2 そのドレスはお断りいたします
本日2回目の投稿です。
朝は第二章の主要登場人物と第二章 1 を投稿しています!
いつもより若干投稿時間が遅いのは寝てたからです!
「まだ食事中だったか。すまないな」
「大丈夫ですよ、お爺様。ねぇ、ルディ」
「はい、おにい様」
アーストンは空いているソファに腰掛けると、食べ終わるまで待っているからゆっくり食べるように言ったため、ルディアは言葉に甘えてゆっくりパンンケーキとアイスクリームを堪能する。
しばらくして食事が終わり片付けが済むと、ベッドに戻ったルディアの傍にまずフィディスが座り、その隣にアーストンが座った。
まず体調を確認され大丈夫だとルディアは答えたのだが、アーストンは笑顔でフィディスに確認を取り、本当に回復に向かっている事を聞きやっと納得したようだ。
「回復しかけているところに申し訳ないのだがな、ルディアが贔屓にしている仕立屋にプーパからの探りが入ったようだ」
「「はい?」」
意味が分からない、とフィディスとルディアが首を傾げるとアーストンが言いにくそうにため息を吐きだした。
「どうやらルディのドレスのサイズに探りを入れたようなんだ」
「うわぁ」
あからさまにいやな表情を浮かべるルディアに対し、フィディスは笑顔を浮かべている。
しかしルディアとアーストンにはわかる。これは相当怒っている証拠だ。
ほとんど怒らないフィディスではあるのだが、その分ルディア関連での沸点は低い。
実際、フィディスの頭の中では婚約者でもないのに令嬢のドレスのサイズに探りを入れようとしているプーパへの罵詈雑言が嵐のごとく吹き荒れていた。
「おにい様、おにい様」
プーパの行動に引きはしたが、このままでは脳内とはいえ殺人を犯しそうな気配にフィディスに声をかければ、ルディアの声に反応しないわけがなく、すぐに頭の中から常識知らずのことを追い出し、本物の笑顔を向けた。
「なにかな、ルディ」
「おじい様がこうおっしゃっているということは、そしできたということですわ」
そう言いながら必死に「そうですわよね!」と目で訴えるルディアに、アーストンは鷹揚に頷いた。
「もちろんだ。そもそもあの仕立屋は口が堅いことで有名だからな。王家の人間とはいえ簡単に教えるわけがない」
アーストンの言葉に、やっと納得がいったのかフィディスも頷いた。
「どうせ、新年祭のお茶会用にドレスを贈ろうとか考えたのでしょう。今から作ったところで間に合うわけがないのに、愚かですね」
アーストンにそのように言ってから、ルディアに「意匠は私とお揃いだし、ルディアも変える気はないだろう?」と尋ねた。
「もちろんですわ、おにい様」
笑顔で頷いたルディアに満足し、フィディスの機嫌はよくなった。
「そもそも、こちらで準備が出来るのに伺いもせずにドレスを贈ってこようとするなんて、非常識すぎて笑えます」
「まったくだな」
フィディスとアーストンが頷きあうのを見て、ルディアは「確かに」と心の中で頷いた。
基本的に貴族専用の学園を卒業していないような未成年へドレスを贈る事を許されているのは家族、もしくは婚約者のみとなっている。
よほどの例外の一つは親しい同性の友人だが、その場合は贈り合うのが普通。もう一つは家庭の事情でドレスを用意できない場合の施し行為となる。
もちろんルディアとプーパは友人ではない。
公爵家の令嬢であり、可愛がられているルディアにドレスが用意できない状況も発生することはない。
(どう考えても、点数稼ぎをしようとして失敗したようにしか思えませんわ)
まだ装飾品を贈られた方が理解は出来る。
もちろんそれも誕生日などの祝い事以外で贈る事は珍しいと言うか、何か特別な意味を込められている事が多い。
従って、もしプーパから装飾品が贈られてきたとしても、ルディアは受け取るつもりは一切ないし、押し付けられたらテンペルトを通して丁寧に返却するつもりでいる。
(それにしてもドレスなんて、どう考えても外堀を埋めようとしていますわね)
しかしながら、今からではどんなに急いで仕立てても新年祭に間に合わない。
仕立てにかかる時間についてはルディアですらわかっているのに、プーパはわからないのかと呆れてしまう。
「ともあれ、ドレスの件は防ぐことが出来たが、新年祭では十分に気を付けるように。このまま引き下がるとは思えない」
アーストンは公爵家当主としての役割があるため、ずっとルディアたちについている事は出来ないとだけ言い、ルディアの頭を撫でてから部屋を出て行った。
残されたルディアとフィディスは顔を見合わせると同時に大きくため息を吐きだす。
((面倒くさい))
兄妹の心はその瞬間一つになったのは言うまでもなかった。
◆ ◆ ◆
ルディアの体調が回復し、新年祭に向けて様々な調整を行っている時、まさに新年祭の前日。
「うわぁ……」
公爵家に届けられた大きな箱に、ルディアは顔をひきつらせた。
そしてフィディスは笑顔で青筋を立て、アーストンは疲れたようにため息を吐きだした。
「一応読むぞ」
添えられたメッセージカードを手に取り封を開けると、アーストンは目を通し大きくため息を吐きだす。
「あー。『新しいドレスの仕立てが間に合わなかったので、既製品に手を加えたものだけれど受け取って頂戴。装飾品はアタクシのおさがりよ』だそうだ」
「うわぁ……」
先ほどよりも顔をひきつらせたルディアの横では、フィディスが笑顔でこぶしを握り締めて青筋を増やしている。
(お兄様、オコですわ)
隣から冷気を纏う怒気を感じ、ルディアは出来るだけ見ないようにしながら、アーストンに助けを求めるように見れば頷かれたので安心し、ほっと息を吐きだした。
「フィス。新年祭では、大声でプーパの失態を話していいぞ」
「おじい様!?」
ほっとできる要素は一つもないことに不安しかない。
王太子の妃の失態を公爵家の人間が大声で言うなど、喧嘩を売っているようなものだ。
(いえ、喧嘩を売られたのは我が家の方なのでしょうか?)
