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別の世界で生きていく条件  作者: 招きダンボー
チュートリアル
6/25

第5話 格好良い条件

ストックが切れました。


場所は変わり、紳士が質問をしていた頃に戻る。


「なんて死体の数だ……しかもこれはデーモンウィップじゃねえか」


見事な体躯を持つ冒険者、モーガンが死体を検証する。

血塗れたデーモンウィップの死体が、あちらこちらに散らばっていた。

自身がSランクという位置の冒険者であるモーガンでさえ、これを再現しろと言われれば、確実に無理と答えるだろう。それだけデーモンウィップの魔法は厄介なものに分類される。

これらの死体を持ちかえれば、一体何か月分の団員の酒代を賄えることか。保存して持ち帰る用意はできていないので、そんなお得なことは実行に移せないが。


「傷口は同じだ、近いね」


赤毛の短髪の女は、傷口を舐め回すように見つめる。

武人として、何か思うところがあるのだろう。まるで自分の得意分野で負けたかのように悔しそうな表情を浮かべていた。


「ああ、おそらくあの宮殿の中だろうな。何かを引きずった跡がある」


豪奢と言っても良いだろう、ここまで立派な宮殿は、かの王都や帝国すら凌いでいる。

外観、それに普通ならば鉄格子の門も、金を塗ったのではなく純金だ。防犯といった言葉を無視したかのような豪華な造りには、驚きを通り越して呆れの色が浮かぶ。

そして、そんな豪華な造りを汚すかのように引きずられた跡は門の向こう側へと続いている。何を引きずったか分からないが、この先に目的の人物がいることは確定的だろう。


「フィネ、もう近い」


モーガンのその一言で、フィネはお互いを対象に魔法を発動させる。両者を覆うように足元には紫色の魔法陣が展開され、そこから溢れ出る紫の光が2人を包み込む。ルーズサイト。足音、姿、気配、声を完全に消し去る魔法だ。その効果から5号にまで指定され、扱えるものはフィネとアサシンギルドの一握りとされる。


『よし、行くぞ』

『はいはい、親父どの』


フィネとモーガンには互いの姿が見えているが、他人からは何も居ないように見えるだろう。

慎重に、門の中へ歩みを進めた―――。












再び話は客室へと戻り、男2人。

非常にリラックスした様子の青年と、品位のあるリザードマンが対面するように椅子に腰かけている。


「そういえば、なんで俺を中に案内してくれたんだ?」


スキルの上昇を確認してから、ふと紳士の頭に浮かんだ質問だ。

仮にも暴力で気絶させてきた相手に、ここまで敬意を払う必要はないだろう。


「簡単なことだ、貴公はここを荒らすつもりはないからだ。もともと『声』には宮殿を荒らすものを排除しろとしか言われてないからな」

「そういうもんか……」


『声』がどういうものかは知らないが、そう言われては「そういうものなのだ」と納得するしかない。

納得しきれてはいないが、それでも声には出さないように、紳士は頷いた。


「しかし、『声』が私を倒したものに渡せと言っていたアイテムを、何に使うかと思えば砕くとは……」


リザードマンが落ち込んだように言う。

仮にも数百年も守っていたアイテムだったのだ。持っているだけで何か恒久的な効果や恩恵を齎すだとか、実は凄い武器なんだとかそういうものを予想していたリザードマンには、予想外過ぎる使い方ではあったのだろう。


「すまん、あれが使い方だからな」


紳士はそう言って苦笑するしかない。だってしょうがないじゃない。あれが使い方なんだもの。

そう内心で言い訳をしながら、紳士は宝物庫に入った時のことを思い出す。美麗の装飾品や、一部で需要のある武器。そして何より、EXスキルの効果を強化する一度限りのマジックアイテム。欲を言えば、もう数点持ち帰ればよかったかなと後悔するが、そこは諦めるしかない。「やっぱりもうちょっと頂戴」などと言えるほど、紳士の心臓と神経は頑丈に出来ていないのだ。


