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別の世界で生きていく条件  作者: 招きダンボー
勇者とストーカー数名
20/25

第17話 だるまさん

考えなしに張った伏線と、余計に増やした名称の扱いに四苦八苦。

タグから主人公最強外しました。改変とも言いましょうか。そのうち負けもします。ていうかヤハタの性能がやり過ぎでしたので、アビリティを一撃必殺から攻撃力強化へ。決殺のアレです。

それと感想欄で指摘がありましたので、大太刀の持ち方を背中に修正。

更に指摘があったように、16話の最後にも少々加筆しました。一番下だから分かりやすいと思います。

『この秘薬は……甲状腺に直接作用しているのか?治療法は……』

『あの……アポロさん』

『はい、なんです紳士さん?』

『ぶた鍋さんが甲状腺やら、彼に似つかわない単語を使っていますが……』

『はい、彼は医学生なんですよ』

『嘘だ!?』

『本当です。なんでもこのゲームの毒物の効果を真面目に検証するのが趣味らしいですよ』

『なんでまたそんなことを……』

『彼のメインである調合スキルで、新しい毒物……もといポーションの精製に活かすためらしいです』

『なるほど。毒物……じゃなかった新種ポーションの効果と調合も、中々リアルっぽいんですもんねこのゲーム…………ていうか本当にぶた鍋さん医学生なんですか?』

『本当らしいですよ。全然見えませんが。私も初めて聞いた時は、思わずログアウトして壁に頭を打ちつけました』

『おいいいいいい! 聞こえてんぞてめえらあああああ!!』

『静カニシロぶた鍋。静カニシロぶた鍋』

『あ、タイマーが……』

『ひろいち!なんだその悪意のあるタイマーはああああ! ぶっ壊してやる!!』

『ひいいい!? すいません先輩!! だから取らないでええええ!!』

『ぶた鍋さん落ち着いてください! それ仮にもバスターウェポンなんですよ!』

『うるせえ、この糞武器が! 俺は怒ったぞ!!』

『離セ、ぶた鍋。大人気ナイゾ』

『武器のくせに俺を馬鹿にする気か! 上等だぜてめえ!!』

『なんて高性能なAIなんだ……。ってぶた鍋さん落ち着いて!』





























ガタンゴトン。ガタンゴトン。


懐かしい夢を見たような気がした。

その夢も、既に記憶の底へ追いやられながら、クロスの意識は覚醒する。


民衆の交通の足として、馬車が存在する。

といっても、貴族が乗るような上等な物ではなく、もっとボロボロな物だ。

長年使ってきたような木は、既に耐久力の限界を迎えているようにも見え、組み立ては雑で、足元を見れば小さな子が落ちてしまうような隙間が空いている。

当然、扉は無いし、雨風を防ぐ屋根も無い。

……もっとも、この馬車が他の物と比べても特にボロボロなだけなのだが。


そんな馬車でも、平民間から貴族まで、交通の便として使用される立派な乗り物だ。


しかし、この「前の世界」である、車や電車といった乗り物での生活に慣れていたクロスからしてみれば、お世辞にも快適とは言えない。

確かに疲れないのは素晴らしい。しかし、(本人は認めていないが)化け物染みた運動能力を保有するクロスからしてみれば、走った方が速いのだ。

ついでに愚痴を言うなら、照りつける太陽の光で、肌が焼けるように暑い。


これだけ文句がありながら、クロスが馬車でのんびりと移動しているのには理由がある。


ちらり。

クロスの視線。現在の快晴の空のような、スカイブルーの髪を肩口あたりで短く切りそろえた少女は、その明るい色合いに反して、先ほどから無言を貫いていた。


セリュレイア・ラ・ミュソレイ。


雪山から、成り行きのまま護衛として自分を雇った少女だ。

現在は、行き倒れていた時の服装……ローブ付きの学生服の様な物を着ている。胸に刺繍された校章にも見覚えがあるような気がするが……はて、そちら側のクエストには詳しくなかったクロスには、どこの学校の物だったかまでは思い出せない。


「なあ、セラ」

「…………」


ぴくり。

頭を一瞬動かすも、スカイブルーの少女は本から顔を上げようとしない。


(うーん、まいった)


困ったように、クロスは頭を掻く。

ちなみに、セラとはクロスが付けた愛称だ。

単に、彼女が名乗ったセリュレイアという名前が呼びにくいとかそんな理由ではない。半分くらいはそんな理由だとは口が裂けても言えないが。

ともかく、セリュレイアという少女が名乗った家名のミュソレイは、もしかしなくても彼女が王族、もしくは関係する身分であることを示しているのだろう。

彼女を狙ったアサシンのこともある。頭の回転がそんなに良くないクロスが深く考えなくても、セリュレイアの名前をそのまま呼ぶことは、いろいろトラブルの匂いがした。

そのために考えたのが、この愛称だ。適当であることは否定できない。


(無口だよなぁ……)


