第9話 運動の仕方
皆さんお久しぶりです。
季節だけではなく生活も新展開を向かえる時期ですね。
ある意味非常に充実した月です。
私も非常に充実した毎日を過ごしました。
今後の物語の参考にと買ったゲームがおもしろくてカンストさせるまでやり込んだり、車に轢かれたり、毎日が新しい体験の連続でした。
茶菓子もほどほどにし、クロスは一人、宮殿の外の森に来ていた。
大太刀を抜き、いつものフワフワとした彼の空気は影を潜めている。
「ふっ!」
右足の踵を2回鳴らすという奇妙な動作を加え、大太刀を縦に振り抜く。
その動作で、周りの空気が震え、木に隠れていた鳥達が飛び去って行く。
並みの冒険者ならば、それだけで敗北を覚えてしまいそうな素振りだったが、当の本人は首を傾げていた。
「う~ん」
地面にしゃがみ、頭を悩ませる。
(やっぱりシステムアシストが消えちまってる…………)
システムアシストとは、この場合は特定の動作や、設定された攻撃をすることで、仮想空間での自分の体をコンピュータが自動的に動かしてくれるものである。
元々はスキルの発動で使われていたシステムであったが、一般の攻撃の動作にも組み込まれていたりする。代表的なのが、攻撃回避の基本であるステップ等だ。
特定の動作をすることによりシステムアシストを発動させ、コンピュータに体を動かさせて設定された連続攻撃を仕掛けることが出来る。それは運動が苦手な人や、初心者救済のための処置でもある。
またこのシステムアシスト、自分で設定した動きを組み込むことも出来た。
このため、ベテランのプレイヤーになればなるほど、モンスターや対人での戦闘においてシステムアシストを利用した攻撃は奇抜なものになっていく。
対人での戦闘ではシステムアシストを活用した技の開発が盛んに行われていた。
奇襲やチェインなどで非常に優秀な性能を誇ったシステムアシストだったが、設定された動きを終えると一定時間行動不能になるというデメリットもある。
モンスターの討伐において手数をなるべく多くしたかったクロスは、一定時間行動不能というデメリットを嫌い、システムアシストを活用することは稀であった。
(いや、こっちが現実なら仕方ないんだろうけどさ…………)
もともとシステムアシストに頼ることなど、ほとんど考えていなかった訳だが、長年あったはずの物が無いというのは心細さを感じさせる。
「問題はパリイか」
クロスの戦闘スタイルの根幹とも言える物だ。相手の攻撃を受け流し、少しの間だけ敵を怯ませて大打撃を与える。それがヴェルトオンラインでのパリイだ。
ヴェルトオンライン時代は、レアアイテムである『無謀なる者の指輪』の効果、「魔法攻撃を武器で受け流すことが出来るようになる」と併用し、盾を一切使わない戦い方をしてきた。
近接戦闘はパリイで、魔法使いとの戦いでは一撃を弾き、パリイ成功、魔法発動後の行動不能時間を狙い攻める。そんな戦い方をしてきたクロスだったが、それはあくまでもゲームの話だ。
ここは現実で、行動不能時間なんてものは設定されていない。
魔法には発動後のタイムラグなど無いかもしれないのだ。
例え、魔法使い上級職の『ダークロード・マジシャン/魔術の帝王』や『ウォーロック/大魔導師』のような連中が来ても、ゲームであればクロスには勝つ自信がある。
だが設定や縛りなど一切存在しない現実世界という場所に置かれた時、そんな自信は一気に霧散する。
もし、魔法発動後のタイムラグが存在しなかったら―――。もし、弾こうとした魔法の威力に負けることがあるならば―――。
考えるだけで怖い。特に弾こうとした魔法の威力に負けるなんてことは十分にありえる。
なぜならばヴェルトオンラインでは、魔法を弾く時のいわゆる重さと言うものは全て一律だったからだ。
ヴェルトオンラインではスポンジ程度の重さに考えていたのに、現実世界では鉄球の威力かもしれない。
また、近接戦闘でも同様に問題が発生する。
例えこちらで言うパリイを成功させたとしても、相手が簡単に怯むとは考えにくい。
受け流したとして、そこから相手が新しい動きに繋げて来る可能性の方が十分にある。
「難しいな……」
そこまで考え、クロスはため息をつく。
そんな敵と戦う時の想定より、そいつらと出会ったとしても怒らせないようにしよう―――。
普通に生活するのならばモンスター以外と戦うことはないのだし。
そう結論付けて、クロスは一先ず考えることをやめた。
*
ミュソレイ王国内において、最強のパーティはどこだろうという話題があった。
ある者はストライカーと、ある者は黒翼の空と言う。
ここで名前が挙がるパーティは確かに強者ばかりだが、個人個人で考えるとしたらどうなのだろう。
今、名前が挙がったパーティはこの世界のマップを広げるために飛び回り、そこで出会ったレッドタイガーのような、普通の冒険者が考え付く強者たるモンスターを複数で倒す。
