? 俺も『キングス』の大ファンなんですよ!」
リサは秋雄の相手をしながら、助け舟を求めるかのように仲間たちに視線を送っている。だがカリンはグレンとの会話に夢中で気づいてさえいない。テオにいたっては、慌てふためくリサの様子が面白いのか、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「なあ。こういうこと聞くのもあれだが。リサって男に免疫ないのか?」
「リサの父親は『シューティング・スター』宙軍のど偉い将校様なんだよ。で、過保護に育てられて今までずっと女ばかりの環境に育てられたわけ。まあ、それでも自分を安売りしないぐらいの身持ちの硬さは持っているんじゃないかなぁ」
男は未知の生き物、か。たしかに今のリサの秋雄に対する態度は、恐れとかそういうものというよりは、相手が危険なものか安全なものか吟味する、小動物的な警戒心が見て取れた。
……そういう意味では、秋雄は安心していいだろう。彼はよくも悪くも愚直で真っ直ぐだ。おそらく、リサが傷つくようなことはしないだろう。そばにコジロウもついている。
しかしこうなると、余り物同士――といっては失礼だが、自然とシュウはテオの相手にすることになる。
一番年長者でフランクな性格のテオは、3人の中で一番付き合いやすい人間だったが。
テオはファッションとかそういう話題よりも、さきほどの訓練の方に興味がわいているようだ。
「なあなあ。あんたら今まで仮想訓練やっていたんだろ? リプレイ見せてくれよ」
「ああ。かまわないよ」
シュウはテオを教官用のメインコンソール前に案内し、リプレイ機能を使って、訓練内容を再生した。それを眺めて、すぐにテオはE班の問題点に気づいたようだ。
「なあ。あの黒い機体……グレンのか。なんであんなにつっこむんだ?」
「俺が指示しているわけじゃないよ。……あいつはなんというか、ただの訓練じゃ物足りないみたいだから、無茶をしているみたいなんだ」
「ふーん。……で、あんたらは残りの3人で、それを最大限バックアップするってわけか。ふむふむ。ほうほうほうほう」
テオはモニターのリプレイ映像を眺めて、感心したそぶりを見せている。しばらく眺めた後、満足げにうなずいた。
「うん。いいチームじゃないか」
「は?」
いや、チームワークに関してはがたがただと思ったが。おそらく、班全体のポテンシャルを考えれば、もっと楽に、もっと迅速にミッションをクリアすることも可能なはずだ。
「いや、たしかに戦法としては褒められる所がない、無茶な戦術だよ。だけど、あんたら3人は、独断専行するグレンをしっかりサポートしようって動いている。見捨てる動きじゃない、4人でなんとか完遂しようって動きだ」
「そりゃあ、そうしないと教官から怒られますからね……」
「そうかな? でもあんたらのSAI波形は、わりとまっすぐだけど」
SAI波形とは、パイロットの精神の高揚をあらわすグラフのことだ。これは些細なことで数値が上下し、例えば意に沿わないことや、戦闘中の怯え。そういったもので、たやすく数値が上下する。
「指令塔としてのあんたの采配もたいしたものだ。グレンの癖を読み切って、ベストな位置取りをしている。あんたの指示に対して、コジロウと秋雄の2人が信頼しきっているのもいいチームだ。うん。増援がワープしてきた時に、コジロウをグレンの援護にまわした判断もあたしは評価したい。その後の残骸群にEOMを引き込んでのゲリラ戦も上々」
かつてないほどの褒められっぷりだ。こちらは嬉しさを通り越して、気恥ずかしくなる。
と、そこへ冷水のような声が浴びせられた。
「けど、本人の卓越した操作技術に反して、《フラクタル・ドライブ》との適合率は並以下ってところね。班長さん?」
