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第34話 夜明けの奇襲と、虹色に光る情報屋

 夜が、最も深くなる時間。それは、闇が支配する時間であると同時に、夜明けの光に最も近い時間でもあった。

 私たちは、息を殺して廃教会を出た。カレルは、ミラベルの治療の副作用で、体から放たれるぼんやりとした虹色のオーラに「…目立ちすぎて、これじゃ暗殺稼業は完全に引退だな」と毒づいている。その口調にいつもの軽薄さが戻っていることに、私は少しだけ安堵した。


「いいこと、皆さん」私は、二手に分かれた仲間たちに、最後の指示を与える。「ヴォルフガング中佐とカレルは、村長の家にいるギルドの指揮官を。私とミラベル、リーナさんで、村人たちの解放に向かうわ。目的を果たしたら、必ず生きて、この場所で再会しましょう」

 全員が、力強く頷いた。


 作戦は、ミラベルの奇想天外な発明品から始まった。

 村の東側、ギルドの兵士たちが油断しきっている広場で、ミラベルがスイッチを押す。すると、彼女が夜通し設置した『希望の虹色☆びっくり巨大シャボン玉マシン(割れると甘いフローラルの香りと共に、幻の蝶が舞う特別仕様!)』が、轟音と共に起動した!


 ブクブクブク…ポワン!ポワワン!

 次の瞬間、広場は、子供の夢を詰め込んだかのような、無数の巨大な虹色のシャボン玉で埋め尽くされた!


「な、なんだこれはぁ!?」

「敵襲か!? いや、シャボン玉…だと…?」

「うわっ、いい匂いがする…!」

 ギルドの兵士たちは、あまりに想定外で平和的な光景に、完全に度肝を抜かれている。その注意が、完全に村の東側へと向いた、まさにその瞬間!


「――突撃ィィィ!!」


 村の西側から、ヴォルフガング中佐の野太い号令が響き渡った! 彼に率いられた精鋭部隊が、一気に村長の家へと奇襲をかける!

「なっ…! 西からもか! 罠だ!」

 ギルドの兵士たちは大混乱だ。


 その先頭で、一際異彩を放つ男がいた。

「さあ、ショータイムの始まりだぜ!」

 カレルは、自らが放つ虹色のオーラを隠そうともせず、むしろそれを囮にするかのように、敵陣の真っ只中へと踊り込む!


「み、見ろ! あの男、光ってるぞ!」

「神々しい…! まさか、エスターニアの守護聖人か!?」

「馬鹿野郎! 目が、目が眩んで狙えん!」

 カレルのピカピカ作戦(?)は、予想外の効果を発揮していた。彼はその混乱に乗じて、持ち前の俊敏さで敵の指揮系統を的確に麻痺させていく。ヴォルフガング中佐の力強い剣戟が敵の戦力を削ぎ、カレルのトリッキーな動きが敵の思考を奪う。正攻法と奇策の、見事な連携だった。


「今よ!」

 その隙に、私とミラベル、リーナさんは、村人たちが囚われている教会へと忍び込んだ。見張りの兵士を、私が背後から音もなく気絶させ、固く閉ざされた扉を開ける。

「皆さん、助けに来ました! 私たちと一緒に、ここから脱出してください!」

 しかし、恐怖に支配された村人たちは、すぐには動けない。その時だった。


「皆さん、顔を上げてください!」

 リーナ――リリアーナ姫が一歩前に出て、凛とした、しかしどこまでも優しい声で語りかけた。

「私の名は、リリアーナ。エスターニアの正統なる血を引く者です。あなたたちの苦しみは、私の苦しみ。どうか、私に力を貸してください。私たちの愛する故郷を、悪党たちの好きにはさせません!」

 彼女の言葉には、人々を奮い立たせる不思議な力が宿っていた。村人たちの目に、絶望ではない、抵抗の光が灯り始める。


 一方、村長の家では、ヴォルフガングとカレルが、ついに傷顔の指揮官を追い詰めていた。

「小賢しい真似を…!」

 指揮官は、二人の猛攻を、鬼のような形相で捌いている。さすがはギルドの幹部、その実力は本物だ。


 だが、戦況はすでに決していた。

 リリアーナ姫に導かれ、教会から解放された村人たちが、鍬や鋤、棍棒など、手にできるもの全てを武器に変え、ギルドの兵士たちに反撃を開始したのだ!

「俺たちの村を荒らすんじゃねえ!」

「姫様をお守りしろ!」

「シャボン玉の香りを返せー!」(ちょっと違う)

 村人たちの怒りの反撃に、ギルドの兵士たちは次々と打ち破られていく。


「くそっ…! こうなれば!」

 追い詰められた指揮官は、最後の手段として、松明を手に取り、村長の家に火を放とうとした!

 しかし、その腕が振り上げられるよりも早く、一本の短剣が空を切り、彼の手を壁に縫い付けた。


「ゲームオーバーだぜ、傷顔さん」

 虹色のオーラを纏ったカレルが、冷たく言い放つ。

 そして、背後から回り込んだヴォルフガング中佐の剣の柄が、指揮官の鳩尾に叩き込まれ、その意識を刈り取った。


「…終わりだ」


 夜明けの最初の光が、エスターニアの山々を照らし始める。

 ギルドの部隊は壊滅し、村には、解放を喜ぶ人々の歓声が上がっていた。シャボン玉の甘い香りが、夜明けの空気と混じり合っている。


 私たちは、勝ったのだ。

 しかし、リアナは、朝日が昇る遠い王都の空を見つめていた。

(これで、終わりじゃない…)

 村での戦いは終わった。だが、エスターニアの未来を賭けた、本当の戦いは、これから始まるのだということを、彼女だけは、はっきりと予感していた。

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