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第10話 下準備と土台

遅いですごめんなさい許してください

「おーい、まさか本当に死んでるとは思わなかったぞ」


現在、クロスが居るのは宮殿の地下。

以前まで仲間だったドラゴンが眠る墓標の前だ。


その空間は地下とは信じられないほどに広く、頑丈な造りになっているのがクロスの素人目にも分かるほどだ。

ギリシアの神殿をモチーフにしたと言えばしっくり来るだろうか。

天井にも彫刻が彫られ、まるで神殿の中に居るかのような雰囲気を感じてしまう。

空間全体がすべて真っ白く塗られたその空間の真ん中。

正方形の形を作るように並べられた、装飾の施された4つの円柱の更に中心に、彼らの墓標があった。





「冗談じゃないよまったく。本当にどうなっちまってるんだ」


一通りスキルや体の動かし方に整理をつけたクロスが宮殿に戻ると、待ち構えていたようにエルセが現れた。

その時にエルセには一先ず休むようにと言われたが、クロスとしてはその前にやっておくべきと考えていたことがあった。嘗ての仲間達に会うことだ。


その事を伝えると、エルセは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、「そうですね、先にそちらに行ったほうがいいかも知れません」

と快く了承してくれた。


「せっかくだし、俺の今までの旅の話を聞かせてやる!!今日は覚悟しやがれ!!」


異世界に来たとようやく認識したら、いつの間にか心強い味方は3匹も死んでいた。

不安を胸中から全て吐き出してしまう機会とばかりに、彼の長い愚痴が始まった。



**






12神とまで言われた冒険者、悪魔狩デーモンハントりのメンバーことハンター達は、後の世に『終末戦争』と言わしめた、王都への悪魔進行時の防衛線とその後の『PvP世界大会』と呼ばれる最強の人物とギルドを決める大会でしか全員が集まることは無かった。

この大会より数ヵ月後、突如プレイヤーと呼ばれた冒険者、傭兵、魔法使い、呪術師などあらゆる存在が消失することとなるのだが、これは余談だ。


そのハンター達は、伝説によると皆が異様な雰囲気の仮面を装着し、皆がコートを着ていたと言う。

大戦の影響で当時急激に数を減らし、今では希少となっているその時を知る長寿な亜人達は、口を揃えて言う。


「ハンターに限らず、プレイヤー達は遊びに行くように神すら殺す化け物ばかりだった」と。


この話は大陸中の子供が知る物語のようなものだ。


その御伽噺から100年と少しばかり経ったある日のこと、再び12の魔神と呼ばれる存在が現れた。

当時の最大兵力をも容易く退ける存在、12神と呼ばれた冒険者も既に居なく、人々はやがて絶望していった。

そんな中、アルテマという放浪者は僅か2人の仲間と共に、12の魔神の討伐に成功した。

当然、国を挙げて彼女らの祝勝を行おうとしたが、彼女らの姿は既に無く、とうとう見つけるまでには至らなかった。

その功績により、未所属の身でありながら冒険者のSSランク達とも同列として扱われる程だ。

そんな二百数十年を生きてきたヴァンパイアの彼女だが、自分の2つ名の元となった初代ハンター達の格好に似せるように仮面を被り、彼らが着ていたとされるコートの変わりに漆黒のローブを身に纏っている。それは彼女が少女の頃に抱いていた高みへの憧れであろうか。本当のところは本人にしか分からない。






「ああくそ、それにしても長い道のりだ」


そんな彼女は今、呼び集めた仲間と共に馬車に乗り込み愚痴をこぼしていた。

仮面により表情は分からないが、きっともの凄く渋い顔をしているに違いないだろう。

肩を隠すような黒い長髪の髪を、落ち着き無く手で弄くり回している。


「今からそんなこと言ってどうすんだよ、日程ではあと1ヶ月しないと向こうまで付かないぞ」

『良いこと言うじゃねえかレイ。もっとこのだらしない相棒に説教してくれや』


アルテマをたしなめるレイだが、そのレイものどかな天気と長い道のりのせいか、今にも寝てしまいそうだ。絵本の中の王子様と言っても差し支えない容姿と、ミスリルの鎧姿が実に似合っているレイだが、眠気のせいか彼の魅力も若干減少しているようだ。


