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怠惰に過ごしたい魔王さまの異世界ダンジョン生活、勇者付き  作者: 白瀬 いお


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17/23

17.魔王さま、街人代表と話をする

 最初は食べることに夢中になっていた新たな街人たちも、次第に緊張が解れて来たのか、酒が回って来たからか、所々から笑い声が上がっている。


「失礼致します。我が王、街人の代表が王へ感謝をお伝えしたいと申しておりますが、如何致しましょう」


 ぼんやりと広場中に灯した明かりで照らされている街人たちの笑顔を眺めていると、隣に控えていたシュネーがそっと耳打ちをして来た。街人の代表というのは、あの白髪の男のことだろう。


「構わない、直答も許そう。ここへ連れて来ると良い」

「かしこまりました」


 すっとシュネーの影から現れた彼の部下が、その代わりに街人の代表を呼びへと向かう。シュネーの系譜として存在する彼らは、その手足となるべく生まれた存在であり、雑事を熟すのが役割である。


 暫くして連れられて来た街人の代表である男は、自らの名をロイドと名乗った。


「王よ、我らを受け入れてくださったこと、感謝の念が絶えません。本当に、本当にありがとうございます。そして、どうか……いえ、失礼とは存じ上げております。ですが、ですが……、我らの歩んで来た道を、お聞き頂けないでしょうか」

「構わない、聞こう。私にとっても新たな民となったそなたらについて、何も知らないではいられないからな」


 鷹揚に頷くアズに、ロイドは深々と頭を垂れる。潤んでいる瞳は見ていないことにしてやりながら、彼の少しだけ震える声へ、耳を傾けた。


「我らの祖先は、水面に映る月から生まれた妖精と、その妖精に恋をした人族の娘の子でございます。それ故、我らの肌は青白く、瞳は水面のように揺らめき、魔術に親しんでおります」


 ですが、とロイドは続ける。


「……妖精と人族の間に生まれた子。それは、どちらの種族にも受け入れられるものではありませんでした。まして、妖精と妖精種は異なる存在。我らは人族にも、妖精種にもなれぬ者。それでも、月に関わる妖精と、時に人族と交じりながら血を繋いで来たのです」


 半妖精半人族である彼らは、妖精種に勝らないまでも人族には劣らない魔術の腕があった。


 だが、誰も彼もが争いを拒む穏やかな気質であったことが災いして、人族だけでなくその他種族からの迫害も受けるようになってしまった——嘗められてしまったという。


 それはまるで、嘗ての魔族たちのようであった。本能的に争いを拒み、穏やかで、日々の小さな幸福を大事にしながら生きる存在。


 そういった者は、どの世界でも下に見られてしまうらしい。


「我らには、人族や獣人族、いえ、妖精種以外には劣らない魔術の腕がございます。ですから、逃げ、隠れながら生きて来たのです……。妖精種は侮蔑の視線こそ向けて来ますが、それ以上に我らへ関わろうとはしませんから、それは幸運だったのでしょう」


 人攫いに遭うこともなく、こそこそと、細々と生きて来た——恐らく、このロイドこそがその妖精と人族の娘の間に生まれた子の血を一番濃く継いでいるのだろう。その瞳の揺らめきは、涙だけではない、まるで風に吹かれた水面のようだ。


「ですが、そんな生活を続けていれば心も疲れてまいります。生きるために必要なものを手に入れるために街へと入るにも、こそこそと、幻術を使って何とか買い物をせねばならない。金を手に入れる手段もほとんどありませんでした」


 それでもまだ、魔力があれば最低限生きることは出来た——妖精の血が流れているからこそ。それに苛まれ、けれども助けられて来た彼らは、ずっと安住の地となる場所を探して来たのだという。


 しかし、何度ひっそりと拠点を構えても、人間種——特に冒険者と呼ばれるものたちがやって来てしまう。そうして見つかれば、また新しい場所を探すために過酷な旅に出なければならなかったそうだ。


「……ここをそなたらの安住の地とするが良い。私は人間種でも妖精種でもないし、差別も迫害もここにはない。ただ穏やかに、そなたらの望むように暮らすことを許そう」

「ありがとうございます……! 我らの持てる力、技能、全て王に捧げましょう。戦いには向かぬ我らですが、どうぞ、お役に立てることがあればお命じください」

「ああ、その言葉嬉しく思う。だが、まずは生活を安定させること、そして知識を得ることを最優先とするように。大人も子供も、皆等しく教育を与えよう。よく食べ、よく学び、よく寝ること——それが当面の間、そなたらが行うべきことだ。良いな」


 アズの言葉に、遂に涙を堪え切れなくなったのだろう、ロイドが頭を深く下げて「ありがとう、ございます……!」と絞り出したような声で礼を述べる。


 生き残ることで精一杯だった彼らには、学びの機会など碌になかっただろう。だが、アズの治めるこの地の民となるのならば、最低限の知識は必ず与えるつもりだ。


 その先の高等学術は、才があり学びを望む者を優先して与えて行く。勿論、相応の努力が出来ることを最低条件としてだ。


 これは差別ではなく、区別となる。己の適性が何かを確りと見極め、進む道を考える——仮に才がなくとも、その道をどうしても進みたいと言うのならば、自らの手で掴み取れということ。


「ロイド。そなたも長旅で疲れているだろう、今日はよく食べ、よく飲み、そして眠るが良い。学び舎は五日後から開く、皆にも伝えておいてくれ。——ああ、そうだ。この街において、そなたを街長に任命する」


 そう告げると、ロイドの目がまあるく見開かれる。思ってもみなかったというような表情に薄く笑みを描きながら、言葉を続けた。


「雑務に関しては、明後日に秘書官を派遣するから心配するな。ロイドに任せたいのは、街の者たちの様子を見ることだ。困りごとや不満はないか、何か生活を豊かにする案はないか……、問題は起こっていないかを、無理なく確認してくれれば良い」


 要するに、アズと街人たちの仲介役ということ——ロイドに対して街を治める能力を求めてはいない。今まで街人たちを率いて来たロイドにそういったことを任せる方が、彼らにとっても混乱は少ないだろう。


「はい、はい……! その命、しかと承りました……!」


 返って来た力強い了承の言葉に、ふっと先程より口角を上げる。何にせよ、暫くは街人たちの体調を整え、学びを与える期間となるので、この街で外貨を獲得するための産業を興すのはもう少し先だろう。


 長年苦しみ続け、それでも誰かを憎むことをしなかった彼らがこの地で穏やかに暮らしてくれれば良い——魔族たちを重ねてしまっているという自覚をしながらも、アズはそう願う。


 そして、忙しさを乗り越えた先に自堕落な生活が待っていることも共に願うのだった。

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