揶揄するように言ってきたのは、リサだった。どうやら秋雄たちの質問責めから逃れて、こっちのモニターまで逃げて来たようだ。
「この数値、ひどいわね。下手をすればアマルガムパイロットよりも宇宙船のパイロットをしたほうが天職って言える位だわ」
リサの辛辣な言葉は、そのまま真実だった。
シュウは、実際のところ単純な操作技術では、クラスでも上位に位置する。勉学に関しても同様だ。にも関わらず、シュウがクラスでも下位の成績に甘んじているのは、《フラクタル・ドライブ》との適合率において、入学試験の適性検査をパスできたのが不思議なほど、壊滅的なせいだ。それはつまるところ、アマルガムパイロット以外の職を目指せば大成できるのと、ほぼ同義だ。
「おいリサ。さすがにそれは言いすぎだぞ」
テオが眉根を寄せながらたしなめる。だが、シュウとしては常々自覚していることだ。リサの言葉は真摯に受け止めざるをえない。
「ダイブ時間を増やして適合値を上げる努力をしろってことだろう。忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」
「……べ、べつに親切心で言ったわけじゃないわ。ただ、いざ組んだときに、足をひっぱられたくないだけよ」
そっぽを向きながらリサが言う。ここ数日リサと暮らした身としては、照れ隠しなのが丸わかりだ。
それから2人の興味は、シミュレーション筐体へとむいたようだ。
テオは、仮想訓練用の筺体のカプセルをこずいて言った。
「これ気になっていたんだけどさ、旧式だよね。それもほぼ初期バージョン」
「ああ。軍からの払い下げ品らしい。といってもソフトのバージョンアップはしているし、内装も最新式の規格に取り替えてあるぞ」
「そっか。でも懐かしいなぁ。知っているか? 最初のあたしらは、これを本物のアマルガムと思って乗せられていたんだぞ?」
「え?」
一瞬、何を言っているのかわからなかったので聞き返してしまった。
「つまり、このシミュレーション筐体をアマルガムのコクピット部分にはめ込んで、、私らは本当にアマルガムに乗って、リアルなEOMとドンパチをやらされていると思い込んでいたんだ。できるだけ実戦に近いデータをとるために仕込んだんだそうけど、毎回死と隣り合わせの勝負をさせられてなぁ、けっこう神経すりへらしたもんだぜ」
「そんなことがあったのか?」
「ああ。撃墜された奴がでると、『怪我の治療のため』とか言って、一ヶ月ぐらい閉じ込められるの。中には『死亡』扱いされて別の訓練所に移動させられた奴とかな。それを見て私たちは肝を冷やしたもんだけど、本当たいした徹底振りだったよ。それにしても懐かしいな。……うーん」
テオはしばし首筋に手を置いて悩んだ末、片目を閉じながらお願いしてきた。
「なぁシュウ。ちょっと動かしてみてもいいかな?」
「え? まあ、機体データさえあれば、誰でも動かすこと自体は可能だけど……どうなんだろうな」
「テオ、あまり無茶言ってシュウを困らせるものじゃないわ」
無茶だと思ったのか、リサが助け舟を出してくる。だが、シュウは表面上は難色を示しながらも、内心では現役パイロットの実力を見てみたいと思い始めていた。
そう思った矢先に、カリンとグレンが近づいてきた。
「なになに? シミュレーション動かすの?」
――結局、カリンやグレンも動かしたい、現役パイロットの腕を見たいと主張しはじめ、なし崩し的にシミュレーションを動かすことになった。しかもただ単に動かすのではなく――
「なあ。あんたらの誰かが相手をしてくれよ。そっちのが愉しいじゃん?」
というテオの提案により、現役パイロットチームと、パイロット候補生チームに別れて勝負しようということになった。特にグレンなんかは乗り気だ。グレン以外の生徒3人は、補修が終わったばかりで疲労困憊だったので遠慮したいというのが本心だったが。
