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婚約破棄をし平民の女学生を婚約者にした王太子が王になった話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/10/23

「ヘンリー、いた?」

「マリー、いないね」



 ここは王宮の庭園、執事とメイドがある貴人を捜索していた。

 二人は王宮に仕える身。

 厳重な身許照会をされ。貴族の身許保証人がついているが・・・



「全く、あの平民女には困ったものね」

「ああ、王太子妃候補なのに・・・授業をサボるとはな」



「「全く仕事の邪魔しないで欲しい」」



 忙しい中、予定外の仕事を振られて腹に据えかねて言葉に出てしまった。



「貴様ら!何を言っているかぁ!」

「ヒ、ヒドいわ!」


 草むらから二人が出てきた。

 話題の王子と真実の愛の相手、平民デイジーである。



「ヒィ、殿下、申訳ございません!」

「デイジー様、すみません」



「全く、父上に言いつけるぞ!」

「「はい・・・」」




 ・・・全く、デイジーが平民だからって侮るな。

 そうだ。どこか伯爵家の養子になれば・・・



「あの殿下、お呼びでございます」


「メルダ夫人だろ?デイジーの良さに気がつかずに叱ってばかりだ。デイジーに貴族教育は不要だね」


「いいえ・・・陛下でございます」

「父上、まあ、丁度良かった。意見具申をする」




 ・・・私は王太子ゲルマニア、未来の王だ。

 婚約者は貴族令嬢だったけど、断罪して婚約破棄をしたのさ。

 彼女はいつもデイジーに辛く当たっていた。


 デイジーが平民だからって・・・・

 執務室に向かっていると見知った顔がいた。



「ダグラス!何故、ここに来ている?」


 父上の執務室に向かう廊下ですれ違った。執務室から来たようだ。彼は貧乏王族で本来ならここに来る理由はない。

 しかも、公爵令嬢に味方した男だ。



「ゲルマニア殿下、陛下に呼ばれました」

「フン、どうせ大方金策であろう」


 それとも、私に反目したから早めの謝罪かな。



 執務室にデイジーと共に入った。

 父上は優しい。いつもニコニコしている。


「ゲルマニアとデイジー嬢、座りなさい」

「はぁ~い」


 もう、義理の娘扱いだ。



「デイジー嬢、教育は進んでいるかな?」

「それがぁ~、先生怖くてぇ」


「ほお、そうか」

「父上、教育係を変えて下さい」

「分かった。そうしよう」


「それとどこか適当な伯爵家の養子にするべきだ」

「考えておこう」



 それから教育係に若い男爵家出身の婦人がついた。



「まあ、デイジー様、計算出来て素晴らしいですわ」

「エヘヘ、これでお釣り誤魔化されなくてすむわ。いつも誤魔化されて兄から会計をするなと言われていたの」



 見たところ笑顔を取り戻したようだ。

 お釣りなんて、王妃が心配する事ではないのに・・・



「さあ、デイジー様、初等教育は終わりですわ。次は中等部を学びましょう」

「ええ、お釣りが計算出来たらいいわぁ」


「必要ですわ。数学は理論的思考が出来ます。数学以外にも損得関係の計算が出来ますわ」


「分からないわぁ、でもきっと必要ないものですわぁ、だって、クラウスがいるもの」


「ご自分で考えるべきです。誰か味方か敵か・・・味方にするにはどうしたらよいのか・・・」


「それを考えるのがクラウスの仕事よ」



 クラウス、側近候補だ。宰相の令息で鋭利な損得勘定が出来る。

 その通りだ。

 だから、デイジーの言う通りにするように言った。


「先生、デイジーの言う通りだ。平民の感覚を忘れてしまうかもしれない」

「まあ、左様でございますね・・・」



 そうだ、未来の王と王妃として仕事をして威厳を示そう。


「デイジー、王宮を回って平民感覚で意見をしてよ」

「はあぁい」



 王宮内を回る。

 デイジーは鋭い平民の感覚で使用人達に注意する。


 厨房では・・・


「ああ、イモの皮が厚いわ。もったいないわ!」

「デイジー様、このイモは芽が毒でございます。取り除かなければなりません」

「もお、ヒドい」


「料理人、デイジーの言う通りにしろ!」


 また、衛兵の控え室では・・・



「キャア、何で、こんな所に女優の姿絵が張ってあるの!不謹慎よ!」

「デイジー様、ここは休憩室です。女優の絵を張るのは黙認されております。勤務の合間の一時の憩いでございます」


「ヒドい、はがしなさい!」



 様々な指摘を行った。


 回廊を歩くと使用人達は道を譲り礼する。

 デイジーは王太子妃として認められつつある。

 しかし、向こうから公爵令嬢マリーネがやってきた。



「マリーネ!道を譲れ!」


 すると、マリーネは無言で道を譲り回廊の脇でカーテシーをした。


「マリーネ様ぁ、フフフフ、仲直りです」

「はい、デイジー様、今は王太子妃候補、王家へ忠誠を誓う身としては是非もございません」



 マリーネは今年から導入された平民学生枠の教育係を務めていた。

 デイジーにだけキツく当たっていた。


 こんなことを言っていた。


『無試験で入ったからと言って勉学を免除されることはございませんわ』

『デイジー様、勉学についてこれない平民の皆様のために勉強会を開いておりますの。是非参加して下さいませ』




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 いつも、これだ。上から目線でデイジーを馬鹿にする。

 今は逆になったけどね。


「マリーネ様も反省されたのね。嬉しいわ。どうして来られたの?」

「はい、殿下との婚約が解消になったことを王妃殿下にご報告に参りました」

「フフフフ、マリーネ様ならきっと良い人が現われるわ。でも、笑顔を出した方がいいわ」

「デイジー様の助言、有難く受け取りましたわ」



(この、ウェイトレスあがりが・・・)


