第22話 行商人
多分、俺には剣の才能はない気がする。ある程度の域までならいけると思うけど、イオには完全に才能がある気がする。三歳児があんな振りする? プロ野球選手並みだったよ!
「僕の癒しはラヴァだけだよ」
ベッドで寝そべり、正面から見つめあう。ああ、可愛い。
(いやし?)
「僕に元気をくれるのはラヴァだってこと」
(そうなの!? 嬉しい!)
頭の中に響く声は幼さが減って、しっかりしたものになっている。俺が本を読んでいる時に一緒に見てたりするから字とかわかってるのかな? と思う。
夜の魔力吸い取りはずっと続いてるんだけどね。
ジャガイモの収穫も終わって畑に何もなくなるころ、以前来ていた行商人の商隊がやってきた。収穫祭はその市が立つ日に行われる。
賑やかになった村の広場に家族皆と師匠とでやってきた。父とローワンは商隊や村長の応対に、ネリアとイオと母は広場の市に。そして俺と師匠も市を巡る。
村人は浮足立って、楽しそうに買い物をしている。
その様子を見て回っていると、値段に首を傾げた。師匠の服の袖を引っ張って小声で訊く。
「前よりだいぶ高くなっている気がするんだけど気のせいかな?」
「そうだな。塩や香辛料、食料品が特に上がっているな」
ふむ、と師匠は顎を撫でると、俺の手を引いて歩き出す。
「とりあえず見て回ろう。欲しいものは一つまでだぞ?」
「ひとつかあ」
肩を落として店を見て回る。ガラス製品なんてないだろうなあ。
結局何も買えないまま終わってしまった。
父と師匠を除く俺たち家族は屋敷に戻った。
その日、二人は遅くなるからと、先に食事をして寝たのだった。
「おはよう」
「おはよう師匠。眠そうだよ」
「宴会に付き合わされた。座学は勘弁してほしい」
「ええ? 大人なのに」
「ぐっ……わかった。頑張る」
「運動でもすれば目が覚めるんじゃない?」
「そうだろうが、座学だからなあ」
「体使う講義から始める?」
「ポーションからか?」
「うん」
「入れ替えるか。わかった」
午前中の予定と午後の予定が入れ替わった。俺がお昼寝の間、師匠も寝るそうだ。
ポーション作りがひと段落ついて、休憩のお茶の時間になった。
「師匠、どうして昨日の行商人さん達の品物が高いの?」
「ん? そりゃあ、彼らは王都の商会で、護衛を雇ってここまで来るからな。運び賃も入ってるだろうよ」
「王都のほうが同じ品物は安いの?」
「そうとも言えないな。基本的に街の物価は高い。ただ、ここに来てもらうために危険を冒して運んでくるなら、高いってわけだ。ただ、物の値段ていうのはそれだけではないんだ」
「どういうこと?」
「この領地は豊作と言っていいくらい、作物は穫れた」
「うん」
「だがどうやら、他の領地は不作が続いてるようなんだ。余っているならぜひ買わせてくれと懇願された」
「そうなんだ。水不足とか言ってたけど、まだ続いているの?」
「大分、改善されたようだが、天候不順はもうどうにもならないからな」
「難しいね」
「レタスもよく売れたと報告が来たから、王都の食糧不足は深刻かもしれないな」
「大変だね」
「そうだ。大変だ。この領地だけが豊作なら、いろいろと問題が起きるぞ」
「問題?」
「ああ、ご領主様は昨日頭を抱えていたぞ。とりあえず差しさわりがない量を放出して帰ってもらった。冬はちょっと面倒なことになるかもしれない」
「そうなんだ」
師匠は微笑んで頭をぐりぐりする。
「大人の仕事だ。将来はルオも考えないといけないが、今はまだ、そうなれるように勉強をしている段階だからな。ご領主様に任せておけ」
「はい!」
そんな話をした後だ。たまたま執務室に行った時に父が浮かない顔で手紙を読んでいた。
「どうしました?」
師匠が聞いた。父が首を横に振った。
「ああ、食料を分けて欲しいとの陳情だ。隣りの子爵領からだ」
「分けるんですか?」
「ああ、しっかり金はとる。同じ寄子仲間だ。協力をしないと何を言われるか」
「そんなに状況は悪いのですか?」
「どうだろうな。商人から聞いた話だと、収穫が減っている、くらいの話だったがな」
そう話している父の視線が俺に向いた。ばつの悪そうな表情になって、父は咳払いをした。
「そんなところだ。またあとで相談に乗ってくれ」
「わかりました」
「ところでなんでここに?」
「領の資料を少し」
「ローワン、出してやってくれ」
「かしこまりました。どんな……」
「ああ、こういう……」
師匠を待っている間、父が深くため息を吐く姿に、これからのことが少し心配になった。
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