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7.猫について知りましょう

「まさかこんなファンタジーなことがおこるなんてね…」

目の前でパスタを食べるのにフォークと格闘している蒼を見て改めて思った。

「俺はあっさり受け入れてくれた菜緒ちゃんのが不思議だけどね。っあつっ!」

ようやく刺せたらしいベーコンを口に入れたはいいけど熱かったようだ。やっぱり猫舌なんだ。

「だって普通は気味悪いとか思うでしょ?猫が化けるなんてさ。」

自分でも嫌なのに、なんて言ってはいるけど、喜んでるのはバレバレ。顔がずっとニヤニヤしてるもん。

「元々ファンタジーやミステリーは好きだけど…自分でも分かんないけどさ、猫の蒼と人間の蒼が一致したんだよね。」

猫と人間。似ているはずがないのに、なぜか同じだと思えた。ほんと不思議としか言い様がないんだよ。

「ばぁちゃんが言うには、それが波長が合うってことらしいよ。」

そうだ、トシさんの事聞いてみなきゃ!

「ねぇ、トシさんて何者?」

真剣に聞いたのに、なぜか蒼が吹き出した。

「俺よりばぁちゃんの方が気になるの!?」

「だってあんたの事知ってて世話してるなんて普通のおばあちゃんじゃないでしょ!」

菜緒ちゃんだって普通じゃないじゃん!なんて返された。失礼な。

「ばぁちゃんの家ってさ、神社なんだ。稲荷神社…だったかな?昔から動物のお祓いなんかで有名らしいよ。若いときに巫女の修行で霊感っていうの?が強くなって、俺みたいな力の強いやつが分かるんだって。」

…ただのおばあちゃんじゃないとは思ったけどそんなにすごいとは…

呆気にとられていると、ふいに蒼がフォークを置いた。

「どうしたの?」

「毛が邪魔で食べにくい…」

どうやら髪が口に入ってしまったらしい。

毛足の長い猫だから、人間の姿だと髪が長いみたい。肩より下まであるちょっと癖のある髪は、猫の時と似たような手触りだ。同じように、大きい体はそのまま180cm以上あるようだし、声が低いし、目付きも悪い。なのにかっこいいし。…調子にのるから黙っておこう。

「結んであげるよ。」

髪留めゴムを持って後ろにまわり、ひとつに結わえてあげた。

「あ、すっきりした!ありがとう菜緒ちゃん!」

子供のような笑顔をされて、思わず頭を撫でてしまった。蒼はなんだよ~と言いつつ嬉しそうに撫でられている。くそ、かわいいじゃないか…



「そういえばさ、なんで人間の格好で昼寝してたの?」

ふと気になって聞いてみた。

「俺毛が長いでしょ?しかも黒じゃん?夏は熱がこもって暑いんだよ。人間だと体毛少ないからさ。」

なるほど。あのふわふわ姿は鬱陶しそうだ。エアコンをつける前はだるそうに転がってたな。

「夏にエアコンついた涼しい部屋にいるときは人間になれてよかったって思う唯一のときだよ。」

ほんとに暑いんだな…長毛種って大変なんだね。


「すごい今更なんだけど、人間の姿だと人間のご飯でいいの?猫だからネギだめ?」

思わずパスタを作っちゃったけど、今になって不安になってきた。

「人間のときは人間用のご飯で大丈夫だよ。体も完全に人間になってるんだって。」

ほぅ、便利なもんだ。あと、と蒼が続ける。

「風邪とかで体が弱ってると、力も弱まるから完全な人の姿になれなかったりするんだ。耳が猫のままでしっぽあったりね。そんなときはネギとか食べれないみたい。」

なんですと!猫耳とか見てみたいじゃないか!

「猫の耳って今できる?」

思い切って聞いてみた。

「出来るよ。んっ…と、こうなる。」

人間の耳が消えて、頭に猫の耳が表れた。

「わ!ねぇ、触っていい?」

言いながら手はすでに猫耳へ。ピクピク動いてる!なにこれ…気持ちいい…!