「でもテオたちは3人だけど、俺達は4人だよな。どうする? 現役のデパーチ・チルドレンってことを考えると、ハンデと考えることもありだが」
「いや、ここは人数を合わせて3人にするぞ」
「異論なし。僕も人数を合わせるべきだと思う」
わざとハードルを上げるグレンの意見は予想通りだった。一方、コジロウもそれに同意した。コジロウが同意したのが少し謎だったが、すぐに理由はわかった。
「ということで、僕が見学組に入るよ。秋雄とシュウ、それからグレンの3人でがんばって」
「……おいおい。成績上位のお前が入らなくてどうする」
グレンがコジロウをねめつける。コジロウは心底嫌そうな顔をして、首をふった。
「断るよ。僕はさっきの補修でグレンのお守りですごく疲れたんだから。秋雄が入ればいいじゃないか」
「秋雄じゃ現役パイロット相手に壁にもなるわけねぇだろうが!」
グレンが言葉を選ばずに罵る。シュウは秋雄の肩を抱いて慰めてやることにする。
「大丈夫だ。壁ぐらいにはなる」
「それフォローになってねぇ…」
秋雄がさめざめと心の雨を流す中、コジロウとグレンが睨み合う。優男然としたコジロウだが、中味はかなりのマイペースだ。同じ我侭同士、こういった風にグレンと衝突するのは珍しくもない。取っ組み合いのケンカに発展することもある。
しかし今回は、グレンの方から身をひいた。
「ち、いいぜ。それじゃあ3人目を連れてくればいいんだろう。いいか、すぐに連れてくるから待ってろよ」
「連れてくるって、どこから?」
「生徒会室だ」
「生徒会室って……カズハか?」
「ああ。すぐに拉致ってくるから待っていろ」
――数分後、グレンに拉致られてきたのは、カリンが一目見た瞬間、歯軋りをしてしまうほどの均整のとれたスタイルの女子生徒だった。健康美とも呼ぶべきその体は、妖精と称したくなるような幻想的なリサ、とにかく破壊力のみを追及したビッグバンテオとは、また別種の魅力ある女生徒だった。
「もう、シュウくん。いったいどういうこと?」
カズハはシミュレーションルーム内に入るなり、柳眉を逆立てながらシュウにむかって怒りをぶつけてきた。連れてきたのはグレンなのだが。
シュウが事情をかいつまんでカズハに話す。
最初は不機嫌さを隠しもせずに当り散らしてきた彼女だが、部外者であるカリンたちが、デパーチ・チルドレンだということを話したあたりから興味を示してきた。
最後にはグレン並にノリノリで話に乗ってきた。
「面白そうじゃない。現役のデパーチ・チルドレンの胸を借りられるなんて、いい経験だわ。さあやりましょう! すぐやりましょう!」
「ああ、わかった。で、悪いんだけど3人のパイロットスーツ、見繕ってくれないか?」
「え? そうね。シミュレーションでも、中はすごく熱気がこもるものね……。わかった予備を見繕ってくる。ただ……テオさんのは、ちょっと苦しいかも」
カズハの視線は、主にテオの胸にいっていった。たしかに彼女の胸は少々規格外だ。
当のテオが苦笑を上げながら言った。
「ああ、いいよ。最低限着られれば。どうせシミュレーションだ。かかるGとかにも限度があるんだろ?」
「ええ。それではこちらへ」
カズハは3人を引き連れて更衣室へと消えていった。
シュウたちは元からパイロットスーツを着ていたので、その場で待機だ。
ちなみに――カズハはシュウたちのクラスメイト。それもクラスの中でトップの成績を誇る首席生徒だ。
実技においてはグレンに一歩譲るものの、それに次ぐ実力者と言っていいだろう。
「それじゃあルールはどうしようか」
テオはやはり合うサイズのパイロットスーツがなかったのだろう。大胆に胸元のチャックを開けた状態で、たずねてきた。