そんな戦い方を基本としている。集団で挙げるとしたら、確かに彼らは最強かもしれない。
だが、パーティではなく、全ての人間の中でと言われると、まったく別の名前が挙がる。
彼らは集団で群れることを好しとせず、どこのギルドにも属さずに活動していた。
ある時は一人でドラゴンの群れに戦いを挑み、ある時は一人でダンジョンの攻略を達成し、ある時は一人で黙々と己を鍛え上げる。またある時はその一人者達が集まり、パーティを組んで無謀な戦いを挑む。
その自由気ままな生き方は、300年ほど前に王都に進行してきた魔神と、その魔神の軍勢に寝返った冒険者たちを纏めて退けた12人の神格化された冒険者達に重なり、畏怖と尊敬の念を込められて、こう呼ばれた。
2代目ハンター達と。
『クヒヒヒ!またメンドウな仕事じゃねえか相棒!!』
「そう言うな、私もこの所暇でな。体を動かしたい気分なんだよ」
声を聞く限り、若いであろう男女の会話が昼間の酒場兼喫茶店で行われている。
聞くだけで気分を害しそうな男の笑い声であったが、不思議と周りの席の人間は無関心を決め込んでいた。いや、無関心の割には自分達の話に集中している様子でもなく、どちらかと言うと静かにすることに集中しているように見える。そんな静寂と言ってもいい昼の酒場で、男女の声だけが響き続ける。
『クヒャヒャヒャ!だんだん相棒も旦那に似てきたなぁ!お兄さん悲しいぜ!』
男の声が響く度に、鉄がガシャガシャと擦れる音が響き渡る。
それもそのはず、男の声は女の腰に紐で吊るされた大太刀から聞こえていた。
普段は背中にかけているものを、休憩中のために腰まで降ろしているといったところか。
「ほう、お前の初代使い手に似てきたとは……喜ぶべきかな?」
女は黒いローブで全身を覆い、顔を隠すようにフードを目深に被っている。
酒よりも会話に興味があるのか、彼女の目線は男の声がする刀へと向けられている。
『喜ばねえ方がいいぜ!なんたって旦那はお前らより頭のネジが飛んでやがるからなぁ!クヒヒヒヒヒ!!』
「そうか……しかし珍しいな、お前が昔話なんて」
『なんか懐かしい匂いがしたんだよ……よく分かんねえけどな』
「そうなのか?」
『そうなんだよ、クヒヒヒ』
実のところ、彼女の相棒たる大太刀が昔の話をするのは非常に珍しいことだった。
彼の言う『旦那』という存在が、彼の最初の使い手であることは知っているが、それも今までの長い付き合いの会話の中で知ったもので、その者の名前どころか、どんな人物像かさえも分からなかった。
もっとも、元はただの無銘の刀だった物を旦那に半ば魔改造されたと、大太刀の本人が愚痴っていたので、その腕前から名のある鍛冶屋だったのではないかと彼女は推測している。
「お前の機嫌が良い今だから訊いてみるが……なぜお前は喋れるんだ?」
彼女の長年の疑問の一つだ。せっかくの機会なのでぶつけてみることにした。
『ああん?よく覚えてねえけどよ、喋る魔剣と融合させられたんだよなぁ』
「は?」
『だから、喋る魔剣と無銘の刀の俺を合体させたんだよ』
「おかしくないか?それならば喋る魔剣の方が普通は話すのではないのか?」
彼の説明だと、物の全てに人格が存在していることになってしまうのではないか。
彼女の今までの常識を一気にぶち壊してしまいそうな爆弾発言が大太刀から飛んでくる。
『知らねえよ。合体したらなんか突然目覚めた感じになって、それで刀と魔剣の記憶が流れ込んできたんだよ』
刀の記憶の方が鮮明に思い出せるから、そっちが俺の主人格だったのかなと勝手に判断しているだけだ。
と大太刀は付け加えて説明する。
「なるほど……。つまりお前は結局どっちの人格なのか分からないんだな」
一人納得したように女は首を縦に振る。
『いやまあそうなんだけどよ!クヒヒヒヒ!』
ガシャガシャと鍔と鞘が擦れて金属の音が響く。
かなりキツイ事を言われている筈なのだが、大太刀は笑うばかりだ。
会話を一先ず止め、女は酒に手をつけようとするが、ふと外からこちらへの視線を感じ取った。
敵意や殺意の類ではない。
女が視線を辿るように窓の外を見てみると、何人かの知っている顔が集まっていた。
「待ち人が来たようだね。行くとしようか、ヤハタ」
『そうだな、アルテマ。クヒヒヒ!!』
ローブの女は懐から取り出した仮面を被り、酒場を後にする。
すると、とたんに酒場の空気が柔らかくなった気がした。
ある者は冷や汗を拭い、ある者は今までの緊張を吐き出すようにため息をついた。
その中で客の男が、呟いた。
「あれがハンターか……。怖いな」
「俺なんか死ぬと思ったぜ」
女相手に何を言っているんだと笑う者は一人も居なかった。
なんか登場キャラが似たような服装なのに加えて主人公のキャラが薄い……。今後は色んな服装増やしていきたいです。
日本語不自由に加え、更新遅くてすいません。