クロスは、改めて目の前の少女について考える。

それなりに長い旅路、どうにかしてコミュニケーションを深めたいが、少女が何を考えているのかイマイチ分からない。

ちなみにもう3日も、これと似たような状態で過ごしている。


どうにかして表情を探ろうと、クロスはセラをじっと見つめてみることにした。






(…………失敗した)


一方、セラは内心で後悔に駆られていた。

暇つぶしにどうだ、とクロスに渡された魔術書が予想以上におもしろく、クロスの呼びかけに返事をすることを忘れていたのだ。


(あの顔……もしかして怒ってる?)


視線を直接向けず、セラはクロスの顔を見る。

クロスはただ単に、無口無表情な彼女を観察しているだけだったが、セラにしてみればそう捉えるのは難しかっただろう。


何せ客観的に見れば、命を助けられたのに、厚かましくもお礼を返さず、勝手に付いてきて向こうの呼びかけにも反応しない嫌な奴である。例えお願いし、相手が了承していようともだ。少なくともセラはそう考えている。


(……数分前の私を殺したい。ついでに先日の私も殺したい)


自己嫌悪に陥る。

昔、とある大失敗をした彼女の義兄が「穴があったら入りたい」などと言っていたが、今はその時の兄の気持ちがよく分かった。


このままでは、お礼を返すどころか、一言会話することもできなさそうだ。


なんとか突破口を……と今度はセラが話しかけようとした時だった。


「お前さんたち、王都へは何しに行くんだ?」


馬車をひいていた中年の男が、2人に声をかけた。

麦わら帽子にが印象的な半袖の中年だ。

どこにでもいる農夫の様な格好だが、どこか親しみを感じる。


「……仕事の報告」


セラは平坦な声で返答する。

既に半日は馬車の上だ、セラの平坦な声も、大方疲れによるものだろうと中年は当たりを付ける。


「俺は観光だよ」


まだこちらの声色は明るいものだ。

中年は、セラの疲れを考慮してか、黒っぽい衣装の男……クロスに話を続けた。


「観光だ?兄ちゃんそんなナリで田舎出身か?」


服に詳しくない中年から見ても、クロスの着ている物は上質な物だ。

黒い外套の下に着込まれた、燕尾服にも近い服装は、どこかの貴族階級の関係者にしか見えない。

観光と言うからには、王都には住んでいないのだろう。

しかし、物流の悪い王都以外の……いわば田舎で手に入るような服にはとても見えないし、何よりクロスの物腰が田舎者とはどこか違った。


「森の奥の奥の奥だよ」


冗談めかしてクロスは言う。


「嘘つけ」

「バレたか」


お互いに笑う。


そこからの会話は、予想外に弾んだ。

中年の名前はアレンだとか、奥さんは彼の故郷では有名なお嬢様だったのが、いつの間にか鬼にしか見えなくなっただとか、そんな愚痴やら惚気ともつかない会話をしていく。


すっかり話し込んでいたのか、気付けば既に門が迫っていた。

橋を通り、そこから少し整えられた道の先に建物が見える。


「っといけねえ、もう王都に着いちまったようだぜ」

「なんだこりゃ。こんな門は前来た時は無かったぞ」

「……いつの話してんだよ、数百年単位でここにある建造物だぞ」


若干呆れたような目で見られる。

しかし中年……もといアレンは、クロスのそれをふざけて言ったものと流して、前に向き直った。


「しかし大きいな……」


クロスが呟く。6メートルほどの高さの、煉瓦と石が混ざり合ったような壁だ。侵入者の撃退も兼ねて建設されているようで、上には兵と思われる人物たちが居る。現在は開いたままの、入り口とみられる鉄の門も立派なものだ。しかし、クロスのかつての記憶と比べると、どうも造りが違うような気がする。

果たして、こんなに大きいものだったろうか……?


