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11 一方その頃見ず知らずのどなたか

だれよ、こいつ! と思ったあなた!

第二章の主要登場人物紹介を見てみましょう♡(大したことは書いていません

 ディヌス王国の王都の中心部、王宮にほど近い位置にある大きな神殿の奥まった一室。

 質素ではないものの、飾り立てているわけではなく、必要最低限のものとわずかな飾り。そしてテーブルと対面に置かれる三人掛けのソファ。

 ソファはこだわりがあるのか、豪奢ではないものの明らかに高品質だとわかり、座面の座り心地は良さそうだと思える。

 そのソファに一人で座り、愉快そうにクッキーをかじる紫の長い髪を持つ青年、ルキスト=フリューリスは目の前で不服そうにカップを傾ける神官のアリューシャに目を向けた。


「だぁから言っただろう。あの粗忽ものどもを手助けしたとかいうプーパって妃はバカだと」


 フン、と馬鹿にしたように笑い手にしたクッキーを食べ終えると、次のクッキーに手を伸ばしたルキストの言葉に、アリューシャがため息を吐きだした。


「バカはともかく、おかしいと思ったから神官(・・)であるボクが来たんです。案の定真っ黒でしたけどね!」

「そんなもの、受け入れたバカが悪い。ディヌス王国からの亡命なんてこの200年なかったことだぞ」

「わかってますよ! 最初から疑ってました。でも、こんな確認調査に大神官長(・・・・)であるルキスト聖下がいらっしゃる必要はありません!」


 そう言われ、ルキストは肩にかかった自らの長い髪を鬱陶しそうに後ろに払う。


「わたしがそんな些事でこんなところまで来るわけがないだろう」

「何を言っているんですか。聖下は飛空艇に無理やり乗ってきて今回の調査に便乗するって!」

「そうだ。あくまでも便乗だ愚か者」

「でも本来の目的は教えてくれないんですね」


 アリューシャが「わかっています」とでも言いたげに聞けば、「わかっているじゃないか」とルキストは答える。

 今回、プーパが紹介して亡命(・・)したオクシスの調査は、あくまでも行き返りの飛空艇を出す口実でしかない。少なくともルキストにとっては。

 普段神聖国から動くことのないルキストがどこかの国に公式に訪問するとなれば、それはもう大所帯、尚且つ大きな話題になってしまう。

 お忍びなんてもってのほか。

 だからこそ他の大神官も含め、神聖国からの移動は何かの調査などに便乗して行うのだ。


「しかし、そのプーパとかいうバカは終わったな。わたしの記憶ではこの国において、四大公爵家の全てが合意すればその権力は王家より上だぞ」

「そうなのですか?」


 驚いて思わず確認してしまうアリューシャに「自分の母国のくせに知らないのか。まったく」とルキストは左手の指を三本広げて顔の前に出した。


「まず、四大公爵家はそれぞれこの国の重要な浮島を所有し管理(・・・・・)している」


 そこで人差し指を内側におり、「これはわかるな」と聞けばアリューシャも頷いた。

 一次産業を行える浮島を領地としているのだから、そこが一斉に反抗して物流を絶ってしまえば立ち行かなくなるのは王家であるのはわかりきっているからだ。

 アリューシャの反応にルキストは微妙な顔をするが話を続ける。


「次に、四大公爵家は選帝侯でもある。それはそのまま国王ならびに次期国王にその資格なしと決定できる(・・・・・)立場という事だ」


 そう言って中指を内側に折ったルキストにまたもやアリューシャが頷いた。

 これに関しては特に言う事はないようで、ルキストは「次に」と続ける。


「四大公爵家には王族の血が何度も混ざっている。血統具合で言えば王家よりもある意味始祖の血が濃い」

「でも四大公爵家の直系は国王の伴侶にはなれませんよね?」

「だからなんだ?」


 権威と財力、そして能力を重視するあまりに始祖の血を後回しにした結果、本家よりも分家の血が濃くなる例などいくらでもあるとルキストは笑う。

 悪い事ではないが、浮島(・・)で人間が暮らすこの世界では危機感が薄いらしい。


