表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別の世界で生きていく条件  作者: 招きダンボー
チュートリアル
9/25

第8話 仮面の条件

明けましておめでとうございます。


ようやくヒロイン出し終わりました!

少々強引な展開なのは否めません。


*仮面の設定について修正を加えました。




「ここが、俺のホーム?」


クロスは困惑していた。彼の視線の先には、大きな宮殿がある。


「なんか俺の記憶と違う気がするんだが……」


以前、彼が暮らしていたのは森の中にあるログハウスだったはずだ。3LDKのログハウスのはずだ。

確かに位置は変わらずに森の中だが、ログハウスの姿が無い。

変わりに有るのは、四角い宮殿だ。

その薄い黄土色と四角い形は、地味な色合いながらも威厳のあるバッキンガム宮殿を思い起こさせる。

いったいどういうことだろう。まさか家が勝手にでかくなったとでも言うのだろうか。


『あのログハウスに、そんな長い年月を持ちこたえる耐久力はありません』


まったくその通りだ。

しかしその言葉から察するにこちらが異世界だと納得はしたが、まさか本当に300年経っていたとは……。

どこか心の中で信じていなかった分、彼のショックは大きい。


「なんたることだ」

『大丈夫です。主の持ち物は全て移しています』

「いや、問題はそこじゃない」


もちろん、荷物の件も大事だが。


「ていうか庭がある……」


ログハウス時代は、周りを森に囲まれていて庭など無かった。

しかし、目の前の宮殿には、森を開拓したであろう庭がある。

庭の道は白いレンガで舗装され、彼女らが手入れしたであろう植物や花がその周りに咲いている。

さらに周りを大きく鉄格子の門で囲み、森に生えた木々が庭の敷地内まで伸びてこないような配慮もされている。見る限り防御力も高そうだ。


『頑張りました』


心なしか誇らしそうだ。いや、事実頑張ったのだろう。これは凄い。


「そうか、当然だよな!あのログハウス狭かったし!」


確かに以前の住まいではなくなったが、それでも彼女らはここを守ってくれていたのだ。

彼女たちからすれば、勝手に居なくなったのはこちら側なのだから、文句を言うのは筋違いだろう。

クロスの言葉に多少のやけくそ感が混じっているのは気のせいか。


「それにしても」


とクロス。彼はドラゴンのままのエルセを見上げて言う。


「なんか、お前でかくなってないか?」


前のエルセもちょっとした建物を圧倒する大きさだったが、今のエルセは摩天楼のビルすら圧倒しそうだ。少々記憶と違う気がする大きさに、若干困惑してしまう。


『300年も経てば大きくなるのは当然です』

「そ、そうか。そりゃ大きくなるよな」


驚きと同時に、彼に罪悪感が湧く。もうここはバーチャルやAIの世界ではない。

血は出るし、傷の痛みはバーチャルの擬似的ものよりよっぽどリアルだし、もしかしたら死ぬかもしれないのだ。それに300年もの間、彼女達はわざわざこんな場所に住み、こんな自分を待っていてくれた。

彼とて自惚れるわけではないが、それは一体どれほど寂しい思いを彼女達にさせたのか。


「随分と、迷惑かけたようだな……」

『謝るのはホームに入ってからにしましょう。皆が待っています』


エルセの巨体が白く光る。


「ぬお!?」


不意のことに、エルセを直視していた彼は思わず目を閉じた。太陽のような光が、クロスの全身は包み込まれる。


「行きましょう、主」


いつの間に光が収まったのか、そこに立っていたのは一人のメイド。白に近い、銀に光る肩までの髪を後ろで一つに纏め上げている。クロスの知識ではなんと言ったか……夜会巻きに近い。

その姿は、主人を立てるメイドらしからぬ存在感を漂わせていた。


彼女こそエルセ。

クロスと共に最も長く行動してきたドラゴンの、人化した姿だ。

その彼女の姿に、彼はしばらく目を離せないでいた。


「どうかしましたか、主?」

「い、いややややなんでもないぞ、なんでもない! さあ、早く入ろう!!」


流石は300年の歳月だ。服越しにも分かるその成長は馬鹿に出来ない。具体的にどこが、とは言わないが。


「? 変な主ですね」


小首をかしげられた。その仕草はどこか胸にクルものがある。そう、正直可愛い。


「これが、萌えというやつか……」


エルセには聞こえないように小さく呟いた。















「では主、ここが玄関となります」

「う、おぉ……」


案内されたのは玄関。床一面には赤い絨毯、壁は全て白に統一され芸術っぽい装飾が彫られている。

そして右と左と正面に扉があり、その黄金の装飾の施された白い扉は、あまりの精巧さに触ることすら躊躇させる。目の前には2階へと続く階段が2つあり、緩やかなカーブを描いている。

