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怠惰に過ごしたい魔王さまの異世界ダンジョン生活、勇者付き  作者: 白瀬 いお


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23/23

23.魔王さま、視察を思いつく

 ダンジョン第百一層から地上の平原へ商業都市を転移させてから早三ヶ月、同時に稼働を開始したダンジョンに押し寄せて来た冒険者と呼ばれる者たちによって大きく賑わっている。


 商業都市から少し離れたところに設置した第一層へ続く門は、新しく出現したダンジョンを我先にと攻略しようとした冒険者たちを迎え入れ、当初は穏やかに持て成した。現れる魔物もそう強いものではなく、手に入る物も相応のものだが、それはどのダンジョンも同じこと。


 多くの冒険者がやって来たことで、宿泊施設から日用品、武器防具に怪我の治療が出来る治療所まで揃っている商業都市の利便性が高く評価され、連日通りには人が溢れている。ただ他のダンジョンと異なり、次第に出来上がって行くダンジョン都市ではなく元から用意されているものだったということで警戒している者も多いが、だからといって何が出来るわけでもない。


 中にはダンジョンへ続く門の傍や商業都市から離れたところで野宿をしようとした者たちもいたが、それらは須らく周囲を徘徊している魔物たちとそれを指揮しひっそりと攻撃を加えているアズの臣下、その更に配下たちによって妨害され、結局は商業都市の宿泊施設を利用している。


「ダンジョンを最も進んでいる者たちで第五層、これは早いのか遅いのか……」

「ゲームなら遅いけど、現実ならこんなものなんじゃない? 一層ごとにそれなりの広さがあるし、ダンジョン内で絶対に安全な場所はほとんどないから神経使うだろうしね」


 アズの零した呟きに反応したのは、玉座隣に勝手にソファを置いてコマンドウインドウを操作している始。いつの間にか家具職人の一人に作らせていたらしく、アズへ謁見する者がいない間はそこで寛いでいることが多い。


 自室のベッドで過ごせば良いのではないか、と一度問うたことがあったが、その際に「俺は魔王さまの護衛だから。一応だけど」と返ってきたので、それ以来好きにさせている。アズが玉座の間で過ごしているから同じくそうしているのだと言われてしまえば、一応とはいえ役目を果たそうとしてくれているらしい始に強いることは出来なかった。


 玉座に座りながらコマンドウインドウを改めて眺める。確かに、始の言う通り安全な寝床を確保出来ないこと、そして消耗品の数を考えれば冒険者たちの歩みが遅くなるのも無理はないだろう。他のダンジョンでも似たようなものだとワイズから聞いたので、特段気にする必要はないのかもしれない。


「まあ、魔王さまなら一日で半分は行けちゃいそうな気はするけど。そのうちぐっと進むんじゃない?」

「一日で五十層は……やれなくもないが疲労は感じるだろうな」

「やっぱり。ゆっくり進むうちは良いんじゃない、その分ダンジョンの中に留まってくれるってことだしさ」

「そうだな。思っていたよりもダンジョンに対する冒険者たちの欲は深い、商業都市も日々賑わいを増しているようだ」


 そこでふと、冒険者たちを受け入れ始めてからの商業都市には足を運んでいないことを思い出す。都市内部の状況は張り巡らせた監視の魔術と定期的に上げられる報告から把握してはいるものの、実際に肌で感じるものとの差異は埋められないはずだ。


 アズのダンジョンマスターとしての役目は恙無くダンジョン運営をすることで、商業都市の運営ではない。それはあくまでも副次的なものであって、シュネーの系譜に任せている以上必要のない介入をするのははばかられる。


 だが、視察するだけならば良いのではないだろうか。商業都市内部でこぼれ聞く噂話などから、先んじて行動を起こした方が良いことが分かるかもしれない。そして何より、気分転換の散歩に丁度良さそうでもある。


「ワイズ、私がダンジョンから離れることは可能か?」

(はい)。ただ、我が王を形成する全てがダンジョンを保つものですので、推奨は致しません】

「では、ハジメのように意識を人形に移し、外に出ることは?」

(はい)。それならば問題はありません。但し護衛をつけることを進言します】

「それはどちらに?」

【どちらにも。肉体にも人形にも、相応の護衛がいることが王の安全を保つものとなります】


 相変わらずアズの傍に浮いている石版に問いかけると、そのような返答が来る。ダンジョン内、特にこの玉座の間にいる限り早々危険が訪れることはないだろうが、それも絶対とは言えない。


 ワイズはダンジョンの意思でもあるので、それを蔑ろにすることは躊躇われる——肉体側の護衛はシュネーに任せれば良いが、人形側にも求められるとは思わなかった。


 何かあれば繋いでいた意識を切断してしまえば良い、そう考えていたアズだが、ワイズはそれでも不安だと言うのだから少々考え込んでしまう。そのやり取りを見ていた始が、ソファから身を起こして肩をちょんちょん、とつついた。


「それじゃあ、俺が人形側の護衛やるよ。魔王さまと街歩き、やってみたいし」

「そういえば、ハジメはまた新しい人形を作ったと言っていたな。……それの試しが目的ではないのか?」

「試運転は森の中でやってるから大丈夫。魔王さまさ、お忍びで城下町歩けるタイプじゃないでしょ。少なくとも俺よりは下手そうだし、その手伝いも兼ねて行くよ」

「……否定はしない。分かった、では任せよう。八日後は空いているか?」

「大丈夫。ホント真面目だよね、今から行くって言い出さないとことか」


 ふと笑って言う始に、アズは細い首を横へ傾ける。商業都市側にも手配すべきことがあるだろうし、ダンジョン側でも突然トップが急な予定を差し込んでは困ることもあるかもしれない。よって即日動くメリットをアズは見い出せなかった。


 あまり表情が動くことのない始が笑う程のことかと思うも、そこに侮りや嘲りの感情が見えたわけでもなく、ならば良いかと気にしないことにする。そんな姿にまた、隣の子供が笑った気がした。


「シュネー」

「商業都市を治める者たちへ通達を出しておきます。歓迎の出迎えや催し物はせず、普段通りに過ごすようにと添えましょう」


 会話に参加せず気配を消していたシュネーが微笑む。アズの肉体側の護衛はシュネーがいれば事足りるだろう、その信頼を受けて喜びを感じながら手を回すと述べた彼に頷いた。


 思いつきで行動するのはいつぶりだろうか、そんなことを思いながら当日に向けてアズは自身の人形を作るためにコマンドウインドウへと向き直った。

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