「ここで重要なのは、四大公爵家は王家にとってかわる事が出来るが、王家は四大公爵家に代わる事は出来ないと言う事だ」

「はあ、そうですか」


 いまいちわかっていないアリューシャに苛立ちながらもルキストは薬指を内側に折った。


「この三つだけでも四大公爵家がいかに重要かつ、本気を出せば王家よりも上であることがわかるだろう」


 そして口には出さないがルキストは「そもそも」とこの国の成り立ちを思い出す。

 兄弟から王位を譲られた(・・・・)初代国王。

 歴史が長くそのことを知らない者は多いが、王家の人間や四大公爵家の直系は理解している(・・・・・・)

 他の四兄弟より、劣っていた(・・・・・)から中央の島を守護する役割を譲られている(・・・・・・)のだと。

 広い平野と森、国を支えるのに十分な鉱山のある中央の島であるフラウムは、周囲に浮かぶ四島に文字通り支えられている。


(政治能力だけを見れば国王としては十分だろうがな)


 浮島の実態を知らない人間が多い昨今。

 重要なのは内政と外交、そんなことを考える愚か者が多すぎると嘆くのは神聖国に所属する真実を知っている者が中心だ。


「そう考えると、ウィンターク公爵家から放逐されたオクシスが身の危険を感じると思うのは、ある意味間違ってはいませんよね。まあ、相手側は羽虫ほども気にしていないようでしたけど」

「昔と違って最近の王侯貴族は平和ボケしたヤツが多いな。一昔前なら不興を買った時点で死んでいた」


 ルキストの不穏な発言にアリューシャは「これだから老人は昔を懐かしむ」とため息を吐く。

 その途端、頭にゴツンと何かの塊が当たるが、テーブルの上やソファ、床になにかが落ちた形跡もない。

 あるのはアリューシャの上にキラキラとした光の残骸があるだけだったが、それもすぐに消えてしまう。


「はあ、聖下。そんな気軽に魔法を使わないでください。奇跡だなんだと民衆が見たら大騒ぎです」

「魔術と魔法の区別も出来ない愚か者どもに興味はない」


 魔法を使える才能があるかないか。それは魔法と魔術を本能で見分ける(・・・・・・・)ことが出来る才能だ。

 血筋が関係しているとも、突然変異ともいわれるこの才能は、生まれた瞬間、もしくは発現した瞬間に、潜在魔力値とともにアストリテル聖教に観測される。

 ただし、その存在は大神官内で秘匿され、本人すら才能がある事を知らずに開花することなく散る事も多い。

 チャンスに気づけた者にのみ、求める者にのみアストリテル聖教は手を差し伸べ環境を用意する。

 それが盟約だ。


「まあ、わたしは魔女殿(・・・)に興味があるだけだ」

「魔女、ですか?」


 もはや聖典の中にしか登場しない名前にアリューシャは首を傾げる。


「敬称をつけろ、粗忽もの」

「いだっ」


 またもや頭に何かがぶつかって、アリューシャは思わず声を上げてしまう。


「でも聖下。魔女、様はもはや伝説。空想の人物とも言われているじゃないですか。聖典の中にはもちろん登場しますけど」

「おまえ、見習いからやり直したらどうだ?」

「えぇ!?」


 呆れたと言うようにシラケた視線を向けるルキストにアリューシャは悲痛な声を出す。

 ルキストが本気でそう判断を下せば、ただの神官でしかないアリューシャは簡単に見習い落ちしてしまうのだ。


「魔女殿たち(・・)は聖典にあるようにこの浮島の世界を作り上げた方々だ」

「はあ、でも一方で神々に弓引く者とも言われていますよね。神々を奉るアストリテル聖教にとっては敵じゃないですか」

「全ては事実(・・)だな。だが、奉る存在に弓を引いただけでこちらの敵と決めつけるのは愚の骨頂だ」


 ルキストはそういえば目の前の娘はまだ神官になって間もないのだと思い出した。

 自分の弟子の中では最も若く、才能は少ないが器用なため神官に引き上げた。

 この国も母国ということで外交面を担当しているにすぎないが、浮島の成り立ちについての知識の面でまだ不安が残るとは、ルキウスも盲点であった。


(神聖国に戻ったら勉強のし直しか、本気で見習い落ちか。それとも……)