「大体のミッション内容はそっちで決めていいけどさ。一応、このあたしの機体を見てからミッションを決めてくれよ」
テオがそう言いながら差し出した携帯端末には、テオが実際に乗機していたと思しき機体データが載っていた。それを見てまず素っ頓狂な声を上げたのが、秋雄だった。
「……RVC‐2825‐INFERNO!?」
「あんたらの中には、そういう戦術兵器をもったアマルガムはいないんじゃないか?」
「……あの……私、この武器のこと知らないんですけど、どういう兵器なんですか?」
カズハが知らないのも無理もない。
テオの機体に搭載されていた武装は、使い手を非常に選ぶ武器だった。知っていたのは、兵器オタクの秋雄と、アマルガムに関する知識を手当たり次第集めているシュウぐらいなものだろう。
「『インフェルノ』は、生成する弾丸の口径を可変して、威力を可変できるタイプの大口径ランチャーだ。似たような可変式のランチャーの中でも、『インフェルノ』の最大火力はトップクラス。その分、威力は折り紙つき。一射で複数体のEOMをまとめて殲滅できる力がある」
「はぁ、それで戦術兵器ね……たしかに、選ぶミッション次第じゃ初めから勝負が見えているわ」
「その代わり、私の武装はそいつだけだ。あとは大出力シールドを左腕に装備しているだけ。敵に近づかれるとだた動きが鈍いだけの棺桶だ」
まさに戦術兵機。しっかりとした戦術運用の元で、初めて真価を発揮できる、ピーキーな兵装というわけだ。
しかしここまでピーキーとなると、選ぶミッションによって有利不利は大きく差が出そうだ。工場内など、火力を発揮できない閉所では彼女の証言どおりただの棺桶になりかねない。一方、ただっ広い場所でEOMへの殲滅数を稼ぐというミッションでは、彼女の独壇場だろう。
そこで不意にカリンが手を上げた。
なにか面白いことでも考え付いたのだろう。にやついている。
「なあ。面白い話を聞いたんだが。あんたら学年の終りに、変わった対戦方式で試合するんだって?」
シュウも含めた候補生たちはすぐにピンと来た。
「学年末トーナメントのことか。2年生から4年生までのパイロット候補生全員で行う、アマルガム同士のチーム対抗戦」
「この学校、そんなのがあるの?」
リサが懐疑的な視線を投げかけてくる。アマルガムとはあくまで対EOM用に作られた兵器だ。もちろん戦闘力だけをとれば既存の兵器と遜色ない力はあるが、同じアマルガム同士で戦うというのは、アマルガムにこめた人々の願いから逸脱した、本来起ってはいけないケースだ。
それにはカズハが答えた。
「シミュレーションプログラムのEOM相手だと、どうしても一部パターン化してしまう部分がありますから、リアルタイムの駆け引きや読み、そういったのを養うために同じ人間同士、つまりアマルガム同士で戦うことになったんだそうです」
教科書どおりの解答だが、この大会が開かれるのは学外への宣伝が本当の狙いというのがもっぱらの噂だ。大会の日にはなぜか一般人にも学校が解放され、試合の模様が巨大スクリーンで上映されるのだ。
「へぇ……それは面白いな。あたしらも余興でやったことあるよ。面白いじゃないか、それ」
「……まあ、そうね。どうせ遊びだし。私も異論ないわ」
リサたちは乗り気のようだ。
シュウたち生徒側にも異論はなかった。お互いに目配せを送ると、確認するようにうなずく。
カズハが代表して答えた。
「いいですよ、それでやりましょう。ちなみにステージは遮蔽物がほとんどない宇宙空間、敵の殲滅が勝利条件です。それ以外の禁則事項と勝利条件はありません」
筐体に乗り込んだシュウは、システムを起動させる。
くるくるとまわる『読み込み中』の文字を眺めながら、チーム回線を開いて、グレンとカズハの周波数を確認した。
