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燈洞川③

「で、どうするの?」

みんなテントから出て那妃がいた大岩の上にいる。


龍座は辺りを見回し、

「うん、ここなら大丈夫そうだ。」

龍座はスマホを取り出し画像をみんなに見せる。

「これはね、八芒星という星型多角形で別名オクトグラム。今いる大岩の周りに人が座れる程度の八つの岩がオクトグラムぽくなっているね。」

龍座は八つの小岩をそれぞれ指差しした。みんなもそれに従い見る。


「自然か人工で出来ているのかわからないけど、そこに一人ずつ岩に座るか立ってもらう。あっ、その前に、この岩にオクトグラムを那妃ちゃんが書いて。書き終えたら那妃ちゃんも小岩に移動。移動が終わったら、さっきのメモ用紙に書いている文章を五回繰り返し声に出して読んでね。」

「これだけ?儀式的だと言われたから、もっと大がかりかと・・・。これ読むの恥ずい。本当に読まなきゃダメ?」

那妃はメモ用紙を龍座に見せる。


龍座は頷き、

「恥ずいのは我慢して。たったこれだけで成功したら逆にカッコいい。」

龍座の返答に那妃は愕然とした。


「何か楽しみ!」

瑛美がすぐ小岩のところに行き座る。続いて不機嫌そうな貴寿が釣りをしていた小岩へ立つ。那妃以外、全員それぞれ小岩に着いた。雅就は小岩の上で腰振りダンスを始めた。視界に入った賀蓮は引き気味である。


那妃はフーッとため息をつき、祝詞で使用した筆ペンで大岩の表面にオクトグラムを書く。そしてすぐに空いている小岩の方へ走る。那妃は深呼吸して中二病満載のメモ用紙を読み出した。


―漆黒と純白の重星(じゅうせい)が融合し、

悠揚(ゆうよう)たる銀鼠(ぎんねず)大空(たいくう)となり。

(むらさき)だちたる雲から()でし黄金の刃が巨岩を砕け散らん。

岩塊(がんかい)が隕石の如く大地に地裂(ちれつ)(しょう)じ、澄んだ川が干上がるや。

川跡(かわと)には深淵の巨大なる蒼い円鑿(えんさく)露る(あらわ)。これ別称、異次元の開口と呼ぶ。―


那妃は早口言葉のように五回繰り返す。咬まずに言い終えた那妃は赤面の顔になっていた。だが何も変化無し。那妃が肩を落とし座ろうとすると、南東にいる龍座が

「那妃ちゃん、もう少しゆっくり読んで。恥ずいのはわかるけど。」

北東にいる那妃に大声で言う。

「わかったわよ。あともう一回やるわよ。」

少しキレ気味の那妃が深呼吸をし、再度読み上げる。


五回目の後半に入るとき、雲行きが怪しくなった。快晴から銀鼠の空に切り替わってゆき、5倍速のように妖しく綺麗な紫色の積乱雲が形成された。

異様な光景に賀蓮は「こわい・・・」と呟き、逃げようとする。

「何だよコレ?!体が動かねぇ!」

貴寿は足を動かそうとビーチサンダルを脱ごうとしたが手応えがない。みんなの身体と身に付けている物は磁石のように小岩から離れなくなっていた。


阿鼻叫喚とする現場。那妃はやっと読み終え上空を見た。厚みがかかった紫色の積乱雲がゴロゴロと音が鳴り異様さを増していた。

「ウソでしょ?まさか・・・ホントに・・・」

那妃は茫然と突っ立っている。その反面、龍座は堂々と仁王立ちして満足そうな表情にみえた。


突如、太い稲妻がオクトグラムを書いた大岩に雷鳴と共に勢いよく当たり砕けた。その反動で那妃も尻もちをつく。ずっと立ったままの龍座以外起き上がれず小岩から身動きが取れなかった。


「見てアレ!無数の岩が浮いてる。」

「ま、まさか。や、やめて~!!」

雉子と瑛美が悲鳴をあげる。

「うわ~ん、ママ、ママ~!!」

雅就は泣き崩れ叫ぶ。龍座は平然と身構えし始めた。賀蓮はブルブルと震え、残り三人は必死に小岩から抜け出そうと踠いている。


粉砕された岩が一斉に落下する。その弾みで川の水が大きく揺れ全員びしょ濡れになった。コントロールしたかのように幸い誰も岩に激突しなかった。辺りは静まり返るがいまだに小岩から離れられなかった。

「終わったの?」

那妃が顔を上げる。空はまだあのままだ。那妃がいる燈洞川の水はなくなっていた。


「来るよ!」

龍座が言ったすぐに地面が歪み出す。そして小岩もろとも皆、落ちて行った。





「痛ッ!」

那妃は目を覚ます。辺りを見回すと果てしなく砂漠のようだった。太陽は南中より少し西にあった。

「なにここ?」

那妃は不安になる。

「まさか、異世界?」

「そのまさかだよ。」

物怖じせず当たり前のような振る舞いで龍座が歩み寄る。他のみんなは気絶している。服が変わっていることに気づく。巫女衣装から忍者装束のような服を着ていた。紅葉色で柄はない。唯一忍者特有の頭巾はない。


