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「骨董品」と笑われた旧式召喚士が、最新魔導を圧倒する件 ~5Gは速い? 知るか! 俺のV-H-Sは『物理』で書き換え禁止(ツメ折り)だ!~

作者: 家守 慈絵夢
掲載日:2026/05/14

王立魔導学園の演習場は、冷笑と爆笑に包まれていた。


「おいおいゼノ! お前、まだそんな『骨董品』を使ってんのかよ!」


金髪のエリート召喚士クロードが、最新の召喚宝珠『第五世代・星霊門(フィフス・ジェネレーション・アストラルゲート)通称...5-G』を見せびらかす。

「僕の5-Gは星霊界と常時接続し、詠唱すら自動で補完してくれる。君のような手動のガラクタとは発動速度スピードが違うんだよ」

彼は淀みない光で美しい氷狼を喚び出して、ドヤ顔を決めている。


対する俺の腰には、黒曜石と金属でできたデカくて無骨な箱――黒の魔導器『可変式魔術配列器ヴァリアブル・ヘックス・シーケンサー...通称V-H-S』が鎮座していた。


「笑いたきゃ笑え。詠唱すっ飛ばせるのはそっちだけじゃねぇ!」


俺はローブから分厚いカートリッジを引き抜き、ガチン! と叩き込んだ。

召喚術式が刻まれた『魔導帯テープ』を物理的に読み込むこの魔導器は、起動さえすれば大魔道士クラスの召喚を瞬時に行える。


「消し炭になれ! 『バーニング・ドラゴン』!」


重苦しい駆動音と共に召喚陣が展開され、飛び出したのは――巨大な竜の尻尾と後ろ足だけだった。


『ギャォォ……プスッ』


「……は?」

竜はわずか数秒だけ姿を見せると、プスンっとあっけなく消滅してしまった。


「やっちまった!! 前回使った後、巻き戻すの忘れてた!! これじゃ術式の最後しか出ねぇ!」


「くははは! なんだその間抜けなトカゲの尻尾は!」

クロードが腹を抱えて笑う。俺は焦って魔導器のレバーをガチャガチャ弄るが、動作不良で動かない。


「くそっ、止まれ! 竜の召喚術式の『続き』には……!」


俺のヤケクソの叫びも虚しく、魔導器の中で魔導帯テープは無情にも回り続ける。

そして激しい魔力干渉(砂嵐)と共に、召喚陣から魔法陣へ切り替わった。


『うっふ〜ん♡ 寂しかったあ?』


際どい衣装に身を包んだ、やけに輪郭のぼやけたサキュバスが射出された。


(やっぱりこのタイミングかよ!!)

俺は血の涙を流した。エロ親父が、俺の最強の召喚帯の余白に『歓楽街の幻影魔術』を書き込みやがったのだ。巻き戻しを忘れると、竜の尻尾の直後に必ずこれが発動されるという最悪のクソ仕様である。


「な、なんだこの破廉恥な幻影は! 見せるな! 僕のピュアな眼を汚すなあああ!」


……しかし、クロードの反応は予想外だった。


純真無垢なエリートの彼は、俗悪な夢魔の投げキッスにパニックを起こし、両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまったのだ。


「(……アホだこいつ!!)」


俺は一切の躊躇なく、懐から魔力伝導率ゼロの『六角形の黒鉛杖(鉛筆)』を抜き放ち、猛ダッシュでクロードの懐へ飛び込んだ。


「リワインド・スラストォォォッ!!」

「はぐっ!?」


顔を隠して無防備なクロードの鳩尾に、黒鉛杖が見事にクリーンヒット。

クロードは白目を剥いて気絶し、俺の波乱の学園生活はシュールに幕を開けた。



クロードを物理的に倒した成績が評価され、俺はクラスで二番目に可愛いエリート女子生徒・リアナと、雪辱に燃えるクロードにくっ付いて「特別護衛という名の腰巾着」としてダンジョン実習に駆り出されていた。


