第15話 世界に一つのオーダーメイド
「あー、もしかして失敗したか?」
ヤハタがそこを工房と認識したのは、そんな声が聞こえてからだった。
「いや、でも手順に間違いはなかったはずだし……。おーい、聞こえてるか?」
ぼんやりとした意識の中で、それが男の声で自分に向けられたモノだと認識しつつも、ヤハタは返答も忘れ、どこか懐かしい感覚に身を委ねていた。
「ヤバイ、これはどこかミスったみたいだ」
部屋の中央の台に横たわるヤハタの周りには、何本かの剣が立て掛けられている。
どれも華美なほどの装飾が施された割には、儀礼用というわけでもなく実用性も兼ね備えられた名品ばかりだ。
それも名の知れた鍛冶屋や、専門職のドワーフが見れば即座に作り手に弟子入りを申し込むほどの。
しかし、立派な品ぞろえの工房の割には、今まで使っていたような形跡があまりに少ない。
ハンマー等の工具の類はどこにも見当たらないし、炉には火を使った形跡も無い。
どちらかというと、新米が新しく工房を建てたという方が、しっくり来るような工房だ。
そんな工房に、ヤハタはどこか心地よさを感じ、再び意識をまどろみの中に沈めようとするが……。
「失敗か……。仕方ない、もう一回バラそう」
『うおおおおおおおおおお!?起きてる起きてます起きてますぜ旦那!!』
自分の身にこれから何が起こるのか、寝惚けた頭でも即座に理解できた。
ヤハタは講義の開始時間寸前に目覚めた学生の様に、慌てた様子で覚醒し、返事をする。
「お、成功してたか」
『バッチリ成功ですぜ旦那!!そりゃもうカンペキに!!』
また分解されるようなことは無いだろうが、念を押すようにヤハタは叫ぶ。
あまりに快活なその返事は、目の前でストレッチしている大太刀を幻視できそうなほど。
「そりゃ良かった。具合はどうだ?」
旦那と呼ばれた男、クロスは好奇心を混ぜた表情を浮かべながら、ヤハタに質問する。
もちろんその顔には、先ほどまでアルテマと戦っていた時のように、仮面を付けたりはしていない。
『全然問題どころか、今までよりいい具合ですぜ。…………それより、アルテマの奴らはどうなったんで?』
クロスに鷲掴みされて壊されるその寸前まで、ヤハタは覚えている。
だが、砕かれたその後、戦闘の結末までは知る由もない。
元よりクロス……紳士と呼ばれていたころに一緒だったヤハタにも、彼の掴みどころのない性格を把握できたわけでもない。
自分の命を狙った相手を生かして帰すこともあれば、突拍子もなく殺戮を始めたりもする。
そんなクロス相手には、直接質問するしかアルテマの安否を確認する方法は無いのだ。
「ああ、あいつらなら少し遊んで帰したぜ?……弱すぎて拍子抜けしたってのが本音だけど」
喧嘩を申し込んであの程度。
確かに最初は怒りもしたが、蹴りを加えたりした時の、あの悔しがり様。
見ていて可哀想になったというのが本音だ。
あまりに気を抜きすぎて一発貰ってしまったが、あれもアルテマを見直すまでには至らないだろう。
『そうですかい……』
クロスの言葉からアルテマの生存を確認できたヤハタは、心の底から安堵のため息をつく。
「あ、そうだ」
会話の流れでふと思い出したように、クロスは自分の腹を触る。
アルテマに殴られた箇所だ。
「お前さ、あの時何した?」
普通ならば、これだけで相手に伝わるはずもない。
だが、ヤハタにはそれが何を言わんとするか、一瞬で読み取れてしまった。
若干気まずそうな雰囲気を醸し出しながらも、ヤハタは口を開く。
『……俺の単独で、アビリティの決殺を発動したんですぜ』
決殺。名前は大層な物だが、能力は持ち主の攻撃力を一定の間だけ2倍に引き上げるというものだ。……必ず殺せるわけではないが、凶悪な効果には違いない。
通常、多くても3つしか武器にないはずの特殊能力。なんとヤハタは、唯一10個までアビリティのセット枠が存在した武器だ。
