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8 死神のノートに名前を書かれましたの?

本来の6話が投稿できていなかったので、7/5 20:20ごろに割り込み投稿してます!

そりゃへんだなぁと思うよね(´;ω;`)

 部屋が何とも言えない微妙な空気になった時、その空気を打ち破るように扉を軽くノックする音が4回響いた。

 今この部屋の中にはお茶を入れなおしてくれるメイドも、扉を開けるための侍従や護衛騎士も存在していないため、無言でクリプトルが立ち上がり扉を開けると、そこには王太子であるテンペルト=オリス=プグナトルの第一王子である、ティルム=オリス=プグナトルが、新しいお茶菓子とポットに入ったお茶を乗せたカートの隣に立っている。


「ごきげんよう、ウィンノエル公爵。メイド長の代わりにお茶とお菓子を持って来たのだけど、入ってもいいかな」

「ごきげんよう、ティルム殿下。愛しの姫君(・・・・・)に会いたいとはいえ、メイド長の仕事を取ってはいけませんよ」

「そんなことを言っていたら、僕は永遠にどこかの小姑に邪魔をされて愛しの姫君に会えないと思うんだ」


 冗談めかして言った言葉に、いたずらめいた視線を向けられたクリプトルは、思わずその子供らしい言い分に笑いそうになってしまった。


「嫉妬深い小姑がいると大変ですね。どうぞ、お入りください。ただし、愛しの姫君の隣は埋まっていますがね」

「だろうな。そこにいる小姑が彼女の隣を譲るわけがない」


 そう言いながらカートに手を伸ばそうとしたティルムに先んじて、クリプトルがカートを引き寄せてそのまま部屋の中に招き入れる。


「お爺様、公爵の皆さま、ごきげんよう。フィス、それからルディア姫君(・・)。無理はしていないか?」


 挨拶をしながらフィディスの横に、自分で(・・・)ソファーを持ってこようとしたティルムだが、これまた先んじてアーストンがフィディスたちが座っている横にソファーを運んだ。

 軽くお礼を言ってそこに着席し、心配を隠さないままルディアをじっと見つめていると、その視線を遮るようにフィディスが間に手を差し出した。


「フィス、邪魔するな」

「そんなに見つめられてルディの可愛い顔に穴が開いたらどうする」


 フィディスを軽く睨んだティルムだが、本気で怒ったり拒絶しているわけではないようで、あくまでも普段の掛け合いの一部なのだとわかる軽さがある。


「安心しろ。そんなことがあろうとなかろうと、ルディア姫君は僕がちゃんと嫁にする」

「はあ? 私のかわいいルディを嫁になどやるものか」


 ティルムの嫁に貰う発言にルディアは内心では驚いたのだが、よく考えて以前から言われていたのだと思い出して(・・・・・)冷静になった。

 母親であるヴィリアが存命の時から、ティルムのこの発言は出会う度にされているし、実際に婚姻に向けて動いているとフィディスが話しているのを聞いたこともある。


「お前のような小姑がいて、僕以外の誰がルディア姫君を嫁にすると? 居たとしても排除するけどな」

「その前に私が排除するに決まっているだろう。私のルディに対して生半可な気持ちで手を出そうなんて、万死に値する」

「まったくだな」


 自分を挟んで頷きあったフィディスとティルムを目だけでキョロキョロと何往復かし、「相変わらず仲がいいですわ」と考え、少しだけ羨ましく感じた。


「お前たち相変わらず気が合うな」


 レンティムがルディアと同じ感想を口にすると、フィディスとティルムは顔を見合わせて同時に笑った。


 まっすぐな黒い髪に濃い紫色の瞳を持つティルムは、確かに雰囲気を含めフィディスと似ている部分もあり、本人たちも互いに気が合うと思っている。

 そこには血縁という重要な要素もあるが、なによりも気質と嗜好が似ているのだろう。


「ところでお爺様……じゃない、国王陛下。流されるように着席してしまいましたが、黄昏会議に僕がお邪魔していいのですか?」


 レンティムを見て首を傾げたティルムだが、一瞬だけルディアに視線を向けた。

 それを受けてレンティムは「他言しなければ今回に限り問題ない」と答える。


「一応、お前にも関係している話……になるのか? なる、だろな。うん、なるというか、放置すると後が面倒そうだ」

「はあ、よくわかりませんが失礼なことを言われている気がします」

「気のせいじゃないと思うぞ、ティル」


 レンティムの言葉に眉間にしわを寄せたティルムだが、フィディスの言葉に余計にそのしわを深くした。


「ルディの預言(・・)だと、今後お前の愚弟が婚約を申し込んでくる可能性(・・・)がある」

「……なるほど、先んじて処分(・・)しておくか」


 フィディスの言葉に頷いたティルムが笑顔で断言したので、ルディアはついこの間、似たような流れがあったな、と二人に血の繋がりを感じてしまう。


「しかしながら、ルディア姫君が預言とは? 今までそんな才覚があったと聞いたことはないぞ」

「これに関しては、目覚めたと言うか、思い出したと言うか……どう言うべきだろうな」


 ティルムの言葉に、フィディスがルディアと繋いでいない方の手を口元に当てて考えるが、なかなかいい言葉が見つからないようで困ったようにアーストンを見る。

 その視線を受けてアーストンは面白そうに笑いながら「ルディは前世の記憶を思い出したのですよ、殿下」と言った。


「前世の記憶…………そうか」


 ルディアを見て少し思うところがあるのか、問い詰めるようなことはせずに頷くだけで終わらせる。

 記憶を思い出した要因に母親の死を目撃したショックが関わっているのだとすれば、下手に刺激するのは得策ではないと思ったのだろう。


「その前世の知識で、僕には弟が二人いるけど、下の弟じゃないだろうし……愚弟(ウィクトル)がルディア姫君に婚約を申し込む可能性があると判明した(・・・・)のか。しかし、僕の場合はお母様が好きにしていいと言っているけど、あのプーパ様が公爵家の直系の令嬢との婚約を許すのか?」