「そういえばきこ……」


そこまで言いかけた時だ。リザードマンがハッと声を飲み込み、目を見開く。

まるで何か大きな失態を犯していたような形相に、紳士も思わずリザードマンに注視する。


「失念していた。……そういえば、まだ互いに名を名乗っていなかったな」


リザードマンと出会い、既に1時間が経過しようとしているのに、お互いは確かに名乗るのを忘れていた。


「ん、そういえばそうだったか」


紳士も完全に忘れていたようだ。背もたれに預けていた体を起こして、改めてリザードマンに向き合う。


「私はディートマルだ、貴公は?」

「ああ、俺は……」


そこまで言いかけて、紳士は言葉に詰まる。

どうしよう。ジップの紳士ですなんて言われても名前だと信じられるわけが無い。


本名を言ってしまおうとも思ったが、それは個人的に何か嫌だった。なぜなら発音が難しいのか、海外の方には一度もスラスラと呼ばれたことが無いからだ。ついでに言えば、同じ日本人には漢字で読みを当てられたことも少ない。リザードマンが外国人かは置いておき、名前を名乗るのにちょっとしたトラウマが芽生えていた紳士は、本名をそのまま名乗ることは躊躇する行為であった。

なんて答えよう、紳士がそう悩んでいた時だった。


「ん?」


紳士が反応する。強化された察知の範囲内に反応があったからだ。


「なんだ、どうし……ん?」


リザードマン改め、ディートマルも反応する。戦いに身を置く者の勘とでも言うのだろうか。

だが、その反応に驚いたのは紳士だった。


「なんだ、まさかお前も気づいたのか?」

「いや、なんとなくだが……。嫌な感じだ」


レベルMAXのEXスキル『察知』でようやく見つけた敵に反応するとは……。どうやら紳士が思っている以上に彼は化け物だったらしい。


ともかく、拡大された察知のレーダーの捕捉範囲は非常に広がっていた。

彼の視界の右下に丸いマップが見え、人の証である三角の赤い点が2つ表示されている。赤ということは敵に分類される色であるが、今はいったいどういう基準で決めているのか気になる。そんな疑問は押しとどめ、紳士は現状の分析に徹することにした。


不可視看破に万物の索敵が可能になった察知の前では、そんじょそこらのカモフラージュやインビジブル魔法程度では無力に等しい。その他にも効果がいくつか追加されているが、能力の確認は後でもいい。


今は場所がわかるだけで十分だろう。

とりあえず今ある情報を、このダンジョンのボスであるディートマルに伝える。相手がどんなものかは知らないが、接待を受けた恩がある以上、紳士はディートマルの味方に位置するのだから。


「敵だ。侵入した人数は2人。どうするんだ?」

「人数まで分かるとは……。貴公には驚かれされてばかりだな」


いや、お前も大概だよとは口に出さない。紳士もある程度の分別はあるつもりである。


「まあそれは置いておこう。どうする?」


ここはディートマルの管理する場所だ。侵入者は排除するのが彼の役目のはず。どんな行動に出るのかは分からないが、今の自分が知りえる情報を教えたのは、ここが彼の管轄だからだ。


「そうだな、貴公には見学でもしていてもらおうか」

「わかったよ」


不敵に笑ったディートマルに、それ以上は口を挟めないなと紳士は引き下がった。









謎の人物の足取りを追っていた2人の冒険者は、大庭園にて足を止めていた。

不可視の魔法がかかっていることから来る驕りではないが、気の緩みは確かに生じていただろう。

2人の目が、警戒する不寝番から、家族旅行に来た親子のようなものに変わっていたのは間違いない。


『すげえな……』

『本当に……』


美しい花々に、大理石で出来た十字路。

そして十字路の中心には、壮大という言葉がふさわしいであろう、白いレンガ造りの噴水が清らかな水を惜しみなく噴出している。噴水の大きさからか、その水を彩る様に存在する虹は、一種のイルミネーションのような演出をしていた。


「ここは天国だ」と誰かに言われたら、思わず首を縦に振ってしまいそうな美しさがある。


亡き妻に見せることが出来たらどれだけ良かったか……。思えば、妻には碌な思い出を与えることができていなかった。楽にさせてやると張り切り過ぎた冒険者稼業で、妻には寂しい思いをさせていたことからも、それは明らかだ。