「リーダーはどうする? 妥当なところでカズハだろうけど」
そう訊ねると、ディスプレイに映ったカズハは、こう切り替えした。
『いいえ、ここはあえてグレンくんに任せるわ。どうせ私達の指示は聞かないでしょ?』
『俺はチームなんて考えてないぞ。いつもどおりやるだけだ』
『……まあ、そういうことで』
ワンマンぶりを発揮するグレンに、顔を曇らせながらカズハは言葉を切った。
「そういえばわかっていると思うが、俺は装備を狙撃兵装から中距離用装備に変えておいた。留意してくれ」
『オーケイ。シュウくんのサポート、期待しているわ』
さきほどのE班での補修授業では、シュウはロング・レンジ用の狙撃兵装を装備していた。しかし今度は3人と通常に比べて少人数戦であること、カズハが信頼できる狙撃手であることから、右手に中距離用のライフルに、左手にセイバーを構えた白兵戦もできる形に切り替えている。
シュウはどの武装も扱いこなせる器用さがあるので、状況によって武装を切り替えるのだ。
『ロード完了。ミッションを開始します。システム起動』
機械の合成音が告げると同時に、コクピット内全体が鈍く鳴動する。
それまで数個しか灯っていなかったランプが一気に点灯していき、――モニターには、きらびやかな星たちが踊る、『外』の状況が映し出された。
シュウは機体を回頭させ、2人の姿を確認する。
青と白を基調とした外観のカズハの機体と、赤と黒で彩られたグレンの対照的な機体が左右に控えていた。
カリンらの機体の位置はまだ有効射程外だ。
今にも先走りそうなグレンに、念のため釘を刺しておくことにした。
「まだつっこむなよ。俺たちじゃお前の全力には追いつけない。総合的な実力は相手のほうが上と考えるべきだ。慎重に行動しよう」
『黙ってろ。俺がリーダーだったはずだぞ』
グレンが凄みを利かせた調子で告げる。だが理解はしているらしく、スピードを抑えてシュウたちに歩調を合わせている。
と、カズハから通信が入った。
『データリンク要請。一足先に先輩たちの機体情報を撮影したわ。今のうちに戦い方をイメージしてて』
要請に対して承認すると、ほとんどタイムラグなしに、静止画像が送られてきた。そこにはブースターの光を灯しながら進む赤、青、銀の3機が映っていた。
赤い機体は先ほどテオが見せてくれた機体。――可変式の大型ランチャー『インフェルノ』を構えた砲戦型戦術機体。
残りの青と銀の機体は、どちらも大型ブレードとライフルを装備した機体だった。
「グレン。青と銀のどっちがリサで、どっちがカリンだと思う?」
軽い気持ちで話題を振る。グレンは吐き捨てるような口調でのってきた。
『ハ、銀があのリサとかいう女で決まっている。銀色なんて趣味の悪い派手な機体、いかにも好きそうな面をしている』
「なんだ、賭けになりそうにないな」
シュウがやれやれといった様子で告げる。――と、あちら側から、先制の一撃が放たれた。
テオの機体から放たれた大口径ランチャーの砲撃だった。赤い火線がシュウらのそばを横切り、虚空に散る。弾速は遅く、注意していれば目視でも避ける事ができるだろう。だが赤い極太の火線は、一発食らっただけでひとたまりもないことを容易に想像させた。
『威力はすごそうね』
「ああ。だけどあの武器は火力がありすぎて乱戦にはむかない。付け入れるならそこだ。ひきつけてから雪崩れ込んで密集戦に――」
『――そんな生っちろいことしてられっか!』
『グレンくん?!』
かなり思い切りのいい加速だった。だが、シュウはそれを予期していた。――しかし悲しいかな、機体の加速性が追い付かない。シュウは、みるみる距離を引き離されていく。
一人先行したグレン機は、敵の先頭を走っていた青い機体に肉薄していった。
