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別の世界で生きていく条件  作者: 招きダンボー
チュートリアル
2/25

第1話 迷った時の生存の条件

1話目です


一部修正です

「うっひょおおおおおおおおおおお」


紳士が叫び声を上げる。

しかし恐怖などは一切その声音からは感じられない。純粋な感動だ。


ただいま上空2000メートル。


ドラゴンの背に乗り、街や城、広大な草原や山を幾多も通り越し、向かうはヴァルハラ。

現在のヴェルトオンラインにおける最難関のダンジョンである。

ヴェルトオンラインは攻略ダンジョンも非常に多い。


発売から5年経った今も、ヴェルトオンラインの大陸全てのマップの70%程度しか開拓されていないと言われている。


そのため、まだ未開拓の街も多い。

しかし、そのボリュームに投げ出そうとするものは少ない。


むしろ攻略しようとするプレイヤーの方が多く、他社のゲームが売れず大変なことになっているらしい。


「いやあ紳士さん、空を飛ぶ度にあなたには感謝していますよ。ドラゴンなんて、あなたと出会わないと一生乗れなかったでしょうし」


ニコニコとスラッパーは話しかける。


彼の所属するギルドのメンバーなら非常に驚いていただろう。

なにしろあのスラッパーが笑っているのだから。


「いやァまったくです。私からも紳士くンには感謝しなければ」


続くはローション。

触手が伸びてスラッパーの背にしがみついている。


「あはは、照れますよ~」


当の紳士は頭をかいて気恥ずかしそうだ。

仮面で表情はわからないが非常に恥ずかしそうだ。


2人が感謝する理由は簡単だ、ドラゴンという種族は総じてレベルが高いため捕獲が難しい。

さらに言うと、捕獲の手順がドラゴンの個体によってまったく違うものになったりするという点がある。


トップギルドでも3頭所有していればいい方なのだが、紳士の所有数は5頭。

それも彼の場合は個人で、だ。


何を食べているのかどころか、活動時間帯すらわかっていないドラゴンの巣に単身忍び込み、なぜか成体と仲良くなり、ドラゴンの幼体を持ち帰って育てたという逸話まである正真正銘のドラゴンマニア(?)だ。


その功績により、ヴェルトオンライン最大手ギルドのワンニャン動物愛護団体から


「爬虫類ギルド長としてうちに来てくれ!」とまで言われた事もある…………らしい。


そして未だに恥ずかしそうにしている紳士をよそに、ローションはスラッパーへと話しかける。


「そういャ今日はギルドの活動はお休みでェ?」

「いえ、ギルドの活動は部下に任せました。私もどうやら一人のほうが気が楽みたいで……」

「大変ですねェ、いっそのことギルドなんて辞めてソロで活動すればいいじゃないですかァ」

「確かに私も皆さんのようにソロで活動して好きな時間にこうして集まって狩りに行きたいんですけどね……」


スラッパーは困り顔だ。


「まァ事情があるなら仕方ないですねェ」


残念そうにローションが呟く。


「あっ! 皆さん『ヴァルハラ』ですよ!」


先頭に座る紳士から声が上がった。


彼が指を差す先には森林があり、

その遥か奥には薄っすらとであるが、宮殿のようなものが見える。

位置的にも、間違いなく今回の目的地であるヴァルハラだろう。


現実では絶対に体験できない空の旅だったが、残念ながらドラゴンの旅はここでお終いとなる。


全てのダンジョン、特に外のような天井が存在しないダンジョンには、使役するモンスターに乗って空からショートカットされないように、不可視の魔法による防御魔法『サンクチュアリ』が張られている。


空からの侵入は不可能だ。

強引に行こうとしても、NPCであるモンスターは、主の命令を無視して引き返す仕様もあるだとか。








「じゃあなー! 俺は必ず生きて帰ってくるから待ってろよー!」


「今夜は焼肉を食わせてやるぞー」と、紳士は飛び立つドラゴンに叫ぶ。

焼肉という単語に心なしかドラゴンも嬉しそうだ。


そんな彼の姿を眺めて―――


「では、行きますか」


―――スラッパーは楽しそうに言った。












森林の中は思ったほどではないが、サクサクと進んでいった。

プレイヤーのレベルも関係しているが、それだけではこの少人数による攻略の説明をすることはできないだろう。その事実から考えられることは、3人の恐るべきPSプレイヤースキルの高さにある。


「いいですねえ、上級者の方とのプレイは。こんなにサクサク進むなんて」


自分の身長の2倍はあるだろう長大な槍を片手に持ち、キングゴブリンを突き刺しながらスラッパーが呟いた。その胸の内は知りえないが、今を楽しんでいるということだけは、はっきり伝わった。


