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第25話 一対の神器

 

「どちらさまですか?」

「ボクはコトオド。ボジョル司教派の者です!」


 ボジョル司教派?

 知らない名だが、目の前のまだあどけなさが残る少年に敵意はないのはわかる。


「それで私になんの用です? 一刻もここから移動しなければならないのですが」

「説明は後でします。まずはボクについてきてください」


 罠、かな?

 この状況下で、会ったばかりの人間を信じるのはあまりにも都合が良すぎる。


「アウッアウッ」

「マル……」


 マルがコトオドと名乗った少年のそばに近づき私に振り返って吠えた。

 信用していいってことかな。


 裏切られたら裏切られたで、私のスキル〈百の動力(マグニチャント)〉のように百倍返しにすればいい。とりあえずコトオド少年についていくことにした。


 広い通路から逸れて、細い通路に入ると、少しだけ盛り上がった床の石材の部分を何らかの規則性の元、コトオドが踏んでいくと、ゴッと近くの壁の一部がズレて、奥に隠し通路が見えた。


 コトオドに「早く中へ」と言われ、マルともども隠し通路に入ると同時に隠し扉が自動で閉じた。どうやら短時間だけ開いて勝手に閉じる仕組みのようだ。


 大人がひとりやっと通れるくらいの窮屈な通路を黙々と進むと、宿屋の寝室位の広さの小さな部屋に出た。そこに痩せた初老の男が、ひとり部屋の中で待っていた。


「ボジョルと申します」

「アルコです。ここに呼んだ理由をお聞かせください」


 5日前に見た教主ダリマビウスと違って、ずいぶんと薄汚れた法衣に白い円帽(ピロス)を被ったみすぼらしい姿をしている。どう贔屓目に見ても、司教にはとても思えなかった。


「貴方のその剣──〈神骸葬剣(デウス・セプルカ)〉とカタニア様を封じている〈魂災堕天盾(アニマ・カタストラ)〉は一対の存在となっています」

「──っ⁉」


 どちらもこのアースヴァルト大陸の創世神話に登場する神器で、神話上はただの剣と盾と表記されているそうだ。創造神である女神と冥界を司る男神との33,333日に上る激戦の末、女神が男神を降し、男神の身体と魂から剣と盾を創ったと云われている。


「そして、これら呪われた神器は、およそ人の手では扱いきれぬ物」


 そこまで聞いて初めてボジョル司教が、私が人ならざるモノだと知っていることに気づいた……。


「5日前の騒動は聞き及んでました。ですから私は貴方が、カタニア様から聞いていた暗黒谷の門番──アルコ殿だと気づいたのです」


 勇者アーバンテインの宿敵であり、生涯の親友(とも)

 聖女カタニアは私のことをそう語ったそうだ。


「50年前、私はまだ神殿の見習いでしたが、カタニア様にはずいぶんと良くしてもらいました」


 タイタル聖王国は、大きく5つの貴族が支配しているという。聖女カタニアやボジョル司教、コトオド少年は、同じセントリスという海に面した5大貴族の中でもっとも領地の狭い地方を治める貴族の家の出身だそう。神殿では5大貴族の中から司教以上の地位に就くのが慣例だそうだが、小さな領土しか持たないセントリスから司教になった人間は片手の指で足りるという。ましてや教主に選ばれるなど、タイタル聖王国の歴史上、ひとりも輩出されたことがなかったそうだ。


 だが、50年以上も前にその勢力図が大きく塗り替えられる英傑が現れた。


 セントリスで大規模な被害を及ぼした【鉄の雨事件】。

 原因は、数百年前に実在した大陸随一の賢者カルテタバルが発明した天候を操作する兵器。それが暴走し、言葉通り鉄の塊を雨のように降らした未曾有の災害。


 その鉄の雨を止めたのが、セントリスの片田舎で、当時十歳にも満たなかった下級貴族の娘カタニア。


 彼女は、誰に教えられることもなく、神聖魔法が使え、光の護幕で身を包み、鉄塊が降る嵐の中、単独で災いの中心地まで行き、兵器を止めたという。


 それから勇者アーバンテインと出会い、数々の偉業を成し遂げていく過程で英雄譚として詠われ広まり、この聖都フロリシアに帰還した頃には、カタニアの人気は最高潮に達していたそうだ。


 それをよく思っていなかったのが、5大貴族筆頭、ブルワンカ領出身のダリマビウス一派。彼らは何らかの方法で、呪われた神器〈魂災堕天盾(アニマ・カタストラ)〉を手に入れ、カタニアを罠に嵌めたという。呪盾の効果は、資格なき者が素手で触れると石化するのと、前方へ発する振動で、精神が劣弱な人間は恐慌状態に陥ることができるという。


「カタニア様を救いにこちらへ来たのではないでしょうか?」

「いえ、実は……」


 その質問には、少し誤解を解く必要があった。

 神殿を訪れたのは、たまたまで聖女カタニアの声が聞こえたことを素直に話した。もちろん、アーテの仲間であるカタニアを救うべく教主の私室にある女神の聖杯を探していたことも伝える。


「なるほど、そんな物が……」

「ボク、見たことがありますよ」

「本当か? コトオド」

「はい、あれは先月の封神祭の前日でした」


 冥界の男神を封神したのにちなんで祝う日。

 コトオドは、神殿内部を巡回する宿衛の当番の日に大事そうに銀杯を抱えた教主ダリマビウスを目撃したそうだ。






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