14.魔王さま、方針を決める
国家運営には、綿密な計画が必要だ。勿論柔軟な対応を求められもするが、見切り発車で政策を開始して良くなる事例など、余程の奇跡が起きなければ有り得ない。
それを痛いほどに知っているアズは、頭の中でこれからやるべきことを順序立てて行く。
肉体の再構築を終えた始を起こし、不調がないか確認したのは昨晩のこと。
幼い体は確りとした休息を求めて来るものなので、それに従ってシュネーたちの部屋を作ってやってから、各々寝室へ向かい解散することとなったのだ。
そして一夜が明けた今、簡単な食事を終えて再び玉座の間にてアズはウインドウを操作していた。
シュネーは腹心として常に傍に控えているが、他の臣下たち——始が守護者と名づけた——は、各々守りを担当する階層に向かって貰っている。
(知識については世界記録へのアクセス権一部付与が出来た。だが、実際に自分が担当する場所に赴かねば、地理を理解するのは難しい。そして、愛着も抱けない)
ダンジョンは国であり、玉座の間と生活区域は王都、各階層は貴族領地のようなものだと捉えれば、自ずとさせるべきことが見えて来る。ただ、十層に一人配置するのではなく、一人の担当を二層にした。
最初に創造したイダムを除き、戦闘力重視で作り上げたのは五人だ。一気に生み出すのではなく、順序増やして行こうというアズの案に始も頷いている。
現在このダンジョンではアズをマスターとして、その補佐にワイズ。守護者統括がシュネー。そしてその下に階層守護者が五人。
他にも事務系を重視した者たちや、生活区域の統括など様々いるが、今は脇に置いておく。重要なのはそこではない。
「これから、当ダンジョンにおける方針を決定する。これはこの先の軸となるものだ、思いついたことは全て言ってくれ。その中から取捨選択をしよう」
「はあい。じゃあ、早速提案。ダンジョン維持のためのエネルギー補給を効率的にするなら、やっぱり街くらいは作るのが良いと思う」
玉座の上で座るアズの隣で、肘掛に身をだらりと伸ばして乗せていた始から声が上がる。
出された案は、確かに有用だ。ダンジョン内に定住させることが出来れば安定してエネルギーを稼ぐことが出来るだろう。
【応。ダンジョン内で生まれた命について、その親がマスターが作り出した者でない場合、次代以降からもエネルギーを徴収することが可能です】
裏を返せば、アズが作り出した命、その系譜と交わった場合、エネルギーの徴収が出来ないということになる。
そうなったとしても、ダンジョンから追い出すなど出来るはずもない——一人二人ならば良いが、そういった側面のバランス調整について、考えておかねばならないだろう。
「——そうだな。しかし街規模とはいえ、また執務に追われるのか……」
「我が王、それらはわたくしにお任せください。王の負担になるようなことは致しません」
「それは、……うむ、考えてみよう」
王としての責任を放棄するようなことは出来ない、と言いかけたものの、何も有能であることだけが上に立つ者の素質ではない。己以外の存在を上手く扱えることこそ、上位者には求められる。
アズの望みは、自堕落に過ごすこと。それを叶えるためにダンジョンを運営するのだということを忘れてはならない。一番重要なのは、如何に怠惰に過ごすかだ。
「案は検討しよう。私からはそうだな、ここ以外のダンジョンとの交流は、こちらから向かうことはしないという考えでいる。但し、攻め込まれた場合は完膚なきまでに叩き潰すがな」
「良いんじゃない? 鏡のように接するのが楽だしさ」
【答。個体名:尾張野始に同意します。他ダンジョンを積極的に侵略する行為は推奨致しませんが、迎撃については強く推奨致します】
「わたくしも賛同致します」
これは満場一致で決定した。誰だって、自身の国を侵略されそうになって、はいそうですかと頷くことはしないだろう。
仮に侵略されそうになった場合は迎撃し、相手のダンジョンを取り込むことを決定した。
一度の失敗で諦めるものばかりではない——だが、二度目など許さない。敵対したのならば、その髄まで喰ってやるつもりでいる。勿論、そんなことがないのが一番良いのだが。
それからも話し合いは続き、以下のことが決定した。
一、ダンジョンに街となる階層を追加し、そこから継続的にエネルギー徴収をする。
二、ダンジョンの各階層に宝箱を設置することで、欲深い者を呼び寄せ、探索させることでエネルギーを発生させる。
三、他のダンジョンへこちらから接触はしない。侵略行為を受けた際は、迎撃し相手のダンジョンを取り込む。
四、ダンジョン周囲の探索も行う。他国との不要な衝突は避けること。
五、有能な人材を見つけたら積極的に取り込むこと。
「こんなところか。有能な人材は幾らいても良い——とまでは言わないが、この世界で生まれ育った者の視点は幾つか欲しい」
有能でも、自己中心的な者は他者と衝突して不和を巻き起こす。それでも許せるというほど秀でた者でなければ、寧ろ引き込まない方が良いこともあるのだ。
ダンジョンに外部生物を誘い込むというのは、始の案。アズよりもダンジョンというものについて様々な知識があると見える彼に、ある程度の権限を譲渡することも考えてみるべきか。
ただ、その場合裏で敵対行動を取られた時が厄介になる。現状そのようなことをするとは思えないが、始から向けられる好意的な感情の理由が何も分からないというのが怖いところだ。
(腹の中で何を考えていようと、今のダンジョンにはハジメの知識とアイディアは有用……、暫くは様子を見よう)
そう決めて、一度目を閉じてからゆっくりと開いた。赤い瞳が真っ直ぐに捉えるのは、常にアズの傍で浮遊している石版——ワイズ。
「ワイズ。改めて、トゥマリネ大陸について教えてくれ。ダンジョン位置、その周辺情報、そして周辺国について」
【答。トゥマリネ大陸は、この星で最も広大な大地です。ダンジョンの存在する特殊区域はどの国家にも属さず、しかし、常に狙われております】
特殊区域はダンジョンが存在している場所——ダンジョンを手に入れることが出来れば、それは周辺国に対して大きな牽制となるだろう。
自堕落に、怠惰に過ごしたいだけなのに、それが叶うのは何時になるのか……、アズは思わず溜息を吐いてしまった。




