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第4話 主を追いかけて

 

 なんと!

 全身鎧で街の門に行ったら、敬礼されてそのまま中に入れた。

 この鎧、騎士が身に着けるものだからなのかも。


「これは騎士さま。冒険者ギルドへ何かご用ですか?」

「いえ、私は騎士ではありません。ただのガイコ……冒険者見習いです」


 あぶない。

 あやうく自分が骸骨だと暴露するところだった。

 魔物だと勘違い……まあそう遠く外れてはいないが騒ぎになるのは困る。


「実は昨日、盗賊を退治しまして……」

「それなら伺っております。アルコ様でございますね」


 昨日、馬車を護衛していた傭兵のザックに教えてもらった通り冒険者ギルドで盗賊討伐報酬を受け取った。


 大金貨5枚と小金貨が5枚。

 かつて勇者をしていたアーテから人間の世界での貨幣価値はだいたいは聞いている。

 銅貨3枚で1食分。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨5枚で宿屋に一泊くらいが相場。銀貨が10枚で小金貨1枚。小金貨10枚で大金貨1枚。そして大金貨10枚で白金貨1枚となっている。これはこのアースヴァルト大陸共通の貨幣で地方によっては扱う貨幣が違うものもあるが、基本、共通貨幣さえ持っていれば、大陸内であれば不自由しないと聞いている。


「冒険者登録もなさいますか?」


 冒険者登録とは、人間世界での許可証のようなものらしく、持っていなくともクエストを受けられるが、数割程度の報酬の加算や武器防具などの支給品。高位ランクの高難度クエストの場合の保険への自動加入などさまざまなサービスが受けられるらしい。


「ええ、お願いします」


 笑顔で接客に励む受付嬢のすすめで冒険者登録をすることにした。


 冒険者登録すると自動的に冒険者ギルドに加盟することになり、所属している街の冒険者ギルドに月々会費を納めればよいそうだ。会費は冒険者ランクに応じて、変わってくるらしい。冒険者ランクが高位になるほど月々の会費が高くなるが、その分、ギルドからのサービスも手厚くなるとのこと。


「これが冒険者登録証です」


 ペンダントタイプの登録証。

 首に提げて常時携帯するものらしく、蓋を開くと中に名前と等級、冒険者ギルドへの加入日、所属している街の名前が書かれている。


 そしてペンダントの表面には星印がひとつ刻印されていて、冒険者ランクが上がると星の数が増えていき、七つ星──第7等級が最高位ランクの冒険者となるという。


「それでは冒険者ランクの上げ方を説明します」

「白銀の魔狼が出たぞーッ!」


 冒険者ギルドの受付嬢からまだ説明を受けていた途中だったが、建物の中に男が走り込んできてギルド内が騒然としはじめた。


 白銀の魔狼というのは、魔王領ノースエンドに生息するフェンリルで、人間の住むこの地方で目撃されたと聞いて軽く驚いた。


 もしかして……。


「あっちょっと!」


 受付嬢には申し訳ないが、今は先を急ぐ。

 騒いでいる方向へ急いで向かうと、門の外に白銀の毛を持つ巨大な狼がいた。


「第5射用意……撃て!」

「〈業火球(ファイアボール)〉」


 5人の魔導士が同時に火炎魔法を狼に投じるが、すべて手前に生成されるバリアで弾かれていた。


「なぜか沈黙しているがヤツが、その気になればこの街はおしまいだ……」


 近接戦闘系の冒険者も魔狼に近づくのは怖いらしい。魔導士たちの遠距離攻撃が通じるのを遠巻きに祈るように見るばかり。


 おとなしくしているのが冒険者にとっては不気味なのだろう。

 強靭な四肢に身にまとっている膨大な魔力。どれをとってもこの街にとっては終焉をもたらす恐怖の存在そのものに見えているはずだ。


 まあフェンリルがおとなしくしているのには心当たりがある。

 まさかと思っていたが……。


「マル?」

「アウ~ン!」


 やっぱりそうだ。

 暗黒の谷の近くを縄張りにしているフェンリルで、よく門まで来るのでエサをあげていた。だがフェンリルはフェンリルでもマルは、上位白銀狼(アーク・フェンリル)という希少種で、この大陸ではただ1頭のみしか確認されていない。


 5m以上の巨大な体が白煙に包まれる。

 すると子犬ほどの大きさに変わったマルが膝にすり寄ってきた。


「あっアンタの使い魔か?」

「いえ、違いますが」

「なっ! ──とにかくアンタに懐いてるんだ。責任もって管理してくれ」

「はぁ……」


 私が暗黒の谷の門にいないのでニオイを追ってきちゃったのかな?

 暇な時はお腹をみせてくるので、ワシャワシャしてあげていた。


 冒険者や街の人たちも私とマルを警戒しながらも、それぞれ散っていく。

 ほとぼりが冷めた頃に門番に睨まれながらも街の中へ入り、裏通りへと入っていった。


 今日は目立ち過ぎたのでここで休もう。

 私の場合、宿に泊まるほどでもない。

 睡眠というものは必要ではないが、寝るとスッキリするので夜はなるべく寝るようにしている。だが宿屋に泊まるほど熟睡するわけではないので、こんな裏通りの端っこで座って寝たら十分だった。


 まあ寝込みを襲う輩がいるかもしれないが、私にはマルがついている。私の話す言葉をだいたい理解してくれる賢い魔物なので、不届き者であってもけっして食い殺さないように伝えておいた。















 昔の夢を見た。

 自分が何者かもわからず、荒野を彷徨っていた頃、その人に会った。

 先代の魔王。


深淵の騎兵(アビサル・コーサー)か、実物は初めて拝む」

「ガァァアアッ!?」

「まだ意識が保てておらぬようだな」


 巨大な魔法陣に誘き寄せられ、魔法陣の中央に誘い出された瞬間、魔法が発動した。

 今、考えたら封印魔法なのだが、当時の私は意識が混濁した野獣のような存在だったので、体中に真っ黒な無数の蛇に巻き付かれ身動きが取れなくなった。


 それから何回、何十回も季節が移り変わっていった。

 その間に先代の魔王は何度か荒野の真ん中で封印されている私の顔を見に来ていた。


「そろそろ頃合いかの?」


 顔に深く刻まれた皺が魔王がだいぶ年老いたことをしらせる。

 いつものように私の目をまじまじと覗いた魔王が、私の封印をあっさりと解いた。

 拘束されている間に自我を取り戻した私は、その場で魔王に忠誠を誓った。


「なんなりとご命令を!」

「ではひとつ頼みがある」


 結わえた白く長い髭をつまみながら、先代魔王が私に命じた。


「お主には暗黒の谷の門を守ってもらいたい」

「はい、命に代えましても」

「そこまでせんでよい」

「はい? と申しますと?」


 聞き返した私に先代魔王はニヤリと口の端を捻り上げた。


「死んだら元も子もないだろ?」

「はぁ……」


 いまいち理解できない私にもう一度、わかりやすく説明してくれた。


「魔族だって生きている。健康が一番、仕事は五番目くらいがちょうどいい」


 その間に家族や仲間、趣味が入ってくるそうで、仕事なんてものはその後で十分だと長い年月を生きてきた老人が教えてくれた。












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