「…………元々のミュソレイ王国とされる領域は、現在は貴族街と一部の商人街。当時の門を区画の境目としている。今から私たちが入る場所は、平民が暮らすところ。他国との玄関口にもなるから、かなりの税金をかけて造られている」


疑問に思っていたところに、セラが僅かながらにズレながらも答えを返してくれる。

大方、クロスの呟きに対して補足を加えてくれたのだろう。


「つまりこの門は、元々あった土地が拡大されてから造られた門なのか?」

「そうなる」


なるほど、とクロスは相槌を返した。

要するにクロスの記憶していたミュソレイ王国の領域は、現在はまるまる商売人と貴族が暮らす領域に使わている。そしてその時にあった城壁を囲うように、新しく平民街が作られたらしい。

クロスの目の前に広がる壁は、その新しく作られた平民街を囲うためのものであるから、彼が知らないのも無理は無い。


「よう、マルコ」

「アレンか、久しぶりだな。奥さんは元気かい?」

「元気すぎて困ってるよ……。それよりどうだい、今夜に一杯飲まないか?」

「やめとくよ……。今日こそ帰らないと、子供に俺の顔を忘れられちまう」

「ガハハハ!そりゃ困るな!」


門の手前、馬屋付近で馬車を止めると、いつの間にか門番と思わしき人物と、ここまで運んでくれたアレンが楽しそうに談笑を始めた。かなり仲が良さそうである。

仕事しろよと言いたくもなるが、今はここに彼ら以外に門の内側へと入ろうとする人間はいない。

つまりそれが意味するところは……暇なのだろう。


「それより客は彼らかい?」

「ん?おお、そうだ。中々おもしろい奴だぞ」


そうか、と門番はアレンに相槌を打つと、馬車から降りたばかりの2人に声をかける。


「女はうちの学校の生徒として……あんたは身分を証明できるものあるかい?」


門番はセラを一瞥すると、クロスへと質問する。

それなりの身なりなのは分かるが、それ以外は見た目からの情報が何もないのだから、怪しまれても仕方がない。


「身分証明?そんなもん……」


持ってない。

そう言う前に、セラが門番にある紙を渡していた。

いぶかしげな表情を浮かべる門番も、その紙に目を通すとがらりと表情を変える。

アレンと談笑していた時のような腑抜けたものではなく、何か重大な仕事を受けた時のような、緊張した表情だ。その様子から、紙の内容を把握したのだろうと判断したセラは、そのまま止めの一撃を放った。


「彼は、私の個人的な知り合いです」

「これは……失礼しました。どうぞお通り下さい」


セラから受け取った紙を大事そうに持ったまま、門番は改まったように姿勢を正し、謝罪を述べた。









「……なあセラ、あの紙はなんだったんだ?」

「内緒」

「そうかい……」


門を通り、街中を歩くクロスは、セラに先ほど門番に渡した紙がどういう効果を持っているのかしきりに訊くが、セラは一向に答えてくれる様子も無い。さて、どうするべきか。活気ある人の通りと、今まで見た事も無いような食べ物が並ぶ商店。どれも魅力的に映った。

クロス個人としてはとっとと観光をしたいところだが、先ほどからこちらを見ている視線もある。


それにまだ、セラとの関わり方を把握できていない。

適当な理由をつけて分かれてしまうべきか、それとも……。


「クロス様」


随分と決意をするのに時間がかかったのだろう、セラの額には汗が浮かんでいた。

表情は硬く、かすかにであるが震えているようにも見える。


ちなみに場所は、人の多い昼間の通りである。目立たないはずがない。


「どうした?急に改まって」

「私の命を救ってくださった御恩、ここまでの護衛を引き受けて下さったことは感謝してもしきれません」


セラが真っ直ぐにこちらを見、今までの薄い声ではなく、凛とした声がクロスの耳に届く。

その彼女には、先ほどまでの震えは微塵も感じられない。正しく王女様の振る舞いをしていた。


何やら周りから見られている気がする。原因があるとすれば、それは間違いなく目の前の少女にあるのだろう。

そして不思議と、子供の笑い声も、商人たちの活気ある叫びも、クロスの耳には届かなくなっていた。

彼女の一挙手一投足に目を奪われ、心の底から信頼を寄せたくもなる。


クロスの頭のどこか冷静な部分が、この現象を分析した。


多分こういうのを、カリスマと呼ぶのだろう。


「あ、えと……うん」


なんだか恥ずかしくなったクロスは、普段の彼らしからぬ曖昧な返事をしてしまう。


「そしてあなた様にかけた迷惑の数々、改めてお詫びをしたいと思っています」


頭を下げたまま、セラは謝罪と思わしき言葉を繋いでいく。


「つきましては、このまま私と城まで……」


セラの言葉は続かなかった。

頭を上げた時、クロスの姿はどこにも無かった。








「悪いことしたかなぁ……」


クロスは一人、路地裏でそう呟いた。

その路地裏はまだ十分に日が高いはずであるのに、背の高い建物により光は遮られ、なんとも言えない不気味さを演出していた。


「でもあのままだと、あいつ殺されそうだったしな……」


セラが頭を下げたあの時、クロス自身も説明できない空気の淀みを感じた。

殺気の類と思われるそれは、確かにこの路地裏から感じた物だった。セラが殺されないためにも、いち早く駆けつけて処理しようと考えたクロスは急いで飛んできたが、一足遅かったか。断じてお礼を受けたらなにか厄介ごとに巻き込まれそうだから逃げるいい口実になっただとか、決してそんなことは考えていない、


