11.魔王さま、目的を確認する
アズが新たに生み出した存在、シュネー・ヴァイス。
その種族は偽人種ではなく——有翼異種オリジン・タイプ:|シュネーヴィットヒェン《白雪姫》。
それは、この世界で初めて生み出されたモノの証であるオリジンを冠する種族。シュネーこそが最初の個体、連なる命はまだない——始まりの一。
更に、それに続いて生み出した個としての存在は、各々オリジンとしてその種の頂点に君臨し、アズを王と崇める。そのことに、長らく王であった彼は、違和感を感じることがない。
玉座の前で跪き、頭を垂れる者たちに、アズは鷹揚に頷く。皆、それぞれに特化した能力を持つ存在だ。
自らの手で作り出したという嫌悪感もない今、彼らは守るべき民であり、頼りにする部下たちでもある。
「そなたたちには、順次役目を与えて行く。だが、それには現状の確認——このダンジョンの存在目的、行わねばならないこと。それらをきちんと知らねばならない」
流されるまま、生命の創造まで行ったが——まだ、ダンジョンというものについて、知っていることはほとんどないと同じ。ならば、まずはそこから知っていかねばならない。
ダンジョンとは何か、何を成すべきなのか、もしくは——願わくばとでも言おうか——何もせずに、ただそこに在るだけで良いのか。
ダンジョンマスターなどという称号を、意図せず与えられてしまった。だが、負ってしまったのならその責任は果たしてやらねばならない。
そう、全ては、自堕落に過ごせるこれからの生活のために。
「ワイズ」
【応。一、ダンジョンの存在目的。それは、この世界の均衡を保つことです。ただ在るだけで、世界は安定します——ダンジョンが魔力を循環させる機構であるが故に】
そして、浄化機構でもあるのだと、ワイズは続ける。魔力が生物など、何らかのモノを通して使われた時、同時に澱が発生する。それを取り除き、世界に還すのがダンジョンの役目だという。
それはアズらが何かをせずとも、ただダンジョンというものが在るだけで、勝手に行われる——つまり、ダンジョンの存在維持こそが最も優先するべきことであり、目的。
【続。二、行わねばならないこと。ダンジョンの存続——外敵の積極的な排除です。ダンジョンは、その性質を理解しない知的生命体により標的にされる場合が多く、時に破壊されることがあります】
つまり、ダンジョンに侵入して来た者たちを何らかの手段で排除し、ダンジョンの核——アズを死なせないことが、これから先行わねばならないことだとワイズは記す。
ダンジョンには、余剰エネルギーを何らかの物体として生成し、それを適当な箱に詰めて各所に置いておく——貯めておく性質がある。
それを目当てに知的生命体がやって来て、ダンジョンの中を勝手に荒らすのだというのだから、何とも困ったものだと思う。
(何れにせよ、外敵との戦いはしなければならないのか……、それは致し方あるまい)
結局のところ、始と話し合った方針と大きく変わるところはなかった。外敵の排除——その規模がどこまで大きくなるのかは、まだ分からない。
個人で済むということはないだろう——国か、一種族相手か、それともこのダンジョンの者たち以外が全て敵という可能性もある。
一つ、ワイズが記した中でアズが気になったことがあった。ダンジョンはこの一つではないと思わせる記載がある——つまり、他にもダンジョンマスターが存在するのだろう。
「……。他のダンジョンとの争いごとは、あるのか?」
【答。他のダンジョンを取り込むことで、より大きなダンジョンとして成長することも可能です。但し、推奨致しません】
「理由は」
【答。ダンジョンの規模を増したとしても、二つのダンジョンがある状況よりも澱の浄化能力は下がります。ダンジョンの併合——それは、ダンジョンマスターのエゴに過ぎません】
それは確かにそうだろうと、アズと始は共に頷く。浄化機構として存在しているダンジョンの、その力を削ぐ——正にエゴであり、ダンジョンマスターとしての行いの中では、正しいとは言えまい。
それでも、力に目が眩む者はいる。こちらが望まずとも、相手が野心を持って戦いを仕掛けて来る場合があるのだと、ワイズは記した。
「……こちらでも争いごとに巻き込まれるのか」
「備えはきっちりしておいて、後は流れに任せるで良いんじゃない? 魔王さまは侵略する気、ないんでしょ?」
「そんなものあるものか。統治する土地が増えれば増えるほど、仕事もどんどん増して行くのだぞ」
正にげんなり、という顔をするアズに、始はその口許を僅かに綻ばせる——嘲笑ではない、親しみを込めた笑みに見えるそれを、魔王さまと呼ぶ彼へ向けた。
「魔王さまは自堕落に過ごしたいんだもんね。大丈夫、俺がそういう煩わしいの、やってあげるよ」
「そなたは……何故、私のために力を使おうとする?」
「俺、魔王さまに恩があるんだ。その恩を返したいってのと、魔王さまのこと気に入ってるからだよ」
「恩……?」
勇者への施しなど、行った覚えはない——どれだけ記憶を辿っても、該当する出来事はなかったと思う。だが、始は恩人という言葉を撤回することはなく、その瞳にもまた嘘の色は見えない。
釈然としないものの、始はそれ以上のことを言うつもりはないようなので、問い詰めるのも可哀想かと一先ずは置いておくことにする。
今は、ダンジョンについて考えねばならない——生き残るために。
【案。まずは現ダンジョンの支え——必要となる外部エネルギーの調達に力を入れることを推奨します】
「そうだな、そうしよう。当面の目標は、この規模のダンジョンを支えるに足る外部エネルギーの確保、及び周辺環境の確認とする」
「うん、賛成。何にせよ、俺たちまだ子供だし……長い目で見て成長しなきゃだよね」
「ああ。……そういえば、この体の種族は?」
【答。マスター、及び個体名:尾張野始。現種族——偽人種・人間。変更しますか?】
「……は?」
ぽかん、と、音をつけるならそのようなものになるだろうか。アズと始は、二人揃って目を丸くし、そうして顔を見合わせる。
造られた命である偽人種であることも——自らの種族さえも変更することが可能だという事実も。驚きを齎すには十分なことであった。




