プロローグ 冒険の条件
初投稿です。
表現など、指摘があればドシドシお願いします。
※オンラインの名前、それと一部修正しました。
本日は快晴。
太陽の日を反射する草原と、そこに立つ一本の雄大な巨木には、見る者全てを包み込むような暖かさがある。
その木の下、木陰で3人の人間が武器やアイテムのチェックを行っていた。
見る人が見れば驚くであろう。その装備は玄人なら攻略wikiで一度は欲しいと思ったことがあるレアな物ばかり。持ち主のレベルの高さが伺える。
ちなみにこの3人のレベルは999、まだこのゲームでは人数の少ない、カウンターストップに達したプレイヤー達だ。
「じゃあローションさん紳士さん、そろそろ出発しようと思うのですが……」
そう提案したのは全身白銀の鎧に包まれ、金の長髪を後ろで一まとめにした細身のエルフ。残念ながら男だ。そんな彼は、エルフの中でも中々に整っている部類だろう。威風堂々としたその姿は、国王や教会に仕える聖騎士の様だ。
しかし悲しいことに、ここはバーチャルの世界。
キャラメイキングによりキャラクターの容姿は自由に弄れる。
ゲーム内のキャラの容姿と、中の人の容姿が必ずしも一致するとは限らないのである。
「あァ、私は問題ありませんよォ」
間延びした口調で答えたのは、ローションと呼ばれた男。
もちろん本当の名前ではない。
そして外見は、言わずもがな液体である。
種族はスライムだそうだ。感情が現れた時や話しているときは、その液体のような全身がぷるぷると揺れる。
「え!? ちょ、もうちょっと待ってください!」
おおげさなリアクションをとったのは、紳士と呼ばれた細身の男。
本当のハンドルネームはジップの紳士だが、周りの親しい友人からは『紳士さん』の愛称で親しまれている。白いのっぺりとした、軽薄な笑みを浮かべた仮面を被り、素顔は分からない。グレーのストライプのスーツに、ネクタイをしている。
黒髪の人族だ。
「あー、これはいらない。こいつはアイテムボックス……うわっ!銀狼の肉が腐ってやがる!」
仮面を付けた男が肉を捨てる光景は非常に奇妙なものがある。
無造作に投げ捨てられた肉は、光の粒子となり、地面に打ち付けられる前にサラサラと消滅した。
*
「ふう……。もう大丈夫です、スラッパーさん」
それから5分後、ジップの紳士が黒のロングコートをスーツの上に羽織り、聖騎士改めスラッパーへと声をかける。
「了解です。……それでは紳士さん。お願いします」
「それじゃ呼びますね」
紳士は懐から笛を取り出し、ピーッと吹く。天まで届きそうな美しい音が、耳に心地よく響いた。
そして、笛の音を合図に、風向きが変わった。
バサバサッと風を切る音がする。
ゴオオオオォォォォッ
先ほどまでの安らぐ音とは違い、耳に痛い音だ。
飛行機のそれより遥かに大きな音と共に、1頭のドラゴンが彼ら3人の頭上を旋回していく。
『行き先を、我が主』
ドラゴンが問う。頭に直接響いてくるその声には、ドラゴンたる存在の確かな存在感があった。
「ヴァルハラ」
竜の主であるジップの紳士は、明るく行き先を告げた。
VRMMORPG
脳に直接映像を働きかせ、まるで本当にキャラクターの体を動かすことが出来るかのようにした、まったく新しいタイプのゲームだ。
その技術の開発と進化は素晴らしいものであり、最初は映像だけだったものが発売から数年でついに五感の再現までに至った。
当然、ゲームをするために必要な専用機器等は非常に高価であったが、ゲーマーだけでなく海外の医療機関や軍の人間にも興味を持たれ、裏からの資金援助を受けて開発は進んだ。
価格が発売当初の4分の1以下になった上に、五感も再現されたゲームは爆発的に人気となった。
もちろん人数が増える分、トラブルも増えたわけだが……。
そして現在、数を増やしてきたVRゲームでも特に人気なのがこの『ヴェルトオンライン』である。
『ヴェルトオンライン』の人気の理由は様々で、モンスター討伐によるレベル上げや冒険者、盗賊、傭兵等々ギルドの所属先は基本とし、職で鍛冶や商人、料理人となり店を経営したり、はたまた貴族や王国に仕える聖騎士団で依頼を受け、働くことができたりする。
