知りたいと思ったが故に忘れた
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無機質な声が聞こえる。
雪が降り積もる世界の中で、僕は空を見上げ呆然としていた。
無機質な声は時折僕には聞き取れない単語を出す。それが何なのかを知るより早く、世界は壊れた。
僕以外の総てがーーー先程降っていた雪も例外ではないーーー瞬きの間に消えていく。まるで粒子の様な何かが世界を舞って、消えて、白く染まっていく。
気づけば僕は真っ白な世界に包まれていた。先ほどの雪には出せないような白が、世界を塗りたくる。その中を僕は宛もなく歩き出していく。
何処まで歩いても終わりなくて、世界は何も変わらなくて、僕は何も分からないままだった。
気付いたとき、僕は窮屈さを感じた。腕を少し動かせば見えない何かに当たる。そんな窮屈な世界だけれど、僕は嬉しかった。
僕は窮屈さと不快感と痛みを知った。知ると同時に不機嫌さもまして、けれどそれを知ってまた笑った。そこで喜びも知ってまた笑う。
窮屈な世界はどんどん窮屈になり、爪先があの白い粒子に呑まれて消えた。感覚は全くなかった。
粒子の流れは次々に僕を飲み込み、消していく。
[データ消去完了まで残り二秒]
ハッキリとした無機質な声が聞こえた。けれど、僕はそれが何か分からなかった。
頭だけになったとき、僕は自分が何かを知った。いや、思い出した。
僕はただのプログラムだったのだと。心を欲しかったプログラムだったと。
[データ消去完了]
僕は恐怖を知って、世界から消えた。