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第40話 幼き刺客

 


 どうしよう?

 アーテが魔王城へすでに向かったかもしれないのにここで足止めされている。


 場所はノースエンドの入り口である奈落の門から1日ほど北へ向かった先にある〈銀霜樹海(フロスト・ヴェイル)〉。


 木々が雪で覆われ一面、白銀の雪景色が広がっているが、並の冒険者では1日として生きていられない過酷な世界。


 そんな無慈悲な森の中で、襲ってくる魔物をロダンとマルに任せて考え事をしている。


 頼りになるロダンと元々、ノースエンド全土が庭のような上位白銀狼(アーク・フェンリル)のマル。どちらも私やハイビス、アシュレに氷猪鬼(アイス・オーク)などの手強い魔物を寄せ付けないようにうまく戦ってくれている。


 そして、比較的弱い鉄頭兎(ヘッドラビット)などを、わざと陣形の中に招き入れてもらう。ハイビスのちょっと怖いエミリーやアシュレの発明品〈魔石式連装砲〉で倒し、少しでも実戦に慣れるよう修行をしている。


 見てのとおり、私がなにもせずともこの森の中でやっていけている。問題は……。


「──うっ⁉」

「ハァハァ……カナサ、大丈夫か!」

「うん、なんとか……サビラも気をつけて」


 私達をタイタル聖王国から追いかけ回している〈白の天秤(アルブス・リブラ)〉の二人組。聖王国の国境付近ではもっと数がいたが、あちこち逃げ回っている内にだいぶ数も減って今は二人だけになっている。


 少し前に私たちを発見した二人はこちらに接近を試みるが、〈銀霜樹海(フロスト・ヴェイル)〉の魔物たちがそれを許さなかった。


 このままだと、魔物の毒牙にかかるのも時間の問題。私を何度も襲ってきた連中なので助ける義理など本来ないのだが、目の前で死なれるのは寝覚めが悪い。


 なんと言ってもまだ年端もいかない男の子と女の子。ハイビスやアシュレ達よりもさらに幼い。見た感じ7~8歳くらいだろうか……。こんな小さな子どもを暗殺者に仕立て上げるとは、白の天秤という組織は相当に頭のおかしい集団のようだ。


 この子たちは対人戦……特に暗殺スキルに長けているだけで、本物の魔物とはたして戦ったことがあるか怪しいところ。身体もまだ未熟なため、いくら身のこなしが素早くても大陸でもとりわけ魔物の数が多いノースエンドで無事ではいられない。


「ロダン、お願いします」

「遅いじゃん、そのまま見殺しにするかと思った」


 ロダンに頼んで魔物に囲まれている二人を救出してもらった。ロダンが抜けた陣形の穴に私が入り、数回剣を振るっただけで魔物たちが怯えて逃げ去っていった。


「忌々しい冥界の尖兵め!」


 ロダンに捕まったふたりは唾を飛ばしながら、目で射るように睨みつけてくる。


「はぁ……あのさー」


 ふたりの腕を押さえているロダンがため息を漏らす。


「俺たちがなんで先に進まないか知ってんの?」


 それはこの場所で苦戦しているお前たちを見殺しにするような真似ができないからアルコさんは悩んでんだ、と話す。


「どうでしょう? ここは一時休戦ってことで」

「ふざけるな! この世の悪の元凶が⁉」

「おいおい俺の話を聞いてたか?」

「勇者ロダン。冥界の尖兵に魂を売った裏切り者」


 私が休戦を提案するも断られ、ロダンも噛みつかれている。これは困ったことになった。


「おりゃ!」

「ぐぁ⁉」

「サビラッ! ……勇者、貴様~~ッ」

「うっせー、チビ共! カラダでわからせてやんよ」


 えー、ロダンが男の子の方を蹴った。

 女の子の手も放して、かかってこい、と合図をしている。


「ロダン!」

「アルコさん、ここは俺に任せてくれ」


 ロダンの強い口調に押し切られた。


 それから延々とロダンが斬りかかってくるサビラとカナサを拳で殴りつける。手加減しているのはわかるが、小さい子を殴っている光景は痛々しくて見てられない。


 夜になった頃に気絶した二人をロダンに先に魔法の箱庭(マジックキューブ)の中に運んでもらった。その箱庭を樹上に避難してもらったマルに朝まで見張りをお願いした。















「──あっ」

「気がつきましたか? もう少しじっとしてて下さい」


 気絶していたふたりを箱庭の家に連れて行き治癒魔法を使っていたら、女の子……カナサの方が先に目を覚ました。まだ完全には癒えていないので、横になっておくようお願いした。カナサは私のお願いを聞き届けてくれたのか、横になったまま、カナサとサビラを治療している私の顔を見上げている。


「なんで敵を治療しているの?」

「なんでって言われても、痛そうにして人を放っておけないというか……」


 あらためて聞かれても返答に詰まってしまう。人が傷つくのはあまり見たくない。たとえそれが私を倒そうとしてきた者でも。綺麗ごとに聞こえると思うが、自分のしたいようにしているので、ただの自己満足でやっているだけに過ぎない。


 彼女の表情から険しさが取れて穏やかにも見える。


「治ったら、また特訓だからな?」

「──っ⁉」


 今、気づいたようだが、私の背後にロダンが座っている。二人の治療を終えたら、ロダンがいつも一人で修行している場所へ連れて行って特訓させるつもりらしい。現在ふたりはこのノースエンドの地でほっぽり出したら、まず間違いなく死ぬ。そうならないようにみっちり鍛えてから放り出すという私には理解不能な作戦をロダンが思いついた。


 ふふふっ、でもこれでいいのかも。

 このままこの子たちを保護したまま早く魔王城へ辿り着き、賢者カルテタバルと戦う前にアーテを説得してノースエンドから一緒に逃げ出す。その間くらいはここで修行しててくれた方がありがたい。


 それにしてもそろそろあの二人が帰ってくる時間。問題が起きなければいいが……。


「あら、アルコ帰ってたの?」

「ん? ああ、エナロッテ。──ってちょっと! 息が耳の中に⁉」

「フゥー、あのウサ耳がいない間に早く子作りしちゃいましょ?」

「あー! まーた性懲りもなくこの泥棒蜘蛛! アルコ様から離れなさい!」

「イヤよ、アルコのカラダを糸でグルグル巻きにして襲っちゃうんだから」

「ダメです。アルコ様の(みさお)を奪うのは私です!」


 私にしがみつく元魔王四天王エナロッテを引き剥がそうと兎人族のハイビスが吠えているが、ちょっと耳を疑いたくなることを口走った気がする。


 この家に同居人がひとり増えた。当たり前のように私のベッドに潜り込んでこようとしてくるエナロッテとハイビスが毎夜、激しい争いを繰り広げている。


「やっぱり人類の敵……ううん女性の敵!」

「いや違いますから、ロダン、なんとか言ってください」

「あ? モテんだろ。この前一緒に風呂入った時にその人の股にドラゴンいたぜ」

「ロダン~~~っ!」








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