Effect12 惨劇の核 -crisis core-
回想話から入ります。
『なあ、お前らはなんでアマルガムパイロットを目指したんだ?』
秋雄がそんな話題をふってきたのは、4年ほど前。
榎原士官学校に入学してまだ間もないころ。4年間を共にする班編成が決まったばかりのころだった。
班割りが決まったばかりで、シュウ達4人も顔を合わせたばかり。彼らだけでなくクラス中の生徒が、4年間をともにする仲間の、お互いの人となりをつかもうと必死になっている時期だった。
当時、シュウもコジロウもそれぞれ嫌な記憶をひきずっていて、剣呑とした目つきをしていた。秋雄の遠慮のない質問は、自分たちの傷口を抉る行為で反感を覚えたことを記憶している。
3人の気持ちを代弁したのは、今も昔も周囲に無頓着なグレンだった。
『なんでお前にそんなことを言わなくちゃいけないんだよ……』
秋雄は臆面も無く返した。
『いや、これから4年間同じ班の仲間になるんだからさ。お互い知っておいたほうがいいだろ?』
初対面の人間。しかもあの時、自慢ではないが、自分もコジロウも荒んだ顔をしていた。そんな人間に気おくれなく話しかけてくる秋雄を見て、シュウは好感を覚えたのを覚えている。ああ、そうだ。彼は自分を仲間だと言ってくれたのだ。こいつとなら4年間、仲良くやっていけるかもしれないと、そんな印象を根拠なく抱いたのを覚えている。
『それで、どうなんだ?』
期待の眼差しを向ける秋雄に、最初に答えたのはコジロウだった。
『僕には4人の姉がいるんだけど、2番目の姉が乗っていた宇宙船がEOMに落とされたんだ』
ぽつりと漏らしたコジロウの返答は、シュウ達の年代に多く当てはまった。事実、『トライアル3』の生き残りであるシュウも似たような理由だったし、秋雄もそうだった。
『俺も兄貴を亡くしちゃってさ。それでデパーチ・チルドレンに応募して落ちたんだけど、諦め切れなくてここに入学したんだ』
シュウ達第一期生は、順当に進学したのであれば15歳。
シュウ達の年代は、年齢と募集の時期の兼ね合いから、他の世代に比べて、デパーチ・チルドレンに応募したけど落ちた、『あなたはパイロットになる才能がありません』と一度突き付けられた人間が多い。 そうでありながらパイロットを目指すのなら、何がしかの強い動機を持つ人間が多かった。
次に秋雄は、グレンに水をむけた。
彼は舌打ちしてから、つまらそうに言った。
『……俺は別にデパーチ・チルドレンに応募してねぇよ。たまたま受けて、たまたま合格したから榎原に来ただけだ』
後から聞き及ぶことによれば、これは半分事実で半分嘘だったらしい。グレンは『サスガ』の住人ではなく、元は地球で暮らしていた地上からの避難民だった。5人いる家族の中で『サスガ』に移住できたのは彼と母親だけだった。その移住の際のごたごたに必要だったのがお金で、詳しいことは定かではないが彼ら母子には借金があったらしい。アマルガムのパイロットの給与は高い。適性検査で稀有な結果が出たこともあり、彼がこの道に進んだのは至極当然だった。
最後に秋雄は、当然のようにシュウに話をふった。
その時シュウの脳裏に思い描かれたのは、炎に包まれた『トライアル3』の姿だった。
彼の口を咄嗟について出たのは、枯れ果てたような声だった。
『妹が――』
『妹が?』
『…………妹が。生きているから。だから守りたいんだ』
12年前のあの悪夢の日。
その前まで100億いた人間が、今ではたった5億まで数を減らしている。20人の内たった1人が生き残れたという計算だ。実際、シュウのまわりの人を見渡しても、親類縁者が全員無事な人間を探す方が難しい。特に壊滅した『トライアル3』の避難民であるシュウは――。頼れる肉親ともなれば、叔母だったシズクしかいない。
EOMパンデミックの『パンデミック』という言葉は、元々はウイルスの集団感染を指す言葉だ。
ワープ能力を持つEOMが時間とともに数を増やしていく様が、潜伏期間を経たウイルスが、感染者を爆発的に増やしていく様と酷似しているからこう呼ばれるようになった――と言われている。
だがそれ以上に、今の時代の人間たちにとってパンデミックという言葉が浸透したのは、もっと根源的な何かが、ウイルスの集団感染に似ていたからだろう。
閉塞感。
シュウは最初からコロニー育ちだから想像にとどまるが、当時もっとも混乱が起きたのは地上だ。AM特性を持つ無敵の生物であるEOMは、ゆっくりとだが着実にその版図を広げていき、時として地球の裏側に忽然とワープしてきて新たな発症点となって布に落とした点滴が如く広がっていく。
そして当時の技術でもスペースシャトルは、連日打ち上げられるようなものでもない。そもそも、すでに宇宙にはたくさんの人間が暮らしていて、逃げてきた人をまかなえる土壌が無かった。たくさんの人々が宇宙船の搭乗券を求めて争う様は、まるで数の限られたワクチンに群がる様にも見えたことだろう。
そして、例え宇宙に逃げられたとしても、そこは安住の地でもない。
ワープ能力を持つEOMはたやすく宇宙にも進出するし、大気圏外の活動も可能だ。アマルガムが発明されるまで、EOMに発見されることはすなわち死を意味し、それは明日にも起こることかもしれなかった。EOMの襲来におびえる姿は、いつ発病するかともわからないウイルスにおびえる姿とも言えた。
その閉塞感こそが、あのEOMという存在に対する人類の最大の恐怖といってもいいと思う。
それはアマルガムが発明されるまで、人類にゆるやかな死の予感をもたらしていた。
事件は、祝日を翌日に控えた水曜の放課後に起こった。
きっかけは、いつもならシュウも見逃しただろう、グレンの独断専行だった。
コロニー内にEOMが現れたという設定で、人々が逃げ惑うコロニー内を想定した市街地戦だ。そこでグレンが独断専行するのはいつものこととして――窮地に立たされた彼のライフル弾が、よりによって人々の避難区として設定された病院を打ち抜いたのだ。
後にシュウが悔やむことがあるとすれば、グレンを必要以上に責めたことだ。グレンだって自分の仕出かしたことの重さはわかっている。仮想訓練だからと言い訳するような奴でもない。グレンは自分がしでかしたことの重さと、それを悔やんでいるからこそ、食って掛かったシュウにいつも以上に過剰な反応を示した。
「上等だ! そんなに文句があるのなら俺と戦いやがれ!」
売り言葉に買い言葉、という言葉がある。
意固地な姿を見せるグレンに、シュウ自身かっとしながら応じた。