それぞれの鍛冶スキルや調理スキル、片手武器スキルなどは職関係なく上げることが可能だが、職ごとにスキルの伸びやすさは違う。
ウォリアーの職についた者は、魔法使いの呪文スキル等が上げにくく、逆に大型武器のスキルは非常に上がりやすいといった感じだ。
やりようによっては、全てのスキルを上げた万能型キャラも作ることが可能だが、スキルの決められた上限値のせいで大抵は器用貧乏に終わるため、どれかの特化型キャラに落ち着いてくるのが普通とも言える。ついでに言うならば、職を極めた先で手に入れることができるEXスキルの入手が不可能になってしまうため、やはり特化キャラが安定してしまうのだ。
レベルの上限を迎えてSTRやAGIを上げることが出来なくなっても、スキル……またはアーツと呼ばれる個人の技の値の上昇もある。スキルが正式な方であるが、アーツと呼称されるようになったのは、既にスキルが別の名称として使われているため、紛らわしいという理由からだろう。
個人値の上昇とは、STRの上限で攻撃力が上がらなくても、スキルである回し蹴りを発動し続ければ、回し蹴りの威力はステータスに縛られずに上昇して行く、ということだ。もちろん、威力の上昇にも限界はあるが。
スキル……アーツは3つまでしか枠にセットできないが、その縛りこそが、プレイヤー達を楽しませる良い材料となっている。
操作性であるが、コントローラーと言ったものは一切使わず、実際に体を動かすようにキャラクターを操作するという操作性の変革により、単純なレベル差での力の差は付きにくくなった。
例えレベルが相手より上でも、スキルの差と単純な反射神経と運動神経の違いで、戦いの流れが大きく変わるからである。
もちろん、反射やら運動神経といったモノが優れている人物は、自分より上位に位置する者を撃破することも可能だ。しかし、逆はどうだろう。
運動神経が極端に悪い人間は、どういった立ち回りをすればいいのか。魔術師や、召喚師のような後衛職に就くしかないのか。いや、そんなことは無い。
確かにスキル……アーツはスロットに3つまでしかセットすることができないが、それは戦闘に使う必殺技のようなものに限る。身体をコンピュータにより補佐し、自動で体を動かしてくれるシステム……システムアシストによる、回避の基本動作であるステップや、指定の動作をすることで自動的に攻撃を発動させる連撃技は、3つのセットだとかの枠に囚われず、プレイヤーの好みに合わせて組み合わせることが出来るからだ。
これにより、運動が苦手な人物であろうと、ある程度の立ち回りを確立することが出来れば前衛職でも充分に通用するのである。
ちなみに、キャラに覚えさせた動きは、別の動作にいつでも上書きをしてもいいようにとゲーム内で保存することができる。初心者はこれを購入しておけという動作のアシストがゲーム内のショップで販売されているため、今後の冒険活動では購入は必須とも言えるのだ。
もっとも、あまり多く設定しても、プレイヤー自身が扱いきれないということが起きるため、理論上は無限に設定できるシステムアシストも、数はこれくらいだというテンプレートができていた。
他にはプレイヤーと扱う武器にもアビリティというものが存在するが、これは蛇足だ。
そして、そんなモンスターの討伐などせず、街や安全な湖で釣りをするもよし。トランプや将棋をしてもよし。
一日中カジノでギャンブルも出来るし、現実では高い酒の味も安価に疑似体験出来る。
そのような特徴から、若者だけでなく老人や中年の大人にも大人気となったのである。
いや、むしろ老人といった高齢者のほうが多いかもしれない。
一度紳士が「なぜこのゲームを始めたんですか」と齢95のおじいちゃんプレイヤーに話しかけたところ、
「若い頃みたいな動きが出来るからに決まっとるからじゃろうが!!」
と目を見開き、中身おじいちゃん、見た目ネコミミメイドのロリっ娘獣人さんに叫ばれたのはジップの紳士の記憶に新しい。
もう寝たきりの老人が再び動ける体験を出来るというのは、やはり素晴らしい技術なのだろう。
のんびり遊び、酒を飲むだけも良し。モンスターを狩るガチのプレイもよし。
それが売れる理由だ。
がんばるよー




