第10話 賢く小さな獣たち
なんとか勇者を魔法の箱庭で修行してもらうことで落ち着いてもらった。
それにしても一人で相手に挑むのはアーテ以来。
アーテとロダンの間に勇者が、ふたり暗黒谷の門にやってきたが、ひとりは仲間3人と一緒に奇襲を仕掛けてきて、数年前にやってきた者はどこかの軍を率いて襲ってきた。それに比べればなんとも心根の素直な少年だと感じる。
ロダン少年に魔族の恐ろしさを知ってもらうためにあえて攻撃を受けた。
もちろん、なにも対策を講じなければ私でも怪我をしていた。
こっそりスキル〈百の動力〉を使って鎧の硬さを百倍にした。
これぐらい実力に差があると思ってくれた方が好都合。
この少年には、無謀にも魔王領に侵入して命を落としてほしくないから。
魔王様はとんでもなく強い。
今の魔王様とは、最近お会いしたばかりだが、先代の魔王様の子。弱いはずがない、
魔王軍の幹部、四天王もきっとすごく強いに違いない。ずっと門番をしてきた私ごときにあっさり負けるようでは、心配でロダンをノースエンドに向かわせられない。せめて私に勝てるくらいの地力を身に着けてもらわないと……。
ロダン少年にテントや野営道具を渡す。
私たちの分はまた後で買い揃えたらいい。
しかし、彼は今までどうやって旅をしてきたのだろう?
生活能力がゼロだった。
テントの張り方や調理方法などを教えている間にすっかり辺りは暗くなった。
この魔法の箱庭は気候は変動しないが、陽が昇り、陽が沈むのは外の世界と一緒だ。
すっかり遅くなってしまったが、ハイビスとマルを連れて外に出ることにした。
今日は宿に泊まって、明日、テントや食材などを買い揃えてから、ピルキコの街を出発すればいい。
そういえば外は大丈夫かな?
魔法の箱庭の中に入る時、路地裏にある建物の屋根に放ってきたのでまず誰かに拾われることはないはずだが。
まったく見たこともない森の中。それも木の上?
私が箱から出た瞬間、私の重さに耐えられず、木の枝が折れて魔法の箱庭ごと落ちたが、なんとかうまく着地できた。遅れてマルとハイビスが箱の中から出てきたが、ハイビスが最初じゃなくて本当によかった。
私が落ちた場所を見ると、壊れた鳥の巣とガラスの破片や銀色のフォークなど光る物と一緒に魔法の箱庭が落ちていたのですばやく回収した。これは光るものを集める習性のある黒鳥の仕業かもしれない。魔法の箱庭は黒い筐体だが、艶があり黒光りしているため、収集の対象となりえたのかも。
「ここは?」
「シィ~~ッ静かに」
ハイビスに合図を送る。
月明りで多少は周囲が見えるものの、見えづらいのは事実。
そんな中でマルの耳がピクリと動いて、私と同じ方向を警戒しだした。
何かが息を潜めつつも静かに近づいてきている。
数は少なくとも3。
獣か魔物の類か。
「みゃみゃ?」
「──ッ⁉」
猫、ではない。
これは……。
「智獣ですね」
やはりそうか。
どうやらアルコを見て警戒を解いてくれたらしく、月明りの下に姿を見せてくれた。
猫の姿をしているが、二足歩行で立ち、武装した生き物。
布地になめし皮と金属で補強された鎧を身に着け、手には短剣や槍がそれぞれ握られている。智獣というのは森に住む獣で、賢くて道具や武器などを使えるとアーテから聞いている。
「アルコ様、しばらくお待ちください……」
ハイビスがそう言うと、彼女の影からマリエッタを取り出した。
「私たちの言葉はわかりますか?」
「みゅー……みぉみゃ!」
「……なんとなく、と言ってます」
ハイビスの人形マリエッタを通じて、智獣の言葉を訳してもらった。
「みゃみゅっ、みゅるみゅるー、みゃみゅっ!」
「お前達からイヤな匂いがしない、客人、もてなす、と話しています」
それだとイヤな匂いがする者は客人ではないという意味で捉えた方がよさそう。彼らの話している感じからしてイヤな匂いがする何者かを相当警戒していることが窺い知れる。
「みゃるみゅっ! みゅー」
「火はダメ、ついてきて、と話しています」
二足歩行の猫についていく。
智獣は夜目が効くらしく、暗い森の中を手探りで歩く私たちに合わせてゆっくり進んでくれた。
到着したのは、深い森の中にある樹上の集落だった。
夜中なので、空いている寝床に案内されたのでハイビスを休ませて朝まで待つことにした。
「みょるみゃ、みっみっみゅー」
「よく来た、ワシ長老、この森へ何しに来た、と話しています」
「道に迷いました。ここはどこでしょうか?」
翌朝、元々は黒い毛だが白髪が目立つ長老猫の元に客人として招かれた。
私たちの前に智獣たちが森の恵みを調理したものが、並べられ食事しながら、いろいろと話を聞いた。
この森は、智獣たちは「長い森」と呼んでいて、朝になって気が付いたが、両側に険しく切り立った崖壁が見えた。今いる場所は長い森の入り口に近い場所で、森の奥には熊の魔物や蛇の魔物がいて、踏み込むとかなり危険らしい。
「むぅー、みゅっ、みゃみゃ!」
「ワシら、恐ろしい、魔物、違う、と言ってます」
この森には木の実や果物、キノコから魚まで種類が豊富で気に入っているが、最近、森の外から変な連中が来て、森を入り口の方から壊し始めているらしい。
「みみみ、みゃぁ、みゅるにゃむみゃ」
「客人、用がないなら、森から逃げる、安全、と言っています」
智獣が、ちゃんとマルのエサも木でできた平べったいお皿に入れて与えてくれた。マルも「あうあうあう」と言いながら美味しそうに、骨抜きしたすり身を焼いた魚を食べている。
なるほど。話はわかった。
でも、智獣たちは私たちを客人として招いてくれた。
私の力が役に立つかはわからないが、まずその森の外から来た連中というのを一度見てみたいと思う。




