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第5話 奴隷の少女

 


(タスケテ)


 声が聞こえた。

 ふと目を覚ますと、私の剣を盗もうとしている少年と目が合った。


「少年、これは呪剣。呪われているから普通の人には扱えないですよ」

「ひっ、ひぃっ殺されるぅーーッ」


 強盗にでも遭ったかのように悲鳴を上げながら、走り去っていく少年。


 うーん。

 他人様の剣を盗もうとしておいて、その物言いはひどい。異議を申し立てたい。この剣は先代の魔王様から賜った呪いがかかった剣で、特徴としてはとても重い(・・・・・)。昔、人間に寝込みを襲われて剣を奪われそうになったが、大人の男でもひとりで持てないくらい重いので、子どもの力ではとてもではないが持ち去ることはできないだろう。


 マルはまだ私の肩の上で熟睡している。

 番犬代わりのつもりだったが、いささか期待しすぎたか。


 それはさておき……。


(イヤ、ヤメテ)


 また聞こえた。

 頭の中に微かに響く少女のか細い声。

 向こうから聞こえるかも……。


 急いで裏通りから、さらに網の目のような入り組んだ路地に入る。

 何度も路地を折れてようやく声の主の元に到着した。


「くそっこのガキ! 抵抗ばかりしやがって」

「もういい、早くヤッて殺しちまえ!」


 3人の男と奴隷の首輪を嵌めた少年少女が5人。

 奴隷のひとり、獣人族の女の子が、男たちに激しく抵抗していた。


「そこで何をしているのです?」

「うぇ? こっ、これは騎士様。俺らに何かご用で?」


 慌ててズボンを上にあげる男の横で少女を背後から羽交い絞めにしていた男が、取り繕った笑顔で私に話しかけてきた。


 奴隷商人か。

 アーテから話は聞いていたが、実際目の当たりにすると、気分のいいものではない。


 大陸の北の果て、魔王領であるノースエンドに隣接するバイナン王国の南西に位置するカルプット共和国。その国は亜人が多く住み、この数十年、バイナン王国と戦争状態にあると勇者アーテから聞いていた。捕虜として捕まった亜人の子たちがこうやって王国内で当たり前のように売買されているのは、この人間の国の統治している人間に少なからず問題があることを示唆している。


 騎士、か……。

 誤解されたままの方がこの場はうまくいきそうだが。


「いえ、私は騎士ではありません。ただの冒険者です」

「あんっ? 紛らわしい恰好しやがって……で? ただの冒険者が何のようだ?」


 鮮やかに手のひらを返してきた。

 見習いたいものだが、たぶん愚鈍な私には、土台無理な芸当だ。


「その子が用済みなら私が買います!」

「なんだと?」


 殺されるよりはマシなはず。

 私が声をかけなかったら男たちに乱暴されて殺されていただろう。路地裏ですれ違う人間は皆、目がまともではなかった。ここで殺人が起きても誰の関心もひくことなく一人の人間が命を落としていた。


「大金貨10枚と言いたいところだが、8枚にまけてやる」

「その子を殺そうとしてましたよね? 3枚でお願いします」

「5枚だ。それ以上はまけられねえ」

「いいえ、3枚です。私の気が変わらない内に3枚で手を打ってください」

「ちょっ、おいおい、冗談だって。3枚でいいぜ」


 呪剣の柄にそっと手にかける。

 あまりやりたくなかったが、今回ばかりは致し方ない。


 大金貨5枚なら盗賊退治の報奨金で持っているが、手持ちが心細くなる。アーテから野蛮な連中と交渉する時はとにかく強気で行けと言われていたので、強気で交渉したら相手が折れた。


 まあ、今回は交渉というよりほぼ脅迫なので、今後の宿題としたいところ。


 さてどうしたものか。


 思わず奴隷の女の子を買ってしまったが、これからどうしたらよいのかわからない。

 奴隷商の男たちが去った路地裏で腕組みをして考える。


 桃色の髪から突き出た兎耳が垂れ下がったまま。ピクピクと揺れている。

 私の反応次第で自分の行く末が決まるので緊張しているのかも。


「私、なんでもやります。ですからお傍に置いてください」


 たしかにこのまま放り出してしまったら、路頭に迷ってしまうだろう。

 私だけなら寝泊りは野宿でもなんでもできるが、この子にそんなことはさせられない。面倒を見るならちゃんとしなければならない。


「わかりました。では一緒に行動しましょう。私はアルコ。あなたは?」

「ハイビス・コッタと申します……ハイビスとお呼びくださいご主人様」

「ご主人様……はちょっと」

「ではアルコ様」

「いえ、そもそも〝様〟と呼ばれるのが抵抗がありまして……」

「呼び捨てや〝さん〟は滅相もありませんし」

「私はその方が気が楽なのですが?」

「そうもいきません。では師匠、陛下、親方、他にはえーと……」

「わかりました。アルコ様で結構です」


 師匠とか陛下と呼ばれるよりはマシ。

 ハイビスの提案通りに呼ばれることになった。


「それよりハイビス」

「はい?」


 遠くから頭の中に聞こえた声。

 あれはハイビスの声だったのだろうか?


「それならこの子です。マリエッタ、アルコ様にご挨拶を」

「マリエッタです。アルコ様。お初にお目にかかります」

「え……はい、こちらこそよろしくお願いします」


 ハイビスの影から50CM(セルチ)ほどの人形が現れたかと思えば挨拶をはじめたので驚いた。


人形俜(パペティア)ですか?」

「はい、この子は念話が使えます」


 人形俜を扱える者がいると、アーテから聞いていたが、まさかハイビスが使い手だったなんて……。


 奴隷商人にバレないように気をつけながらマリエッタを使って助けを呼んだら私が現れたということか。








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