「え、マジで?」
『……知ってたんじゃないんすか?』
驚いたのは、質問した本人のクロス。珍しく口を開いたまま固まっている。
てっきりヤハタは、クロスが決殺を腹に受けたことは、既に相手も知っているものかと思っていた。
その確認のための質問かと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「いや、不自然に痛みを感じたからヤハタの仕業だと思っていたけど、決殺食らったのか……」
カンストした自らの身体に、最高と呼ばれる1号級の装備であるコート。
その内側に、幾重にも重ね着された1号級のスーツやシャツ。それに加えて指輪による多重障壁。
更には、相手はレベルにして600かそこらの武器無しの素手攻撃。
どう考えても、大したダメージなど通らないはずだったのだ。
『こっちも無我夢中だったんですぜ…………?』
決殺は発動後、10秒間だけ全攻撃力を2倍に引き上げる。属性魔法攻撃と、ボスの弱点属性等を入れて考えると、実に凶悪な攻撃力となる。
その性能の高さから、ボス攻略や対人では非常にお世話になったものでもある。
「あんな外道アビリティ正直忘れてたよ……食らってから思い出した」
『そりゃまあ……』
なんとも気の毒そうに、ヤハタが言う。
それにしても、驚くべきはヤハタの性能か。優秀すぎて思わず宝物庫に突っ込みたくなる性能だ。
『ていうか、あんな場所で何してたんですかい?』
「そりゃ渓谷の先にあると言われる謎の集落に……ってあああああもう!!」
『ど、どうしたんで旦那ぁ!?』
突然発狂したように頭を抱えて、クロスは体をぐるんぐるんと振り回す。
あまりにも突拍子のない行動に、ヤハタと言えども対処できずにいる。
「今回の騒ぎが問題となって、渓谷の内に足を踏み入れる許可が下りなかったのですよ」
突如、未だ頭を抱えるクロスの後ろから声がかかった。
『エルセの姉御!!』
工房の入り口あたり、扉をそっと閉じるメイドの女へと、ヤハタは驚いたように声を上げる。
「頭の固い老人が多いようでして……困ったものです」
エルセの全身から滲み出る不満げな空気は、仕事の失敗の責任を上司に擦り付けられた社会人にも似ている。本当のギリギリまで交渉を重ねておきながら、最後はなんやかんやと適当な理由で突っぱねられたのが、よほど腹立たしかったようだ。
力関係ではラウナを凌ぎ、神龍でもトップに位置するであろうエルセだが、人間と契約を交わしたことに良い顔をしない者も多い。エルセの力を認めずに、プライドだけが一人前の連中に嫌味を言われながらも頭を下げ、あげく断られれば腹も立つ。
「ヤハタ、使い手が無茶な戦いに身を投げ無いように止めるのも、武器の役目ですよ?」
『ヒイイイイイ!?すいませんでしたああああああ!!』
当然、怒りは断られた理由である今回の騒ぎ、つまり戦闘行為を行った者たちに向けられる。
事の発端は、挑発をかけたアルテマ達にあるため、その一味であるヤハタは自然とこういう立ち位置になってしまう。あの状況的に、ヤハタに非が無いのは明白である。
エルセもそんなことは理解しているのだ。
しかし、クロスが渓谷の先にある集落の見学を行う許可を取りに行った会議室の中。
無駄な世間話を2時間も聞かされ、エロ親父共の気色悪い視線を無視し、うちの息子とはどうだねと持ちかけられる縁談を躱し、手を尻に触れてくるセクハラにも手を上げずに我慢したのに。
結果は、騒ぎを起こす人間など入れるわけにはいかない。
この怒りは誰に向けるべきか。
「あの爺共……力は一流だが君は若くて経験が足りない……?毎日引きこもって茶を啜ってるだけの連中にどんな経験が積み重なっているとでも…………」
『いだっ!?いだだだだだだああああああああ!!すまねえエルセの姉御!!いやすいませんエルセ様!!!』