「レイくん眠そうー。変な顔ー」


翡翠の髪の頭頂部から伸びるアホ毛をゆらゆらと揺らしながら、少女がからかう。


「そういうことを言うな、アリス。レイの美貌を駆使した変顔ショーが終わってしまうじゃないか」


アルテマがアリスにやんわりと注意する。もちろん、多少のサド気がある彼女は弄ることも忘れない。


「顔はどうでもいいだろ!いい加減怒るぞ!!」

「悪かった悪かった。いいから落ち着いてくれ」

『クヒャヒャヒャヒャヒャ!!』


まったくもう、なんで僕はいつもこんな扱いなんだ―――。アルテマがたしなめるも、ブツブツと文句を言うレイ。この3人、仮にも2代目ハンターと呼ばれる者達なのだが、本当にそうなのかと思うほど和やかな雰囲気だ。兄弟が居間で団欒している姿と言った方がぴったりだろう。

やがてレイが落ち着いたのか、不機嫌そうな顔を作るのをやめ、今日の本題へと切り出す。


「で、龍の渓谷に行くんだろ。何を狩るんだ?」


目的地を聞きはしたが、何と戦うのかは聞いていない。

彼らは3度の飯より強者との戦いと絶体絶命を好むという、自他共に認める異常者達ではあるが曲がりなりにも人だ。かくいうレイは、以前目の前の女に巨大ミミズの巣に取り残された経験がある。

流石にその程度の敵に苦戦などしなかったが、あのヌメヌメ感と富裕層の住居ほどの巨体は非常にグロテスクな物だった。それ以来彼はアルテマに呼び出されるような面倒ごとでは確認を怠らなくなった。


「狩るやつね、ミストドラゴンさ」

「は?」

「え?」


レイだけでなく、魔法で作り出した水で遊んでいたアリスも驚いたようにアルテマの方を見た。


「そのために今これだけの戦力を集めたんだ」

「なるほど、ミストドラゴンね……くっっくっく」

「なにそれおもしろそうー」


怖気づく様子は無い。レイやアリスが知るミストドラゴンと言えば、ドラゴンの中でも1、2を争う存在と言われている。その巨体は王宮を踏み潰し、吐かれる炎は国一つ飲み込むと言われる。

そんな種族のドラゴンだが、それと戦う等と言っても、物怖じする様子はまったく無い。


仮にも彼女らは2代目ハンターだ。

気ままに世界を歩き、気ままに戦い、最後は気ままに死ぬ。

それを信条とする彼女らは、これからの戦いを楽しんでいる節さえある。


「お前達ならそう言ってくれると思ったよ」

「まあな、で作戦とかはどうするんだ?また突っ込むだけでも楽しそうだが」

「一応考えているよ、まずは……」


ガタンッ。アルテマが話し始めようとしたところで、馬車が急に停止した。目的地の中継となる村へはまだまだ距離がある筈だ。まず間違いなく何か異常があったのだろう。


「む、なんだ説明の途中に」


何か異常があったのは確実だが、アルテマに焦る様子は無い。

盗賊が現れた可能性もあるのだが、彼女らはのほほんと椅子に腰掛けるままだ。


「一応僕が確認してくるか?着く時間にしては早過ぎるし」


レイが提案する。単純に別のトラブルの可能性もある。

そう言うときはこの中で一番社交性のあるレイが行くのがいいだろうという判断の元でだ。

少なくとも他の2人には任せられない。御者の精神的に考えても。


「いいよー。私行くー」


ピョンと擬音が聞こえてきそうなほど、軽快に馬車の外へとアリスが飛び出して行った。


「あ、ってもう行っちゃった。僕も足伸ばしたかったのに」

「しかしアリスはいつになったら歳相応の振る舞いをするのかな。子供の仕草がいつまでも似合うのは正直羨ましいよ」


アリスが開けっ放しにした扉を閉めながら、アルテマが言う。

100年以上一緒にいるのに子供のままなのはいかがかと思うが、最近肌の張りに違いが出ているようにも感じる。心配なような、羨ましいような、複雑な心境だ。

同じくレイも内心では気にかけている。アリスではなく御者の精神を。


(まあ、余計に悪くなりそうな可能性はあるけど、盗賊とかなら大丈夫だろ。)










