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武器と魔法①

一時間半くらい歩いたのだろうか。

日が沈み電灯ひとつもない満月の光だけが便りになってきた。顔の識別ができない。

ヴァーノは宙に浮いたまま、ゆらゆら眠っている。

「もう無理限界!」

「早く帰りたいよ~。うわーん!」

「あたしも帰らなきゃ・・・」

賀蓮、雅就そして瑛美の声でヴァーノは目を覚ます。


「・・・?!暗くなったゼ。さてと、さっさとテメエらをあそこに移動させるゼ。」

ヴァーノは左手でフィンガースナップをする。


すると廃墟みたいな崩れかけた石門が建っていた。石門の奥に火球が二つふわふわと揺らついている。

「対価をさっさと払っとけば、すぐここに来れたんだゼ。」

「やり方が汚いわ。サイテー!!対価何て持ってないわ。」

那妃は怒る。そうだ、そうだと複数が賛同した。ヴァーノは大笑いする。



「あらあら、ごめんあそばせ。そういう経緯(いきさつ)があったとは。心よりお詫び申し上げます。随分、遅かったので心配しておりましたのよ。」

石門の奥からおっとりした声と足音が聞こえる。声はヴァーノと違い二重声ではなかった。那妃たちに近づくにつれ、月明かりが増していくのを感じる。一匹の大型犬コリーが月光を浴び、蛍光グリーンの皮膚となっている。


「わたくし、月の司者スターと申します。以後お見知りおき願います。」

四足歩行のスターが立ち止まる。皮膚の色以外普通のコリー犬種だ。

「ヴァーノに遣いを頼んだのが失敗でしたわね。もっと明るいうちにここに来れたと思うと後悔しております。」

スターは深々と頭を垂れた。


(おちょ)いでちゅ。ヴァーノ。」

何かがスターの頭上を通りすぎ勢いよくヴァーノに抱きつく。ヴァーノと同じく二重声で長い二尾がある。

暗くてよく見えないが濃紫色のフェネックギツネっぽい。ヴァーノと同種であろう。

「ワリィ、ワリィ。コイツらニンゲンが能力なくて後先考えずに、ひたすら歩き続けていたんだゼ。オレ途中飽きて寝てしまったゼ。」

ヴァーノは大笑いする。フェネックギツネっぽい生物も大いに笑う。


「貴方たち、無礼ですわよ。申し訳ありません。ヴァーノがご迷惑を・・・。」

スターはまた深々と頭を垂れる。

「もう済んだことだし、いいですよ。」

那妃はスターの前に行き宥める。

「まぁ、立派な方。ありがとうございます。」

スターは欠伸しているヴァーノの所に行く。


「ヴァーノ、許しを得ましたよ。感謝しなさい。さて、ニンゲンの方々のお名前は聞き出せましたか?」

「名前?知らねぇゼ。アダ名でいいと思うゼ。向こうからペチャパイ、デカチチメルヘン、タンパツメイド、ムダキン、バイザーシンシ、エスエムネーサン、コユガオナキムシ、カゲウスヤローだゼ。」

スターは絶句し頭を抱える。

「せっかく謝罪したのに元の木阿弥ですわ。もう、貴方たちはリーチの所に行って待機ですわ。」

スターが言うと笑い気味のヴァーノたちはフッと消えた。


「お見苦しいところみせてしまい申し訳ありません。ここでの長居は無用ですわ。わたくしについて来てください。」

スターは急ぎ足で石門をくぐる。皆も早歩きで後に続く。辺りは月の光でほのぐらい。


ふわふわ浮いている二つの火球に着いた。火球と火球の間は人が通れそうだ。その奥には銀色の長髪若い青年が胡座をかいていた。服は汚れた羽織のようなものを着ていて那妃たちを睨んでいるかのようだった。銀色の長髪青年の後ろに、暗くてどこまで続いているのか分からない大きな壁みたいなものがあった。


その左側にはヴァーノたちが宙に浮きヴァーノは林檎を食べている。フェネックギツネみたいな生物は突っ立ってふわふわ浮いている。

スターは立ち止まる。


「この火球と火球の間を通っていただきますわ。質問と説明はあとですわ。自分の名前を言って通ってくださいませ。無事通ったら、あそこに胡座をかいている『こおりの魔物リーチ』のところにいって貰ってお待ちください。」

