三度目のファーストキス(白雪姫・救出作戦)
全国の学校という学校がダンジョン化していた。校内にはいたるところにモンスターが溢れ、死者もたくさん出ていた。
わたしは笹飾ねがい。都立第三女子中学の三年生。あの日も図書室で図書の貸出と返却の受付をしていた。
バシャーン
「ギャアアア!!!」
気持ちの悪い地震のあと、図書室のドアが蹴破られる。現れたのはゴブリンだった。手に持つこん棒にはベッタリと赤い血が付いている。
獲物はわたしたち。ニヤリと笑いながらこちらに近づいてきたとき、わたしは死を覚悟した。
「こよりくん」
脳裏に浮かんだのは、わたしの王子様。永遠に忘れることのない初恋の相手。
「阿!!」
グシャ。目を開けるとゴブリンは壁に叩きつけられていた。
「ねがい。大丈夫か」
「遅いわよ。白馬の王子様」
「「「女だよ!!!」」」
そこには拳法部の主将と部員のA子とB子の三人がいた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「もう四日か」
「おなかすいたっす」
「お風呂に入りたいわ」
「こよりさん、大丈夫っすかね」
「般若がいるだろ」
「「「あー」」」
神人こよりくん。半年ほどこの学校にいた、その時は美少女。いまは大好きな彼女と楽しい学園生活を送っているはず。そして、その彼女こそ最強最悪の般若。
二人の間には何者も入り込めない。だから、わたしは彼を諦めた。こよりくんが女のときに一度、男性に戻ってから一度。都合、二度のファーストキスをして。
あれから主将たちと図書室の入り口にバリケードを築き、わたしたちは立てこもった。政府からは自衛隊も派遣されている。しかし、モンスターは強力で制圧に時間がかかっているとスマホのニュースで見た。
図書室の準備室にはトイレと水道があるので、空腹とお風呂さえ我慢すればまだ立てこもることはできる。
問題は巨大モンスターの存在だろう。運動場には身長が五メートルほどあるゴーレムが闊歩している。ゴブリンにもゴブリンリーダーが目撃されていた。
ガンガンガンガン
「来たわね」
「やるぞ、てめえら!」
「「うす!」」
ズズーン
バリケードが破られる。入り口を壊しながら身長二メートル以上はありそうなゴブリンの親玉が入ってきた。口元にはどす黒い血を滴らせて。
ワラワラと雑魚ゴブリンも十匹ほどでわたしたちを囲む。
主将とA子とB子は善戦した。雑魚ゴブリンを五匹ほど倒したときだった。仲間ごとリーダーが横殴りのラリアットを放ったのだ。
壁に吹き飛ばされる三人。即死は免れたようだ。よかった。そのまま倒れていて。少しでもわたしが時間を稼ぐから。
「わたしから食べなさい!!」
「ねがい・・・逃げろ」
「だめっす・・」
「逃げて・・」
まったくボロボロじゃない。半年前は体を売ってでも金を作ってこいなんて言ってたのに。今では親友の三人。こよりくんで結ばれた友情。ごめんね、先に逝くわ。
リーダーの大きな口が目の前に迫る。ただなにもせずに死んでたまるか!!
隠し持っていたボールペンをリーダーの目に突き刺す。
ギャアアア!!!!
リーダーの左手で薙ぎ払われる。壁に体と頭をしこたまぶつけて意識が朦朧となった。もう指一本さえ動かない。
「こよりくん・・・」
涙がでた。体の痛みもあるけれど、彼に会いたい。何度もキスをしたい。それももう叶わないのか。
リーダーが迫ってくる。ああ、まだ終わりたくない。あきらめたくないよ。
「阿!!!」
グシャ。
ズズーン。リーダーが倒れる。何があった。
「ねがいちゃん!大丈夫!!」
どうか夢なら醒めないで。そう願うわたしの前には神人こよりくんが立っていた。
学園ダンジョン化 四日目 午前
とつぜん学園は解放された。まあ校内のモンスターをボクたちがぜんぶ倒したからなんだけど。
「先生。あとはお願いします」
「任せろ、こより」
「任せて!神人くん!」
担任の先生と国語の愛ちゃんがいれぱ後は大丈夫だろう。二人の隣にはドライアドとウンディーネもいることだし。
ずっとスマホでニュースは見ていた。全国の学校がダンジョン化していた。ボクが少し前まで在籍していた第三女子中学も例外なく。
あの肌の白いおさげの女の子の顔が浮かぶ。大きな胸も。ねがいちゃん、どうか無事でいて。
「ねがいちゃんのこと考えてるでしょ」
「!!」
「胸は大きさではありませんわ」
「わたしならいつでも揉んでくれていいんですよ。こより様」
「おっぱい星人だな。コヨーリ!」
校庭に軍用ヘリが待機している。ボクたちは第三女子中学の解放に向かう。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
バラバラバラバラバラ
「第三女子中学の上空に着きました!」
「じゃあイキますか」
ヘリの横ドアから屋上にむけて飛び降りる。
「ドライアド!!」
ふわっ。精霊とはいえ、きれいな女の人にお姫様抱っこされる男って絵にならないね。
「トールハンマー!!!」
クリスの精霊トールが屋上のミノタウロスを丸焼きにする。美味そうな匂いが屋上に充満した。
ボクは躊躇せず図書室めざして階段と廊下を走り抜ける。
図書室の入り口が大きく壊されていた。間に合わなかったか。そのとき、ガシャーンという音がして笹飾ねがいちゃんが吹き飛ばされるところが見えた。
カッとなった。ボクは足元の雑魚ゴブリンらを一撃で沈め、リーダーの脳天にハンガーヌンチャクを叩き込んでいた。
「ウンディーネ!癒しの霧!!」
「お姉ちゃん。クリアもお願い」
「了解よ、短冊ちゃん」
ぱあぁ。寝かされている主将やねがいちゃんのキズが治っていく。クリアで衣服や体の汚れもきれいになった。女の子だもんね。
「あ」
「ねがいちゃん、大丈夫!!」
目が覚めると王子様がいた。ああ、あいかわらずきれいな顔。もう自分を騙せない。こよりくんの顔に両手を伸ばす。こよりくんは両手でその手を包んでくれる。
ぐいっ
そのまま彼の顔をわたしの顔にひきよせる。わたしは彼と三度目のファーストキスをした。
やん。倒れまいとした右手がわたしの胸をわしづかみしてるわよ、王子様。ほんとエッチなんだから。
「やはり、おっぱい。おっぱいはすべてを解決する」
やめろドライアド。これ以上、状況を悪くするようなことを言うな。
ああ、後ろから百合ちゃんの殺気がする。目の端で小刀を懐から取り出す短冊ちゃんの姿が見える。
この後が怖いなぁ。
ボクは神人こより。ねがいちゃんにとっては王子様らしい。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「スノウホワイト!」
「イフリート!」
「シルフ!」
「トール!」
ねがいちゃん、主将、A子、B子の四人がサーヴァントを召喚する。
学園から持ってきた分のカードとさっき倒したリーダーで四枚になったので、四人に渡すことにした。
スノウホワイトは初めてみる精霊だ。雪や氷を司るらしい。
四人は食事と休憩を取った後、召喚の儀式をした。夜までこの学校のモンスターをチームになって倒してもらう。
「ボスからドロップしたカードは信用できる人に使ってもらって」
「うん」
「「「サー、イエッサー!!」」」
さあ、第三女子中学を取り戻すぞ。
はい異世界シニアです。
学園のダンジョンは四日目で攻略されてしまいました。
あと三日。どうしましょう。
次回、学園ダンジョン。五日目(仮)