19.魔王さま、周辺探索報告を受ける
ダンジョン周辺の探索を任せていたハンスとグレーテの帰還を受けて、アズは玉座の間にて二人からの探索結果報告を受けるべく、始とワイズ、シュネーを連れて玉座に腰を下ろした。
「——二人共、よく無事に帰還した。ハンス、グレーテ、そなたらの変わりない姿を見ることが出来て、安堵したぞ」
「ありがとうございます、我らが王よ」
「えへへ、ありがとーございます!」
冷静沈着な少年がハンス、年相応の元気さを持つ少女がグレーテ。
双子として生み出した彼らは、まだその髪の長さ以外で見分けるのが難しいほどによく似た顔立ちをしている。
始曰くゴスロリ系という服を着こなしており、どう見ても探索向きの服装ではないのだが、そこはこのダンジョンで最も優れた隠蔽魔術と幻術でカバーしているようだ。
「それでは、報告を」
シュネーが促すと、跪いたままの二人が頷く。基本的に報告を担当するのはハンスのようで、事前に受け取っていた報告書を頭に入れてあるので、それと照らし合わせながら彼の言葉を聞く。
「このダンジョンは、森と平原の間にありました。えっと、森側に寄っている形です。森には魔物もいますけど、ぼくたちに攻撃をして来たりはしませんでした。でも、それは隠蔽魔術が効いていたからかもしれないです」
彼らの技能故に敵対されなかったのか、そもそも敵対的な魔物がいないのかは未知数とのことだ。平原も同様で、魔物の姿はあるが、敵対的かは分からない。そして、人型生物の姿は確認出来なかったという。
遺跡などの文明があった痕跡も見当たらず、馬車などの車輪の跡もない。それならば、まだこのダンジョンが始動したことを知られるまでに時間的猶予はあると考えて良いだろう。
「森には沢山の薬草や木の実がありました。王から与えて頂いた知識で知っていたものがいっぱいです。それで、グレーテがちょっと遠くまで行ってくれたんですが……」
「平原からちょっと離れたら、人がいっぱい! えっとお、人族ってのが多かったけど、獣人族とか、他のもいました!」
「平原の途中に結界があるみたいで、そこから先には行かないようにしました。なので、結界の中だけ全部探索してます」
「成程……」
結界があるというのは、新しい情報だった。それはワイズ曰くダンジョンの防御機構ではなく、周辺国が牽制し合うために張ったものだというので、それならば暫くは利用させて貰うのが良いだろう。
始とサヨは、何にも阻まれず通れるというサヨの能力でその結界をスルーしたらしく、存在自体を知らなかったようだ。始だけでなくサヨも共に送り出して良かったと、今更ながら溜息を吐く。
「それにしても、平原か……始とサヨは森側から抜けて行ったのだったな?」
「そう。平原なんてあったんだ、って今知った」
「ダンジョン内に街を作ったが、それとは別に平原にも一つ、商業都市を作るか。そこに宿と酒場を用意すれば、ダンジョンを攻略したい者が拠点として使うだろう」
「良いんじゃないかな。ダンジョンの街で暮らしてる人たちは、外に出たがらないだろうし……うん、利益が出るって思ったら他の国から勝手に住みたいって人が来るんじゃない?」
ダンジョンの外に都市を作れば、当然ながら外部エネルギーを得ることは出来ない。だが、その商業都市にダンジョンの街で生産した物を置けば、態々外の国まで行って売る手間がなくなる。
アズ自身で忙しい状態を作り出していると自覚はあるが、それも未来ののんびり自堕落な生活のため。軌道に乗せるまでは忙しいのを承知の上で行うつもりだ。
「都市を一つ作るくらいの大きさはありました。平原、広いです」
「うん、森よりちっちゃいけど、大きい!」
都市一つ作れる平原より森の方が大きいのか、と思うも、現状その森へと手を加えるつもりはないので、平原に集中する方が良いだろう。ただ、都市を作るとしてもそのための材料や労力をどうするかだが——。
「ワイズ、このダンジョンで生成したものをそっくりそのまま外へと持ち出すことは可能か?」
【——答。但し、ダンジョン内に生成するよりも三倍以上のエネルギーもしくは魔力を必要とします。距離が離れれば、より多くを必要としますが……ダンジョン近くの平原ならば、三倍ほどで済むでしょう】
「三倍か、それならば問題ないな」
都市一つ作る程度ならば、三倍だろうと五倍だろうと支障はない。
それだけ多くの魔力を持つアズは、この世界に来て、新たな体を手に入れてから日々更なる魔力を得ている感覚があった。それはきっと、始も同じだろうと思う。
ただ、商業都市を作るのはダンジョン内の街——始が王都と呼ぶそこが安定してからの方が良い。
一気に何でも手をつけて、それが始末に負えなくなるのが最も拙いことだからだ。必要なのは、こつこつ積み重ねて行くこと。
「ハンス、グレーテ。森に生えている薬草などは、多かったか?」
「あ、はい。いっぱいありました。幾つか採って来て、シュネーさんに渡してます」
「木の実もあるよ!」
「はい、二人から先程受け取りました。これから解析に回すところですが、王が必要とされるのならばお渡し致します」
「いや、そのまま回してくれ。ダンジョン内で栽培出来そうならして、効力に差異が出るかも知りたい」
「かしこまりました。木の実に関しても同様に解析へ回します」
「ああ、頼んだ」
ダンジョン内で栽培出来れば、宝箱に入れる薬の製造に一歩近づく。外で栽培したり、採取するよりもずっと効率的になるだろう——医療系に秀でた子、解析を得意とする子を生み出しておいて良かったと思う。
「二人共、ご苦労だった。暫しの休息を与えよう、好きに過ごすと良い」
「ありがとうございます。ぼくたちの力が必要になったら、いつでも呼んでください」
「ありがとーございます! あっ、グレーテも呼んで!」
「ああ、その時は任せよう」
満面の笑みで頷いた二人が玉座の間から退出してから、報告書と共に提出されていた地図を呼び出す。ハンスが描いたのだろう、緻密なそれは、まるで大地を写し取ったかのようだ。
結界の存在は予想外だったが、今は好都合である——ダンジョンの様子が外側からも見ることが出来ないということ。今のうちに出来るだけのことをして、準備が整ったら商業都市を移設すれば良い。
ダンジョンの本格始動まで、後少し。