そして階段の手すりにはもちろん、黄金で芸術っぽい何かが彫られていた。

さらに玄関なのに天井はもの凄く高い。その天井には巨大なシャンデリアが輝いていた。とても玄関に飾り立てするようなものではない。


「な、なんだこれは…………」

「手造りなんです」


えっへんと冷静なイメージのエルセにはまったく似合わないポーズを決める。

―――今分かった。こいつ案内したいんじゃない、自慢したいだけだ。

どこか誇らしげな彼女の顔で、彼はその意図に気付くが、ここは言わない方が良いだろう。


「そうか、凄いなエルセ」


ここは素直に褒めるのが正解だろうから。クロスはエルセの頭を撫でる。


「っ!?」

「どうかしたか?」

「い、いえ、なんでもないです」


ナデナデ。頭を撫でながら、彼は間近でエルセを観察する。

300年の歳月は随分と彼女を成長させたようだ。

かつては彼の胸元までしかなかった身長も、今や目元に迫るというところだ。

しかし、彼の率直な感想で、エルセの短髪は非常に触り心地が良い。

エルセはエルセで目を閉じ、されるがままになっていた。


しばしその時を過ごしていたが、その間に入る様に、新たに声がかかった。


「あ、紳士さン、どうもっス」


その声を聞いた瞬間、もの凄い勢いでエルセが彼の元から離れていく。若干クロスは寂しさを覚えるが、まあ仕方ないことかと深く考えない。


「ん、ラウナか。久しぶり」


顔を赤くしているエルセは放っておき、彼は声をかけてきた人物に挨拶をする。


「ら、ららララララウナっ」


エルセも言葉に詰まりつつも、声の主へと顔を向けた。


「姉さン、こんちわっス」


先ほどクロスに声をかけた人物、ラウナが2人の前に立っていた。姉のエルセと同じく銀の髪で、こちらは腰まで届くような長髪だ。といっても、手入れが甘いのかボサボサであるが。

服装は魔法使いが被りそうなとんがり帽子に、体を隠す黒いローブという出で立ちだ。

身長は小さいが、正真正銘エルセの妹である。

生真面目な姉と違って、相変わらず彼女はダルそうに背筋を曲げていた。


「それにしても、さっきから黙って聞いてりゃ…………。姉さンは私が家を建ててるのを黙って見てただけじゃないスか、自分の手柄みたいに言わないでほしいっス」

「失礼な、設計は私も手伝ったはずです」


姉妹がなにやら険悪そうなムードに入った。そんな2人を微笑ましそうに見るクロス。喧嘩するほど仲が良いんだなと的外れなことを考えている。

しかし、先ほどのラウナの言葉がどこか引っかかる……なんだろう、紳士さん?

引っかかりの原因に気付いたクロスは、喉の小骨が取れたようにスッキリした様子で2人に声をかけた。


「あ、そうだ。皆に言わなきゃいけないことがあるんだ」


改名した。その事はまだ彼女らには言っていなかったはずだ。


「他のやつらにも言いたいんだけど……どこに居る?」


その言葉に、エルセとラウナは気まずそうな顔をする。


「あー、紳士さン、そのっスね…………」


言い難そうだ。普段の無神経なラウナには似つかわしくない様子で、困ったように右手で頭をポリポリと掻いている。その様子からただ事ではないと判断したクロスは、次の言葉を待った。


「死にました」


言い難そうなラウナに代わり、口を開いたのはエルセだった。


「トム、カール、アレク。彼らはもう居ません」


その名は、クロスと契約したかつてのドラゴン達の名だった。しばしクロスは目を開いていたが……。


「そうか………」


目を伏せる。


「死んだか、あいつら」


彼の脳裏に思い浮かぶのは、右も左も分からずドラゴンの群れに飛び込み、返り討ちに会っていたあの頃。


「寿命です。元々3名ともかなり高齢でしたから」

「そうか、……なにか言っていたか?」


彼の心の中は共に空を駆けた仲間に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「『楽しかったぜ小僧』だそうです。それが3名からの言葉です」

