武器と魔法②
静まり返った現場は木枯らしが吹いている感じがした。下っ端海賊風の男は仁王立ちして腕組みをしている。益々空しさを感じる。
「え、え~と・・・」
スターは言葉を詰まらせる。
「貴様らのキャラが濃すぎるんだよ。そうだよ、ヴァーノの言う通りカゲウスヤローだよ!!」
「ス、スミマセンですわ。」
おかしな発言をしているスターは深々と頭を下げる。
男は龍座と瑛美を指差し、
「俺は涙原結哉。今年十七歳。涙原財閥の御曹司。そして龍座と瑛美は涙原家の執事たちの子どもだ。俺が目立つ筈なのに、コイツらの方が常に注目の的。俺は目立ちたいんだよ!」
結哉は龍座たちに向かって声を荒げる。
暫しの沈黙……。
龍座はハッとし、結哉の前に立つ。慌てて瑛美も龍座の横に行く。
「ごめん、結哉。そうだったんだ。」
「ごめんね。結ちゃん。あたし、てっきり目立ちたくないと思ってた。」
龍座と瑛美は結哉に軽く頭を下げる。
「もう、いいよ。よしてくれ。」
結哉の言葉に二人は頭を上げる。
「俺はずっと、漫画で例えると吹き出しで顔が隠れていたり、顔から下だけ見切りになっているキャラだと思ってた。」
後ろにいる貴寿が淡々と言う。スター含め周りにいる人達は青い顔になる。結哉はプルプルと身体を震わせ、顔が下を向く。
―まずい―
貴寿は事の重大さに気付き、
「最初はそういうキャラだけど後から主人公的ポジションになるってことです。」
貴寿は珍しくアタフタする。
「御託は良い。お前より目立ってやるわ。覚悟せい‼️」
結哉は貴寿を指差し、鬼の形相で睨むと火球と火球の間を通る。
結哉はリーチの前に立ち、素早く大袋に手を入れ日本刀らしきものを出す。結哉は日本刀を左腰に差す。結哉は那妃のところに着く。
「何やら怒鳴っていたけど、大丈夫ですか?」
那妃たちのところまで声は届いていたが内容はわからなかった。
「ああ、大丈夫だ。問題ない。」
結哉は腕組みをし、突っ立っている。
結哉の背後から、
「さすが、カゲウスヤローだゼ。」
「この世界は目立つとイイでちゅねぇ。」
ヴァーノたちはゲラゲラと笑う。
「き、貴様ら‼️」
結哉はヴァーノたちを睨んだ。日本刀を鞘から抜こうとしたが抜けなかった。
「何だ。錆ついているのか?」
結哉は柄を握り引き抜こうとしたが変わらなかった。不思議そうに結哉は日本刀を見る。
「日本刀じゃないのか?」
「それは後からわかるゼ。」
ヴァーノは含み笑いをし、フェネックギツネっぽい生物と一緒にリーチのところに行く。
リーチの前には十歳の星崎雅就が悔しそうに四つん這いになり泣いていた。
「うわーん、ボクチンがなんで只の棒なんだよ―‼️もう一回。」
雅就は大袋に手を入れようとする。
「ダメだ。ムリだ。」
リーチはハスキーな声で大袋を後ろに隠す。
雅就はさらに咽び泣く。
「どうした?コユガオナキムシ?」
ヴァーノ達は涙と鼻水でグチョグチョになった顔をみて思わず笑う。
雅就の泣き声で那妃たちが駆け寄ってきた。賀蓮は少し赤ら顔ではあるが、小走りできる程に回復した。
「雅君、どうしたの?」
雉子が真っ先に雅就をあやす。
「うえーん、ボクチン只の丸棒なんだよ。あんまりだよ~。ユウピーの刀がいいよ~。代えよーよ、ユウピー!」
雅就が 結哉の日本刀を引っ張る。
「ダメだ。これは俺のだ。」
結哉は雅就の手を払いのけた。雅就がまた、泣き始める。雉子は雅就の頭をヨシヨシと撫でる。
「お前達、別の場所でしてくれ。」
リーチは誰とも目を合わせず、火球の方を見ていた。
「カッコイイ‼️イケメンだわ~‼️」
賀蓮はリーチの横顔を見て頬が赤くなる。
「ボクチンはリーチよりイケメンだ~‼️」
雅就は涙を堪え賀蓮の前に立つ。賀蓮は拳を震わせながら怒声を挙げる。
「雅君はシブコユよ。イケメンでも何でもないわ‼️リーチさんに失礼よ‼️サイテー‼️」
賀蓮の言葉に雅就は号泣しながら走る。雉子は追いかけ後ろからハグをする。
那妃はこの光景を見てため息をついた。
「じゃ、次はあたしね!」
瑛美は火球まで駆け寄る。
