6.魔王さま、生活区域を整える
理解出来たが理解出来ないダンジョンというものの操作を、始が請け負ってくれるというのだから、と、アズは玉座の上で猫のように丸まった。
(最後の確認は私がしなければならないとはいえ、やはり人任せに出来るというのは、楽で良い)
とは、いえ。ダンジョンの生成に夢中になっているらしい始がすっかりと忘れているだろう、寝室と食料飲料、衣服についてはさっさと用意してしまった方が良いだろう。
横たわったまま、〝生成物一覧〟から〝魔力から生成〟を選択——次に〝食料生成〟を選んだは良いものの、ずらりと並ぶ料理名と材料の数々に溜息を吐いてしまった。
幸いにも見知った料理が幾つかあるようなので、そこに触れると料理名の横に時間が表示される——完成までに要する時間、ということだと、植えつけられた知識から理解する。
そしてもう一つ、料理名と時間の間に数字が書かれていること、その上下に三角が書かれていることに気づいた。個数を選べるというのなら、手間が減って良いと上側の三角を押す。
(二人分を生成するための時間は——一人分と変わらない。一定数を超えたら必要時間も増えるのか)
生成されるまでの時間に、残りの分も済ませてしまえば良い。
飲料はとりあえずと水を選択、次に寝室——部屋の生成を行うべく、〝ダンジョン改装〟から〝生活区域の生成・改装〟を選択する。
「これは私にしか触れないのか……まあ、一度触れた後は早々変えることもあるまい。ハジメ、一先ず生活区域については私が造るから、それが終わったら見てくれ」
「はあい。んー、成程。じゃあ生活するスペースは考えないで作って良いか……」
目線を向けることさえもせず、けれどもきちんと声は届いたらしい始の返事を聞いてから、再びコマンドウインドウに向き直り、〝部屋の生成〟から寝室用の部屋を二つ、食料貯蔵用の部屋を一つ、食堂用の部屋を一つ、談話室用の部屋を一つ。トイレを二つと、それらを繋ぐ廊下を選んだ。
すると新しいウインドウがコマンドウインドウの隣に出現し、各部屋の配置を決めるように求めるので、新しく大きな部屋を玉座を正面として左右に二つ造る。
その中へ右側には寛ぐための部屋とトイレを一つ、左側には食事関係の部屋とトイレを一つ入れ込み、廊下を繋げれば生活区域の完成だ。
(ハジメと私しかいないのだから、これで十分だろう。玉座の間とは有事を見越して直接廊下を繋がない方が良いな……完全に隔離をしておくか)
料理とは異なり部屋は瞬時に完成したようで、所要時間の表示はなかったことに(普通は逆ではないか?)と思いながらも、早く出来るのならばそれで良いかと息を吐く。
しかし、部屋が出来たと言っても内装は何もない状態なので、先ずは自分の寝室を作って行く——あの王城で暮らしていた部屋を、そのまま思い描いて。
始の分は本人の希望を聞きながら用意した方が良いだろう、他にも細々とした備品や家具を作り、最後に扉も各部屋へつければ一旦の完成となった。
玉座の間と生活区域の移動方法は、転移魔術だけとなるのだが、アズは当然使えるとして始はどうだろうかと首を傾げる。
使えないのならば、何かしらの方法を考えておく必要があるだろう。魔術陣を設置するのは、廊下を繋げなかった意味がなくなるので、当然却下として。
「住居が出来れば、次は使用人か。家令、執事、侍従、家政婦長——いや、多くは必要ないか」
執事、侍従、料理人、メイド。客も来ないこの場所ならば、それだけの数がいれば事足りるだろう——少なくとも、現状は。
この先何かしらの要因が重なり、外に出て外交をせねばならないとなれば、部屋の数も使用人も多く必要になる。
決してないとは言い切れないのだ……何せ、異なる世界に勇者と共に転移するなどという、考えもしなかったことが起こったのだから。
何にせよ、余裕を持って考えておく方が、アズの精神安定上でも良い。
「だが、使用人をどこから勧誘して来るか——」
【案。ダンジョンは、魔物を作り出すことが可能です。そして、それは人型も含まれます】
「……作ってしまえば良い、ということか」
自らの手で生き物を作り出す。その行為に本能的な忌避感が生まれる——けれども、それ以外の案は出て来ても採用が出来ない。
例えば、ダンジョンの外に出て人員の募集をするだとか、そういったことはしない方が良いと、与えられた知識が告げて来るのだ。
確かに、己の手で作り出せば望む通りに近いモノが生まれる可能性は高いだろう——勿論そうならない確率も低くはない——このような意識も、また変えて行かねばならないかと、アズは溜息をこぼす。
「魔王さま、生活スペース出来た?」
眉間に皺を寄せていたアズに、始が声をかけて来る。この短時間でマイペースな者だと理解したが故、特に何も思うことはなく、完成を伝えた。
残るは始の部屋だけなので、先にそちらの内装を作るようにとの指示も出す。
「居心地の良いように整えると良い、後は私が承認すれば出来上がる」
「へえ、マジでゲームじゃん。んー、じゃあ——」
新たにウインドウを開いた始がダンジョン作成を一度中断し、自身の部屋の内装を作り始めた様子を、ぼんやりとただ眺める。
様々なことが起こり過ぎて、すっかり疲れてしまった——魔王だった時は更に戦況を把握したりと更に忙しかったが、それとはまた異なる疲労感に襲われていた。
相変わらず迷いなく指を動かす始の姿を見つめていると、「出来た」と言いながらウインドウを開いたままアズへと差し出して来る——そんなことも出来るのかと驚きながらも、承認をする。
これで眠る場所も出来た、後は使用人についてだが、王として世話をされることが当たり前だったアズに対して、普通の子供だったという始はどうだろうか。
他人が傍にいることで、疲れを感じる者もいるという——旅の最中他者と共に過ごして来た始が、それを感じるのか疑問だが——ので、その辺はよくよく確認した方が、後の面倒ごとに繋がらないだろう。
他にも、始の造っているダンジョンに魔物を配置せねばならないことは理解しているので、それらも作り出さねばならない——結局自分の手で生命の連続性がない生物を生み出さねばならないのだから、使用人たちもまた、同様に生み出したところで大した差ではないだろう。
アズの指先が、ゆっくりとコマンドウインドウ上を滑り出した。