「そうか…………」


仕方ないことだろう。

あの数時間で300年先の未来に飛ぶなんて、普通は予測出来るわけが無い。

仮想空間が現実に変わるなんて想像していなかった。

それでも、仮想だろうとなんだろうと、300年もの間自分を待っていてくれた仲間の気持ちを考えると、申し訳ない。データの中でかつて空を飛び、AIのドラゴン達相手に酒を飲んで笑っていた日々はもう無いのだ。例え感情を読み取ることが難しかったゲームの時代だろうと、彼らと共に戦った日々は本物だったのだ。


「なあ、二人とも…………」


涙が溢れてきた。止まらない。せめて、彼女達にはお礼を言わなければ。その気持ちが、今の彼を動かす。


「ありがとう……それと、ただいま…………」


彼はその場に崩れ落ちるように、小さな声で言った。


「おかえりなさいませ」

「おかえりなさいっス」


彼女らも泣いていたことを、この先クロスが知ることはなかった。









「で、300年も何してたんスか?」


泣き終わった彼らは今、外の庭園のテーブルで寛いでいた。

まだまだ時間は昼過ぎ、太陽が心地いい。


「ああ、それはだな……」


彼は正直に話すことにした。いつも通りのダンジョンの攻略に向かったこと、いつの間にか地形が変化していたこと。そして、いつの間にか未来に居たということ。


「にわかには信じられませんね」


話を聞き終わったエルセが言う。

当然の反応だ。それを分かっていてもクロスは落胆し、肩を下げる。


「ですが、300年間歳をとらない主の説明をするならば、納得できる理由です」

「信じてくれるのか、俺を」

「当然っスよ」

「当然です」


返答を彼女たちは言葉だけではなく、笑みで返してくれる。

2人とも普段から感情を表に出さないので分かりにくいが、その笑みは信用すると言ってくれていた。


「ありがとう」


彼も自然と顔が綻ぶ。


「それと、もう一つ大事なことがある」

「なんでしょうか?」

「ん、なんスか?」


すぐに彼は引き締まった顔に戻す。

彼女達もそれにつられ、自然と背筋が伸びた。


「俺は、今日からクロス・ベルガーと名乗ることにした。クロスと呼んでくれ」


その一大表明に対して、どんな反応があるかとクロスは若干ワクワクした様子で2人を見る。


「なんだそんなことですか」

「あ、そうスか」

「えっ」


しかし、あっさり納得された。拍子抜けである。

もっとこう、長い間付き合った仲間として言いたいことはないのだろうか。ちょっぴり寂しい。


「だってジップの紳士なんて名前じゃないっスからねぇ」

「同感です」

「うぐっ」


返す言葉もない。結構気に入っていたハンドルネームだっただけに、面と向かってそう言われると悲しいものがあった。


「ついでに訊きますが、あの悪趣味な仮面はお止めになったのですか」

「そういえば素顔っスね。そっちのが格好良いっスよ」

「なっななななななな…………」


キャラメイクでほとんど顔は弄らなかったので素顔を褒められているようで嬉しいが、あの仮面が悪趣味とは何事か。喜んでいいのか怒っていいのか、複雑な心境の彼は言葉に詰まる。


「なんだよちくしょう! まだちゃんと仮面は付けるわ! 悪趣味で悪かったな!」


羞恥を抑えるため、ボックスから取り出した仮面を思いっきりテーブルに叩きつける。

その仮面に、2人の姉妹は言い知れぬ何かを感じたようだ。


「主、この仮面は……」

「クロスさン、ちょっと見せてください」

「お、おお? 久しぶりに見てこの格好良さに気付いたのか? し、仕方ないな。べ、別にいいぞ」


真っ白な顔に赤い口と黒い目の仮面など、見るだけで嫌なものだが。クロスはそんな姉妹の様子に気付く気配は無い様だ。しばらく手に取り仮面を眺めていた姉妹だったが、やがて何か納得したような顔になった。


