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第1話 演劇部、異世界に?!

 舞風学園演劇部のスピンオフ作品として演劇部が本当に異世界に迷い込んだら?って話で考えて書いてみました。

 異世界転移という人気の題材を取り入れた実験作ですが、これを読んでから舞風本編も楽しんでいただければ幸いです。

 舞風学園演劇部の部室は、放課後になると少し騒がしくなる。


 原因はだいたい、決まっている。


「ねえ七海ちゃん、今のどうだった!?

 私、ちょっと主人公感出てたよね!?」


 本宮ひのり。

 演劇部の中心人物で、勢いと感情で動くタイプ。

 思ったことはすぐ口に出るし、失敗しても立ち止まらない。


 床に置いた台本を踏みそうになりながら、ひのりは振り返る。


「……主人公感はあったけど、動きが先走ってる」


 淡々と返したのは、伊勢七海だった。


 冷静で観察力が高く、演劇部の中では実質的な“まとめ役”。

 感情より構造、勢いより整理。

 ひのりとは正反対だが、不思議と噛み合っている。


「ほら、今のシーンは“感情が溢れる瞬間”であって、“爆発”じゃない」


「うぐっ……言い返せない……」


 ひのりが肩を落とす横で、静かに様子を見ていたのが城名みこだった。


「……でも……今のひのりちゃん、気持ちは、伝わった……」


 声は小さいが、言葉は丁寧。

 みこは目立つタイプではないが、舞台に立つと不思議と存在感がある。

 演じることで、自分の輪郭を確かめているような少女だ。


「ほんと!? じゃあ半分成功だよね!」


「……うん……半分は……」


 そんな二人のやり取りを、少し離れた場所から眺めていたのが、小塚紗里。


「はいはい、今の空気、ちょっと重くなってきたよ〜」


 軽い口調とノリの良さ。

 場の空気を読むのが上手く、誰かが落ち込むと自然に引き上げる。


「ここさ、もっとテンポ良くいこ?