せめて娘だけには、楽しい思い出を作ってやらないと―――。


その時だった。


『敵だ!』


同じくルーズサイトの魔法がかかった者にしか聞こえない声で、フィネが危機感を露わに叫んだ。


だが、思い出に浸りかけていたモーガンは武器すら構えることが出来ていない。

反応の遅れたモーガンに、一本の斧が飛んできた。


『くそ!!』


間に合わない、そう思ったが……。


『セーフだ、親父』


フィネの魔法、ウインドにより停止した斧は、重力に従いそのまま地面に落下する。


『すまねえ、助かった』

『別にいい、それよりも前だ』


安堵するのも束の間。その2人の前に、両手に斧を持ったトカゲ頭の人物が現れた。


「ふむ、面倒だな」


見たこともない服装のリザードマンだ。燕尾服に近いが、それとは違う目的で作られた服に違いない。

少なくとも、戦闘に適する物であるとは言えないだろう。


「不意打ちは謝罪しよう。しかし、姿が見えぬままであれば、私はこの宮殿を守るものとして戦わねばならぬ」

『…………』

「話し合いで解決するならば、それに越したことはない。どうか姿を現してほしい」


2人は考える、姿を現して良いものか。先ほどの不意打ちから考えるに、もしかすると姿を現した瞬間に攻撃されるかもしれない。しかし、姿を現して話し合いに持ち込んでそれで解決するならば、それに越したことはない。

顔を見合わせ、どちらの選択が最善か2人は考える。


「それが返事か、ならばそれも良し」


相談の沈黙を戦闘の挑発と捉えたリザードマンが、時間切れだとばかりに動き出した。


『来るぞ!』

『わかってる!!』


モーガンが剣を抜いた瞬間、すでに目の前には斧を振りかぶったリザードマンがいた。

リザードマンは、身体能力では遥かに人間を凌ぐ。それは大抵の冒険者が1つの動作をする間に、リザードマンは10の動作をすると仲間内で教えられることからも明らかだ。


『うおお!?』


そのことを頭に入れているはずのモーガンでさえ、目の前のリザードマンの動きは早すぎた。半ば勘で前に構えた剣は、ギリギリのところで斧を受け流すに至る。あと数コンマ遅ければモーガンの脳天が真っ二つだったに違いない。


「良い反応だ。しかし!」


流したのもつかの間、今度はリザードマンの蹴りがモーガンの腹に決まる。

常人を超えた蹴りが、モーガンの巨体を吹き飛ばした。


『ぐおお!?』


常識では考えられない。筋肉の塊に全身鎧を着せた人間を、メートル単位で吹き飛ばしたのだから。


『炎よ!』

「温い!!」


フィネの放つ背後からの炎の竜を、リザードマンは見もせずに斧で切り裂く。

切り裂かれた竜は、最後の足掻きとばかりに熱波へと変化して、周辺に咲く色とりどりの花々を焼き尽くした。





「おお、すげえすげえ」


その光景を、宮殿の屋上から見下ろしている者が居た。ロングコートを羽織り、ズレた仮面を付け直している。そんな奇妙な姿をしている人物は一人しかいない。紳士だ。

レベル5となった『察知』の前に無意味となっているルーズサイトは、紳士の目には普通に姿を現して戦っているようにしか見えない。どちらかというと、不可視看破の魔法を持たないディートマルが普通に戦っている姿の方が少々不思議に思えてしまう。


それにしても、と紳士。たった今放たれた炎竜の魔法は、紳士の知らないものだった。

魔法を専門職にしていたわけではないが、かなりの知識はあると自負している。その紳士の知識にも無いとなると、あれはオリジナルの魔法になるのか。見たところ、中級魔法程度の威力があるようだが………。そして、そんな魔法を見もせずに斧で弾く、あのディートマルの技量。

流石にここを任されているだけはある。その芸当は、リザードマンの名に恥じない実力を証明していた。


「しかしルーズサイトかぁ。あんなえげつない魔法使うやつがまだ居るとは………」


『ヴェルト』時代でも取得条件が厳しすぎ、本当に一部の人間しか持っていなかった。紳士も挑戦していた時期があったが、途中で挫折という結果に終わった。現在は代わりの魔法を、仮面というアイテムによって行使することができるが、目の前で見せられると少々羨ましくもなってしまう。