「まったく、僕の宝珠が星霊の探査網から迷宮の最新構造を読み取っているというのに……君は呑気に掃除かい?」


ダンジョンを進む道中、クロードが呆れ顔で言う。俺は無言で匣を開け、専用の布で魔気ヘッドを手入れし、重い歯車の噛み合わせを微調整していた。


「馬鹿言え。外の環境に頼らないシンプルさが、いざという時一番頼りになるんだよ」


その直後だった。


「なんで!?表層に深淵の魔獣がいるのよ!?」

「うそだろ……僕の氷狼が……星霊界との繋がりが切られた!? 探査網も真っ暗だ!!」


地下表層。リアナとクロードがへたり込んで絶望していた。

目の前の魔獣『深淵のキマイラ』が放つ濃密な瘴気が、エリートたちと星霊界とを結ぶパスを完全に遮断してしまったのだ。


「だから最新鋭は環境に依存しすぎるんだよ」


俺はため息をつき、『ロック・ジャイアント』の匣を取り出した。何万回と使い倒し、中の帯が完全に伸びきっている代物だ。

ガチン!と叩き込み、起動する。


『ガ……ガガ……ォォォ……』


現れた巨人は全身に白い乱れが走り、グニャグニャと歪んでいた。


「なによその泥人形! まともに実体化すらできてないじゃない!」

「黒の魔導器の乱れを舐めるなよ」


俺は側面の『魔波調整ダイヤル』を、あえて一番狂う方向へ全開に回し切った。

激しく空間が上下にブレ、巨人の姿が縦に3体に分裂する。


「行け! 術式欠落の狂乱演舞だ!」


キマイラが魔法無効の結界を張るが、関係ない。

カクカクとした狂った挙動の3体の巨人が、瞬間移動で背後に回り込み、3体同時の物理パンチで結界ごとキマイラをタコ殴りにし始めた。


『ガ……ピピ……ブツッ』

数十発の理不尽なパンチを浴び、キマイラは断末魔すら上げられずに消し飛んだ。


「……あんな不完全な実体化で、魔獣を殴り倒すなんて」

「ありえない……魔法の理から外れすぎている……!」


リアナとクロードが呆然とする中、俺は飛び出して絡まった魔導帯の穴に黒鉛杖を突っ込み、シャカシャカシャカ……と無心で巻き戻しを始めた。



「やれやれ、私の可愛いペットを壊してくれたね」


キマイラを倒した直後、拍手と共に宙から降りてきたのは、魔王軍幹部『簒奪のインヴァリッド』だった。

彼が指を鳴らすと、リアナやクロードたちが再び喚び出そうとしていた召喚陣が一瞬で赤黒く染まり、敵陣営の魔物として顕現してしまった。


「僕たちの召喚陣が、乗っ取られた……!?」

クロードが血の気を引かせる。


「私の力は『術式改竄』。どんな高位の魔法も、私に接続された瞬間に意のままに書き換えられる。……さあ、お前のその骨董品の術式も、私の手足に書き換えてやろう!」


インヴァリッドが放った赤黒い隷属の呪詛が、俺の魔導器を直撃する。


『ガキィィンッ!!』


だが、呪詛はパリンッと音を立てて無惨に弾け飛んだ。


「馬鹿な……私の『絶対改竄』が弾かれた!? どれほど高位の防護結界を張っているのだ!」

「結界? アホか」


俺は魔導器から匣を抜き出し、側面を見せつけた。本来なら術式を記録するための『起動板』がある場所に、ポッカリと穴が空いている。


「『側面のツメをへし折った』んだよ。術式が物理的に届かなきゃ、どれだけ外から魔力を流し込もうが、絶対に術式は書き換えられねぇ。完全な『絶対保存状態』だ!」


「ツメを、折った……!? そんな原始的な行為で、私の魔力改変を阻んだというのか!」


俺はツメの折られた――親父のエロ魔術上書きから命懸けで守り抜いた真の切り札を、再び魔導器に叩き込んだ。


「来い! 擦り切れるまで共に戦った俺の相棒! 『剣帝・オメガナイト』!!」


飛び出した黄金の騎士は、魔力改変が通じず焦るインヴァリッドに向けて大剣を構えた。


「オメガナイト! 限界駆動!」

「ファスト・フォアード・スラッシュ!」


俺がレバーを限界まで押し込むと、魔導器の歯車が悲鳴を上げ、オメガナイトは通常の3倍の超加速でインヴァリッドの懐へ飛び込んだ。


「キュルルルルルルッ!!(甲高い摩擦音)」

「あ、アッパレ……」


インヴァリッドは断末魔すら甲高い早送り音声になりながら、十字に切り裂かれて消滅した。


ダンジョンに静寂が戻り、洗脳の解けた召喚獣たちが光となって消えていく。


「……すごいわゼノ。あなたの魔導器、最強ね」

リアナが目を輝かせる。

「く、くそっ……認めたくはないが、今回は君の『骨董品』に救われたよ、ゼノ」

クロードもバツが悪そうにそっぽを向きながら礼を言った。


「まあな。……あ、また帯が中で絡まった」


俺は匣を取り出し、深いため息をついた。限界駆動のせいで、真っ黒な帯がビロビロと滝のように溢れている。


「クロード、悪い。そこの『六角の黒鉛杖』取ってくれないか?」

「ええっ!? 僕に手で巻かせる気か!?」


俺たちは顔を見合わせ、薄暗いダンジョンの中にシャカシャカシャカ……と、シュールで平和な巻き戻しの音を響かせながら帰路についたのだった。

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