 デイジーがマリーネに教育していたら、小声で悪口が聞こえた。デイジーの出身についてだ。

 デイジーは街のウェイトレスで一目惚れして、両親を説得して学園に入ってもらったのだった。


 使用人が言ったらしい。群れに隠れて悪口を言うなんて卑怯だ。

 でも、マリーネを庇うとはおかしい。

 公爵令嬢なのに、デイジーの方が身分的には近い。




「誰だ!」

「ゲル様、どうしたの?」


 どうやらデイジーには聞こえなかったようだ。


「さあ、皆様、職務にお戻り下さいませ」


 マリーネの一声で使用人達は去った。

 叱る機会を逸したな。



 そうだ。マリーネが母上に会ったということは元気になったのか。

 私達も挨拶に行こう。

 でも、あんなに怒っていたからクラウスに策を練らせよう。


 だが、宰相に会ったら、クラウスは病気になって・・・



「殿下、クラウスは病死しました」

「え、そんな。何で報せてくれなかったの!」


「はい、顔は醜く腐敗も激しくとてもお見せする物でもありませんでした」

 おかしい。

 そうだ。母上に会うのは延期しよう。


 未だに食事は別々だ。



「殿下、今日はデイジー様のご要望通り。イモは薄く剥きました」


「わぁい。嬉しいわ。ではイモから食べるわ」

 ナイフを刺して口にイモを運ぶ。


 無作法だが可愛い。でも危ないから注意した方がいいかな。


「次はステーキね。こんなの・・・・ウウ、ハア、ハア」

「デイジー!」



 デイジーが苦しみだした。

 遂に毒を盛られたか!


「おい、医者を呼べ!」

「はい、お呼びします」


 だが、料理人は慌てない。


「おい、貴様が盛ったのか?父上に言って縛り首にするぞ!」

「あの、デイジー様の言った通り毒芽付近も浅く剥きましたが、その結果です。ご説明したはずですが・・・」


「なんだと!覚悟しろ!」


 デイジーはその後、亡くなった。


 遺体は両親が引き取りに来た。


 死因を知っていたが・・・


「ご両親、告発しましょう!この無念晴らして差し上げますよ!」


 だが、デイジーの両親、兄は首を横にふった。

 兄は私を睨み・・・


「守るといったのに・・・殿下!どうして知らせてくれなかったのですか!南方イモなんて出回っていません。知らなかったのですよ!」


 確か、救荒作物としてマリーネの発案で普及のために貴族から食べるべきだ。と提案したのだっけ。



 そうだ。マリーネが画策したのだ。

 デイジーを暗殺してまた私の婚約者に戻りたいのだな。



「衛兵!マリーネを逮捕せよ」

「殿下、印璽は陛下が持っておられます」


「なら、父上に頼む!」



 父上の執務室に行って事情を話したが・・・即位の話を切り出された。


「うむ。ゲルマニア、即位せよ」

「え、父上、もう?まだ、早すぎます」


「いいや、称号は王だ。離宮を用意する。その敷地内の王だ」


 え、それではこの王国は・・・


「父上、王族で男子は私だけです。王統は途絶えます」


「ダグラスを養子にしてマリーネ嬢と結婚させる。この国の王太子夫妻になるな」


「そんなことできる道理がありません。私がいます」


「知らないのか?王族の男子が途絶えた三代前に傍流王族であった我がシュタインハット家が継いだのだ。

 どうして我が家門だけ例外と言えよう。王族法を勉強したか?」


「えっ」


「王太子は亡くなったか。著しく不適合な場合は交代できるのだ」



 私が不適合!


「父上!」


「衛兵よ。連れて行きなさい」

「「「御意」」」



 私は離宮に移された。と言っても小さなカントリーハウスだ。


「ゴホ、ゴホ、どうも陛下、散歩の時間ですよ」

「ああ・・・」


 老人ばかりだ。

 メイド長も老人・・・



「陛下は平民がお好きなようなのでお父様から釣書が来ていますよ」

「もお、良い・・・」

「まあ、この後の人生長いですわ。伴侶がいないと・・・」


「いないと・・・」


「寂しさで狂い死にますよ。デイジー様に似ている自由奔放な娘が陛下と結婚しても良いと申しております」


「そうか・・・なら会う」

「その前に断種の手術をさせてもらいます」


「断種!」


 ああ、どこで間違った。私とデイジーには味方はいなかった!


「独りの方がマシだ!」




 王子は味方がいなかったと憤慨したが・・・

 実は王宮内に1人だけいた。




 ☆☆☆王宮



「デイジー様は私の生徒、もっと学問の必要性を訴えとけば良かったわ」


 デイジーの教育係没落男爵家出身の家庭教師だった。

 彼女は24歳、この世界では嫁入りの期を逃し家庭教師で生計を立てる数多くの独身女性の1人だった。


「せっかく王宮に雇われたのに・・・デイジー様が生きていれば私は王宮に残れたのに」


 荷物をまとめていると王妃殿下が部屋を訪れた。


「ヒィ、王妃殿下ご挨拶申し上げます」


「貴女は職務に忠実だったわね。褒美として近衛騎士とお茶会をして頂きますわ」


「え、でも結納金がございません」

「あら、私が出させて頂きますわ」


「は、はい!でも何故?」

「デイジーは自らの味方を認識出来なかったわ。それ故消えた・・・王妃になれる器でないと確信出来たからよ」




 ・・・年代記ではこの年から学園の平民の無試験特別枠は撤廃されたとだけ記載されている。




最後までお読み頂き有難うございました。

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