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第28話 神の盾

 

 女神教教主ダリマビウスは、聖女カタニアを呪いの盾……魂災堕天盾(アニマ・カタストラ)で50年もの間、彼女を石化していた罪でタイタル聖王国騎士団によって、連行された。イーマン団長率いる聖騎士団も去り、修道兵たちもボジョル司教が強制的に解散させたので、中庭には私とボジョル司教だけが残っている。


「ボジョル様」

「おお、コトオド。よくやった作戦はうまくいったよ」


 魔法の箱庭からコトオドが出てくると、ふたりで成功を分かち合っている。それにしても、やっぱり二人して私をうまく利用していたんだ。


 まばゆい月明りに周囲に浮かぶ星々が霞んで見える夜空に聖水を満たした女神の銀杯をかざすこと数分。徐々に銀杯に張った聖水が淡く光を帯び始めた。


 ボジョル司教が、用意した台座の上に立ち、銀杯の聖水を聖女カタニア像に掛けると、すぐにその効果が現れ始めた。


 石像の表面がひび割れ、その隙間から淡い光が漏れ出る。

 石片がポロポロと地面に落ちていき、美しい女性が中から姿を現した。


「カタニア様、ボーです。覚えておいでですか?」

「あなたは……まさかボジョル?」


 まだ10歳になったばかりだったボジョルを当時、同郷のよしみでずいぶんと可愛がってもらったと老人が話す。


 互いに少し懐かしんだところで、ボジョル司教が私を紹介してくれた。


「こちらのアルコ殿がカタニア様の石化を解いてくださいました」

「まあ、アルコ。元気そうでなによりですわ」

「ええ、カタニアさん、無事石化が解けてよかったです」


 お互い多少の面識がある。

 諦めの悪いどこかの勇者のせいで、魔王討伐を中断したため、彼ら勇者一行とは腐れ縁の仲だ。


「アーテは元気ですか?」

「いえ、それが……」


 勇者アーバンテインとは別れの挨拶を済ませないまま、今の魔王様にノースエンドを追放されてしまった。彼が今頃なにをしているのかはとても気がかりである。これまで事情を簡単に説明すると、カタニアはニコリと笑顔を見せた。


「それは大丈夫です」


 カタニアが自分の頭上を見上げる。

 石像の頃からずっと頭の上を飛び回っている黄金の蝶。

 カタニアが片手を前に差し出すと、それが合図だったかのように黄金の蝶が彼女の人差し指に止まった。


 指輪をしている。

 そういえばアーテも同じ指輪を人差し指にはめていたのを思い出した。


「これは〈金翅の幻環(アウリア・パピリオ)〉。私達勇者パーティーが死ぬまで肌身離さず持っている誓いの指輪です」


 金色の光に包まれた蝶は、指輪をした勇者パーティーの誰かが仲間を召喚する時に使うもので、今回招集をかけているのは私のよく知る人物、勇者アーバンテインとのことだ。


「彼が私達に招集をかけたということは……」

「ええ、きっと魔王様に挑むと決めたのでしょう」


 できれば、アーテには進んでほしくなかった道。

 彼が天寿を全うするまで私が門番を続けられていたら、こんなことにならなかったはずなのに……。


 私がうつむいてアーテに待ち受ける絶望的な未来を想い憂いていたら、カタニアが声音を少し明るくした。


「助けてくれたお礼をさせてください」


 助けてくれたお礼?

 いや、そんな大したことはしてないし、旧き親友(とも)の為にしたまでのこと。お礼など必要ないと一度、断ったが、無理やりごり押しされて、なにかをねだらないといけなくなった


「そうですね……でしたら、もしよければ、その盾を譲ってもらえませんか?」

「ええ、どうぞ差し上げます」

「なっ、なりません。それは神器〈魂災堕天盾(アニマ・カタストラ)〉。呪われているとはいえ、国宝級の品です!」

「いいのです、ボジョル。この盾はアルコが持つべき物なのですから」


 ボジョル司教を諭しながら、あらためて私の方へ聖女が向き直った。


深淵の騎兵(アビサル・コーサー)、たしか冥界の番人だったかしら?」

「さあ? 私はノースエンドで彷徨っていた記憶しかありませんから」


 いちばん古い記憶は、ノースエンドの荒野で先代の魔王様との邂逅。それより前の記憶は一切ない。


 冥界の番人?

 私は魔族ではないのか?

 そういえば私と同じ〈深淵の騎兵〉に会ったことがない。


「死者の神の眷属である貴方が持っていた方が人間に厄災は降りかからないわ」


 それはそうかも。

 人間の手にあると、他者を陥れたりと、碌な使われ方はしないだろう。


「では、こちらを」

「はい、ありがとうございます……うっ!」


 台座に残っていた呪いの盾に手を掛けると、私の記憶の中でも経験したことないような激痛に襲われた。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ」

・・・・・・(…ア……で……)


 コトオドがなにか言っているが、あまりの痛みにうまく聞き取れない。

 ひたすら痛みに耐えていると、急に嘘のように全身の痛みが消えた。


「大丈夫ですか?」

「ええ……もうどこも痛くないです」


 コトオドが心配して、うずくまっている私を覗き込むように見ながら手を差し出したので、彼の手につかまり立ち上がる。


「アルコ……その鉄面(アルメット)を上げてみてください」

「でも……」

「このふたりなら大丈夫です」


 カタニアの表情が少し硬い気がする。

 彼女には私の骸骨姿はこれまで何度も見せているが、初めてみる人間は驚くかもと気が引けたがどうしてもというので、鉄面を上げる。


「やはり……」

「え? 私の顔に何かついてます?」


 気になり、自分の顔を触れると、いつもと違うことに気づいた。




 これって……肉?




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