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Effect19 その結末 -fractal effect-

 青く光に包まれた空を乱舞する無数のアマルガムたち。

 その中でただ1人、《エフェクティブ・ドライブ》の連携を拒んだリサは、これ以上は無駄と知り、銃の引き金をひく手を止めて息を吐いた。

 それぞれを頂点とし巨大な図形を描くアマルガムは、触れる傍からEOMを消し去っていく。

 もはや、個人であるリサの出る幕は無い。

 と――彼女の隣に、紅の光輝に包まれた見慣れないアマルガムが降り立った。

 グレンだった。


『なんでお前は《エフェクティブ・ドライブ》との連携を拒んだ?』


 今は突っ込む気にもなれない粗野な物言いとともにつきつけられた言葉。

 リサは息を吐いて、彼の問いに答えた。


「………あなたも読んだでしょう。《エフェクティブ・ドライブ》の説明を。……あれは、やはり悪魔の兵器だわ」

『……確かに、あれは《シンクロトン・ドライブ》の問題点をすべて解決してはいねぇ』


 《エフェクティブ・ドライブ》は、確かにたくさんの人間の《フラクタル・イド》の発生を抑えるという点では画期的だ。現に、《エフェクティブ・ドライブ》に繋がれたグレンの声には一片の苦悶も感じられない。が――


「あれはたった1人の指揮官が、複数のパイロットの意識の混濁を代わりに引き受けるシステム。だから指揮官への負荷は、協力する人間がいればいるほど増えるはずよ」


 だからきっと――あの光に呑まれそうに輝くシュウは、様々な痛みを堪えている。

 ――幾何学的(フラクタル)()結末(エフェクト)

 誰が最初にそう呼んだのだろうか。自らの身を粉にし、絶望の中で希望にすがったその姿を。

 リサの視界で、蒼い光輝に包まれていたアトモスフィアが、宙をふらついた。

 わずかな光の残滓を残して墜落するアトモスフィアにむかって、グレンが機体を走らせながら言った。


『まだ決まっちゃいねぇよ』

「グレン………」

『まだ、決まっちゃいないじゃないか』

「………そうね」


 グレンの言葉に突き動かされて、リサも墜落するアトモスフィアを受け止めるために続いた。

 たしかに悪魔の力を借りた人間が、必ずしも死ななければならないというものではないはずだ。

 伝えたい言葉があった。

 怒鳴りつけたい言葉があった。

 それならばきっと――貴方はここで死んでいい(はず)がない。

 ――幾何学的(フラクタル)()結末(エフェクト)

 その結末は、蓋を開けてみなければわからない。





 ――同じく――その少年の残滓を、複雑な思いで見つめながら、エンドリックは自らの罪深さを呪った。

 シュウは生きているだろうか。彼は死んだだろうか。それはわからない。

 『コンピュータとパイロットの脳を接続する』

 再三繰り返されたこの言葉。

 この言葉に、同時に忌避感を抱いた者は少なくないのではないのだろうか。

 この言葉が意味することは、人間が肉体という殻を破り新たな世界に跳びたてる可能性を秘めた技術であると同時に、コンピュータと人の垣根を取り払う、人が道具に並ぶことを意味する言葉だからだ。

 かつて《フラクタル・ドライブ》が禁止された背景には、そういった事情もある。他にも、《フラクタル・ドライブ》への適性は人によって個人差があるので――等々。

 様々な理由で封印された《フラクタル・ドライブ》も、EOMという脅威を前にして解禁をよぎなくされた。

 だが、同時に封印された《シンクロトン・ドライブ》がそのまま日の目を見ることはなかった。

 その理由の一つ目については先ほど話したので割合する。

 もう一つの理由は、人間の脳の家畜化だ。

 発想の飛躍だと思うだろうか?

 だが仮に《シンクロトン・ドライブ》が技術的な問題をクリアした時、世界で最高のコンピュータは人間の脳を無数に束ねたものということになる。

 《フラクタル・ドライブ》という技術が掘り起こされた時、この技術も一緒に解禁しようという声があった。EOMの脅威を前に、手段を選んではいられないというのがその理由だ。

 だがそれでも人類は、これ以上、人としての尊厳を踏みにじる行為を否定した。

 なぜなら、アマルガムが開発された時に人類が抱いた一番の希望――それは、同じ人間をもう迫害しなくて済むということだったからだ。

 元々たくさんの人間が住んでいたスペースコロニーは、地球から避難した数億の人を受け入れるにはあまりに狭かった。それが理由で引き起こされた悲劇は、どう言いつくろったとしてあの時代を生き抜いた人間の最大の闇だ。

 だからこそ、彼らはこれ以上、同じ人を傷つけることを拒んだ。

 エンドリック・ニッケが恐れた未来とは、そのような時代の再来であり、そしてたった1人の人間に負担を押し付ける行為だ。


(だが――。私は、あの少年の目を見て、そしてサスガの目前に迫った脅威を前にして、この技術を人々の目から隠し通すことができなかった)


 エンドリックは、確かな予感を持ってうなずいた。


論争(たたかい)が起きる)


 人と人との争いだ。


(あまりに強すぎる禁忌の技術。その解放を求める声と、開封を鎮めようとする声。そして……EOMから奪い返した土地を、誰が手にするだろうかという争いだ)





 この、数十体規模のEOMの同時ジャンプを、たった30余機で乗り切った事件は当初『サスガ・クライシス』と言う名前でニュースに上り、全コロニーを震撼させた。

 だがそれから数日の後、この事件で使われたあまりに強すぎる技術が人々の耳目に晒されるにあたり、やがて『サスガ・エフェクト』と言った名前で論争を巻き起こすことになる。


 自らを粉にした少年の結末を、ひっそりと蜜箱に隠して。

この小説は元々賞投稿用に執筆していた作品に加筆修正を加えてアップしたものです。

当初は賞で規定されたページ数内にに収まらず、このように疑問を残す形での切れ方となりました。

ですが、後日譚のようなものを書く予定があります。

正月前後は予定があるので、いつに仕上がるかはわかりませんが、できるだけ早く投稿したいと思います。

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