無表情のまま、エルセは直ったばかりのヤハタの刀身を、握りつぶさんばかりに両手で締め上げる。
ヤハタの誠心誠意の懇願も届かず、その力は強まる一方だ。
『だ、旦那あああああ!!助けてくれええええ!!』
「ちくしょう、やっぱりあの先のマップが完成してないって噂は本当だったのか?だから俺が不法侵入を試みても撃退されたのか?だから今回も妨害されたのか?アップデートはまだか!運営は何をしてるんだ!!」
『くそおお!!あっちも聞こえてねえええええ!!』
工房で喚く武器と、それを締め上げるメイド。そして部屋の隅で頭を抱える男。
あまり見たいものではない。
「うお、なんスかこのカオス」
そしてそこに現れたのは、エルセの妹であるラウナ。
工房の扉の前で、ショートケーキを直接手で頬張りながら目の前の惨状に目を丸くしている。
『ら、ラウナの嬢ちゃん!助けてくれ!』
この時ばかりは、ラウナが救いの女神の様に映った。
ヤハタは全身に走る痛みを抑えながら、必死に助けを求める。
「あー、なんとなく理解できたっス。ちょっと待つっスよ」
ラウナの介入により、クロスとエルセが復帰した10分後。
「すまんヤハタ、あまりに落ち込んで気付かなかった」
「すいませんヤハタ、あんなに怒ったのは久しぶりでして……どうも自制が利きませんでした」
『気にしてねぇですから……もうあんな目に合わせねえでくだせぇ』
「いやー、中々の壊れっぷりでしたっスねー」
もうちょっとしんみりした空気がこの場は正しいと思うが、ラウナ指摘は尤も。
「しかし、どうにかして主を渓谷の先まで突っ込めないでしょうか……」
「今のクロスさんなら行けるんじゃないっスかね?門番やってるデモンドラゴンも大分弱くなったことっスから」
「え、マジで?あいつら怖いんだけど」
どうやら、クロスを渓谷の先へ入れるという話題は続いていたようだ。
話を聴く限りでは行けそうな気もするが、以前デモンドラゴンと戦ったことのある身としては、あまり積極的には戦いたくない。
無限ではないかと思うようなHPを、6時間延々と切り続けて減らす作業は、誰だってやりたくないだろう。
しかも、そんなのが大量に湧くのだ。体力が続こうが、やる気が無くなるのは目に見えている。
「大丈夫っス。多分今のクロスさんなら、全力でやれば1体10分ペースでいけるっス」
「えー……」
弱体化は思ったより激しいらしい。
しかし、それほどまでに弱くなっているなど誰が信じられようか。
思わずクロスの口から、疑いの声が漏れる。
「あともう少しで正攻法で行けたものを……アルテマとか言う者たちは随分と余計なことをしてくれましたね…………」
クロスの龍の渓谷にかけていた情熱は、エルセも知っている。
規則が緩くなり、エルセとラウナの立場もかなり高い位置まで上り、主の夢を叶えるチャンスと思いきや思わぬ横槍。
忠誠を誓った者へ、ぬか喜びをさせてしまったという恥が、再びエルセに怒りを募らせ始める。
そんな姉の姿に苦笑しつつ、ラウナは渓谷の先に居るドラゴンの面々を思い浮かべる。
「あいつらには、人は弱いって先入観が残ってるっスからねえ……。そういえば彼ら、クロスさんみたいなのと戦ったことないっスもんね」
ヴェルトオンラインでは、侵入を試みたクロスのような輩も居たが、デモンドラゴンを退けても巨大な門がその先の進行を邪魔する。
クロスにとっても、あれは苦い思い出の一つとなっていた。
その時の公式の公表によると、どうやら『特別な条件』とやらが必要らしいが、その条件を発見できた者はついぞ現れなかった。
ドラゴンは対等な力を持つならば認めるらしいが、いかんせん入り口にも立てなければ話にならない。
「話が変わって悪いんだけど、、ヤハタはなんであの程度の奴に使われてるんだ?ヤハタのアビリティも知らない連中なのに」