「もういなくなった?」

『それは無いでしょうぜ』


何気にありえそうだと思ったが、ヤハタが自信を持って否定してくれる。

心当たりと言えば雪山でのアサシンの連中であるが、まだセラを狙っているのだろうか。目的は分からないが、しつこい。苛立ち交じりに腰に差したヤハタと、もう一本の日本刀の柄の頭を指で叩きながら、EXエクストラスキルの『察知』を使用して周りを確認する。


敵の表示である赤い光点は見当たらず。あると言えば、目の前から歩いてくる乞食のような格好の男の物である、青い光点くらいだ。


「ハズレかな……。ヤハタ、一先ずセラの所に―――」

「ぐあああああああああああああ!?」


乞食の男がクロスの横を通り過ぎようとした瞬間だった。

クロスが言葉を言い終わるより早く、乞食の男の右肘が切り落とされた。


『おっ?おっ?いきなり何が……』


ヤハタが急いで原因を探ろうとする。だが、答えは案外簡単に見つかった。

クロスの左手には、日本刀が握られていたからだ。

目にもつかない早業である。


「危ねえ……。つい反射で動いちまった」


この状況だけで判断するならば、悪いのは100%クロスであるはずなのだが、当の本人には、悪びれる様子は全く無い。


『旦那、いくらなんでもこれは……』


いくらなんでもこれは酷い。

内面を図ることは出来ないが、少なくともクロスは、快楽で殺しをするような人間ではないと信じているヤハタからしてみれば、納得のいく説明が欲しいところだ。


「お前……。よく見ろよ、そいつの右手」


ヤハタの声色から察したのか、心外だと言わんばかりにクロスが言う。

指示された通りにヤハタは、自身の魔力で知覚範囲を広げ、乞食から切り落ちた右手を確認した。


『なんでえこいつぁ……針?』


転がった乞食の右手に握られていたのは、細い針だった。

それも裁縫に使われるような物。よく見なければ、間違いなく見落としていただろう。


「ただの針じゃないぞ。食らったら多分、毒で死ぬ」


普通の人間ならな、と付け足し、未だ激痛にもがく乞食を見下しながら、クロスはヤハタへと説明していった。

…………したり顔に見えるのは気のせいだろうか。


「この程度なら俺の着ている物だけで十分防げるんだけど……。つい勢いでやっちまった」


彼の装備しているコートであれば、針どころか一線級の魔法だろうと受け止められるだろうに。本当に魔法の直撃も大丈夫かは置いておいて。もうちょっと穏便に―――拘束するだけでも良かった―――とクロスはわざとらしく頭を抱え、ヤレヤレと言った風に首を振る。


「さて、そこのきみ」

「がっ!?」


言いながら、クロスは乞食の頭を踏みつける。

靴底で抑えられた後頭部を自由にしようと乞食はもがくが、縛り付けられたように頭が持ち上がらない。


「さっきのセラを狙ってた奴と関係あるんだろ?…………ああ、別に言う必要はないよ、直接頭に訊くから」


恐らく、この路地裏から感じ取った殺気を発した人物と、何らかの関わりがあるはず。

そしてこの乞食は、雪原で戦った者と同一の組織とは考えにくいだろう。

あまりに雰囲気が違いすぎるし、仮に同じ組織ならば、雪原での全滅したという情報が伝わっていないはずが無い。少なくとも、それに似た情報が伝わっていなくてはおかしいのだ。


「セラには感謝するよまったく。こんな機会があるなら、あの子の問題にはもうちょっと突っ込んでいっても…………おもしろそうだよね」

「ぐざげるな!」


乞食は反撃を試みようと、踏みつけられた体勢のまま、腰に隠し持っていたナイフに手を伸ばそうとする。しかし―――。


「―――あああああああ!?」


残っていた左手は、どこから取り出したのかクロスの放ったダガーにより、地面に縫い付けられた。

続いて、足にもダガーが刺さる。完全に地面に縫い付けられた男は、惨めにバタンバタンと体を動かし、声を張り上げるだけだった。


「だ、だれか!!たずっ―――」


乞食の叫びは、クロスが彼の頭に、更に体重を乗せることで封殺した。


「おいおい、あんまり良い声で鳴くなよ。そんなことしたら―――」


―――そんなことしたら、もっと苛めたくなるだろ?