龍座は全体的に黒色の服装で統一している。サンバイザーとロングストールがポイントとなっている。18世紀のヨーロッパ貴族風のスペンサージャケット(ウエストぐらいの短い丈で燕尾服のような体にフィットしたジャケット)とペンシルパンツ(スリムでストレートなパンツ)である。膝下くらいのグラニー・ブーツ(レトロでエレガントな靴紐も交互に編み上げて締めたブーツ)を履いている。右太ももには炎と雫のマークがあるレッグホルスターを装着している。


「・・・やっと・・・、」

龍座は聞き取れない程小さな声で呟く。

「・・・なんなの?異世界なの?あたし達帰れるんでしょうね?」

那妃は龍座に大声をあげ詰め寄る。

龍座は耳を塞ぐ。その声に貴寿や雉子達が起き上がりこの光景や服装に驚嘆する。その声で連鎖的にみんな起き上がる。ロビン・フッドっぽい衣装の雅就は泣きじゃくるが、露出度がすごい衣装の雉子が母性本能を出したおかげで落ち着きを少し取り戻した。


「スマホがつながらないね。」

みなスマホを操作しつながらないことを確認した。


「ここにいても埒があかないわ。右か左か、それとも前か後ろか多数決で決めましょ?」

あまり乗り気のない雅就以外は手を上げなかった。多数決の結果、前方へ行くことで決まった。


「俺は重装備だから、ここにいる。」

貴寿は重さで座り込む。中世ヨーロッパの甲冑。ブロンズカラーの板金製で四○キロ以上ある。アーマーがないのが救いだ。

「重いし、汗だくだ!死ぬ・・・。」

ただジッとしているのに脱水状態になりそうになった。


しばらくして貴寿は辺りを見回すと誰一人おらずポツンと取り残されているのに気づいた。

「本当に行きやがって!」

甲冑の板金が勢いよく鳴り響いた。


那妃たち一行は無言のまま当てもなく歩いていた。後ろからガシャンガシャンと金属音が段々と近付いてきた。

「てめえら、さっさと行くんじゃねぇ!!」

呼吸が追いつかない貴寿は五○○メートル程離れていた那妃一行にたどり着いた。すぐにうつ伏せに倒れもがいている。


雉子と龍座が介抱する。仰向けになった貴寿は少し息が整う。貴寿は上半身を起こし龍座に向かって

「龍座さん、あんたのせいだぞ!何なんだよ、ここは!」

みんなの視線が龍座に向ける。半数以上涙目になり今にも泣きそうになっている。


龍座は後ろ髪を右手で撫でるように掻く。龍座は黒髪のベリーショートアップバング(前髪を上げたヘアスタイル)の髪型が気に入っているようだ。

「まさか、成功するとは思ってもみなかったよ。まぁ、安心して、帰る方法はあるから。少し面倒だけど、後で説明するね。」

「えっ!ホント?!」

カボチャパンツを履いているメルヘンチックな賀蓮が前のめりになる。胸の谷間が人並み以上あり、彼女のコンプレックスとなっている。


龍座は目のやり場がなく左側を向く。

少し離れたところにホワイトブリムがないメイド服姿の瑛美がしゃがんでスマホを触ったり、耳に当てたりを繰り返していた。


龍座はすっと瑛美のそばに行くが瑛美は画面が真っ暗のスマホをジッとにらめっこしていて気づいていない。

「気になる?」

「?!」

ビクッとする瑛美が龍座を見た。

「ビックリした~。魂が抜けるかと思ったぁ。あ…あたし大丈夫だから、心配してくれてありがとう!でも龍ちゃんのところは大丈夫なの?」

「大丈夫、こっちは上手くやってるから。」


「ちょっと、帰る方法言いなさいよ。」

那妃は足早に龍座のところへ行きせがんだ。

「わ、わかった、わかったよ。でも一つ問題が・・・。」

「問題?」

「ここに暮らしている住民の助力が必要不可欠なんだ。」

「はぁ?!言葉通じなかったらどうするのよ!他に方法はないの?」

「思い当たるのはそれしか・・・。」


那妃は嘆息をつき、

「ここにいてもしょうがないわね。日が沈む前に見つけなくちゃ。」

那妃一行は再び歩き出す。



二時間以上、誰も弱音を吐かず黙々と歩いたり休憩したりを繰り返す。

ようやく夕焼けになり砂漠が黄金のように神々しくなっている。

ふと、先方にいる那妃が足を止める。

「待って!何か気配がする。」

那妃は身を構えた。




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