エルセのアルテマという単語で、クロスは思い出したようにヤハタに質問する。
ヴェルトオンラインで自分の扱う武器は、要求ステータスを満たしていればどんな武器でも扱えるが、扱う者の熟練度に応じた物でなければペナルティが発生する。
武器のステータスの閲覧不可や武器のアビリティ発動不可も、その内に含まれている。
今回のヤハタの件は例外で、アルテマの熟練度が足りなくとも、意思を持つ武器であるヤハタが単独でアビリティを発動したため、このペナルティを躱すことに成功していた。
クロスも戦って確信したのだが、アルテマはヤハタのアビリティを駆使することなく、己の技量のみで戦っていた。
まさか自分の使う武器の性能すら知らないと事はあるまいと考えていたので、クロスはあまりのレベル差に、密かにショックを受けたりもしている。
ちなみにヤハタを扱うのに必要な熟練度は、最高のレベル10。
アルテマが使うには、豚に真珠どころか1万カラットのダイヤモンドだ。
それぐらいにもったいない話なのである。
「そうっスよねー。ヤハタっちくらいの業物なら、とっくにあの女が殺されてもおかしくないっスよねー」
「……話しか聞いていませんが、そんなに酷かったのですか?」
「ナーガとかリヴァイアサンよりちょい上くらいっス」
「それは……そうだったのですか」
ちなみにリヴァイアサンは、現在のエルセの手を抜いた拳に、一撃耐えられるかどうかと言ったところ。
その改めて聞かされた実力差は、エルセも少々同情をしてもいいかなという気分になるほど。
『あー……申し訳ない話なんだが…………』
そして疑問を投げかけられた張本人、ヤハタは大変きまずそうに口を開いた。
『あいつが今の人間界で最強なんですぜ』
「……成長したなぁヤハタ。最初はカタコトで敬語でしか喋れなかったのに、今では冗談も言えるなんて」
「ですが冗談にしては笑えませんよ?それではモンスターよりパワーダウンが酷いことになってます」
「10点スね。確かに最近の弱体化は激しいっスけど、いくらなんでも信じる奴はいないっス」
ヤハタの言ったことは微塵も信じない口調で、批判が飛び交う。
『いや、こればかりは信じて下せえ』
あまりにも真剣な口調だ。
真剣過ぎて、笑い飛ばしていたクロス達が真顔に戻るほどに。
「……は、マジで?」
『マジなんですぜ』
驚きを隠せないクロスに、ヤハタは改めて真剣に言う。
「…………」
『信じて下せえ』
目を見開いたままのエルセに、ヤハタは真剣に言う。
「……本当っスか」
『本当っス』
思わず出てしまったラウナの言葉に、ヤハタは真剣に言う。
「なんてことだよおい……」
短い沈黙を破る様に、クロスが口を開いた。
「……自分の視野の狭さに改めて気づきました」
「…………えー、だって……えー。手応えないってレベルの話じゃないっスよ……」
口々に、驚きを隠せず言葉が零れ落ちる。
話題のアルテマ、レインフォール、アリスに失礼ではあるが、それくらい実力差があったのだ。
『いや、そんなもんなんですぜ本当に』
ようやく信じてくれたか、ほっとしたようにヤハタは補足を加える。
「……そうなると、今度王都に行くときにはいろいろ気を付けないとな」
クロスは以前より計画していた散策を実行するための注意事項を、脳内のメモ欄に書き足す。
トラブルに巻き込まれた際、力加減を間違えては大変なことになる。
なるべく問題を起こさないようにしなければと、クロスは改めて心構えを作った。
「王都へ行くのですか!?」
「聞いてないっスよ!」
クロスの呟きに、姉妹は似たように驚きの声を挙げる。
形相はかなり必死なもので、美人と呼ばれる顔立ちが非常に残念なことになっている。
「い、いや1か月ばかり一人旅に出ようかと……」
すっかり話すことを忘れていたクロスは、慌てて説明をしようとするが、既に時は遅い。