アリスがたったったったとスキップのような歩調で御者台へと向かう。

だが、そこには御者の姿など無く、代わりに騎士姿の男が乗っていた。

一仕事終わったとばかりに気を抜いているのが傍目からも分かる。


「あれー?こんなに汚い人乗ってたっけー?」


単純にアリスは自分の思ったことを口にする。

アリスの中では自分の一言に悪気は全くないので、それが余計に相手の神経を逆撫でするのだ。


「……汚いとは失礼な子供だな。お嬢ちゃん、躾が足りてないんじゃないかな」


男の言葉を切欠に、辺りの茂みから10人ばかりの男が現れる。

全員が甲冑と兜に身を包み、それがただの盗賊ではないことを示している。


この時、アリスは知らなかったが彼らは全員が元騎士で、現在は盗賊を生業としている者達だ。

最近、近くの領主から人件費削減の名の下に騎士職を解雇された者達で、隙を見て装備とある程度の金品を盗みだしたのだ。10人と少しの人数が集まり金品を売り払うも、その人数で普通に生活するという考えはもちろんある訳がなく、本当の目的は旅の人間からの強奪にあった。

そのため、彼らは少しでも金を増やすために馬車、馬など金になるならあらゆるものを売りたい。


もちろん、金になるなら人間だって売りたい。


「この餓鬼若いな……ソッチの客に高く売れそうな面だ」


先ほど茂みから現れた男が、下卑た笑いを浮かべながらアリスに近寄る。

男達からすれば、アリスは小さすぎる。だが、一目で美少女と分かるその容姿は、そういう趣味の貴族にはさぞ高値で売れるだろう。入ってくるであろう金の山を頭に思い浮かべ、男はアリスを縛り上げようとするが


バァンッ


「え?」


その声は誰が発したのか。

アリスを縛り上げようとした男の頭が吹き飛んだと理解するのに、数秒の時間を要した。


「なにすんのよー。血で汚れたでしょー」


うっかりコップからこぼれた水で汚れたかのような軽い調子で文句を言うように、アリスはドレスの汚れを手で掃う。その仕草から、目の前の少女の仕業と結論付けるのにそう時間は要らなかった。