リザードマンによると魔法の研究は停滞しているはずだが、となると彼女たちは本当に一握りの上位層に位置するのだろう。もしかすると、リザードマンでも危ないかもしれない。


それでも紳士は、ただ見守るだけだ。


少なくとも今は。







『うおおおおおおお!!』


まだルーズサイトは発動中のはずだ。姿だけでなく、武器も見えない。相手には声すら聞こえない。

それを利用し、不可視のナイフの投擲も織り交ぜ、嵐のような斬撃を2人は繰り出す。

それなのに、リザードマンはそれを全て避ける。


そこに苦戦の様子は感じられない。どころか、むしろ余裕があるようだ。

そのリザードマンの様子は、2人を焦りへと導くのに充分だった。フェイントも何もない真っ直ぐな斬撃が、リザードマンに飛んだ。


「小賢しい!姿が見えずとも分かるわ!!」


リザードマンはモーガンを蹴り飛ばす。並大抵の冒険者ならば内臓が破裂するような蹴りを、モーガンは再び痛みとして味わった。


『ぐっ!』


砂埃を巻き上げ、モーガンは地面を派手に転がる。すぐに立ち上がった様子から見るに、内臓のどこも壊れてはいないのだろう。こちらも中々に人の道を外れた人間だ。


『食らいな!!』


モーガンに気を取られ過ぎていたのだろう。少し離していた目線を戻す前に、リザードマンの視界一面が魔法陣の光によって埋め尽くされていた。


「なに!?」


リザードマンが驚愕する。全身を焼き尽くすような爆発が、リザードマンの身体を埋め尽くした。


ズドオオオオオオオオオッ


凄まじい音と共に、煙に包まれる。小隕石が衝突したかのようだった。地面には大きなクレーターができているのが分かる。しかし、フィネの攻撃はまだ終わっていなかった。


『うらああああああ!!』


フィネが剣を抜き、煙の中へ突撃したのだ。通常ならばあれだけで死ぬはずだ。レッドタイガーだろうと仕留める一撃を直撃させてなお、リザードマンが生きていると確信して。


「これは、キツイな」


煙の中から声が聞こえる。リザードマンのものだ。

立派な服は所々破れ、軽くない火傷を全身に負っている。全治1年はかかりそうな大けがを負って尚、リザードマンは平静とした声の調子を崩していなかった。


今度こそ終わりだ。煙の中から微かに捉えたリザードマンの心臓部付近に剣を突き立てようと、フィネは突進する。


「だが、まだまだだ」


そんな軽い調子で、リザードマンは高速に比類するフィネの剣を、叩き折った。


『なっ!?』


美しい音色を奏でながら、ルーズサイトにより不可視のはずの剣は叩き折られた。


「ふん!」

『あぐっ!?』


驚きから硬直したフィネに、リザードマンの頭突きが炸裂する。鉄球でもぶつけてきたんじゃないかと思える衝撃は、フィネの身体を崩れ落ちさせるには充分な威力を誇っていた。


もう駄目だ、その一歩手前でフィネの視界に入ったのは、既に次の獲物に目を定めたリザードマンの姿だ。

カッと気絶手前の意識が覚醒する。

自分はこいつの視界には入っていない。そう考えると、急に彼女の頭に血が昇った。怒りに震え、白く薄ぼんやりとした視界が急速に蘇る。拳を握り締めたフィネが立ち上がった。


『舐めんな!』

「なっ!?」


至近距離、油断したリザードマンの顎に、立ち上がった勢いのままフィネの拳が炸裂する。

岩程度なら問題なく砕ける拳だ。顎に決めればひとたまりもない。


『おらあああああ!!』


そのままでも充分な威力の拳には、魔方陣。

リザードマンの顎に拳が当たった瞬間、術者もろとも焼き尽くすかのように爆発が起こった。



オオオオオォォォ―――。


「ハァハァ、ハァ……」


満身創痍。爆発により半径3メートルほどの小規模なクレーターが、リザードマンとフィネを中心に広がっていた。確認できないが、恐らくリザードマンの頭は吹き飛んだだろう、仰向けに死体が転がっているように見えた。