「これは…………」

「間違いないっスね」

「え、なにが間違いないんだ?」


はて、仮面に何か問題でもあるのだろうか。彼の見たところ、アイテムのステータスには以前と違いを感じないのだが。


「主、これは以前の大戦で手に入れたもので間違いないですよね、悪魔狩り(デーモンハント)でしたっけ」


エルセが切り出す。彼には大きなイベントとしか感じていなかったが、まさか大戦とは…………。

こちらでは結構大きな出来事だったようだ。


「ん、ああ?アポロさんとかモンブランさんとかユッキーさんとかと一緒にやった奴の戦利品だぞ」

「あの化け物集団っスか」


ラウナが言う。酷い言い草だ。











彼の脳裏に当時の光景が思い起こされる。

当時はまだレベル800程度で、PP配信によるキャラ強化でSTRとVITとLUKをカンストさせた時期だったはずだ。そのころに12の仮面を手に入れるクエストがあった。


『知ってますよね、来月の10日の22時から王都に悪魔が進行するクエストで、12のボスとそいつらから手に入る12の仮面のこと。それを手に入れるため、私のパーティにあなたが欲しいんです』


首謀者こと、アポロにそう話を持ちかけられた。

そのクエストは、掲示板にも3大クエストとして名を残すほどの大きなイベントとなった。

何せ12個限定のスペシャルアイテムだ。公開された仮面の能力も非常に優秀なものばかりで、皆こぞって競い合っていた。


そしてそのアイテムを手に入れるためだけに結成された、比較的話に乗ってきやすいであろうソロやら、一時的な引き抜きが容易であろう名の売れたギルドの中でも個人主義者、それらのレベルで言えばトップクラスプレイヤー12人の集団、それが悪魔狩り(デーモンハント)だ。

参加人数が過去最多のクエストとなったそれは、1度デスするとクエスト終了まで復活できない、5レベル減という過酷なペナルティのクエストだったが、彼らは見事に12個全てを獲得したのであった。

その戦いぶりは伝説となり、彼ら12人の戦闘が公式のPVとしてHPで流れ続けた程だ。












『アポロさん、トップギルドの連中は前線押し上げまくってますよ。早く行かないと!』

『っていうか作戦あるんすか』

『有るに決まってます。紳士さん、ドラゴンであのボスっぽいやつまで全員飛ばしてください』

『いや、出来ますけどマジですか』

『そして9人がボスと戦って、残り3人はボスとの戦いを邪魔されないように周りのモンスターの排除を、プレイヤーが来たらPKも止む無しです』

『いやいやいや無理っすやめましょう』

『そしてボスを倒したら次のボスへ紳士さんのドラゴンで移動します。それをローテーションして12回。簡単でしょ?』

『おいお前らキチガイかよふざけんな気持ち悪りぃ俺はやめるぞ』

『ぶた鍋さんどうしたんすか、怖気づいたんですか』

『ぶた鍋さんは肉壁…………じゃなかった、EXスキルがあるのでボスのスキル攻撃を受け止めてください。それと皆さんは回復アイテムをぶた鍋さんにつぎ込んでください』

『だから一人100万ゴールドも回復アイテム買わせたのか…………』

『おい、今肉壁って言ったろ。マジでこの場でぶっ殺すぞてめえら』

『さあ行きますよ!!』

『うおおおお空から攻撃だ!!』

『言わんこっちゃない、俺を降ろせ!このキチガイ野郎共!!』

『この程度の攻撃は平気です、食らえ!豚なべの盾!!』

『早く俺を降ろ…………ぐああああいってえええええ!!』

『さすが豚なべさんだ!エクストラスキルであの集中砲火でも平気そうだぜ!!!』

『てめえらこれ終わったらマジで覚えてやがれよ!!』














キャラのステータス以上に、操作している中の人の動きが凄まじかった戦いだ。

前世は本多忠勝とオリンピックの体操選手ですと言われても、素直に信じてしまいそうな仲間の11人の戦いぶりは凄まじかった。今でもあの熱い日々は鮮明に思い起こせる――――。