「鳥井瑛美。十六歳、高校二年生。夢はアイドルです。一所懸命、頑張ります‼️」
声高く瑛美は選手宣誓するように挙手しながら自己紹介をする。軽やかにスキップし、リーチの前に着く。メイド衣装とベリーショートの青髪が不釣り合いで何とも言えない。
瑛美はリーチにお辞儀し、手を入れる。取り出すと二本の短剣だった。瑛美はスキップしながら那妃の所に着いた。
「次は龍座さんが行けよ。俺は甲冑であまりにも身動きが取りにくいんだ。」
貴寿は息が荒い。
「じゃ、お言葉に甘えて先に行くよ。ゆっくりでいいからね。」
龍座はスタスタと歩き火球の前へ足を止める。
「僕は永吹龍座。十七歳。」
早歩きでリーチの前へ行き、大袋に手を入れショットガンを引き出す。ショットガンには金の龍の絵が描かれていた。龍座はマジマジとそれを見つめる。
「僕にとって良い武器になりそうだ。」
不敵な笑みを浮かべ龍座のロングストールが靡く。無言のまま、龍座は那妃たちがいる場所に行く。
貴寿は歩く度に甲冑の音にうんざりしていた。汗も順丈ではないくらい多量に出ている。甲冑を脱ぐと全裸になるし、恥ずかしくて言えない。そもそも、脱ぐ方法がわからなかった。
貴寿は足を引き摺るような歩き方で火球の前に来た。大きく息を吸い、
「森峰貴寿。十六歳。高校一年。早く甲冑を脱ぎたい‼️」
悲痛な叫び声が那妃たちまで届く。那妃含め二、三人がクスクスと笑う。
恥ずかしさで貴寿の顔は赤くなる。また、足を引き摺りながら十分ぐらいかけリーチのところへ。
リーチは相変わらず無表情で無言である。
汗ばみた貴寿の手が大袋の中に入いる。感触があり、勢いよく出すと棒の先端に半月の小石がくっついていた。貴寿は持ち上げようとするも腰から上がらない。仕方がない為、それを引き摺りながら那妃たちがいる場所へ十分程度かかった。
暫く、那妃たちがそれぞれ談話などしていると、リーチが重い腰を上げ那妃たちの方へ歩いてきた。スターは小走りでリーチを追い越し定位置があるかのように直立姿勢になる。
ヴァーノとフェネックギツネっぽい生物はリーチがいたところに宙にプカプカ浮かんで、ヴァーノだけ林檎を食べている。
那妃は歩いてきてスターの隣にいるリーチを見た。賀蓮が一目惚れした相手だ。
銀色の長髪で肩甲骨ぐらいまで伸びている。目はキリッとして二重。少し面長顔で見た目は人間と変わらない。王冠をしたら異国の王子みたいな風貌だが、服装は泥やら何やらで汚い服装である。まるで囚人みたいである意味近寄りがたい。
「那妃ちゃんも気になる?」
ハッと那妃は右を向く。リーチを見て惚けた顔の賀蓮がいた。
「ああ~、あたしの運命の人この世界にいたなんて・・・。神様は残酷な事をするのね。」
賀蓮は悲観して胸に手を充て、涙目でリーチを見る。那妃はその場から離れた。
那妃は周囲を見渡す。雉子は雅就を面倒を見ている。結哉は大きな古い石壁に背もたれしている。その右隣に瑛美は座って二本の短剣をマジマジと見ている。少し離れて貴寿も座りこんでいる。
結哉の左から離れて立っている龍座はスマホを触っている。操作しようとしているのか必要以上に手を動かしている。一分もかからず手を止めキョロキョロと辺りを見る。すると那妃がこちらを見ていたことがわかり、スマホをズボンのポケットに隠した。
那妃はそれを見て龍座のところに行こうとした時、
「パンパン‼️」
と、乾いた音が響いた。那妃たちは乾いた音の方へ向く。
スターが後ろ足で立ち、両前足を器用よく叩いた音だった。
「皆様、談話はそこまでですわ。武器を手渡されたってことは皆様承知の通りでございますわ。今から皆様には・・。」
「殺し合いをするの?!」
スターの言葉を遮り、瑛美が叫ぶ。
「えっ?マジ?」
「そんなのイヤ―‼️」
幾人か驚嘆しているなか、スターは咳払いし両前足を上手に叩く。
「パンパン‼️全くもって違いますわ。まぁ、気を引き締めないと死んでしまう可能性は充分ありますわね。」
少し薄ら笑いするスターを見て人間界から来た一同は緊張が走る。