が、
『――てめぇは初っから眼中にねぇんだよ!』
グレンは手にしたショットガンを乱射すると、迎撃しようとした青い機体を牽制する。そして青い機体が大きく後退した瞬間――その脇を通過した。
グレンの狙いははじめから青い機体ではなく、後ろに控えていた白銀の機体だったのだ。
突如フォワードを無視して近接戦闘を挑まれることになった白銀の機体は、構えかけたライフルを下げて、慌てた様子で太刀を構えてグレンの初撃をはじいた。
青い機体は一瞬、銀色の機体を援護するか迷うそぶりを見せたが、結局そのまま前進し、シュウへと迫ってきた。
シュウが迎撃態勢に入っていると、カズハの愚痴る声が聞こえた。
『いきなり分断されてるじゃない!』
「グレンと組んだら思い通りになるほうが珍しいさ。各自、目の前の機体に集中しよう」
カズハになだめるように言ってから、迫ってくる青い機体の迎撃に入る。シュウはライフルを連射するが、青い機体は大空を舞う鳥のような動きで旋回し、全てかわされる。加速器をまるで自分の神経が通っているかのように微調整し、見事なまでに緩急をつけているのだ。
「クッ!」
青い機体は、シュウのセイバーと比べて、2倍近い長さの大型ブレードを持っていた。明らかに白兵戦に重点を置いた装備だった。近づかれるのは危険。だが、《フラクタル・ドライブ》の適合率において、明らかに劣る自分が引き剥がすのは難しい。
(応戦するしかない……!)
シュウの機体も近距離用のセイバーを装備している。銃と剣を器用に使い分けて、つかず離れずの間合いを維持し続けるのが得策と判断した。
シュウの意思に反応して、抜き放ったセイバーが黄光の光を帯びる。青い機体が振りかぶった青い電光を宿した太刀を、シュウは受け止めた。
ぶつかりあった粒子のきらめきが、涼やかな波紋と共に、極彩色の火花を散らせた。
白銀の機体へと狙いをさだめたグレンは、放たれたいくつもの銃弾を細かく加速器を噴かせてかわす。むこうも速度重視の機体だが、加速力はグレンの方が上。距離をとることは不可能と判断したのか、白銀の機体もシュウと同様、大型ブレードを構えて迎え撃つ。
「てめぇ、たしかリサとかいう奴だろ」
『……そうよ』
通信を呼びかけると応じてきた。押し殺した声には、グレンの真意を測りかねる色が聞き取れた。
「オールレンジに対応した兵装の意味は、相手に苦手で、自分が得意なレンジで戦うっていう優等生らしい器用さなんだろうが……俺を引き剥がせるかな」
『……なにそれ。挑発? 安いわね。それだけなら回線を切るわよ』
「クールを装っても動揺が見て取れるぜ。……内心、計算が来るって慌てているんだろうが!」
『……煩いわね!』
黙らせるように銃口を向ける。しかし急加速するグレンの機体を捕らえきれない。シュウが青い機体に手間取ったのと全く同じ光景があった。
実のところ――自身の操作技術は優れているのに、アマルガムとの適応性が低いというのは、実はリサにも当てはまることなのだ。『アマルガムパイロットを目指すよりも、宇宙船のパイロットを目指したほうが天職』というのは、そのまま彼女が言われたことのある皮肉だった。
適合率において劣るリサは、グレンよりも全体的に性能の劣った機体を使っているに等しい。それは、機体の操作技術と機転だけで乗り切るには決して少なくない差だ。
くわえて、グレンは操作技術に関しても天才なのである。
『あっ……!』
開きっぱなしの通信回線から、リサの悲鳴が漏れる。グレンの大型セイバーがかすめ、装甲に亀裂が走ったのだ。もう少し深ければ、片腕が使用不可になっていただろう。
「失望させてくれるなよ、先輩ィッ!」
『……なめないでよね!』
リサは現役としての意地か、自らを振るい起こすように珍しく大声を上げた。