ルディアは若干混乱しつつも、新年会でどのようなスタンスを取るか考えるも、フィディスが王家に喧嘩を売るのであれば、特に今回の場合は反対するわけがない。
積極的に乗っかるかは状況次第だろう。
子供の交流会であるお茶会にはウィクトルはもちろん、保護者であるプーパも参加する。
そこで何か接触してくるのは考えなくてもわかるのだが、問題は接触の仕方だ。
「このドレス、とりあえず返品ですね」
「そうだな」
アーストンは使用人に指示を出しテンペルト宛てにドレスと装飾品の返却をするように手配する。
誤魔化すことなどできないように、一緒に届いたカードを添えるのを忘れない。
「まったく、公爵家の娘が新年祭に既製品に毛が生えたようなドレスとは、甘く見られたものだな」
「そもそもですよお爺様。ルディの柔肌にあんな固い布地など、論外です」
フィディスの言葉に、ルディアはいつ触って確かめたのだろうと思ったのだが、聞いても笑顔で何も言われない気がしたので特に聞くことはしない。
多分触らなくとも、見ただけで布地の質が分かったと言う事にしよう。そうルディアは心に決めた。
「しかし、装飾品も子供にあのようなものを送りつけるとは。プーパは本当に常識をわかっていないようだな」
「あんな大ぶりのイヤリングを付けて、ルディの可愛い耳たぶが傷ついたらどうするんですかね。だいたい、重さでルディの具合が悪くなったらどうしてくれるんだか。私かお爺様が贈ったものでなければつけさせませんけど」
忌々しそうに装飾品の入った箱を見たフィディスがそう言うと、使用人がそっと箱を閉じて返却するために片づける。
ドレスもいつの間にか撤去されており、玄関口は綺麗に片付いていた。
ルディアは既製品とはいえ安くはないだろうドレスが、返却後にビリビリに破かれるようなことがなければいいと考えてしまう。
高位貴族向けの品物なのだろう。縫製はしっかりしているし、施された刺繍などの装飾も繊細だ。
使用されているレースも細やかなデザインであったし、平民であればひと財産築くことが出来たかもしれない。
だが、ウィンターク公爵家にとってははした金だ。
贅沢をしたいわけではないが、四大公爵家の人間として準備期間があったにもかかわらず、身分にふさわしくない品質のものを着用して新年祭にでるわけにはいかないのだ。
こういった部分が平民から見れば貴族が煌びやかに見える部分なのだろうが、実際はしがらみが多い。
公爵家であるルディアたちはそこまで気にしないが、侯爵家以下の家はデザインや色が被らないようにしつつ流行を追う。
それがどれだけ苦労するか、恐らく平民にはわからないのだろう。
(前世では私だってセレブの生活はすごいと思っていましたもの)
そして若干首を突っ込み、吐き気がしそうなほどの決まりごとに胃が痛くなったのは、今では懐かしく思いたくない思い出だ。
「それじゃあ、ルディ。今日はこのあと明日の衣装合わせだけど、体調は大丈夫?」
「はいおにい様。だいじょうぶですわ」
本当に体調は悪くないことを朝に確認しているため、フィディスは頷くとルディアの手を握って準備がされているサロンに向う。
その後ろ姿を見て、アーストンは仲良きことは美しきかな。と思いつつも、二人の婚期は遅そうだとも思ってしまった。
(いや、ルディアは案外フィアのように早いかもしれないな。前世の記憶の影響もあるだろうが、妙に決断力が出てきているし)
その時のフィディスは荒れると見なくても予想できてしまい、思わずアーストンは笑ってしまいそうになるが、その姿を見ることはないと思うと、同時に寂しい気持ちにもなってしまう。
ルディアが話した可能性の中で、絶対に再現されるもの。
それがアーストンの死だ。
決まっている残りの寿命。この道を選んだことに後悔はない。ただ、残される孫が心配なだけだ。
(大神官クラスでなければルディもどうしようもないだろう。気に入られるかは、運しだいだが、うまくいくとよいな)
「旦那様?」
「なんでもない。さて、僕も仕事に戻ろうかね」
考え事をしていたら執事長に声を掛けられ、アーストンは執務室に戻ったが、抱える気持ちは不思議と重くはなかった。
どこかに確信があるのだ。
ルディアなら大神官にきちんと対応してもらえるという、そんな確信が。
ルディアたちは既製品をダメだと言っているわけではなく、ルディア「に」既製品を贈ってくるのはアカンと言っています。
事情があって既製品を使用する貴族がいるのは普通に受け入れる派です。