「だったらうちの『野良犬集会所』に来てくださいよォ、情報増えますよォ、もちろんソロ限定ですがァ」


ローションの背後、クイックメニューから選択されたお気に入り魔法が、巨大な魔法陣としてローションの背後に現れ、太陽の様に発光し魔力と呼ばれる力を収束させていく。

シュトラールと呼ばれる上級魔法だ。極太のレーザーがワイバーンの群れを蒸発させるかのごとく消滅させていく。


「はっはー! 今宵は我が刀の錆びとなれー!」


紳士は自分の背ほどの巨大な大太刀を振り回す。


その大太刀は、通常の物より長く、全体も太くなっている。重量は増すが、その分攻撃力も高い。

キングオークがまるで紙のように切り裂かれていく。


鎧袖一触の四文字熟語を体現したその動きは、味方にはさぞ心強いだろう。

事実、彼らが一人で攻略しているときは、声をかける人間がいることも珍しくはない。


しかし順調とはいえまだ序盤、現時点では最難関のダンジョンだ。既に回復薬のポーションを3つ消費しているし、敵の攻撃力は非常に高い。油断すれば、簡単にHPを0まで持って行かれるだろう。紳士が先ほど倒したキングオークだって、攻撃を食らえばノックバックによるコンボに嵌って、そのまま死ぬことだってあり得たのだ。

全年齢対象ゲームとライトユーザーにも優しい仕様かは知らないが、デスペナルティは存在しない。しかし、ここで誰かが足を引っ張るような真似をしては、1週間も前から時間を調節して集まった彼らにとっての大きなイベントに水を差す事になる。

そのことを考えてか考えずか、3人の立ち回りはいつになく冴えたものになっていた。









異変が起きたのは、3人が湖で休憩していたときだった。

公式によると、日本の琵琶湖をモチーフに作成されたらしい。しかし明らかに水はモチーフとなったオリジナルより澄み切ったもので、かなりの深さがあるはずなのに底まで見えるほどだ。

現代でも本当に一部だけにしか存在しない光景を再現するこのゲームには、製作者の趣味や考えが時折顔をだすことがあり、そこがまたプレイヤーを楽しませる要因になっている。


その湖は、本当に素晴らしいとしか言いようのない眺めだった。


「あーやっと半分かー……」


紳士はそう言い、石に腰をかけて湖で顔を洗う。

習慣とでも言ったほうが良いだろうか。顔を洗うという行為もあくまでゲームの中での行動であり、汗など掻かないが、精神的な安らぎが違うのだ。


紳士はふと、自分のHPゲージを見た。安全マージンはまだまだたっぷりとある。回復薬のことも考えれば、充分にダンジョン攻略に手が届く範囲にあると言えよう。


「流石現状最難関ですかねェ、見てくださいこのアイテム、10万ゴールドはありますよォ」


ローションはそう言うが、貴重そうなアイテムが宙に浮いているだけでローションの姿は見当たらない。


本人曰く、湖で背泳ぎしているらしい。

湖と同化しているのか、まったくわからない。澄み切った湖の中でも、一部が濁りを見せているようだが、もしかしてあれなのだろうか。


「ん、そういやスラッパーさんどこですかね?」


ふと紳士はあの綺麗な鎧を着たエルフが、いつの間にかいなくなっていることに気がついた。


「そういやァどこでしょうかねェ」


湖からローションがそう答えるが、そのローションも湖の景色に同化して、どこにいるか分からない。

もう湖がローションだと考えた方がいいかもしれない。


「んー、どこだろ。コールしてみるか」


そんなバカなことを考えながら、紳士は宙に青いウィンドウを開く。

もちろんプライベートの情報もあるので、他人からは見えないようになっている。


「ん、どういうことだ?」


紳士は違和感を感じた。

幾度となくウィンドウを開いたことがあるが、紳士の記憶では今まで一度たりともウィンドウにバグはなかった。


「フレンドの項目が……無い?」


そう。フレンドという欄がまるごと消えていた。


さらに付け加えるなら、GMコールも、ログアウトを選択するボタンも無い。

そんなの最初からありませんよと言わんばかりに消えている。


「あのローションさん、ちょっと困ったことが……」


ウィンドウを閉じて、湖に目を向けようとした彼にとんでもない光景が飛び込んできた。


「おいおいおいなんだよこれ…………」


混乱は最高潮に達した。

紳士は立ち上がり、叫んだ。


「なんで湖が消えてんだよ!!」


先ほどまで目の前にあったはずの湖。

しかし、彼の目の前には深い木々が広がっているだけだった。

異世界突入だよー

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