「お、お前! 何を……っ」


バァンッ


続いて、御者台に座っていた男のセリフが終わらないうちに、彼の頭が内側から爆発した。

その現実離れした光景を見せ付けられ、残った盗賊たちは呆然と立っていた。

「魔法使いだ……」誰かが声を発したのを皮切りに、男達は現実へと戻ってくる。


「う、うわあああああああああああああああああああ!!」

「化け物だ!!」

「助けてくれえええええええええええええ!!」


蜘蛛の子を散らすように、盗賊は一瞬で逃げ出した。

恥も外聞もなく逃げ惑うその後姿に、アリスはニヤリと笑みを浮かべた。


彼らだって元騎士で、魔法使いとの戦い方くらい知っている。

的にならないように横に動き、詠唱と魔方陣展開の隙をついて攻撃する。

それが魔法使いとの戦いのセオリーだ。

だが、男達は無詠唱で魔方陣展開も無く人間の頭を吹き飛ばすような化け物との戦い方は教わっていない。この未知の存在は桁が違う。敵う相手ではない。

騎士時代から通しても、最も優秀な速度での撤退だが、現実は甘くなかった。


「逃がさないよー。しねー」


アリスは無邪気に笑いながら、虫けらを狩り始めた。











「……という考えで行こうと思うわけだが、どうだろう?」

「いや待てアルテマ。たしかにそれはそうだが……」


馬車の中の二人は、アセトドラゴンを狩るための作戦を話し合う。

戦闘……というより虐殺が始まったような音が聞こえたが、こういう時間の無駄はなるべく省いていこうと二人の議論は深まって行く。


「じゃあこんなのはどうだろう、一撃目はレイの……」

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」

「ん?悪いがもう一度言ってくれよく聞こえな」

「た、助けてくれえええええええええええええ!!」

「いや、だからだね……最初にレイが」

「嫌だあああああああああああああああ!!」

「え、なんだって?」

「だからレイが」

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ああもううるさいな!静かにしてくれないか!」


これではまったく話が進まないとアルテマが怒鳴る。

もちろん、そんな声は外の男達には届かない。

生きるために必死に、活路を探そうともがいている真っ最中だ。


「おちつけアルテマ、すぐ終わるだろう」

『ヒハハハハハハハ!相棒がまるで旦那みたいだ!ヒハハハハハ!』


宥めようとするレイと、何かに触れたのか心の底からおかしそうに笑うヤハタ。

その二つの声がミックスしたものは、、今のアルテマには煽りにしか聞こえなかった。


「ヤハタも静かにしろ!あんまり煩いとリヴァイアサンの居城に投げ捨てるぞ!」


ガシャンガシャンと腰で狂ったように笑う相棒に、アルテマは本気の拳をぶつける。


『痛っ!ヒハハハハハ!旦那だ!規模の小さい旦那だ!ヒハハハハハ!』


ゴーレム種ですら中級までなら一撃で沈む彼女の拳を受けてなお、ヤハタは笑う。

その光景は、殴った本人ですら引いてしまう程の異常さがあった。


「お、おいヤハタ?お前本当に大丈夫か?」


思わずアルテマも腰の相棒を心配してしまう。

それはレイも同じことだった。


「こいつ何があったんだ?アルテマ、お前どんな地獄に連れて行った?」


レイも本気で心配した様子だ。

地獄とは聞き様によっては相手に失礼なことだが、目の前の女の技量は自分達の中でも郡を抜いている。

異常さが分かっている相手だからこそ投げかける質問だ。


「いや、分からんが……どうやら最近懐かしい匂いを嗅いだらしい」

「匂い?なんだそれは……」

『ヒーッ!ヒーッ!』


そこまで言いかけたところで、馬車の扉が勢いよく開く。

バタン!と勢いの付けすぎた扉は、金具の限界値を超えて地面を無残に転がって行く。


「ただいまーちかれたー」


舞踏会にでも着て行きそうな上品な純白のドレスは血にまみれている。

もちろんそれは彼女のものではない、逃げる盗賊の頭を吹き飛ばして付いた返り血だ。


「うわ、アリスお前すごい臭いぞ」


そう言ったのはレイだ。

獲物の狩りで血を浴びたので臭いのは当たり前だが、とても女の子に言うような言葉ではない。

特にレイのような容姿も整っている男にそんなことを言われてしまえば、聞くものによっては暫く立ち直ることも出来ない傷を負わすことも出来そうだ。


「むー。いまキレイにするー」


頬を膨らませたアリスはそのままアルテマの横に座り、次いで指をパチンと鳴らした。

その瞬間に彼女は水に包まれ、みるみる内に汚れが取れていく。

役目を終えた水は、最後に弾けとび、消えた。


水に包まれていたはずなのに全く濡れていないアリスは、得意気にレイの方を見た。


「これでいいでしょー」


「あ、ああ。いいと思う」


なぜアリスがそんな顔をこちらに向けてくるのか分からないという様子のレイだが、困惑のまま言葉を返すことは出来た。

アルテマはそんな2人の様子を微笑ましそうに見、一応は及第点と言った様子で話を進める。


「ふむ、鈍いのも考え物だな。ヤハタの笑いも収まったようだし、御者は交代で馬車を引いていくとしよう」

『ヒー、ヒー。すまねえ……俺ァこんなに笑うのは久しぶりだぜ』


鞘と鍔をガシャガシャ鳴らし、ヤハタは周りへの謝罪をする。

先ほどまでのあまりの感情の豊かさに、笑いが終わったあとの涙目の刀の姿が幻視出来そうだ。


「落ち着いたならいいよ、僕もヤハタがそんなに笑うのは初めて見たよ」

「えーなになにー?どうしたのー?」


3人の会話にまったくついて行くことが出来なかったのは、もちろんアリスだ。


「なんでもないさ、最初は僕が御者台に行くよ」

「では任せるよ、1時間交代でいこう」

「えーなんなのー」


疑問だらけのアリスを押し込むようにアルテマも一緒に乗り込み、その姿を確認したレイは御者台に乗りながら考える。


リヴァイアサンの居城に投げ捨てるのすら規模が小さいとは、一体ヤハタの言う旦那とはどういう存在なのだろうかと。

主人公うっすううううい

読み返して練り直しはしたりしていますが、いかんせん色々な面で上達が感じられません。

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