フィネはそのクレーターから抜け出し、父親の元へと歩く。


ルーズサイトはすでに解除されていた。タイミングとしては、きっとあの意識を失いかけた時に違いないだろう。


「フィネ、すまなかった。…………大丈夫か?」


モーガンは自分の不甲斐なさに顔を歪めている。壁役にしかなれていなかったのだ。それも当然だろう。


「これくらい大丈夫だよ親父」


笑顔を作る。強がっているが、しばらくは動けなさそうだ。未だ肩で息をするフィネは、魔法を発動した。


「ヒール」


癒しの魔法が2人を包み込む。フィネの魔法により、父娘の傷口は徐々に塞がって行く。

体力的な疲れまでは回復できないが、精神的には少し楽になるだろう。


「まったく、なんて化け物だ。私と親父でここまで苦戦するなんて……」

「多分、レッドタイガーより格上のやつだったな。これだから戦いはやめられない」

「違いない」


そう言い、父娘は笑う。つい先ほど死ぬような思いをしたばかりだというのに……。

どうやら随分と重度なバトルジャンキーのようだ。戦い生き残った安堵ではなく、快感が先に来ているあたりどうしようもない。


「それにしても……」


フィネは先ほどの勝負を思い返す。実力的には互角だったが、不可視を看破する術を持たずに気配だけで戦って見せたあの力。


勝敗を分けたのは、あの一撃だった。気絶したと思った所に、その相手から不意打ちのアッパーと魔法を食らわせる。もしあのリザードマンが目を離していなければ、どうなっていたか分からなかっただろう。


「しかし、お前と互角に戦う奴がまだ居るとはなぁ……。世の中は広いな!」

「いや、互角どころかコテンパンにするやつだって居るだろ……。師匠とかギルド長とか」


他には同じSSの奴らとか……。とフィネは指で数えていく。戦いは終わった。そう気を抜いていた彼らだったが…………。


「まだだ…………」


ゾクッと父娘は背筋を冷やす。2人が振り向いた先、クレーターから這い出てきたリザードマンが立ち上がった。全身の鱗は焼け落ち、ピンク色の肉がところどころ顔を露わにしている。直視するには、あまりにも痛々しい姿だ。


「まだ、私は負けていない」


右手には斧。左手はすでに火傷で使い物にならなくなっている。

それでもなお、リザードマンの底冷えするような殺気が2人を刺した。


「まだ生きていやがったか……。次こそトドメを刺してやる」

「親父、剣がない。1本貸して」


モーガンはフィネに予備の剣を貸し、リザードマンに向けて構え直す。相手は既に満身創痍だ。せめて一撃で葬れるようにと心構えを新たにする。


「行くぞ!!」


そう言ったのは誰だったのか。その言葉を合図に彼らは動き出した。


「おおおおおおおおお!!」


リザードマンは雄たけびを上げて向かってくるが、もう先ほどまでのような動きのキレはない。

全快のリザードマンと比べてしまえば鈍重な亀のような動きだ。


「おりゃああああああ!!」

「これで、終わりだあああああああ!」


父娘の剣がリザードマンを貫こうとしたその時だった。



「はい、ストップー」


気の抜けた声と共に、仮面の男が乱入した。


「な!?」

「はあ!?」

「なに!?」


3者3様、驚きの声を上げる。それは突然現れた事に対するだけの驚きではない。


両手で父娘の剣を。右肩を使って、リザードマンの斧の柄の部分を受け止めている。

そう、仮面の男は、3人の攻撃を一人で受け止めていたのだ。


魔力は感じられない。しかし、現に彼はなんらかの方法でここまで移動してきた。


それも、誰も反応出来ないような速度で、だ。肩の大太刀、誰をも圧倒するその技量。

間違いない、こいつだ―――。父娘は共に確信する。

レッドタイガーを筆頭に、数多のモンスターを血祭りに上げた男。


その脅威が、目の前に立っていた。

リザードマンだって強いんです。

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