目をつぶっても伝わるような怒りのオーラが、こちらに向けられているのが分かる。
「す、すまん!埋め合わせはなんでもする!なんでもするから!」
思いついたのは、そんな子供染みた言葉だけ。
それでも90度の直角に体を曲げ、必死に頭を下げる。
「なんでも……ですか」
「……言質は取ったっスよクロスさん」
まるで小学生のような謝り方だったが、なんとか許しを得られたようだ。
クロスは顔色を窺いつつも、徐々に体を起こす。
「私は膝枕してほしいですね。3年くらい」
「ケーキいっぱい食べたいっス。クロスさんに馬車馬のように働いてもらうっス」
許された代わりに、帰ってからは色々失いそうだが仕方がない。
今の王都はどうなっているのか、人々はどんな暮らしをしているのか、好奇心が溢れるように止まらないのだ。
『あー、旦那。ついでに俺もそこに連れてってくだせえ』
これまた気まずそうにヤハタは声をかける。
この中での上下関係を理解しているからだろうか、アルテマ達に取るようなふてぶてしさは全くない。
「別にいいけど……どうしてだ?」
『あいぼ、……アルテマの所に戻してほしいんですわ』
アルテマという単語に、僅かにエルセとラウナから殺気が飛ぶ。
しかし、ここはヤハタの譲れない線だ。
「理由は?」
クロスは、我が子の成長を嬉しく思う親にも似た気持ちで、少しだけ意地悪な質問をする。
『…………あいつぁ、確かに自惚れの強い駄目な奴だ。だが、そうなったのは俺にも責任が有る』
アルテマとヤハタの付き合いは、今までで一番長い。それこそ生みの親であるクロスよりもだ。
アルテマの幼少期から、今に至るまでずっと、ヤハタは余計な口出しをすることなくアルテマの成長を見ていた。情が移ったのもある。
しかし、そういったものを抜きにして、アルテマはヤハタの中で大事な相棒なのだ。
『俺ぁ、あいつが俺を十全に扱えて、あいつが死ぬのを見届けたい。…………今度はちゃんと育てて見せます!お願いだ、お願いします!』
姿は武器で、横たわったままだとしても、その真摯な声に動かされない者などいようか。
「……わかった」
その答えを聞いたクロスは、ヤハタにそう告げる。
『……ありがとうございます!』
もし人間の姿だったならば、土下座して地面に頭をこすり付けて喜んでいそうだ。
感謝を込めるだけ込めた言葉を聞き、反論を挙げようとする者はいない。
「……まあ、しょうがないっスね」
「本音を言えば未熟な腕でここまでの業物は大変危険ですが……主の決定ならば異論はありません」
やれやれと言った風にラウナが言い、エルセは特に言うことはないと言葉を切る。
「さて、お願いを聞いたわけだから、ヤハタにはちょっと遊びに付き合ってもらうから」
場面転換。
先ほどまでの感謝の気持ちが一瞬で吹き飛びそうになるほど、目の前のクロスは悪い顔をしていた。
『あのー、旦那。な、何をするんで?』
「仮にも1号級のバスターウェポンに数えられるんだから。人に握られたくらいで壊れるのは、お前としても不本意だろ?」
身じろぐヤハタ。
実際に身じろいだ訳ではないが、なんとなくさっきまでの位置より後ろにズレた気がする。
「まずは勇者の剣エクスカリバー。そしてアスカロンにグングニール、更にはクラウ・ソラスにゲイ・ボルグ。神の生き血、ウロボロスの牙、熾天使の羽根。他にも色々あるぞ」
ヤハタにも大体想像が付いた。
「大丈夫だ、お前以外で実験は成功している」
『以前は強化に限界があった気がするんですがね……』
「こっちに来てから、そういう制約が緩くなってるんだよ……と言ってもわかんないか。とにかく成功するから任せてくれ」
『あああああああああ!!壊れるううううううううう!!』
クロスの両手の発光に包まれながら、ヤハタに世界中の名品が吸い込まれていった。
次でこの章は終わりです……3か月かかっとるでえ