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第30話 再会

 

「まずはご自分の顔を見てください」


 聖女カタニアにそう言われたので、中庭の一角に噴水があるので、そこで月明りの元、水面に映る自分を確認する。


 赤い筋張った筋肉に眼球。

 食べるために動物を狩ることがあるが、皮を剝いだ後の光景と私の置かれている状況が一緒だった。


 肉がついた?

 籠手(ガントレット)を外して手も確認したが同じ。いったい私の身に何が起きた?


「その剣と盾の影響でしょう」


 冥界の主、男神の身体と魂から創られた神骸葬剣(デウス・セプルカ)魂災堕天盾(アニマ・カタストラ)。この二つを同時に所持したことから、なんらかの影響を受けたとみて間違いないだろうとカタニアは語る。


 それにしても、この姿はどういうことなんだろう? どうせなら普通の人間の姿の方がまだマシなのに。


 ハッ……。

 そういえば私に性別があるのだろうか?


 カタニアやボジョル司教、コトオドにしばらく待ってくれと頼んで生垣の裏側に回り込み、股間の部位にあたる鎖帷子をめくってみると……。


「ひゃぁッ!」


 ──ある。

 男性のモノだ。


 思わず変な声が出てしまった。


 それにしても私って男だったのか。

 それも、こっこれは……。


「アルコ様、どうしまし……ぎゃぁぁぁ! ドラゴン⁉」


 私の悲鳴にも似た声を聞いて、コトオドが心配して生垣の裏に様子を見に来た。そこで下半身を露出している私を見て悲鳴をあげた。


「はわわわ、ボク、もう戻れないかもしれません」

「いったいどうしたのです?」

「いっ、いえ、なんでもありません」


 目を回しているコトオドを連れて、生垣の前に戻った私にカタニアが怪訝そうに尋ねるが、しらばっくれる。


「ボジョル」

「……はい、アルコ殿、この度は大変感謝しています。ですが……」


 この聖都フロリシア、できればタイタル聖王国から早々に立ち去った方が良いと言われた。


 カタニアもボジョル司教もやけに歯切れが悪い。もしかしたらこの姿になったからなのかも。でも、骸骨姿の時は別に動揺していた素振りはなかったのに今になって、明らかに対応がおかしい。


 まあ、私も元から長居はするつもりはなかったので、言われた通りにしたいと思う。


「私は果たすべき使命にこれから向かいます。ボジョル、コトオド、神殿を頼みましたよ」

「はい、お任せください」

「……あっカタニア様、行ってらっしゃいませ」


 (うやうや)しく礼をするボジョル司教と、先ほどの衝撃から目が覚めたコトオドが、黄金の蝶により、転送が始まったカタニアを見送る。


「アルコ……」

「はい?」


 金色の光に包まれて消えかけている聖女が最後に私を見る。


「あ…は……なる……のふっ……す」


 消えていくカタニアの声がちゃんと聞き取れなかった。

 彼女は最後に私に何を伝えようとしたのか……。
































 ここは……どこかしら?


 見知らぬ街に見知らぬ恰好の街の人々。

 真夜中なのに街の明かりがあちこち灯っているので、かなり大きめの街でこの辺りは繁華街なのだろう。少なくともタイタル聖王国ではないことは一目瞭然だ。


 聖都フロリシアから〈金翅の幻環(アウリア・パピリオ)〉の招集に応じて、転移してきたのだが、誰もいない。


「この建物は?」


 鼻にツンとくる香りの漂う館。

 建物を出入りしている女性客を見ていて思い出した。


 この雰囲気は男娼館。

 女性がお金を払って男性のカラダを買う場所。

 タイタル聖王国はこういった施設の営業は禁止されているが、他所の国だとこういった施設は、すこし大きな街だと2、3軒くらいはあるのが普通だ。


「あのお爺ちゃん、5人同時なんて凄すぎ……」

「ホント私もまだ足がガクガクしてる。ちょっとアナタしっかり歩きなさいよ」

「ふぇ~? もう無理ぃぃ~~」

「あれは怪物よ……」

「私、明日もアーテ様に会いにくる」


 ほう……。

 今、アーテと言いましたか?