「貰うって何を?」

数人がハモってしまう。

「それは貰ってからのお楽しみですわ。では、右側の貴方から。」

スターは賀蓮に目を向ける。


恐る恐る賀蓮は火球の前へ歩いた。小刻みに震え立っている。たわわな胸とカボチャパンツがゆさゆさと縦横に揺れていた。

「緊張しますわね。一番最初ですもの。さぁ、名前を言って通ってくださいませ。」

賀蓮は唾を飲み込む。

「夢宮賀蓮。十四歳。好きなタイプは白馬が似合う男性です。恋したいです。イチャイチャしたいです。よろしくお願いいたします。」

賀蓮はいらない情報を顔を真っ赤にしながら言う。聞いていた一部も赤面する。


賀蓮はささっと火球の間を通りすぎ『こおりの魔物リーチ』のところに行く。耳まで赤ら顔になった賀蓮はリーチを見るや否や大丈夫かと思われるぐらい茹でダコみたいな顔色になる。

ヴァーノたちは腹を抱える程大笑いする。


リーチがサンタクロースが持っているような白い大袋の口を開け、賀蓮に手を入れるように指示する。手まで真っ赤になった賀蓮は震えながら大袋の中に手を入れる。物が手にくっつく感覚があり袋から手を出す。


それはピンク色が主体のロッドだった。緑色の木の枝みたいな紋章がある。賀蓮はその場から崩れ落ちる。リーチは賀蓮を見向きもせず無表情で胡座をかいている。慌てて那妃が駆けようとした時、スターが那妃の前に来て制止する。


退()きなさいよ!」

「すぐに退きますわ。でも行くときは必ず、火球の間を通って名前を言ってくださいませ。それからリーチから物を貰った後に、あの子を介抱してあげてくださいね。」

スターはサッと那妃の右側に行く。


那妃は火球の間に止まり、

「秋川那妃、十四歳。悪魔祓いや悪霊退治などができる巫女よ。」

那妃はさっさとリーチが持っている大袋の中に手を入れる。勢いよく引っ張り出すと物は大型の十字手裏剣っぽかった。それを一切気にせず那妃は倒れている賀蓮を起こす。


「大丈夫?」

賀蓮の体は熱く感じる。賀蓮はハッと目を覚ましゆっくり起き上がる。

「うん、大丈夫。」

賀蓮は少しふらふら歩き大きな古い石壁に背もたれして座る。

那妃も付いていこうとした時、背後から笑い声が聞こえた。那妃は振り向く。


「悪魔祓いや悪霊退治できるんでちゅか?自分で悪魔祓いなどができること名乗れるって正気(ちょうき)じゃないでちゅ。」

紫色のフェネックギツネがククッと笑う。

「じゃあ、ペチャパイ、コイツを殺ろうぜ。」

ヴァーノは笑いながらリーチを指差す。リーチは相変わらず無表情である。

「ちょっと、何言ってるの?あんたたち。あんたたちこそ、おかしいわ!!」

那妃は憤慨して賀蓮のところに行く。フェネックギツネは首を傾げ何で怒っているのかわからなかった。ヴァーノは相変わらず笑っている。


那妃は呼吸が荒く顔が赤い賀蓮に声をかける。賀蓮本人は大丈夫と息荒く言う。那妃は賀蓮の額に手を充てる。

「熱っ!すぐに治療しないと・・・。」

那妃はスターのところに行こうと踵を返す。

「だ、大丈夫だから、ほ、本当に・・・。」

那妃の左手を賀蓮が掴む。

「大丈夫じゃないでしょ?」

「あ、あたし・・・こ・・恋しちゃった。」

「うん?」

「あ、あたし彼を見たとき、心がいきなり雷に射たれ爆発して弾いたの。これが恋なのね。」

「は、はぁ・・・。」

「だから暫くすると、治るから心配しないで。」

賀蓮はリーチを魅入っている。

―これの何処が良いの?―

那妃は呆れて賀蓮から少し離れた。


スターは賀蓮の一部始終を見て、

「さぁ気を取り直して次は誰が行きます?」

「次はあたしが行きます。」

雉子は挙手した。

「では、どうぞ此方(こちら)へ。」

スターは火球の方へ向く。


雉子はモデル歩きしながら火球の前に立つ。

「神矢雉子。二一歳。大学生。この衣装肌の露出多すぎ。一歩間違ったら自主規制よ。あたしハレンチのSM女ではないです。交換希望です。」

細い薄い黄色の帯一本で身体を巻いている。胸は両乳首ギリ隠れている。激しく運動するとR十八指定になりかねない。

「ごめんなさい。衣装は変えられないんですわ。」

スターは頭を下げる。

「そ、そんな・・・。」

雉子は胸と股を隠しながら歩きリーチの前に行く。リーチの目が合うと素早く大袋に手を入れ、剣っぽい武器を取り出す。雉子はリーチにお辞儀し賀蓮の方へ走り、賀蓮の横に座る。


「次は・・・。」

スターが言い終わらないうちに黄色いバンダナと海賊風の格好をした男性が前に出た。

「俺の番だな。」


―誰?この人?―

みんなキョトンとする。


 

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