 観てる側、たぶん“次なに来るの?”ってなると思うし」


「さすが紗里ちゃん! 助かる〜!」


 最後に、壁際で腕を組みながら全体を見ていたのが、宝唯香だった。


「……今の指摘、的確ね」


 元子役。

 経験と技術は部内随一だが、感情を表に出すことは少ない。


「ひのりは勢いがある。

 七海は構成を見てる。

 みこは感情を受け止めてる。

 紗里は流れを整えてる」


 一人ひとりを静かに見渡しながら、唯香は言う。


「悪くないわ。むしろ――ちゃんと“演劇部”してる」


 その言葉に、ひのりがぱっと顔を上げた。


「ほんと!? それって褒めてる!?」


「……褒めてる」


「よっしゃあ!!」


 いつも通りの部室。

 いつも通りの練習風景。


 誰も、このあと――

 “舞台の外側”へ踏み出すことになるなんて、思ってもいなかった。


 部室の空気が、ほんの一瞬だけ揺れたことに、

 最初に気づいたのは七海だった。


「――ねえ、今……揺れなかった?」


 七海のその一言で、部室の空気が止まった。


「え? 揺れた? 地震?」

 ひのりがきょろきょろと天井を見上げる。


「……音も……変……」

 みこが床に手をつき、小さく呟いた。


 いつも聞こえているはずの、廊下の足音や吹奏楽部の音が――消えている。

 代わりに、耳の奥で低く唸るような音が広がっていく。


「照明……」

 唯香が顔を上げる。


 蛍光灯が、じわりと暗くなった。


「ちょ、ちょっと待って!? これ演出じゃないよね!?」

 紗里が冗談めかして笑おうとするが、声が少し震えている。


 次の瞬間。


 床が、抜けた。


「え――」


 言葉になる前に、視界がひっくり返る。

 重力が消え、足場がなくなり、身体が投げ出された。


「うわあああああ!!」

「ひのり、手――!」

「きゃっ……!」

「落ち着いて! 姿勢を――!」


 声が重なり、光が弾け、

 白と黒が混ざり合った世界に、五人は飲み込まれた。


 ――そして。


 どさっ、という鈍い音。


「……っ、いたた……」


 最初に声を出したのはひのりだった。


 恐る恐る目を開けると、そこは――

 見慣れた部室でも、体育館でもない。


 頭上には空。

 見渡す限り、石畳と古びた建物。

 風が、土と草の匂いを運んでくる。


「……ここ、どこ……?」


「……少なくとも、日本じゃないわね」

 唯香がゆっくり起き上がり、周囲を確認する。


「え、え、待って待って!?」

 紗里が半泣きで周囲を指差す。

「これ……完全にファンタジーの街じゃん!!」


 みこは地面に落ちていた布切れを拾い、ぎゅっと握った。


「……夢……じゃない……よね……?」


 七海は一歩前に出て、静かに言った。


「……結論から言うわ」


 全員が七海を見る。


「私たち――

 異世界に来た」


 一拍の沈黙。


「……だよねーーーー!!!!!」

 ひのりが叫んだ。


 こうして、

 舞風学園演劇部の“舞台”は――

 学校の外側へ、強制的に移された。


 石畳の道を、五人は並んで歩いていた。


「……さっきまで部室だったよね」

 みこが小さく確認するように言う。


「うん。床も天井も木だったし、今みたいに空、見えてなかった」

 七海は周囲を観察しながら、冷静に答えた。


 街は不思議だった。

 中世風の建物が並んでいるのに、どこか統一感がない。

 石の家の隣に木造、さらにその隣にガラス張りの店。

 服装もばらばらで、鎧の男の横を、見たことのない素材の服を着た子どもが走っていく。


「……なんかさ」

 紗里がきょろきょろしながら言う。

「コスプレイベントが街になったみたいじゃない?」


「それ言うと現実感が死ぬからやめて」

 唯香が即座に突っ込む。


 ひのりは歩きながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。

 怖い、というより――

 “知ってる物語の中に入ってしまった”感覚。


「ねぇ……あの人に聞いてみよう」


 ひのりが指さした先には、露店の前に腰を下ろした初老の男がいた。

 顔には深い皺、だが目は鋭く、こちらをじっと見ている。


「すみませーん!」

 ひのりが声をかける。


 男は驚く様子もなく、ゆっくり立ち上がった。


「……見ねぇ顔だな」

 低く、落ち着いた声。


「ここって、どこですか?」

 七海が一歩前に出て尋ねる。


 男は五人を順に見渡し、ふっと口角を上げた。


「なるほどな」

 

 そして、まるで答え合わせをするように言った。


「あんたら――

 別の世界から来た口だな?」


 一瞬、空気が止まる。


「えっ」

「え、えええ!?」

「そんなサラッと言う!?」


 紗里とひのりが同時に声を上げ、みこは思わず唯香の袖を掴んだ。


 男は肩をすくめる。


「珍しくもない。

 この街はな、“世界の狭間”だ」


「……世界の、狭間?」

 七海が眉を寄せる。


「境界が薄い場所ってやつさ。

 いろんな世界が擦れ合って、穴が空く。

 そこから、迷い込む奴が出てくる」


 男は露店の奥を指さした。

 そこには、見たこともない品が雑多に並んでいる。


「剣の世界、魔法の世界、機械の世界……

 時々、あんたらみたいな“平和な世界”からも来る」


 ひのりは、ごくりと喉を鳴らした。


「……じゃあ、私たち、帰れるんですか?」


 その問いに、男は少しだけ表情を曇らせた。


「さあな」

 

 間を置いて、続ける。


「帰れた奴もいる。

 帰れず、ここで生きる奴もいる」


「……条件は?」

 唯香が静かに聞く。


 男は五人をまっすぐ見た。


「この世界に“必要な役”を果たした時だ」


 ひのりの胸が、どくんと鳴った。


「役……?」


「そうだ。

 この街はな、“物語が交差する場所”だ」


 男は、意味ありげに笑う。


「演じる覚悟のある者だけが、先へ進める」


 五人は顔を見合わせた。


 誰も言葉にしない。

 けれど全員、同じことを思っていた。


――演じる?