誰にも聞かれないように、自身の胸の内で飲み込んだ言葉は、自然とクロスの表情に現れていた。

クロスは子供のように目を輝かせ、実に楽しそうに笑った。

人気も無い狭い路地裏では、必死に生にしがみ付こうとする乞食の叫びは誰にも届かない。


「助けてえええええええええええ!!」


この時のクロスはまだ気付いていない。

現在の自分に、他のプレイヤーどころか、かつての自分の価値観からはとても考えられないような、決定的なズレが生じていることに。


彼がアイテムボックスに仕舞っていたはずのツヴェルフの仮面が、もがき苦しむ乞食の横で笑っている気がした。

























「なに……?」


その日、一つの報告が上がった。

その報告の驚くべき内容に、同業者の男は焦りを隠せない。


「何かの間違いではないのか?本当にそんなことがありえるなど……」

「私もこの目で見るまでは信じられませんでした。ですが、間違いありません」


火急と言っても過言ではない事態だ。

男は革の椅子に深く腰掛けたまま、ため息をつく。


「なんとまあ……。よもや『月光蝶』と『影の一党』が全滅するとは…………」


「念のため調査も行ったのですが、犯行を行った者の魔法を使用した痕跡は発見できず、血痕も殺された者の分しか見つかりませんでした」


「一体どこの馬鹿だ……。勢力のバランスを崩すような真似をしてくれやがって」

「複数犯の可能性が高いと思われますが……。それらしきパーティやギルドが動いた形跡はありません」

「ならば仕事の取り合いで相討ちという可能性はどうだ?俺としてはこれであってほしい」

「それも無いでしょう。そもそも仕事の重複など……あっ」

「なんだ?どうした」


自らの秘書も務めている彼女にしては、実に珍しい光景だ。

冷静沈着が服を着て歩いているような女が、よもやあれほど可愛らしい声を上げるとは。

頬が緩むのを実感しながら、男はそれを誤魔化そうと笑みを深めて彼女の次の言葉を待つ。


「いえ……。そういえば王女暗殺の依頼が、各地のアサシン一党に送られたのは覚えていますか?」

「ああ、あれか……。ってそれはまさか!」


忘れる筈も無い。現在の王都は、時期王の継承権をめぐって、血の分けた兄弟同士で腹の探り合いが行われている。その人物の誰かか関係者かは知らないが、一人の王女を暗殺するようにと、依頼が飛んできたことがあった。詳細を調べてみれば、その王女は後ろ盾が全く無い、裸同然の人物であるという。

母親は平民上がりだということからも、そのことは間違いないのだろう。

それでも当時は、王の血縁を暗殺など、こいつは何を考えているんだと驚いたものだ。後ろ盾が無しだろうと、問題になることは間違いないだろうに。あるいは、それほどどうでもいい存在なのだろうか。少女と呼べる年齢の子を身内の勝手な都合で殺せなどと、「胸糞が悪い」という理由でこの時は断ったが。


しかし、その依頼を受けた一党というのは、まさか……。


「はい。実際に依頼を引き受けたのは『月光蝶』と『影の一党』です」

「……他の同胞を呼び集めるぞ。この件はマズイ」


まだ判断材料の少なさもある。決めつけるのは早計であり、妄想の域は出ていない。


「了解しました」

「それと……」


王女一人の力だけでは、たかが知れている。

だが、もし……。


「王女と共に行動していた者が居ないか調べろ。実際に話していない者でも構わん。近くに居た者は全員調べ上げろ」

「戦争でも仕掛けるのですか?」


冗談めいたように女が言う。事実冗談だが。


「その逆だ」


男は卑屈に笑う。

もし、王女に味方し、手練れと呼ばれた彼らを抹殺するだけの兵力を持つ者らを見つけた場合は―――。


「その者達には近づかない。その者達が関与すると思われるものからは、全て手を引くぞ」


惨殺された現場で、彼の秘書の女が一羽の鳥を見つけるのは、この指示から3日後のことだった。

しゅじんこう は さでぃずむ に めざめた !

さじ加減が分からなくなってる……。久々にオンゲでもしてきます。

ちなみにだるまさんの意味は……ご想像にお任せします。

自分で読み返して、どこがおかしいのか分からなくなってるあたり本気でヤバイなぁ……と思いながら過ごすこの頃。

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