「そこを今話し合っている。そうですよね、国王陛下」


 子供たちの間で情報共有が終わり、話を振られたレンティムが頷いたのを見てティルムは「うーん」と唸り声を上げた。


「ルディア姫君に求婚の許可を取っているのは僕が先ですよ」

「わかっている」


 疲れたように手を振ってティルムに答えたレンティムだが、このことを大事(おおごと)にしないために今回同席を許したと言っても過言ではない。

 王家の子供、正統な王子であるティルムが、公爵家の令嬢とはいえルディアを姫君扱い(・・・・)するのは今に始まったことではなく、まだ許可が下りていないにもかかわらず周囲に求婚の意思があると示しているのだ。


「あのプーパ様がウィクトルの王位継承権放棄を認めるとは思えませんし、ウィクトルにその覚悟があるとも思えません」


 ティルムの言葉に、部屋にいる全員が「それな」と内心で思ったが、誰も口には出さなかった。


「僕でさえ今後の事で父上やお爺様の許可が下りずに苦労しているのに、他国の姫君を母親に持つウィクトルが王位継承権を放棄してしまっては、この国でどうやって生計を立てると?」

「そうだな」

「皆様当然わかっていらっしゃるのでしょうが、王族であっても簡単に家門を興すなんて出来ませんよ。どこかの家門に都合よく養子に入るとしても、そんな都合よく受け入れる家門があると? それとも、フィスを差し置いてルディア姫君にウィンターク公爵家を継がせると?」

「いや、それは」

「その場合のフィスはどこかの家に婿入りでもさせますか? まさか家門を新たに興せと言うわけではありませんよね? ああ、ないとは思いますが他国に婿入りさせますか? 神聖国に駐在させるという手段もありますね」

「うん、あのな」

「どれも馬鹿げていて話になりませんよね。皆さまともあろう方々がそんなアホ、失礼。くだらないことはおっしゃいませんよね」


 まさに立て板に水とでも言うように話すティルムに、レンティムの顔が引きつり、四大公爵家当主がそっと視線をそらした。

 第二妃である母親に似て、こういう時のティルムは相手が降参するまで笑顔で追い詰めてくる癖があるのを、この場にいる全員が知っているのだ。

 ただ、知ってはいるがフィディスは笑顔でそれに対抗するタイプで、ルディアは自分が被害に遭ったことがないので特に反応することはない。


「これだから面倒になりそうだと思ったんだ」

「国王陛下、何かおっしゃいましたか」

「なんでもない」


 顔を引きつらせたままの呟きに対し、聞こえない振りをしてティルムが笑顔で言うと、レンティムは深いため息を吐きだした。

 その様子を見て「それも踏まえて」とアーストンが切り出す。


馬鹿(プーパ妃)の対応を考えた方がいい。もし今後うちのルディに婚約を申し込むようなことがあったら面倒だし、フィスの今後にも関わってくる」

「フィスの?」


 ティルムがフィディスを見る。


「まさか命の危険……殺害される可能性でもあると?」


 ヴィリアのこともあり多少言い淀んだが、考えた可能性を告げたティルムにフィディスは口を三日月型に持ち上げた。


「微妙に惜しい」


 その言葉にティルムは驚いたように目を大きく開いた後、瞬きをしてから自分の分の紅茶をカップに注いでミルクを入れた後、無作法と理解しながらも一気に飲み干した。


「…………国が危なくなるのなら、僕はルディア姫君を連れて、それこそ神聖国にでも亡命します」

「どういう考えでその発言に至ったのか考えたくないが、笑顔で恐ろしい事を言うんじゃない」


 レンティムはもう疲れたとでも言いたげに突っ込んだが、ティルムが本気であることは理解している。

 だからこそ、ルディアが語った知識でティルムの名前が出てこないことを疑問にも感じていた。

 そしてそれはそのまま、ティルムが存在していない(・・・・・・・)可能性(・・・)に繋がるとも考えてしまう。


 ルディアへの一目ぼれから始まったティルムの求婚許可に関する一連の行動は、レンティムたちが今は亡きアーストンの妻、フィディアを思い出させるほどの一途さと無茶振りを見せている。

 だからこそ、ウィクトルがルディアの婚約者になる事をおとなしく認めるわけがないのだ。

 フィディス経由での話によれば、ヴィリアが死亡してすぐに婚約が決まったらしいが、もしかしたらその時点でティルムが死亡しているかもしれないと考えることもできる。

 現時点で、いや、そもそもルディアが前世の知識を取り戻した時点で今後の可能性について大きな変化が起きているのかもしれない。


 ふとレンティムはアーストンに視線を向ければ、タイミングを同じくしてこちらを見ていたようで頷きあう。

 そして――


「四大公爵家の当主は知っている事だが、ルディア嬢の話以前に、アーストンの残りの寿命は(・・・・・・)判明している(・・・・・・)


 まっすぐに子供たちを見て告げた言葉に、フィディスとティルムはもちろん、ルディアも驚きに息を飲んだ。

アーストンの残りの寿命は年齢的なものではなく、残量が決まっています。

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