 私たちが?


 遠くで、鐘の音が鳴る。


 その音は、まるで

 次の幕が上がる合図のようだった。


「ねえねえ!」

 ひのりが街を見回しながら、目を輝かせる。


「すごくない!? 異世界だよ!? 魔法ありそうだし、あの人たち剣持ってるし!」


「ひのり……ちょっと静かに……」

 みこは今にも泣きそうな顔で、唯香の腕にしがみついていた。


「……帰れないとか言われたら、どうしよう……」

「大丈夫。まだ“帰れない”って決まったわけじゃない」

 唯香はそう言いながらも、声の端が少し震えている。


 一方で――


「現時点で分かっている情報を整理するわ」

 七海だけは落ち着いたまま、淡々としていた。

「ここは“世界の狭間”。異世界からの来訪者は珍しくない。つまり――」


 ひのりを見る。


「私たちが騒ぐほど、周囲は驚かない」


「え、じゃあ普通に歩いてていいってこと?」

「理論上はね。ただし――」


 七海の視線が、五人の服装に向く。


 ジャージ。

 学校名入り。

 どう見ても“異物”。


「あ」

 ひのりが手を打った。


「そうじゃん! 私たち、完全に浮いてる!」


 紗里が自分の袖を見て苦笑する。

「確かに〜。これは“異世界転移前の部活帰り感”強すぎだね」


「……目立ちたくない……」

 みこが小さく呟く。


 ひのりは一拍置いて、にっと笑った。


「よし。じゃあさ――

 衣装、着よう!」


「衣装?」

「演劇部っぽく、この世界に溶け込むの!」


 七海が少し考えてから頷く。

「合理的ね。服装は“所属”を示す記号になる」


「……確かに。役に入るなら、外見から整えるべきね」

 唯香も納得したように言う。


 そうして五人は、街の一角にある小さな衣装店に入った。


 鈴の音。


「いらっしゃいませ〜」


 現れたのは、赤茶色の髪をまとめた女性店員だった。

 柔らかい笑顔で、五人を一目見て言う。


「……あら、迷い人さん?」


「えっ、分かるんですか?」

 ひのりが即反応する。


「服が違うもの。でも安心して。歓迎するわ」

 店員はにこっと笑う。


 その瞬間、紗里が一歩前に出た。


「ねえねえ! 聞いて聞いて!」

「……?」

「あたしたち、演劇部でさ! 役に入りきるの得意なんだよね〜!」


 店員の目が、ぱっと輝いた。


「まあ! 演じる人たちなの?」

「そうそう! だから衣装も“それっぽく”したくて!」


 すでに意気投合している。


「素敵じゃない。じゃあ――」

 店員は棚を指さす。

「この街向きの服、選びましょうか。

 “役を持つ人”には、ちゃんと似合う服があるの」


 みこが恐る恐る聞く。

「……目立たないのも、ありますか……?」


「もちろん。守る役の服、あるわよ」

 店員は優しく微笑んだ。


 唯香はそのやり取りを見て、小さく息を吐く。

「……少し、安心したわ」


 七海は静かに頷く。

「環境に適応する第一歩ね」


 ひのりは胸の奥が、少しだけ軽くなるのを感じていた。


(衣装を着る。

 役に入る。

 ――それなら、私たち、やれるかも)


