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怠惰に過ごしたい魔王さまの異世界ダンジョン生活、勇者付き  作者: 白瀬 いお


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12.魔王さま、自己改造をする

 これで異なる世界への転移ではなく、転生をしたことが確定となった——などと、推測が当たっていたことに対して納得をしもするが、それよりも重要なのは魔族でも、人族でもないモノであるということ。


 そして、己の種族すら変えてしまうことが出来る、ダンジョンという存在の恐ろしさだ。


 自己改造——文字通り、己の全てを変えてしまうことが出来るそれに、寒気がする。


 しかし、ここで自身の種族を最適なものへと変化させることが出来るのなら、この世界に転生してからずっと感じていた強い体と魂の不和を解消出来るのではないだろうか……、そんな囁きが頭の中に吹き込んで来る。


(偽人種は、肉体が老化こそするものの、成長というものがない。それはつまり、この体は老いることはあっても、魂に馴染むほどに変化することがないということ)


 ダンジョンマスターになったのは不慮の事故(アズの慢心が故とも言う)であるのだが、ダンジョンとは国であるとも言える。


 自然と発生したものでなくともこの場に息づく生命は確かに存在し、ダンジョン自身にも意思があるのだとワイズも言葉の端々から示している。


 それなのに、一国の主人として中途半端な状態で居続けることが許されるのだろうか……、中途半端な状態を解消出来る方法があるというのに、だ。


 アズは、その選択を——王の責務から逃れるという手段を取れるほど、まだ王であった頃から抜け出せていない。


 どうするのが一番良いのか、考え続けながらも手は動いて行く——コマンドウインドウから〝生命改造〟を選択、次に〝アズ〟を選択すれば、別ウインドウに現在のアズの姿が映し出された。


 それは、姿こそ前世の幼少期と同じだが、肉体強度も魔力適性も酷く劣る——このままでは十全どころか一割さえも力を出すことが出来ない、脆弱なもの。


【案。マスターの魂、精神性、魔力適性、そして記憶を基に再構築することを推奨致します。また、個体名:尾張野始に関しても同様の操作が可能です】


 ずっとアズの傍で静かに浮遊し続けていたワイズがそう言葉を記すので、それに対して顎に手を当てながら思案する。


 自身の肉体を改造することは良い、だが、確かにそれに対しての経験や技術をアズ自身は持ち合わせていない。それならば、そのような手に身を任せてみるというのも検討すべきだろう。


 異なる世界に転生してから、少々楽観的になってしまったような気はするが、それもこれも快適な自堕落ライフのため。ダンジョンマスター、つまり王としての責務を投げ出すつもりはないが、前世ほどあくせく働くつもりもない。


 程々に民とダンジョンの様子を確認しつつ、ゆっくりと生きるのだ——そのための初期投資と思えばなんのことはない。


 始の身体改造については一度傍に置いておくこととする。自分の体で安全が確かめられてから、始も改造を行うかどうか決めさせる方が良いはずだ、兎にも角にもアズ自身が行うと決断しなければ始まらないことなのだから。そして、その覚悟はもう出来ている。


「——ふう」


 激痛が走るかもしれない。気絶するかもしれない。自分が自分でなくなってしまうかもしれない——恐怖は幾らでも探し出すことは出来るが、そんなことをしていては一歩を踏み出すことに躊躇い続けるだけだ。


 アズをマスターと呼ぶワイズからの提案なのだから、悪いようにはならないだろう……、そう信じて、コマンドウインドウの〝推奨改造〟へと触れた。


 ——全身を何かが這い回るような感覚がする。ずるずると、うねうねと、ぐるぐると。そして、体の中心から強い熱を感じ、痛みは不思議とないものの、異様なほどの不快感が体を包んだ。


 それから逃れようと、自然と体を丸めて子供特有の高い声を低くして唸るも、ほんの少し気を紛らわせるものにさえならない。


「う゛あ、ア゛……ッ⁉︎」

「魔王さま……? 魔王さま、大丈夫⁉︎」


 喉の奥から出て来るのは潰れてひび割れた声ばかり——そんなアズの姿に始も目を大きく見開き、慌てた様子で幼い体を抱き締める。


 彼もまた同じ年齢くらいの姿なので、ただ抱きついているようにしか傍目からは窺えないが、全身を作り替えられている最中のアズからすれば、その子供特有の体温は縋りたくなるほど心地好いものだった。


 突如として眩暈に襲われた者が近くの壁に縋るように、痛みを堪える者が何かを強く握るように、アズは小さな手で、爪で、玉座を引っ掻きながら身悶える。


 そんな姿をどう見ているのか、始の様子を見る余裕などあるわけもなく、しかし長時間の責苦のように思えたそれもやがてゆっくりと攻勢を弱め、同時にこの世界で目覚めてからずっとあった体が馴染まないという違和感と不快感が消え去って行った。


「はっ、はあ、は……」


 体を丸めたまま、荒くなっていた呼吸を整えるためにゆっくりと息を吸って、吐く——背を撫でてくれる始の優しさを感じながら、ようやく落ち着きを取り戻した体を大きな玉座の上へと投げ出す。


 これだけ体力を消耗するというのなら、そう最初に記載しておいて欲しいと不満を頭の中に浮かべられるほどには思考能力も回復している。


【告。マスターの有する体の再構築が完了致しました。偽人種・人間改め——迷宮魔王種オリジン・タイプ:AZ】


 ワイズ——石版の表面にその文字が浮かんだ次の瞬間、玉座の間を眩いばかりの黒い光が包み込む。視界を闇に染め、しかし酷く明るいそれに視力を得ている者は誰も目を開くことは出来ずに、ただそれが収まるのを待つしか出来なかった。


 やがて強い光が収まるのを感じて、ゆっくりと目を開く——見慣れぬ玉座の間は、アズが長年君臨していた魔王城の玉座の間へと、変貌している。


 いや、全てが同じわけではない。だが、纏う雰囲気が、色が、気配が。あの場所と、よく似ているのだ。


「……魔王さま。見た目、あんまり変わんないけど、体調はどうなの?」

「ああ……、すこぶる良い。精神と肉体の齟齬が全て解消され、持ち得る魔力も魔術も十全に扱えるようになった。ほんの少ししかあの体ではなかったというのに、この落ち着く感覚が久しぶりに思える」

「おめでと。急に苦しみ出したから何事かと思ったけど、うん、無事に終わったなら良かった。それにしても迷宮魔王種って、そのままじゃん」

「ふふ、確かにそうだな」


 迷宮を管理する魔王——始の言う通り、アズの立場をそのまま表現しただけの種族名に笑ってしまう。


 だが、変に格好つけた名称よりもよほど分かりやすくて良い。右手を握っては開いて、動きの確認をしてからふっと息を吐いた。


 新しくなった体、そして種族の特性を確認しなければならない。目の前に浮かぶウインドウに、アズの美しい赤い瞳が視線を投げかけた。

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