「ああ、懐かしい思い出だな………」


走馬灯の様に次々と思い浮かんだ光景は、楽しいものばかりだった。


「まあ、一番気持ち悪かったのは最速の雷魔法を強化無しの生身で回避するクロスさンでしたが」


ボソッとラウナが呟く。雷の攻撃を、カンストしていたとはいえキャラの運動能力だけで回避したその姿は、永遠に語り継がれることだろう。


「で、その仮面がどうかしたのか?」


クロスが本題に戻す。


「そうでした。単刀直入に言いますと、この仮面の能力は顔に付けていなくても発動するようです。無論、ボックスに入れると効果は及ばないようですが」

「へえー……」


理解の返答を示すも、予想外の能力付与と内心でクロスは困惑する。言っている意味がよく分からないとは、口が裂けても言えないだろう。




仮面の裏にはそれぞれ1~12までの番号が記されていて、クロスが持っているのは12番目の仮面だ。

仮面と共に手に入れたコートやその他装備品を含め、クロスが所持しているものは、一括してツヴェルフと呼ばれる。

ちなみにアポロが手に入れた装備はアイン、ぶた鍋はツヴァイと、装備品の番号に応じた名前が付けられている。

12番目の仮面の効果は、使用する者の魔力は相手に見えなくなる。気配、姿をエクストラスキル『察知』のレーダーや、探知魔法に反応させない、動かない間は完全に透明になり、視認できなくする。

物理攻撃は完全無効。等々の物だ。


ちなみに、この効果の中で言っている魔力は、当然肌で感じる物などでは無い。

ヴェルトオンライン時代は、魔法は使用する直前にその術者の周りに有色のもやの様なものが見えるのだ。

プレイヤーは、それを魔法発動の前兆として魔力と呼んでいた。魔法発動の前兆としては、他に魔方陣が挙がる。魔法の発動にわかりやすい前兆を付けたのは、いわゆる脳筋キャラを作成するプレイヤーも活躍するための配慮らしい。

その黄色い煙を見えなくする、というのが『魔力を相手に見えなくする』という仮面の効果のヴェルトオンラインでの意味だ。

無論、これらの効果は使用するプレイヤーにより姿を見せたり、魔力を見せたりと、

効果のONとOFFを切り替えることが出来る。


ちなみにこの仮面の効果で最も目立つのが、物理攻撃無効化と透明化である。

しかし、プレイヤー同士の対戦においては物理攻撃を無効にしようとも、エンチャントなどを武器に加えられれば普通に攻撃は通る。それに加えて、大抵のプレイヤーは魔法武器を所持し、これもまた普通に攻撃が通ってしまう。

透明化についても、戦闘中はどうしても動くため、半透明に体の形が浮き出てしまうのだ。


それなりに強力であるが、デメリットもそれなりに大きいのが、この仮面だったりする。





「そういや、あいつら俺に魔力を感じないとか言ってた様な…………」


今日会ったディートマルや冒険者を思い出す。

異世界に突入したのと共に、魔力という存在も変わったようだ。もしかすると仮面の効果も微妙に変わっているかもしれない。


気をつけなければ―――。とクロスは改めてこの仮面のアイテムの扱いを考える。

それに続き、クロスは言い忘れていたことを思い出した。そこまで大したことではないが。


「あ、それと一つ言い忘れてた」


これは結構重要なことだ。いや、重要でも無い気がする。


「俺は今日からクロス・ベルガーと言ったろ?」

「はい」

「そうっスね」


一拍置く、が彼女たちにはピンと来ないようだ。姉妹揃って小首をかしげる。その様子は非常に目の保養になった。しかしどうやら分かっていないようなので、彼は説明することにする。


「まあ、そういうわけだから、お前らは今日からエルセ・ベルガー、ラウナ・ベルガーと名乗ってくれ」


その言葉に姉妹は驚いたように硬直した。


「なんですと」

「なんでスと」

「ん、なんか言った?」


なんだろう、彼女達が何か言ったような気がする。しかし、残念ながら彼の耳には届かなかったようだ。


「なんでもありません。それよりも紅茶はどうでしょう」

「なんでもないっスよ。それよりケーキはどうっスか」

「え、ああ。欲しいけど」


流石姉妹だ。まったく同じタイミングで声が重なる。

クロスの返答を聞いた2人は、真っ直ぐエントランスの中へと向かって行く。一体なんだというのか。


無表情の彼女達だが、今はスキップするほどの喜びが全身から溢れているようだ。

鈍感なクロスから見ても、嬉しそうなのが分かる。


その2人を、彼は不思議そうな目で見送った。

彼は知らない、2人が嬉しそうな訳を。


今まで名前しかなかった彼女達に家名が付いた、クロスと繋がりが出来たその喜びを。

私事ですが、親戚への挨拶等で一週間ほど更新が出来なくなります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