 試着室の奥で、布の擦れる音がする。


 この世界での、

 最初の“役作り”が、始まろうとしていた。


衣装店の奥には、思っていたよりも広い空間があった。

 天井から吊るされた布、壁一面に並ぶ衣装、ほのかに甘い香のする空気。


「……なんか、舞台裏みたいだね」

 ひのりがきょろきょろと見回す。


「ええ。ここは“役を選ぶ場所”よ」

 店員の女性は微笑んだまま、五人を順に見渡した。

「正確には……役に“選ばれる”場所、かしら」


 紗里がすぐに食いつく。

「あ、あたしたち演劇部なんです! 役とか衣装とか、わりと慣れてて!」


「ふふ、そう」

 店員は楽しそうに頷いた。

「だから、呼ばれたのかもしれないわね」


 そう言って、衣装棚に手をかざすと――

 布が、ひとりでにほどけるように宙を舞った。


「えっ!?」

「うわ、なにこれ……!」


 最初に引き寄せられたのは、ひのりだった。


 淡い色合いのフリル付き衣装。

 派手すぎない、けれど目を引くデザイン。


「……かわいい」

 思わず零れた声に、紗里が即反応する。


「それ魔法少女じゃん! ひのりんじゃん!」


「ち、ちがっ……!」

 否定しながらも、ひのりの頬は少し赤い。


 次に、みこの前へ衣装が浮かぶ。

 柔らかな色のドレス。どこか懐かしい、物語のお姫様のような装い。


「……あ……」

 みこは言葉を失って、そっと布に触れた。

「……こわいけど……でも……きれい……」


「似合うわ」

 唯香が静かに言った。

「守られるだけじゃない、“願いを持つ人”の衣装ね」


 七海の前には、軽装のマントと剣帯。

 動きやすく、無駄のない装い。


「……合理的ね」

 七海はそれだけ言って、受け取った。


 唯香には、杖とローブ。

 派手さはないが、存在感だけがはっきりとある。


「“導く役”ね」

 店員が言う。

「過去を知り、言葉で道を示す人」


 そして最後に――紗里。


 色とりどりの布、鈴のついた装飾。

 軽やかで、どこか楽しげな衣装。


「なにこれ、めっちゃ動きやすそう!」

 紗里はくるっと回って笑う。


「あなたは“旅芸人”」

 店員は迷いなく告げた。

「場をつなぎ、空気を変え、物語を転がす役」


「……なんか、分かる気がする」

 七海が小さく頷く。


 全員が衣装を身に纏った瞬間――

 布が、淡く光った。


「この衣装は、役割そのもの」

 店員の声が、少しだけ低くなる。

「この世界では、役を演じ続けることで道が開く」


 ひのりが一歩前に出た。

「道って……元の世界に帰る道?」


「ええ」

 店員は頷く。

「五人そろって“大舞台”に立てば、帰れる……かもしれない」


 七海が即座に突っ込む。

「“かも”? そこ曖昧すぎない?」


 店員は肩をすくめた。

「ここは“物語の狭間”。結末は、演じ切った者にしか分からないの」


 一瞬の沈黙。


 ひのりが、ぎゅっと拳を握る。

「……やらなきゃ、何も起きないんだよね」


 みこは不安そうに、でも小さく頷いた。

「……みんなとなら……」


 唯香は静かに息を吐く。

「舞台に立つ覚悟なら、あるわ」


 紗里はにっと笑う。

「大舞台なら、盛り上げ役も必要でしょ? 任せて!」


 ――その瞬間。


 外から、警鐘のような音が響いた。


「……なに?」

 七海が身構える。


 店員が、表情を曇らせる。

「“舞台荒らし”よ。役を拒む者……物語から零れ落ちた存在」


 遠くで、黒い影が蠢く気配。


 衣装が、再び淡く光る。


「……来るわ」

 七海が低く言った。

「この世界、私たちを試してる」


 ひのりは前を見据えた。


「――初舞台、だね」


 五人が、無言で頷く。


 物語は、もう始まっている。


 続く。

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