 あの野ろ……コホン。あの人、私をこんな知らない土地に呼び寄せておいて、ずいぶんとお楽しみのご様子。後できついお仕置きをしなくてはなりませんね。


 それにしてもなんと破廉恥な。ぞろぞろと男娼館を出てきた女性たち。皆、ヘトヘトになっているが、清々しいほど爽やかな表情をしている。


 勇者アーバンテイン。歴代勇者の中で最強と呼ばれる勇者の中の勇者。勇者としての資質もさることながら、違う面でも彼は最強の勇者らしい。


 でも彼って、たしか今年で68歳のはず。

 私は呪いのせいで、50年間時間が止まったままなので、17歳前後のピチピチなうら若き乙女な見た目なままだが、いくら勇者といえども体力はさすがに若い頃と違って衰えたはず。──そう思っていたのだが。


 それから数時間。次々と女性客が恍惚とした表情でアーテの名前を口にしながら何十人と館から出てきた。


 空が白み始めても出てこないアーテに痺れを切らし、館の中に突撃することに決めた。


「いらっしゃいませ、当店は初めてですか?」

「私は客ではありません。ここで働いている老人を呼んでください」

「あーん? あのジジイども(・・)の連れかアンタ? じゃあ、こっちについてきな」


 揉み手しながら、入り口にやってきた男が豹変する。

 言われるまま、3階まで上がると奥の部屋で老人たちが、ほぼ全裸で正座させられている光景を目撃した。


「ゲェッ! カタニア。久しぶりじゃの。これにはふかーい訳があっての」

「言い訳無用。勇者ともあろう者が恥を知りなさい。は・じ・をッ⁉」

「ひぃぃっ! いたっ、ちょっ……やめっ⁉」


 50年ぶりの再会だが、そんなの関係ない。靴の裏で容赦なく勇者の股間にぶら下がっている聖剣を何度も踏みつぶす。


「ふぅ……それでこの愚か者どもが何をしたのですか?」

「あっ、いえ、もう結構です。どうぞお帰りください」


 白目を剥いて気絶している勇者を放置して、ここに連れてきた男に振り返る。こうなった事情を聞こうとしたが、股間を守りながら男が怯えた表情で、帰るよう勧めてきた。


「ひさしぶりねゾゾ、ソルダル。元気してた?」

「コクコク」

「ふぁ~~?」


 男娼館を出て、街の大きな通りに出たところであらためて話をする。


 ゾゾは岩人族(ドワーフ)なので見た目はあまり変わっていないが、ソルダルは面影はあるもののかなり老けていている。


 えっ、ちょっと待って……。


「ソルダル?」

「ふぁ~~?」


 あらヤダ、ボケちゃった?

 なにを聞いても「ふぁ~~?」と返事をしてくる。ゾゾの方は恥ずかしがり屋でもともと無口なので、彼の声を聞くのは50年前にすでにあきらめている。


 なぜあの場で全裸で正座していたのか気になるところだが、それよりもっと気になることがある。


「それで? なぜ魔族と一緒なのです?」


 見知らぬ顔がもうひとり。

 変身魔法を使って人間の若者の姿をしているが、私には通じない。


「はぇっ⁉」

「その者はトリ。儂の弟子になりたいと申しての」


 あら、もう復活しちゃったの?

 お仕置きが足りなかったかも。


 アーテが若者の姿をした魔族を仲間にした経緯(いきさつ)を説明した。


「ふぅ、まったくアナタたちは……」

「それよりカタニア。今までどこにおったのじゃ?」

「つまらない話よ」


 政争に巻き込まれて呪いのアイテムで石化されていたことを簡単に説明した。


「私を助けてくれたのは、アナタの宿敵であり親友(とも)

「おお、アルコに会ったのか?」

「ええ、でも……」


 そして最後にある大事なことを付け加えた。





「彼は深淵の騎兵(アビサル・コーサー)ではないわ……」








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