 今回の様子を見るに、いっそ神聖学校からやり直させた方がいいのかもしれないとも考えてしまう。

 直弟子にしただけに、アリューシャは神聖学校に通っていない。

 知識欲があったので興味のある事を好きなように学ばせたが、学校のように平均的に学ばせるのと違い偏りが出たのだろう。


「そういえば、久しぶりに母国に戻ってきた感想はどうなんだ?」

「そうですね。変わらないなという感じです」

「ふーん?」


 ほんの一瞬。何も知らなければ話す前に口を潤したとしか思えないような間とさりげない動き。

 けれどもルキストはこの弟子がなにか言えないことを言う前に、一瞬だが唾を飲む癖がある事を知っている。

 何かあるとはわかっても、流石にその内容まではわからないし、アリューシャが話さないのを無理に暴くほど無粋でもない。

 と、いうよりも興味がない。

 アリューシャが何を考えようが、さらにその背後に国単位での何かが潜んでいようとしても、大神官長であるルキストにはどうでもいい些細なことなのだ。

 なぜアストリテル聖教が絶大な権力を保有しているのか、昨今の有力者は忘れているような気もするが、いざとなれば実力行使(・・・・)をして思い出させればいい。

 慈悲と畏怖。それがアストリテル聖教の大本なのだから。


「それで、問題のなんたらとかいう公爵家の人間にはあったのか?」

「はい。当主であるアーストン公爵にはお会いしました」

「娘は死んだとして、孫がいるんだろう? そいつらはどうした」

「まだ八歳と五歳ですよ。ボクの立場では気軽に会えませんって」

「役に立たないな。それでよく調査なんて言えたものだ」

「そんなぁ」


 情けない声を出すアリューシャを無視し、新しいクッキーをつまむとルキストはどうにかしてルディアに(・・・・・)会う方法がないかを考える。


(こんなことならアリューシャではなく、なんたら貴族と繋がりのある神官を動かすべきだったな)


 そうすれば直接的な繋がりがあるため、家への訪問も可能だっただろうと考える。


「そういえばベルモット神官から、ウィンターク公爵家が連絡を取りたいと言ってきているから、返事を届けてほしいと手紙を預かっているんでした」

「それを早く言え!」


 クッキーをグシャっと握りつぶしながらルキストが叫ぶと、アリューシャは「えぇ?」と困ったように肩をすくめてしまう。


「その手紙とやらを今すぐ届けるぞ!」

「いや、今すぐは無理ですって! お伺いの手紙をまず出さないと!」

「ちっ。これだから貴族は面倒なんだ」


 舌打ちとともに言われた言葉に、「聖下だって同じじゃないですか。まったく自分の事を棚に上げて」とアリューシャはぼとっと呟いたが、咄嗟に口を手でふさぎ、もごもごと「お伺いの手紙を用意してきます」と言って部屋を出て行った。

 部屋に残されたルキストはクッキーの粉を手をはたいて落とした後、用意されている布で拭う。


「まったく本当に粗忽ものだな。それにしてもこれでようやくお会いできそうだな、魔女殿」


 残ったルキストはそれはもう幸せそうな笑みを浮かべてそう呟いた。

アリューシャはのちのち物語に絡んでくるかもしれませんが、第二章ではそんなに重要ではありません!(キリッ

あ、新年祭で神官と言われていた人物=アリューシャです。そして女性です!

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― 新着の感想 ―
[一言] アリューシャはボクっ娘、と……〆(。。 そして神聖国に戻り次第神聖学校に放り込まれそうだなあこれは……
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