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第31話 砂上都市

 

 聖タイタル王国の聖都フロリシアを発って1か月が経過した。


 勇者アーバンテイン──アーテが魔王領ノースエンドに行くのをやめさせるためにイジス女王国経由でバイナン王国に向かおうとしていた。だが、私達がイジス女王国に入国した直後にすべての国境を封鎖してしまったため、出るに出られない状況になっている。


 そして現在、私はタイタル聖王国の追手に追われる身となっている。

 聖女カタニアがアーテの元に転移した後、硬い表情をしたボジョル司教から「お気をつけください」と意味深げに言われたが、数日後にその意味を理解した。


 女神教の浄化組織〈白の天秤(アルブス・リブラ)〉。

 教団の裏の組織で、その名のとおり、この大陸の秩序や調和を乱す者を裁く存在。歴史を遡ると幾人もの他国の重要人物でさえ、秘密裡に消してきた凄腕の暗殺者集団。


 なぜ私が命を狙われはじめたのか、考えたくもない。

 今は、魔法の箱庭(マジックキューブ)を持ったロダンに箱庭の外に出てもらい。イジス女王国を抜け出せないか様子を探ってもらっていた。


「どんな感じですか?」

「ああ、アルコさん。別になにも変わらないけど」


 夜中にロダンが借りた宿の部屋で外に出た。

 魔法の箱庭の中からでもハイビスを通してマリエッタの念話ができるので、うまく時間を見計らった。


「今日の夕食は智獣たちが作ったグラタンでしたよ」


 ケアンズロックの山岳地帯に生息している山羊のチーズとビビドーで育てたノクタニアという夜中に成長する珍しいナスを使ったグラタン。とろりとした乳脂肪の味わいが癖になる一品だった。


 ロダンが箱庭の中に入った後、近くの椅子に腰かけた。すぐそばにあるテーブルの上に何冊か本が置いてあるのに気づき、一番手前にある古びた本を手に取ってみた。










 ──────────────

 〈砂上都市サハイラルの文化と風習〉──著者:エドモール・グスタフ


【歴史】

 サハイラルは、約500年ほど前まで広大な緑地だったが、魔災の影響により、砂漠化が進み、マナウ湖周辺に住んでいた民が移り住んで苦難の末に繁栄を築いた国。現エスマーク国に位置するマナウ湖には500年以上前に「湖上都市」と呼ばれる旧文明があったとされており、イジス女王国の民の多くはこの旧文明の末裔と云われている。サハイラルの住民たちは独自の水資源管理技術を発展させ、地中水路「カナート」を構築することで砂上にある小さな国を大国へと発展させた。


 イジス女王国はアースヴァルト大陸のほぼ中央に位置していることから、交易の中心であり、いくつかの交易路が交わっている。そのため複数の文化が入り混じっていて、様々な種族の人々が季節を問わず、この国を訪れている。


【文化、建築様式、言語】

 サハイラルの人々は、砂漠の過酷な環境で生きる知恵を磨き、自然を尊重し崇拝している。夜の冷たい砂漠の風の下で開かれる「深天の宴」という祭りが有名。この祭りでは歌や詩が披露され、地元の仙人掌(サボテン)から作った酒が振舞われることが多い。


 また、砂漠地域特有の建築様式が発展しており、都市は日差しを遮るための細い路地など熱気のたまりやすい場所に上空の涼しい風を引き込む〈風採塔〉がサハイラルの街のシンボルとなっている。衣装は砂の色に似た淡い黄色や茶色を基調とし、防砂用のショールが日常的に使われている。


 主要言語は、アースヴァルト大陸共通言語で、王侯貴族のみ古代言語が口伝されているらしいが、著者未確認のため、真偽は不明である。


【特徴】

 サハイラルの砂漠は昼夜で大きく温度が変化し、澄んだ星空は絶景として知られている。砂漠特有の動植物も多く、岩トカゲや砂鳥、希少な夜に咲く花などが生息している。また、砂漠には複数の美しいオアシスがあり、オアシスを中心にイジス女王国の都市が形成されている。


【その他】

 イジス女王国内において、〈月民(ユエリプス)〉と呼ばれる奇形児が生まれることが確認されている。月民は腕が3本以上あったり、三つ目だったりと様々で、現時点では隔世遺伝ではないかと考察されている。


 ────────────











 途中まで読んだが、後の方は執筆当時の他国との関係が書かれていたので、今時点ではあまり意味をなさいないので、そっと本を閉じる。


 月民(ユエリプス)、か……。

 そういえば、タイタル聖王国の国境付近で、不思議な姿をした男に声を掛けられたのを思い出した。

























「そこにいるのは誰です?」

「おっと、これは驚いた。完全に気配を消していたつもりだったのに」


 聖都フロリシアから逃走を始めて3日。

 女神教の過激的な〈白の天秤(アルブス・リブラ)〉に命を狙われているので普段以上に周囲を警戒していたので、たまたま気が付いたにすぎない。


 何の変哲もない大木。その大木の樹皮に擬態した男が静かに月夜の下に姿を現した。

 右腕は普通だが、左腕が2本ある(・・・・)男。


「なんの用です?」

「まあそう警戒しないでもらいたい」


 争う気はないと3本の腕を上げて、誤解を解く仕草をみせる。


「ダリマビウスの件は申し訳ないことをした」

「……彼とはなんの関係が?」


 足音を立てずにこちらへ歩み寄った男は、ピクリとも表情を動かさずに説明を始めた。


あの方(・・・)はこの大陸を激しく憎んでいる」


 男の言う「あの方」が誰なのか説明のないまま、ノースエンドから追放された私と彼が所属する組織との間で手を組まないかという申し出をしてきた。


 なぜダリマビウスの件を知っている?

 口ぶりからするとダリマビウスと繋がっていて、教主であったダリマビウスをまるで傀儡のように操っていたかのような物言いをする。


 あと、なぜ私が魔王領から追放されたことを把握しているのか……。


 ずっと監視されていた?

 いや、そんなはずはない。


 今のように擬態して気配を殺したとしても、ずっと私に気づかれない可能性はとても低い。


 相手の不明瞭な目的と先ほどから感じる勇者アーバンテインにも匹敵する膨大な魔力。彼らの組織の規模は知る術はないが、仮に目の前の男のような実力者が何人もいたら、その気になれば大陸の均衡が大きく崩すことができるだろう。様子を探るべく、手を組むフリをするのも、一つの手といえる。


 色々と考えた末に私の導き出した答えは……。





「お断りします」






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