「菜緒ちゃっ…やめ…っやめて!」

必死に抵抗する蒼。あれ、顔赤い?

「くすぐったかった?」

ごめんね、と謝って手を離す。

「くすぐったいというか…き、気持ちいいというか…」

どんどん声が小さくなる。確かに人間も耳が弱い人いるからね。私もくすぐったいし。

「ごめんごめん。見せてくれてありがとね。」

そのまま片付けを始めた私を安心したような、残念なような顔で見ていた。


「蒼~お風呂入る?」

これが一番悩んだこと。基本的に猫は濡れるのを嫌がる。猫の姿ならまだしも、人間の姿をしているならお風呂は入ってほしい。でも嫌がったら…と考えていたけど、

「入る!俺お風呂好きなんだ。」

の言葉でどうでもよくなった。たまにいるお風呂大好きな少数派だったのね…心配して損した。


急いで買ってきたTシャツとハーフパンツをパジャマがわりにしてもらった(もちろん下着も買いましたよ。ちょっと恥ずかしかったけど)。

私もお風呂に入って、あがると蒼がすりついてきた。

「なによ~」

猫のときもしてたな、お風呂あがりのすりすり。

「ん~…なんとなく。」

匂いをかいで満足したらしくやっと離れた。なんだったんだ一体。


しばらくテレビを見たり気になった蒼についてのことを聞いていたら、日付が変わるまで1時間を切っていた。

「そろそろ寝よっか。」

そこで、ようやく気が付いた。

「蒼、どこで寝る?」

「ん?菜緒ちゃんと。」

「猫になって?」

「え、このまま。」

当たり前でしょ、って言われても…

「狭いから無理だよ?」

ガーン!!て音が聞こえそうなくらいショックを受けている。仕方ないじゃん、いくら奮発してセミダブルにしたとはいってもでかい男となんて無理。

「そんな…酷い…」

物凄く落ち込んでるけど、無理なものは無理。

「人間のままがいいならこのソファーをベッドにするけど。」

可愛くて買ったら実はベッドにもなったソファーを叩いた。

「それはやだ!菜緒ちゃんとがいい!」

そう言って猫になり、まとわりついてきた。すごい仕方なくって顔してる。

「結局いつも通りね。」

ベッドの足元に置いてやり、私も横になる。と、顔の横まで移動してきた。

「今日はここなの?」

喉元を撫でてやるとそのまま丸くなった。

「おやすみ。」

頭をひとなでして私も目を閉じる。明日はお休みだから寝坊できる。ちょっと嬉しい。



~おまけ~

…菜緒ちゃん寝たな。しっかり寝ていることを確認してそっと人間になる。さっきは黙ってたけど、実は菜緒ちゃんが寝たあともずっと人間になっていた。この姿だと、菜緒ちゃんはとても小さく見える。俺よりも温度の低い手は細くて力を入れるのが怖いくらい。長い睫毛の影が落ちる顔は、月明かりに照らされて人形のようだ。

「この人が飼い主…ご主人…」

何度、飼ってくれと囁いたことか。聞こえないように、でも届いて欲しくて。まだどこか夢じゃないかと思うけど、夢じゃない。

「俺は菜緒ちゃんのもの。」

そっとほっぺをつつく。

「…そんで、菜緒ちゃんは、俺のもの。」

思わず零れる暗い笑み。今夜は満月。俺の中の凶暴な部分が目を醒ます。

風呂あがりにすりつくのは、俺の匂いを付けるため。俺のものって証。今まではそうなったらいいのにってだけだったけど、今日からは違う。本当に俺だけの菜緒ちゃんになったんだから。

「菜緒…好きだ。」

そっと頬に口付ける。いつか本当の想いを伝えられたら…その時までは、猫のままで寝るとしよう。

でも。いつかは。必ず君を―

ちょっと長くなりました…そして、裏にゃんこ発動。

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