カップ麺野郎 小南
もうホント意味分かんないです。
「今日はシーフードでも食べるか・・・」
小南はいつも通り昼食の用意を始めた。
お湯を沸かしている間に、カップ麺のほうの準備をする。
フタを半分まで開けて中からスープの素とかやくを取り出し、スープの素を麺の上に振り掛ける。
ピー。
お湯が沸けたようだ。
お気に入りのキッチンタイマーを3分にセットしてお湯を入れた。
瞬間に寸分の狂いもなく、コンマ1秒の誤差もなく、タイマーのボタンを押す。
ここまで徹底するのは小南がカップ麺を3分ピッタリに食べる主義だからだ。
後は3分待つだけだ。
ホッと小南が息をつくと
「今日も勝負だあああ!」
突然、霧崎が窓から叫びながら乗り込んできた。
小南は困ったような、諦めたような態度で「今日は何をするんだ」と訊いた。
「今日はトランプの7並べで勝負だ!」
「!? 7並べは時間が掛かり過ぎないか」
何度も言うが彼のポリシーは3分ピッタリにカップ麺を食べ始める事。そんな長ったらしいゲームをやっていたらカップ麺を3分丁度に食べ損ねてしまう。
「どんな勝負でも受けてたつと宣言したはずだぞ」
「くっ・・・」
そういえば三日前、調子に乗ってそんな事を言ったような気がする。
小南は軽々しく発言をしたことを後悔した。
「いいだろう。その代わり、ルールはこちらが決めさせてもらおう」
「それは認めてやろう」
「普通の7並べのルールに加えて、一人一秒以内に出さなければ負けと言うルールを加える」
「いいだろう。・・・当然、いつも通りお前が負けたらカップ麺は俺が頂くからな!」
タイマーは残り二分少し前を表示している。一人一秒ルールならば間に合う事は確実だ。だが時間以外に小南は霧雨に勝たなければカップ麺を食べられてしまう。
昼食の自分のカップ麺を他人に食べられること。
それは彼の誇りを傷付ける事と同意義なのだ。
つまりこれは小南の生死が分かれる戦いなのだ。
7並べだが。
「カードを配るぞ」
この霧崎の発言を小南は笑った。
「な、何が可笑しい!?」
「良く手元を見てみな」
霧崎は言われた通り手元を見て驚愕した。
「何ぃ!? 既にカードが配られているだと!?」
「さっさと始めるぞ。7を出せ」
「先行は私のようだな・・・」
「では」
「では」
「ダイヤの6!」
「ハートの8!」
「ダイヤの5!」
「スペードの6!」
「スペードの5!」
見る見る内に各マークの並び数字が揃っていく。
「クローバーの9!」
「クローバーの4!」
「スペードの12!」
「スペードの1!」
「スペードの2! スペードは終了だ!」
霧雨はそういってスペードのカードを一瞬で片付けた。
「ハートの2!」
両者共に一人一秒ルールを守るべく考えないで直感でカードを並べて いた。
しかし遂に霧雨は場の微かな違和感の意味に気付いた。
(こ、こいつ・・・。ダイヤの8を出していないだと・・・)
ハートシリーズを順番に並べる間に出来た刹那に霧雨の思考がフル回転する。
(自分が持つダイヤは9から12まで。つまり、小南がダイヤの8を出さない限り、自分は和了れない)
思考はまだ止まらない。
(しかし、それは逆に小南がダイヤの13を出せない事を意味しているわけだ・・・)
つまり
(こいつ何を考えている・・・?)
出せないカードが続けばパスをしざるを得ない。
霧雨が4枚の並び数字を持っている時点で、プレイヤーがパスを宣言できる3回分のパスは使い果たし、小南は負けてしまうのだ。
(負ける気でいるのか・・・? ・・・!)
ハートを出し終え、霧雨の手札はダイヤの9,10,11,12だけになった。
「クローバーの1!」
「パス」
霧雨はこのターンではやむを得ずパスしたが、場のカードの空きを見れば一目瞭然。3回も霧雨にパスさせる事は不可能だ。
「ダイヤの2!」
「パス」
霧雨にパスさせられるのはこれで最後である。
(終わったな・・・)
――――その時。
カードを置いた小南の口元がニヤリと笑った。
(なっ!?)
「負けたのはお前だよ!」
小南はダイヤの8を置く。
「ま、負け惜しみも程ほどにするんだな! その手札では俺の9~12コンボは防げない!」
「できるんだよ!」
「何!?」
小南は、霧雨が出したダイヤの9と反対側に一枚のカードを持っていった。
ダイヤのエース。
「・・・・・・まさか!?」
「その通り! 7並べの特殊ルールで、マークの片方どちらかが揃った時に、その反対側は7とは逆、つまり! ダイヤの13から置かなければいけないのだ!」
霧雨が場を見れば、空きの残りはダイヤの10~13。霧雨の手札は101112である。よって
「パ、パス」
霧雨のパス宣言と同時、もしくはそれよりも早く小南の右手が空を切った。
ダイヤのキング。
小南がトランプを箸に持ち替え、カップ麺のフタを開け切った。
ピー。
「丁度三分だ。頂きます」