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第35話 人類の希望


「詳しい話を聞こうか?」

「こちらは元からそのつもりだ」


 女王ネフェルデアはロダンにそう答え、説明を続ける。

 約1か月前にノースエンド北端にある冥府の揺籃(クナ・インフェルニ)の魔王城〈無限凍城(コキュートス)〉で起きた魔王殺し(クーデター)


 その実行者はこのイジス女王国に深く関わり合いのある者で500年以上前の建国以前から生き永らえている化け物だそうだ。


「ってか、なんで人間が誰も行ったことないところのこと知ってんの?」

「貴様、いい加減にしろ⁉」

「よせ、ビスマルク。話の腰を折るでない」

「──はっ!」


 ロダンの無作法に吠える側近はまたしても女王に注意され、悔しそうにしている。


 それより、たしかにロダンの言う通り。なぜそんな大陸の最北にある魔王城のことを知っているのか? ちなみに私だって魔王様に荒野で門番を仰せつかってから一度も魔王城を訪れたことがない。人間があの場所へ到達できるとはちょっと想像がつかない。


「これは〈思考する水(アクア・ソロウィタエ)〉と呼ばれている」


 豪華な器に張られた銀色の水。雨粒くらいの大きさの分身を様々な動物や魔物に寄生を繰り返して移動する古代遺失品(アーティファクト)と呼ばれる失われた技術で創られたアイテムで遠くの出来事を音付きの映像で見ることができるという。


 女王ネフェルデア──イジス女王国がなぜこんなとんでもないアイテムを持っているのかは説明はなく、ロダンも聞く気はないようなので私もそこには触れないことにした。


「魔王を倒した者は、過去に〈旧き者〉、〈仮面の君〉などと時代によって呼ばれ方も様々だが、もっとも多くの人々に知れているのは〈賢者カルテタバル〉という名じゃ」


 賢者カルテタバル。数百年前に実在したという魔術を極めたと云われている天才。しかし、晩年にいくつかの禁術や穢哭呪骸(モルオクス)と呼ばれる呪いのアイテムなどを作ったことはあまり知られていない。


「不死である彼のことを知っていた我々一族は代々、彼の行方を捜していました」


 約400年前に起きたある事件。

 何百、何千年と悠久を生きる彼にはじめて妻と子どもができたそうだ。当時、現在ある国家はほとんどなく、何十という国家が入り乱れた戦乱の真っただ中にあったという。


 イジス女王国に縁を持つ彼はその深淵なる叡智と人外といえる膨大な魔力で、まだ弱小国であったイジス女王国を他国の脅威から守り抜いていたが、ある日、悲劇が起きてしまった。


 隣国による妻と娘の拉致。

 要求はカルテタバルの3年間、戦争への不介入を条件として出してきた。カルテタバルはその間、一切の戦争への加担をせずに指示に従った。その間、イジス女王国は窮地にさらされ、滅亡寸前まで追いやられたそうだ。


 3年後、約束の期間を終えたカルテタバルは妻と娘を迎えに行ったが、相手国は約束を破り、彼の妻と子どもを奴隷として他国へ売り払った後だった。


 怒りに狂ったカルテタバルはその国を滅ぼした後、転々とあちこち妻と子どもを探して回った。2年後に南の端ある国で散々こき使われて流行り病で亡くなった妻の墓を見つけ、さらに1年後に幼女を好む悪趣味な貴族に性の玩具として弄ばれて頭のおかしくなった娘を別の国で見つけた。快活でおしゃべりだった娘は言葉を話せず、父親を見ても怯えるばかり。カルテタバルはその貴族とその家族、親戚にいたるまで根絶やしにした後、娘を連れて行方知らずとなったそうだ。


「この〈思考する水(アクア・ソロウィタエ)〉で追えない場所は冥府の揺籃(クナ・インフェルニ)の底のみ」


 冥府の揺籃……昏き谷はその先がどこへ繋がっているのか誰も知らない未踏の地。冥府の揺籃の比較的、上の方で城を築いた魔族でさえ、その深淵を覗いたものはいないという。


「んで、結局、俺に何を頼みたいの?」

「あの者を止められる者は限られている。もっとも可能性の高いのは黄金の闘気を持つ勇者」


 だが、そこまで話して、眉間に幾条もの起伏を作りため息をつく。


「第34代目勇者オルクスはつい先日、カルテタバルの配下の手によって討たれおった」


 勇者オルクス。ロダンにとって勇者の先代に当たる人物でシェアローン帝国で将軍の地位に就いていた男。


 勇者としての名声は特に聞こえず、彼が保身のために帝国に行ったのではないかと話す。だが、こうやって討たれてしまうとは、オルクス自身思ってもいなかっただろう。


 この1か月、勇者狩りが行われているそうだ。

 すでに勇者オルクスのいたシェアローン帝国はかなりの被害を受けていて、もうひとり今でも存命の第32代目勇者アーバンテインを血眼になって探しているという。


「そして第35代目勇者ロダン・シェイカー。連中はお前も探している」


 勇者の存在は、人類の希望。

 勇者を根絶やしにしないとカルテタバルは安心して、この大陸の人間を抹殺できないのだろうと話す。新しい勇者誕生の報せはバイナン王国で派手に宣伝していたため、ロダンの存在は少なからず民衆に知れ渡っている。


「俺が魔王城へ行って、そのカルテなんちゃら倒せってこと?」

「いや、今は一刻もはやく仲間を集めるのだ」


 勇者とは希望の星。

 勇者が生まれると、運命に従ってその勇者の仲間が世界のどこかにいるという。


「なーんだ、そんなことか」

「簡単ではない。あの勇者アーバンテインですら、3人の仲間を見つけるのに1年かかっている」

「大丈夫、もういるし」

「ほう、その騎士殿か?」

「そう、他にも人形使う子とすごい技術を発明できる子もいるぜ」


 アルクさんは仲間っていうより俺の師匠だけどな、とロダンがやや苦笑いをしてみせた。













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